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第5話

 太陽が空に薄明かりを灯す頃、村人達は騒然としていた。

 仮の駐在所として設置されていたテントの中から遺体を運んだ保安兵達は、衣類を全て剥ぎ取られ柱に縛りつけられた村娘を救出する。

 草むらには女性保安兵が両腕を縛られた状態で絶命。

 アルフォンスは既に村を出発した後で、唯一の手掛かりとなる救助された村娘は声を失っていた。

 低空飛行を続ける小型の猛禽類をアルは馬車で追う。

 王都よりも遥かに目立つ緑の葉をつけた大樹が遠くからでも認識できるほどで、アルは醜い目つきで大樹を眺めた。

 跳び続けていた小型の猛禽類はやがて大樹の根元に留まり、馬車から降りてくるアルを見守る。

 大樹の根元には大人しい馬と、保安兵とは違う頑丈な鎧に身を包んだ王国兵士が門番を。

「止まれ、現在どんな理由であれ立ち入ることはできない。観光ならすまないが王都に行くといい」

 王国兵士の忠告など、アルには意味がない。

「魔女エマに会わせろ、俺はお前を殺しに来た誇り高き賊のアルフォンスだと伝えろ」

 名前を聞いた途端、王国兵士は槍を構えて戦闘態勢に。

「悪賊アルフォンス、お前を捕らえ公開処刑だ。王国を脅かす者に容赦はしない!」

 刀を鞘から抜いたアルは、王国兵士の後ろに視線を向けると、毛に覆われた大型の熊がいるのに気付く。

 唸り声を上げながら王国兵士に向かって突撃し、熊は頭部から強力な一撃を与える。

 頑丈なはずの鎧は容易く形を崩され、王国兵士の槍はどこかへ飛んでいき、アルは巻き込まれない様退避。

 涎を垂らす食欲旺盛の熊はアルから目を逸らした。

「俺は魔女エマだけに用がある」

 言葉は分からなくとも話しかけると、熊は王国兵士を引き摺って大樹の奥へと消えていく。

「動物だけは俺に友好的か」

 門番がいなくなった大樹の村に入り込むと、頑丈な鎧を装備した王国兵士達が村の中を巡回しており、真正面から行けば不利で、アルは大樹の枝に建てられた家の屋根に登る。

 王都の街並みが見渡せるほど高い景色から魔女エマの居場所を探ろうとするも、兵士ばかりで姿が見えない。

「ティーナさん、あの勇敢なレナードさんが悪賊に殺されたのは本当ですか!?」

 屋根の下から聞こえてきた若い少年の驚いた声。

「はい、私の不注意で、アルフォンスに……レナードさんは」

「ティーナさんは悪くありません、卑劣な事を平気でするアルフォンスを悪賊討伐隊隊長のこのマクスが、仇を討って見せます。ウズ族の為にも」

 巡回している王国兵士達と合流するマクスに警戒しながら、アルは窓から部屋へと侵入する。

「見つけたぁ、ティーナ」

 憂うティーナに逃げる隙も叫ぶ暇も与えず、大きな手で口を掴んだ。

 酷く醜い目つきで不気味に笑うアルをティーナは怒りに震えた瞳孔で睨んでいる。

「俺に嘘をついたな、魔女エマの遣いになったのかティーナ。魔女エマはどこだ?」

 大本命の相手を探し求めるアルに、ティーナは手をアルの胸に押し当てて痺れさせるような衝撃を与えた。

 しかし、アルは表情を一切変えず、ティーナの反抗に平手打ち。

 口を解放されたティーナの左頬は真っ赤に染まり、手を添えて痛みに堪えている。

「そんな魔術なんか効くか。俺の仲間を殺し、誇りを馬鹿にした魔女エマを殺す為に森で鍛えてきた」

「っ……私は何も知りません。殺せばいい、レナードさんと同じように」

 強気に口答えをするティーナの体を腕力で壁に押し付け、アルは背後から首筋に噛みつく。

「あとで殺してやる」

「なにか物音が、ティーナさん! あ、危ない!!」

 異変に気付いたマクスが扉を押し開けて、アルに向かって追い払うように片手剣を振る。

 アルは刀身で払い除けて、体勢を崩したマクスを睨んだ。

「これ以上雑魚が邪魔をするな! 用があるのは魔女エマなんだよ、エマはどこだ!!」

「エマ様はもうここにいない。悪賊アルフォンス、一族の仇ここで討つ!」

 マクスの持つ片手剣が黄金に光り、眩しさに目を逸らしたティーナと睨んだままのアル。

 正義を示す光が片手剣と共に振り翳され、アルを斬ろうと襲い掛かる。

 刃先を向けたアルは黄金の光に包まれた片手剣を受け止めた。

「強い魔力を感じる、これは魔女エマが与えたのか?」

「そう、エマ様が正義の為にと下さった力だ。賊達を残らず討伐するのが使命!」

「だったら正義そのものぶっ壊してやるよ」

 受け止めていたアルが今度はマクスを追い込み、立場を逆転。

 体が後退していくマクスは歯を食いしばって弾こうとするも、アルの力を前に動くことができない。

 黄金に輝く片手剣の刃が耐え切れなくなり、亀裂が入り込む。

「しまった、剣が」

「マクスさん、離れてください!」

 ティーナの合図にマクスは後ろに大きく下がる。

「アルフォンス、狙いは魔女エマのはずです、ここにエマがいないのであれば無益な戦いはやめた方がいいのではないでしょうか?」

 外にいる猛禽類の呼びかけもあり、アルは刀を鞘に収めて何も言わずに窓から去る。

「待てアルフォンス!」

 マクスが窓から身を乗り出して叫んだが、振り返らずにアルは大樹の根元まで下り、馬車に乗り込んだ。

「マクス、か……」

 少年の名前を呟き、軽く舌を打つ。

 手綱を握り締め、アルは魔女エマを探す為に馬を走らせた。


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