第4話
平地の森林で鳥達の地鳴きや囀りが耳に届く朝方、醜い目つきをしたアルは革袋と刀を腰に吊るす。
小屋の持ち主であるアイシャはまだ寝息を立てている。
外にはアイシャの友達、鮮やかなオレンジ色の目をした梟が枝に止まって2人を見下ろしていた。
アルは梟に軽く手を振ると、平地森林を何も言わずに抜けていく。
森林を抜けた道から空を見上げると、低空飛行をしている小型の猛禽類が目指すべき方角に向かって飛んでいき、アルを導いている。
地上では疲労から回復した荷車を引く馬がアルを待っていた。
「いい子だ、俺の為に王都まで走れ」
馬の胴体を軽く叩いたアルは手綱を握って馬車を走らせる。
平地森林を抜けていくと、地面を抉られたような窪みがいくつも残っている景色が広がり、崩れて使い物にならない砲台や白骨化した遺体が放置されたまま。
アルは荒れ果てた土地など興味も示さず、王都を目指す。
逞しく土を蹴り上げる馬車も長い距離になれば疲労は溜まり、夕暮れ頃には脚を止めてしまう。
「ちっ、休憩だ」
馬車から降りたアルは馬の胴体を軽く叩いて周囲を見渡した。
王都の建物がようやく影として見え始めた地までたどり着いたことを確認する。
近くには村があり、そこには馬が10頭以上も並び、鞍には王国を表す盾の上に王冠の図が描かれていた。
厄介な相手がいてもアルは臆さず涼しい顔で村に入っていこうとするが、
「止まれ」
勇猛に見せつけようと声を低くしている保安兵に指示されたアルは醜い目つきで相手を睨む。
王国指定の軽装鎧に身を包む保安兵の体と顔は女性で、気の強さを感じさせる凛とした表情だった。
「魔女エマを探している、お前ら王国軍の相手をしている暇はないんだよ。邪魔するなら斬る」
女性保安兵はアルの足から順番に上に向かって目線を動かす。
「漆黒の鎧に野獣のように獰猛な目、王国では珍しい武器、ウズ族の村にいる悪賊アルフォンスと情報が一致しているわ」
警戒して剣の柄を握り締める女性保安兵の首を、アルは突くような勢いで掴み、柔らかな土に生えた草むらに腕力だけで女性保安兵をねじ伏せた。
「魔女エマについて答えろ……僅かな情報でも構わない。教えてくれるなら殺しはしない」
「え、エマ様は多忙な身、悪賊なんかに構ってられないわ」
苦しく顔を歪めている女性保安兵の顔を醜い目つきで眺める。
「お前らなんて相手にならないんだよ、魔女エマだけに用がある。無駄に命を落とすぐらいならもっと役に立つ行動をやるべきだ、お前がやることは俺に魔女の情報を渡すこと、だから吐け」
女性保安兵の腰に装着された剣を外したアルは遠くに投げ捨てた。
「我々のような移民に重要なことなんて王国軍は教えてくれない、ただ王の為に命を捧げることが我々の使命」
「どういう事だ」
「本物の王国軍がこんな村に来るわけがない、我々は敗戦した祖国から逃げてきた身よ。命に関わるような任務は全て我々が背負うことになっているわ」
卑劣な王国のやり方に大して疑念を抱かないアルは鼻で笑うと、女性保安兵の腕を掴んで強引に立たせる。
両腕を背中に回して革袋から取り出した紐を使って縛り、馬車へと連れ込んだ。
「そこで大人しくしていろ」
女性保安兵を馬車に乗せたアルは鞘から刀を抜いて再び村に入っていく。
仮の駐在所として設置された布製のテントに堂々と侵入したアルは仮眠している保安兵の胸を突き刺す。
見張りの保安兵が戻ってくる前にアルは駐在所にある手紙や金貨を漁る。
厚みのある手紙が目に留まり、アルは沢山ある手紙の中から取り出した。
『エマ様が魔術師ティーナを召使いとして選んだ。これについて意見がある者は魔女エマ様へ。なお、エマ様は大樹の村で休暇中である為意見は護衛の剣士マクスに伝えるように』
「おいおい、あの女兵士、しっかりとした情報があったじゃないか」
アルは手紙を革袋に入れようとしたが、
「なんだお前は、盗賊め、牢にぶち込んでやる!」
見張りから戻ってきた保安兵にアルは慌てることなく刀を保安兵の腹部に斬りつける。
斜めに皮膚を抉られた保安兵は唸り声を上げて絶命。
駐在所から出入り口の布を捲って外に出ると、今度は武器を持たない村の少女がアルを見て絶句していた。
「お嬢さん……逃げるとどうなるか、分かっているか? お前の家族や、村の奴ら全員を殺して燃やさなきゃいけなくなる」
ゆっくりと、アルは壁に背中をべったりと密着させている少女に接近していく。
唇や指先が震える少女の顎を強引に掴み、アルは耳元で囁いた。
「今俺がここから出てきた事を一生漏らさないようにしてやるよ」




