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第3話

 王都までの道のりは遠く、馬は疲弊し走ることをやめてしまう。

 緑の葉をつけた木々が並ぶ平地に馬車を放置したアルは、鮮やかなオレンジ色の目をした梟に視線を向ける。

「近くに誰か住んでいるのか?」

 会話はできないアルだが、体を細くさせない梟の姿に呟く。

 アルが木々の隙間を自らの足で進んでいる間も梟は追いかけるように枝から枝へと飛び移る。

「まさかウズ族がこんなところにいるのか? それとも、魔女が連れて行った生き残りか」

 梟を時折視界に映し、話しかけるようにアルは独り言を呟いた。

 木に右手で触れた瞬間、手の甲が樹皮に吸い付かれたと錯覚するほど密着し、アルは静かに、出血する手の甲を眺めた。

 細い矢が手の甲に突き刺さったのだと理解したアルは醜い目つきで矢を引き抜き、表情を変えることなく相手を睨む。

「ウズ族?」

 弓に矢を番えて、枝から他の動物よりも強く警戒している少女に訊ねる。

 少女の隣には先程の梟。

「ウズ、なに、分からない、アナタ、誰?」

 震えた声で単語を並べるように話す少女に、アルは鼻で笑う。

「俺は優しいぜ、けど次にその矢を射れば俺は迷いなくお前を犯して殺す。弓を下ろせば怒らないし、多分何もしない」

 出血する右手の甲を左手で翳せば柔らかな光が現れ、あっという間に穴を塞いだ。

 アルの行動に目を丸くさせた少女は声を忘れて、落とした弓も拾わずに太い頑丈な枝から枝へと飛んで、梟と共に奥へと逃げていく。

「おいおい、逃げたら追いかけるって、俺は」

 木に登ったアルは少女と梟を追いかけ、低空を飛行する小型の猛禽類の甲高い鳴き声を頼りに少女が逃げる先を特定。

 アルとは比べ物にならない身軽さと平地の森林を知る少女は道に迷うことなく、アルから離れていく。

 甲高い鳴き声が近づいてくると、アルは木から飛び降り、木々が無い開けた場所に辿り着いた。

 草原の真ん中に小屋があり、少女は隠れずにアルを睨んでいる。

 近づけば、少女は小屋の屋根に登った。

「そんなに警戒しなくてもいいだろう、お前の連れの方がよっぽど度胸がある」

 鮮やかなオレンジ色の目をした梟は高い木の枝から2人を見下ろしている。

「あの鳥と会話ができるのか? 俺も森で7年過ごしたけど動物達と意思疎通ができなくて、是非教えてほしい」

 優しい口調で話すアルだが、少女は外見の雰囲気に警戒を解かない。

「んー」

 アルが小さく唸ると見下ろしていた梟が少女のもとへ。

「わかった」

 梟から何かを伝えられたのか、少女は肩の力を抜いて屋根から飛び降りてアルの前に着地。

「教えてくれるのか?」

「違う、アナタ、駄目。彼女が、血脈、ないと言っている」

「ウズ族だけの特質ってやつか、じゃあもういい。なぁお嬢さん、さっきの詫びに交尾でもしてくれよ」

 欲望をぶつけるアルの言葉に首を傾げた少女は、梟の地鳴きにアルを軽く突き飛ばし、再び森林の中に紛れ込んでしまう。

 アルは逃がすまいと追跡し、平地森林を駆け回る。

 低空飛行を続けていた小型の猛禽類は木の上から少女を獲物として狙い、翼が枝に当たろうとも臆せず、次の木へ移ろうと飛んだ少女の胴体に向けて体当たり。

「っ!?」

 少女は身動きが取れず、地面へと落下して体当たりされた痛みと落ちた激痛に蹲る。

「あいつめ」

 ビクともしない相棒の飛行を見上げ、アルは感心する。

 嘴が刺さった腹部から滲み出る血を止めようと、アルが手を翳すと、

「あ、あいつです、あいつが私の馬車を奪ったんです!」

 森林の外側から弱々しい男の声が聞こえてきた。

 声を出した男の代わりに保安兵達がロングソードと呼ばれる剣を手に持ち、アルがいる場所へ走ってくる。

 軽い舌打ちと共にアルは木に登り、保安兵達の頭上まで移動して刀を抜くと、そのまま飛び降りた。

 1人目の保安兵を着地する寸前に斬り捨て、足が地面に着いたと同時に2人目の保安兵の喉を突き刺す。

 貫通した刀を抜いたアルは、喉を手で押さえた保安兵を蹴り飛ばした。

 3人目の保安兵は思わず後ろに下がってしまう。

「おい! 俺は優しいんだよ、1回目に逃げるチャンスを与えたはずなのに、なんで無駄にする。2回目はもう無理だ、殺す!!」

 外側にいる男に向かってアルは獣のように吠えた。

 保安兵の襟を掴んで木に何度も何度も激突させ、頭部から出血し、意識を朦朧とさせている保安兵を蹴り飛ばしたアルは再び木に登り、逃げようと走る男を追いかける。

 甲高い鳴き声が響いた瞬間、逃げている男の顔面に猛禽類の足が直撃。

 顔の皮膚が切れ、地面に血を散らした男は痛みに悲鳴を上げてその場で蹲る。

 アルは刀を軽く振り上げて刃先を心臓目がけて背部から突き刺した。

 絶命した男の衣類を漁り、アルは数枚の貨幣と手紙を手に取る。

 手紙の差出人は、娘の無事を祈る母親からだった。

「あの女魔術師はティーナというのか、王都に住んでいると」

 アルは手紙と貨幣を革袋に入れて、少女のもとへ。

 少女が倒れている近くの木にいる梟が目に留まり、アルは肩をすくめた。

「責任は取るさ」

 少女の傷口に手を翳せば、温かく柔らかな光が現れて切れた皮膚は一瞬で塞ぎ、血は止まる。

 小屋まで少女を抱えて搬送したアルは、藁の布団に下ろして少女を横にさせた。

 傷は消えても痛みは続き、少女は苦い表情を浮かべながら目を開けると勢いよく上体を起こす。

「アイシャ」

「あぁ、何?」

「名前、アイシャ、母がつけた名前。あなたは?」

「アルフォンス、仲間達からアルって呼ばれている。誇り高き山賊だ」

 山賊と名乗ることを自慢げに言うアル。

 アルは目を輝かせたアイシャに、怪訝な表情を浮かべる。

「鷹に襲われた、アルが助けてくれた、ありがとう。休め」

 泊まるよう勧められたアルだが、拒否を示す。

「急ぎの用がある。休んでいる場合じゃないんだよ、ウズ族」

「交尾、しないのか? アルがさっき言った、交尾」

 アルは無知なアイシャの言葉に息をつき、小屋の外にいる梟へ視線を送る。

「お友達に見られてもいいなら、俺は構わない」

 醜い目つきと口元に不気味な笑みを浮かべて呟いた。

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