第6話
醜い目つきのアルは王都から数キロ離れた町で、小型の猛禽類の地鳴きを聞いている。
商人達が荷物を馬車に載せて王都に向かう準備をしているなか、アルは静かに商人の荷車へ忍び込む。
女商人は目を丸くさせて、見知らぬ相手に向かって叫ぼうとしたところ、アルは口を塞いで阻止。
「黙ってろ、俺が王都へ入れるようにしてくれれば問題はない。信じられないなら金を渡す」
革袋から取り出した金貨と紙幣に女商人は何度も小刻みに頷いた。
「ここに誰か入ってくるか?」
アルの質問に女商人は首を横に振る。
返答を聞いたアルは荷物の中から布を盗ると女商人の口を塞ぎ、手首を後ろに回して身動きがとれないように縛った。
アルは馬車が動くまで待機しようと女商人の隣に座るが、突然外が騒がしくなり始め、アルは耳を澄ます。
小型の猛禽類の地鳴きが再び聞こえ、アルは音を立てずに馬車から降りる。
「通行料だよぉ、通行料。全部出せばいい話だろぉ」
武器を持つ集団が商人達に通行料を寄越せと脅している様子に、アルは小型の猛禽類に向かって口笛を鳴らした。
合図と共に低空飛行を繰り返していた小型の猛禽類は集団に目掛けて急降下。
脅していた男の頬を鋭い足の爪で抉るように引っ掻き、血をまき散らした。
「い、いてぃああいあい!」
男は両手で顔を覆い隠して倒れ込み、仲間達は騒然。
「ぼ、ボスに何をしやがる!!」
剣や弓で飛び回る小型の猛禽類を狙うが、掠りもしない。
空からの襲撃に驚いた商人達は馬車や小屋の物陰に急いで身を隠し、避難する。
小型の猛禽類に手を焼いている賊にアルは鞘から刀を抜き、物陰から集団に向かって駆けだす。
「あ、あ、あいつは、アルフォンス。て、てめぇ助けろ!」
「ああ、手を貸そう」
アルは口角を少し上向きにしてから、1人目に頭突き、2人目には蹴りを与えて吹き飛ばし、3人目からは刀を自在に操り、斬り捨てていく。
「は、はなしが違うだろうがぁ!」
「お前らを消せば鳥は騒がない」
10人以上いた集団はあっという間に倒れ、二度と立ち上がってくることはない。
物陰に隠れていた商人達は恐る恐るアルのもとへ走ってくる。
「あ、ありがとうございます、助かりましたぁ。何かお礼ができるとよいのですが」
「じゃあ王都まで一緒に乗せてくれ、色々と訳ありで単身では行けないんだ」
「それなら問題ありませんよ、お任せてください。王からの信頼が厚いので我々は商品の中身をチェックされずに通ることができますので大丈夫です。後ろへどうぞ、王都に着くまで寛いでください」
アルは縛っていた女商人がいる馬車に再び戻ると、小型の刃物で縛っていた布を器用に切ろうとしている最中だった。
「さすが商人をしているだけはある。その根性は面白いが、間違えれば死ぬことになる」
縛る理由もなくなり、自由の身にさせた途端女商人は外へ飛び出そうとしたので、アルは腕力だけで引き戻す。
「どこかの賊を倒したら、お前の仲間は喜んで俺を王都に案内してくれるらしい。王都に入ればお前達に用はない。ただ、少しでも俺の事を漏らしたら、公衆の前で犯して、柱に裸体のまま縛り付けてやる」
獰猛な目つきで脅された女商人は逃げ出すことを諦めて、大人しく沈黙を守る。
1列になって動き始めた馬車は王都を目指し、アルは女商人の腕を掴んだまま到着を待つ。
王都の正門で監視をしている王国兵は商人を見るなり、無言で門を開けて疑う事もなく商人と馬車を通した。
王が住む頑丈な岩で建てられた城があり、城を中心に王都は広がっている。
賑やかさのない静かな街並みが続き、人々の暮らしに活気さはない。
「おーい、旅の人」
商人の声が聞こえ、アルは女商人に金貨と紙幣を渡すと馬車から降りる。
「ここからは商人組合と話し合いがあるから行けないんだ。ここでいいかい?」
「構わない、もし何か訊かれても俺の事は口外しないでくれ」
「命の恩人なんだから何も言わないよ、本当にありがとう」
アルの思惑や偽善に気付くことなく商人達は感謝をして商店街へ、アルは惜しむことなくレンガの家によじ登っていく。
屋根から王都を見渡していると、小型の猛禽類が遠くで甲高い声を鳴らし、アルに知らせている。
「もうすぐだ魔女エマ、絶対お前を殺してやる」
地の底から這いあがるような低い声で、アルは呟いた。




