表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/10

第7話

 アルは王都の街並みを屋根から屋根へと飛び移り、小型の猛禽類が発する高い鳴き声を頼りに目的地だけを捉えている。

 住民、王国兵、保安兵、標的以外全てを無視。

 頑丈な岩で建てられた王城ではなく、小型の猛禽類は3階建ての真っ白な家を示した。

「エマはここにいるのか」

 平たい屋根に飛び移ったアルは3階のベランダへと下りて施錠された窓を腕力だけで開け、上流貴族の優雅な暮らしが容易に想像できるほどの装飾がされた廊下を見渡す。

 3階にあるのは扉と2階へ続く階段のみ。

 我が家のように扉を開けると、そこは豪勢なシャンデリアや書棚やテーブルにカーテン付きの大きなベッドが並ぶ豪華な部屋で、シャンデリアを見上げているフードを被った小柄な女性がいた。

「あら、どこかで見たことがあるような、噂に聞いた悪賊アルフォンスかしら? ティーナから聞いたわ、私を殺したくて仕方がないって」

 対話を求めていないアルは沈黙のまま刀を抜き、女性に向かって最小限の動きで振り翳す。

 女性は指を鳴らし衝撃波をアルへと放ってくるが、アルは振り翳していた手を止めるだけで表情を変えない。

「効かない。魔法に耐えられる力をどこで手に入れたの?」

 何を訊かれてもアルは一切答えず、柄を握る手に力を加えて女性へ刃先を振り下ろした。

 軽やかな足取りで踊る様に女性は避けながら窓側へと移動する。

「あの森で迷わずに生きていたなんて信じられない、顔つきも私が大嫌いな悪そのものに変わり果てて。捕まえて公開処刑になるべき存在だわ」

 沈黙を貫き、口を開かないアルは刀を再び振り翳す。

「世界最強の魔女エマを殺そうだなんて、あまりにも無謀で馬鹿な事」

 世界最強と誇示したエマは指を鳴らして窓を粉砕し、振り下ろされる刀よりも先に窓の外へ逃げていく。

 アルが窓から真下を覗くと、3階の窓から飛び降りたはずのエマは笑みを残して空中で姿を消してしまう。

 空に響く甲高い鳴き声が耳に届き、アルは窓の木枠を掴むと屋根へとよじ登る。

「な、何事だぁ!」

 金属が擦れる音を鳴らしながら駆けつけた王国兵達は無人の部屋に向かって叫んだ。

「いない、まだ不審者がいるかもしれない、探せ、探せぇ!!」

 厳重な警備に対処するよりもアルは猛禽類の鳴き声を頼りに屋根から屋根へと飛び移っていく。

 静かだったはずの街並みは王国兵の巡回が増えたことで騒がしくなり、住民達は不安を抱え始める。

「門を開けろ」

 王国兵が城門を開けると、馬車と騎兵が小さな列を作って進んでいく姿がアルの目に留まった。

「ティーナ様と悪賊討伐隊が帰還されたぞ」

 勇ましい討伐隊隊長の若い少年が先頭を進む。

「マクスということは、ティーナがいる……詳しい情報はあの女が持っているはず。犯して聞き出すか」

 賛同するように猛禽類は鳴き、アルは馬車を追いかける為に屋根を移動、

「おいこら盗人!」

 しようとしていた所で地上から男の怒鳴り声が聞こえ、アルは足を止めてしまう。

 商店街の通りで男は小さな子供に対して怒鳴っていた。

「ちがうもん、オレ何もとってないよ!」

 確かに何も持っておらず、盗んだ証拠などない。

「いいや、俺は見ていた。商品のパンをお前が服に隠したところをしっかり見たぞ、それに置いてあったパンがお前がここにきた瞬間無くなった。大人しく牢獄へ行くんだな」

「そんなことしてない、たまたま通っただけ! 何もしてないのにろうやなんて行きたくない!!」

 嫌がる子供の腕を乱暴に掴んだ男と傍観するだけの住民達。

 小柄な猛禽類の地鳴きに対して、アルが首を横に振ると、醜いはずの目つきが消え優しい好青年のような穏やかな目に変わっていく。

 漆黒の軽装鎧と刀を取り外して屋根から路地裏へと飛び降りたアルは、ゆっくりと背後から男の肩を掴んだ。

「ちょっと待った。俺の弟が何かしたか?」

「あぁ身内か? ちょうどいいところに。アンタの不出来な兄弟が俺の店からパンを盗みやがったんだ」

 子供は驚いている様子で、ジッとアルを見上げている。

「そうだったのか、すまないな。お前はパンを盗んだのか?」

「し、してない、盗んでないよ!」

 否定する子供にアルは肩をすくめて、

「だったらズボンや上着を脱げ、本当に盗んでないなら証拠を見せるんだ。言葉だけでは無実は証明できない」

 言い聞かせると、子供は俯いてしまう。

「と、とりました」

 素直にポケットからパンを取り出した。

「ほら見ろ、盗人め。もし、牢獄に行きたくないなら金を出せ、倍の値段を支払え!」

「そ、そんなお金ないよ! でもろうやにも行きたくない!!」

 涙目になる子供に呆れてしまうアルは、革袋から男だけに見えるよう紙幣を取り出した。

「これで頼む。大切な弟なんだ」

「お、おぉ……おいガキ、金があるなら今度はちゃんと払って買うんだな!」

 価値の高い紙幣に思わず笑顔を浮かべている男は半笑いで子供に注意し、お店の中へと戻っていく。

 傍観者は皆何事もなくどこかへと去っていった。

 俯いている子供の腕を掴んだアルは路地裏へと連れ込んだ。

「何するんだよ、誰も助けてなんて言ってないのに!」

「あのまま牢屋に行きたかったのか? 捕まれば子供でも容赦はないはず、死ぬまで飯抜きのタダ働きだ」

「う、それは……そうだけど、ああやってしないとどっちにしろお腹が空いたまま死ぬもん」

「家族は?」

「いない、移民だからみんな戦争に行って帰ってこない。王は家を与えるって言ったのにぜんぶとられたんだ」

 容易く想像できる王のやり方にアルは頷くと、革袋から価値の高い紙幣を取り出した。

「この金をやる。金をどう使うかはお前次第だ、賊として生きるか、王に認められるほどの力をつけて強い兵士になるか、それ以外か、どの道を進んでも険しくなるだろうから強い心を持って生きろ。ほら、行け」

 アルは優しい口調で子供の背中を叩く。

「あ、ありがとう、また会えるよね?」

 通りに出ようとしている子供に訊ねられ、アルは強く頷いた。

「ああ、きっとな」

 大きく手を振った笑顔の子供と別れ、空から小型の猛禽類の地鳴きが響き渡る。

 優しい好青年のような目はどこへ行ったのか、復讐に燃える醜い目つきに変わり果て、アルは家の壁を登ると漆黒の軽装鎧を置いていた屋根に戻った。

「気にするな。次に会ったら敵か味方か……敵なら殺すまでだ」

 漆黒の軽装鎧と刀を装着したアルは、低空飛行を続ける小型の猛禽類に向かって呟く。

 仕切り直したアルは猛禽類が示す場所まで屋根から屋根へ飛び移り、上流貴族が住む地区に辿り着くと、奥の邸宅に馬車と討伐隊が乗っていた馬が並んでいた。

「マクスがいるかもしれないな、待つか」

 空が紺色に染まるまでアルは屋根で待つことに。

 しばらくすると予想していた通りマクスが邸宅から離れていく。

 アルはティーナがいる邸宅の屋根へと飛び移ると、不用心にも部屋の窓が1つだけ開いており、アルは怪訝な表情を浮かべながらも侵入。

 豪華な装飾の部屋には見覚えのある魔術師のティーナが、慌てることなくアルを待ち構えていた。

「まるで来ることを分かっていたかのようだな。魔女エマが言っていたのか? 答えろ、魔女エマはどこに行った?」

 ティーナの襟を掴んで魔女エマの所在を訊ねるが、ティーナはただアルの顔を見つめている。

「なんだ、何がおかしい?」

「子供を助けていた時の眼差しは本来の貴方ですか? 一体どこでそんな力を得たのですか? 魔女エマに会いたいのなら答えてください」

 取引を提案するティーナを腕力で壁へと押し付け、頬を平手打ち。

「黙れ、さっさと吐け!」

「っ、殺されても構いません。私は個人的に貴方の事を聞きたいだけです」

 アルが刀に手を添えると、部屋の扉を叩く音が響く。

『ティーナ様、なにか物音がしましたが、大丈夫ですか?』

 扉の外から兵士の声が聞こえ、アルが標的を変えて扉に向かうと、ティーナは、

「大丈夫です、数冊ほど本を落としてしまっただけです。お気になさらず」

 廊下の兵士に何もないことを伝える。

『分かりました』

 扉から離れていく金属音の擦れる足音にアルは刀を抜くこともなく、ティーナを睨んだ。

「どういうつもりだ?」

「先程も言ったように貴方の事を個人的に聞きたいだけです、馬車から見えた貴方は悪賊とはかけ離れた姿でした。魔術が効かない、魔女エマ様の力を得たマクスの剣にも怯まない力をどこで得たのですか?」

 同じような質問にアルが殴りかかろうと拳を振り上げた途端、空を飛び回る小型の猛禽類は甲高い鳴き声を響かせながら、アルから遠のいてしまう。

「この女を信頼するのか」

 不信感しかないアルはティーナの取引に乗れず、呟いた後は心が決まるまでしばらく沈黙を続けた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ