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第1話

よろしくお願い致します。

 青い空が遠く、狭く思えるほどの高い木々に囲まれた村。

 漆黒の軽装鎧に身を包む10人ほどの集団が剣や斧を持ち、村を目指して歩いていた。

 集団は全員男で、逞しく膨らんだ上腕を見せつけるように露出させている。

「ウズ族は鳥と会話ができるらしい。鳥を見つけたら迷わず射ろ」

 先頭に立つ巨体の男は弓を構えている仲間に指示、反抗する者はおらず、静かに頷く。

「アル……ん? アルファンス」

「え、は、はい」

 巨体の男に隠れて大人しくついているのはアルフォンス、皆からアルと呼ばれている少年は刀を腰に差して頼りない返事をする。

「村から食い物と宝を奪うだけの話だ、どうせ大した抵抗もしてこねぇだろうからてめぇは村の入り口を見張ってろ」

「はい……」

 アルは戸惑いながらも頷く。

 見兼ねた仲間達はアルの背中を強めに叩きながら間もなく到着する村に向かって軽快に走り出す。

 時折木の枝に止まっている様々な鳥を矢で射止めつつ、仲間は雄叫びを空へ。

 アルだけが村の入り口を目指した。

 斜面を慎重に下り、木々の隙間を通り抜けたアルは刀を鞘から抜いて待機。

 短い黒髪が風に揺れ、背後から仲間達の豪快な声と村に住む民族達の悲鳴が聞こえてくる。

「俺だって皆と一緒に奪いたいのに、戦いに参加したいのになぁ」

 銀色の刃を眺めているアルは大きな溜息をつき、叩かれた背中に残るヒリヒリとした痛みだけが響く。

 平地で暮らす人々との交流を断絶しているのではないか、そう思えるほど森は深く、村に来る者はいない。

 暇を潰せる遊びもなくアルは空を見上げると、鳥よりも大きな影がアルの頭上を通り過ぎた。

「え、なに? 鳥じゃなかった」

 アルは慌てて影を追いかける為に村の中へ入る。

 既にウズ族は土に体を預けて絶命し、仲間達は村の中央に集まっていた。

「てめぇはなんだ、空から颯爽と現れて英雄気取りとは胸糞悪いな」

 巨体の男はフード付きのローブを着た小柄な少女を睨みつけている。

「私は世界最強の魔女、無意味な殺傷はよくないですよ」

 誇らしげに自称する魔女に男達は笑う。

「全く面白くねぇ、この魔女をやっちまえぁあ!」

 巨体の男が豪快な雄叫びを上げれば仲間達も応えるように叫び武器を手に襲いかかる。

 大勢に囲まれても笑みを浮かべている魔女が指を鳴らせば、青白い閃光が村を覆い空気を揺らすほどの衝撃波が現れた。

 予想以上に強い衝撃にアルは後ろへと転んでしまうが、刀を杖代わりにして立ち上がる。

 衝撃で吹き飛ばされた仲間は大木の枝に突き刺さったり、体の一部が千切れたり、次々と絶命していく。

 変わり果てた仲間の惨状に何もできないアルは両脚を震わしてしまう。

 魔女の近くにいながら無傷だった巨体の男は怯えているアルを見つけると、

「アル、俺達は助け合い、例え仲間が裏切っても見放さねぇ、それが俺達賊の誇りだ。忘れるなぁ!」

 叫びながら鋼鉄のグローブを両手に填めて魔女へ殴りかかる。

 魔女が再び指を鳴らせば、宙に浮かぶ大剣が現れた。

 指を軽く動かすと宙に浮く大剣は巨体の男を狙い、振り翳す。

「いや、やっぱりあっち」

 魔女は標的をアルに変えてしまい、大剣を指で動かし立ち竦むアルを斬り裂こうとする。

「うわぁうわ」

 アルは自身より大きな剣が自我を持つように動く姿に腰を抜かしてしまう。

 瞼を閉ざして身を屈めたアル。

 肉が裂ける音に、アルの瞼はさらに閉じたが痛みどころか、体に異変はない。

 恐る恐る瞼を開ければ、巨体の男が胸部から下腹部を斬られて静かにアルの前で立っていた。

 大剣は空気の中に消え、魔女は口角を下げて巨体の男を眺めている。

「あぁ、あぁああああ!」

 アルは顔を青ざめ、思わず叫んでしまう。

 巨体の男は口腔内に溜まった血を吐き出し、黙ったまま膝をつき、ゆっくりと土に顔面を埋める。

「当然の報いです。罪のない村人を襲う最低な賊の下らない誇りなんて意味が分からないわ」

「っ!!」

 魔女の言葉にアルは歯を食いしばり、刀を手に斬りかかろうとするも、魔女は空へと浮遊する。

「よくも、よくも、俺の仲間を! 絶対許さない!!」

 アルは怒りにまかせて魔女に吠えるが、相手は笑う。

「アナタじゃ相手にならないわ、森で迷って息絶えればいい。勘違いの誇りと一緒に」

 魔女の挑発にアルは顔を真っ赤に染める。

「俺はアルフォンス! 名を言え、魔女!!」

「仕方ないなぁ、私は世界最強の魔女エマよ」

 エマと名乗った魔女はアルよりも小さい少年を抱えていた。

「じゃあバイバーイ」

 エマはお気楽な調子で手を振り、空気と同化して村から消えてしまう。

 残されたアルは醜い目つきで戸惑いを内から消し、刀を手に強く握りしめる。


 7年、アルは誰もいなくなった森で過ごしていた……――。


 体は大人として成長したが酷く醜い目つきのまま、土に突き刺した仲間達の武器を何も言わずに眺めている。

 愛刀を腰に差し、仲間の遺品である漆黒の軽装鎧を装着。

 今まで静寂だった森にいる鳥達が地鳴きを始め、警戒を促すように騒ぐ。

 アルは鳥の言葉など理解できないが危険であることは分かり、刀を鞘から抜いて村の入り口へ向かう。

 馬を引き連れて深い森にある村へと足を運んできたのは優しそうな青年と、頼りがいのある様々な職業の仲間達だった。

 両手剣を背負う青年に対してアルは一言も話すことはない。

「悪賊アルフォンス、数えきれないほどの殺人や強盗は許されない罪だ。国王の命により討伐する!」

 正義感溢れる強い言葉と共に両手剣を構えた青年とその仲間達。

 アルは醜い目つきで先に攻撃を仕掛けてきた筋肉隆々の半裸男を捉え、振り下ろされる片手斧を刀身で掃いのける。

 バランスを崩した半裸男の喉元に切っ先を通し、次は槍で貫こうと突進する壮年の男へアルは鋭い刃を空に向けて槍の柄から穂先を切り離す。

 柄から離れていく穂先を掴んで、アルは壮年の男に投げつけると顔に突き刺さり、力無く倒れていく。

 怒りの感情と共に勇ましく声を上げて、両手剣を果敢に振り翳す青年の眼差しは英雄と称してもいいほどで、その姿にアルは薄気味悪い笑みを浮かべる。

 重く圧し掛かる両手剣を刃で受け止めては流し、アルが反撃を仕掛けても青年は見事にかわす。

 埒がいかない状態に痺れを切らしたアルは後方で呪文を唱えている少女を視界に映し、青年を両手剣ごと突き飛ばした。

 俊敏な動きで土を蹴り走るアルは少女が繰り出す雷撃を容易く回避し、刃を少女の喉に当てて背後を取る。

「彼女から離れろ!」

「私の事など気にせず斬ってください!!」

 熱いやり取りを冷めた心で聞いているアルは、

「もっと仲間を集めて大勢で攻めるのが普通だろう。俺1人ぐらいなら少人数で片付けられると思ったか? だからこういう間違いを犯すんだ。どうする、お前が死ぬか、女も死ぬかどちらか選べ」

 低く抑えて笑う。

 優しそうな青年は苦い表情で両手剣を落としてしまう。

「僕の負けだ……どうか彼女だけは助けてほしい」

「よし、良い決断だ」

 アルは布で少女の両腕を縛り、視界も奪った。

「お前で100人目だ、光栄だと思え」

 刀の切っ先を青年の背中に向けて、戸惑うことなく肉を裂き、心臓を貫く。

 一度貫通した刀を引き抜けば、青年は力なく倒れて土へ顔をめり込ませる。

「おい魔術師、魔女エマを知っているか?」

「いいえ、知りません」

 アルの質問に答える少女は悲痛に震えた声だった。

「自分で世界最強の魔女なんて言う女は珍しい。魔術師なら知っていてもおかしくない」

「私は何も知りません!」

 長い言葉のやり取りを好まないアルは口角を下げて数秒ほど黙ると、

「俺の子を孕みたいのか?」

 少女の顎を掴み、布で遮られている少女の顔を睨みつける。

「なっ、早く私を殺してください、これ以上何も言う事はありません!」

 震える声にアルは鼻で笑ってしまう。

「俺の名をもっともっと魔女エマの耳に届くぐらい知らせるんだ、お前がな。王都に戻ったら王に魔女エマを呼べと言え。いい加減雑魚に用はないんだよ」

 逃げも隠れもしない逞しい馬に少女を力づくで跨らせて、アルは少女の後ろに跨ると手綱を取る。

 木々に囲まれた村の外に向かって馬を走らせると、鳥達は騒がず遠くに行くアルの姿を見送った。

 平原に繋がる境目で馬を静止させたアルは少女の手を縛っていた布を腕力で千切り、視界を塞いでいた布も取ると馬から降りた。

「さっさと行け、二度と戻ってくるな。次は孕ませるぞ」

 少女はアルを強く睨むように見下ろし、唇を噛むと手綱を握り締めて王都へと戻っていく。

 アルは再び徒歩で長い森の道を進んでいき、無人の村へと戻る。

 鳥達が穏やかに鳴く中、アルは村の外れで土を掘っては殺害した戦士達を埋め始め、両手剣、槍、鎧、全てを外して裸体のまま乱暴に投げて、土を戻す。

 血と土で汚れた両手を掃い落とし、アルは盛り上がった土に両手剣を突き刺す。

 脱がした衣類や鎧を細かく触れながら売れそうな物をとにかく取り出した。

 青年が着ていた鎧の内側にボロボロの厚紙が2枚、アルは厚紙を拡げて読む。

「マールの招待状? 食事会……もう1枚も一緒か、エマ?」

 最後の文にはエマと書かれた丁寧な文字があり、アルはエマ宛ての招待状をポケットに入れる。

「やっぱり知っていたなあのクソ女、犯して聞き出せばよかった。王都の近くで食事会だな、エマを殺せるチャンス、逃してたまるか。ついでにさっきの女を見つけて孕ませてやる」

 アルは売れる物を背負い、愛刀を腰に差して森の村から離れることに。

「皆、行ってくる。アニキ達の仇を絶対に、討つ!!」

 ジンジンと響くほどの力で胸を叩いたアルは酷く醜い目つきで王都を目指し、森の道を歩き出す。

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