第二話「持ち込んだモノ」
第二話「持ち込んだモノ」
ハカセは答えない。
ただ、境界の奥を見つめて微笑むだけ。
その瞬間、境界が“開いた”。
音もなく、光もなく。
ただ、世界の“線”がひとつ、すっと消えた。
「……行くぞ」
ハルが言う。
「うん!」
アイルが笑う。
「ちょっと待って心の準備が――」
ミカの声が紺色の空間に吸い込まれていく。
そして彼らは踏み込んだ。
境界という名の、問いと答えのない場所へ。
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ここから先は、境界が“何を見せるか”ではなく、
**彼らが境界に“何を持ち込むか”で決まる。**
続けよう。
第四章は、まだ始まったばかりだ。
アイルたちの「遠足セット」
「もってきたのは~おやつと~」
「ぼうけんのしおりと~」
「胃薬!!」
「遠足か!?」
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「ふむ、いいツッコミだ」
「あんたはさキャラを固定しなさい!さっきそこの二人と一緒に、元に戻ってたでしょ!!」
「ふぉっふぉっふぉ」
「もうつっこまないわよ?」
「・・・ふぉっふぉっふぉ」
ちょっとハカセが寂しそうだった。
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「さてと、ふざけるのもここまでにしておこうかの」
その声は、さっきまでの“ふぉっふぉっふぉ”とは違った。
軽さは残っているのに、どこか芯がある。
境界の空気が、わずかに震えた。
「ふざけてる自覚はあったんだ」
ミカが呆れたように言う。
「まあの、“自覚”は大事じゃからの。特にこの“境界のなかでは”の」
ミカの問いに、ハカセは微妙にズレた答えを返す。
ズレているのに、妙に正しい。
境界の中では、そういうことが起きる。
「さて……“お客さん”が来たようじゃぞ?
あるいは……“盛大なお出迎え”かもしれんがのう」
ハカセが視線を向けた先――
紺色の揺らぎが、波紋のように広がっていく。
アイルが首を傾げる。
「オキャクサン?」
ハルはすぐに構えを取る。
「……反応が複数。距離は不明。形状も……判別できない」
「ちょ、ちょっと待って!?なんでそんなホラーみたいな言い方するのよ!」
ミカが一歩下がる。
「ふぉっふぉっふぉ。大丈夫じゃよミカくん。
“出迎え”とはいえ、敵とは限らん」
「限らないだけで、敵の可能性はあるんでしょ!?」
「ふぉっふぉっふぉ」
「……ねえ、ハカセ。やっぱりわざとやってるでしょ」
ハカセは答えない。
ただ、紺色の揺らぎの奥を見つめて、
まるで“懐かしいもの”を待つように微笑んでいた。
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「さて、最初の“試練”じゃの。
まあ…思いっきり歓迎しておるものもおるがの」
ハカセが肩をすくめる。
その視線の先――操縦席周りで、何やら光る計器を次々と操作しながら、
目をキラッキラに輝かせている存在がいた。
「……あのテンション、見覚えしかないんだけど」
ミカが引きつった声を漏らす。
「未知との遭遇……!
境界固有波形、観測開始……!
ああ、これは……これは面白い……!」
「反応多数。形状未確定。
“歓迎”の意図、強し。
これは……これは……!」
「境界、我々を“認識”した……!
素晴らしい……!」
操縦席の周りで、三人分の声が重なる。
いや、正確には――
**調律者“達”**だった。
アイルが首を傾げる。
「アレ?チョウリツシャ、フエタ?」
「増えてるっていうか……分裂してない?」
ミカが青ざめる。
「ふむ。境界の干渉で“可能性”が表層化したのじゃろうな」
ハカセが淡々と説明する。
「可能性って軽く言うけど、あれ三人ともテンションおかしいからね!?
ていうか、あんたも落ち着きすぎでしょ!」
「ふぉっふぉっふぉ。
未知との遭遇とは、こういうものじゃよ」
「いや、だからその笑い方やめなさいってば!」
ハルが計器を確認しながら言う。
「……確かに“歓迎”の意図は強い。
ただし、歓迎=安全とは限らない」
「そういうこと言うのやめて!?
今すごく不安になるから!」
アイルは相変わらず首を傾げたまま。
「オキャクサン、タノシミダネ!」
「……アイルだけ本当にブレないね」
ミカがため息をつく。
その瞬間、アークMk‑Ⅱの外側――
紺色の揺らぎが、まるで“手を伸ばすように”形を変えた。
調律者“達”が同時に叫ぶ。
「来るぞ……!」
「第一接触……!」
「境界からの“応答”だ……!」
アークMk‑Ⅱの外壁が、光に包まれた。
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