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第2話

 草原の地は空から落ちてきた砲撃によって抉れ、大きな窪みを残す荒れた世界が広がる。

 瓦礫が転がる小さい町に住む人々は笑顔を忘れないよう生きていた。

 縞模様の猛禽類が低空を飛ぶ真下で、漆黒の軽装鎧を装着した醜い目つきのアルが大きな革袋を背負って小さな町に辿り着く。

 人を遠ざけるような雰囲気が纏うアルを歓迎できず、人々は距離を取って歩いている。

 町で唯一のお店は壁や屋根が剥がれ落ち、板と金具で応急処置を施していた。

「いらっしゃいませー、あれ、あ、アルフォンス君?」

 体が細い店主は自身の目を疑う。

 以前の面影はどこかへ行っているのか、アルだと気付くのに少し時間が掛かる。

「袋に入っているもの全部買ってくれ」

 革袋をカウンターに乗せたアルは思い出に浸る暇もなく店主を睨みつけた。

「ああ、うん」

 流されるままアルが今まで奪ってきた武器や防具の価値を調べる。

「アルフォンス君、皆は元気? 随分経つけど町に帰ってこないから心配で」

 値段を次々と紙に書きながら店主はアルに訊ねた。

「7年前、魔女エマに殺された」

「殺された? 魔女に?」

 目の次に耳を疑う店主は手を止めてしまう。

「仇を討つために魔女エマを殺してやるんだ」

 殺めることを躊躇わない醜い目つきに背筋を震わす店主は、

「い、いい武器と防具ばかりだね。裏に金庫があるから少し待っていてほしい」

 急ぎ足でお店の裏に入っていく。

 空から甲高い地鳴きが響けば、アルは目を大きく開いて外へ。

 アルは軽々とお店の屋根によじ登り、金庫に向かっているはずの店主を捉えた。

 静かに屋根から屋根へ飛び移るアルは、小さな町の保安部隊がいる駐在所に辿り着く。

「アルフォンス君が賊と関わったせいでおかしくなっている!」

 王国指定の急所だけを守る軽装鎧を着た保安兵は、心配そうに話す店主を落ち着かせていた。

「あのジジイ、余計な事を言いやがって」

 苛立ちを抑えきれずにアルは屋根から飛び降りると、店主と保安兵の前に割り込む。

「アルフォンス君!?」

「ジジイは余計な事しないでさっさと俺が持ってきた物を買え!」

「待った待った、アルフォンスだったか。戦争が終わってならず者が増加している、君も若いんだから真っ当な仕事をしなさい、店主は君を心配しているんだよ」

 保安兵の説教にアルは標的を変える。

 口よりも手が先に動き、アルは保安兵の衣服を掴んで睨みつけ、無言で突き飛ばした。

 よろける保安兵は慌てて剣を抜いてしまう。

「貴様、これは任務を邪魔したと同等の行為だぞ」

「ジジイに警告する、今からするのは見せしめだ」

 刀の柄を握り、左足を1歩前に踏み出すと抜刀。

 切っ先を保安兵の喉に押し込んだ。

 手から落ちた剣の刀身に喉から滴る血が落ち土へ零れる。

 保安兵のお腹を蹴り、強引に刀を抜けば勢いよく血が噴出し、アルの体に返り血が付着してしまう。

「さっさと金をよこせジジイ。それともこいつと同じような事をしてやろうか」

 獲物を仕留めようとする鋭い眼光に、店主は口を堅く閉ざした。

 異変に気付いた他の保安兵達が駐在所から飛び出してくるが、既にアルの姿はなく、店主は口を塞がれ屋根で腰を抜かしている。

「金さえもらえれば俺はすぐに出て行く……生まれた町でこれ以上の騒動なんて起こすつもりはない」

 店主を片腕で抱えてお店へと戻ったアルは空になった革袋に紙幣と金貨を入れると、保安兵に見つからないよう屋根から移動。

 地上では保安兵達が目撃情報を探していた。

 外へと続く町の端まで無事に到着したアルは、他人の家の屋根で小さな町を眺める。

 今も鳥達の地鳴きがアルの耳に届く。

「ちょっとそこの人、泥棒さん? 保安兵を呼ぶわよ」

 家の裏庭から女性の声が聞こえ、アルは睨みつけるように見下ろす。

 明るい金色の長い髪を束ねた若い女性だった。

「大人しく下りて来たら保安兵は呼ばないわ、だけど盗んだ物は返しなさい」

 既に泥棒扱いをされているが、アルは気にせず屋根から飛び降りる。

 白い肌を隠す様に長袖のワンピースを着ている若い女性は怖がることはなくアルを怪しむ。

「どれを盗んだのか覚えていないぐらい盗んだ。兵を呼んだところで俺の相手じゃないんだよ、お姉さん」

「あれ……アル? あなたアルフォンスよね?」

 突然若い女性は警戒を解いて素っ頓狂な声をあげた。

「あぁそうだけど、誰だあんた」

 記憶をどれだけ辿っても思い出せない人物にアルは眉を顰める。

「従姉弟のメーリアよ。顔つきが見ない間に変わって、一体何があったの?」

 メーリアと名乗る相手にアルは否定を込めて首を横に振り、裏庭の柵を軽々と乗り越えた。

「身内じゃ女と思えないな、孕ませる価値もない。じゃあな」

 柵越しから、あ然とするメーリアに手を振り、別れを告げたアルは軽快に町の外へ。

 同じ平原を走る馬車に向かって手を伸ばしたアルはそのまま荷台に乗り込んでしまう。

 強引に入ってきたことに驚く御者を蹴り飛ばし、手綱を奪い取ったアルは平原に御者を置いてけぼりにして、王都を目指す。

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