思いと敗北
久々の前回までのあらすじ!
私、相田如紗はひょんなことからミロック界で使われている武器、四醋剣の使い手になった。
しかし対する四季剣という武器が主流であるミロック界にとって四醋剣は邪魔で危険な存在だった。
そのせいで夢を諦めかけていた京くん、昔からの幼なじみで四季剣保持者の加羅くん、Be Quiet所属の仁奈に出会い、私たち四人はシーズセラピーを結成した。
シーズセラピーの目的は、ミロックでの四醋剣の認識を改めることと四醋剣保持者の精神的苦痛を和らげることだ。
その思いをミロック界の全ての国王に宣言した私は、実行務という一つだけの席を賭けた勝負を一目見ようと走っていた。
「前回までのあらすじがこれまた長いんだよね〜…」
そんなことを呟きながら私はミロック城のトレーニングルームへ向かった。
元々ミロック城にはトレーニングルームが常設されていて、如月先輩たちもここで四季剣の練習をしていたらしい。
私も何度か通り過ぎたことはあるが、とてもいい場所だと思っている。
シーズセラピーの施設がもらえるならぜひ取り入れたいところだ。
「あっ来た来た、如紗お疲れ〜」
「利愛先輩お疲れ様です。今はどんな状況ですか…?」
「それがさあ、優が危ないからってモニター越しにさせられたんだ。
直接見ちゃダメなんだって」
「えっもしかしてこれが!?」
「そうそう」
利愛先輩の前には小さなテレビが置かれている。
おそらくこのテレビも利愛先輩か白空先輩が作ったのだろう。
「子どもじゃないんだからねぇ」
私はモニターにかじりついた。
まだ勝負は始まっていないらしい。
京くんも加羅くんも妙にソワソワしている。
「会いに行くなら行ってこれば?まだ大丈夫だと思うよ」
「えっ利愛先輩なんで私が思ってることを…?」
「さすがにそこまで鈍感じゃないよ」
ほらっと利愛先輩は私の背中を叩いた。
それと同時に私は走り出していた。
私が、私が言ってあげなくちゃ。
大丈夫だよって伝えなきゃ。
その時の私には、加羅くんか京くんどちらに伝えようかなんて迷いは全くなかった。
脳内に映っていたのはたった一人。
「京くん!!!」
「き、如紗…?」
京くんは驚いてこちらを見ている。
「大丈夫、自分を信じて!京くんの思いは絶対に裏切ったりなんかしない!必ず夢に繋がってる!!だから…」
私は身を乗り出して叫んだ。走ってきたから息が上がる。
それを見た京くんは笑いながら言った。
「ちゃんと見ててね」
その声は強く、はっきりとした声だった。
「時間だ、そろそろ始めるぞ。相田はモニタールームへ戻れ」
「はい」
振り向いた京くんの背中はとても大きく見えた。
間に合ってよかったね、と如月先輩が言ってくれた。
「…何がちゃんと見ててねだよ、クソが」
加羅くんも何かブツブツ言っていたが、よく聞き取れなかった。
さあ、これから運命が変わる。
「ねぇ優、ほんとは京くんを実行務にしたいって思ってるんじゃないの?」
「は?なんで分かるんだよ…」
「そりゃあ長年一緒にいたらね」
「…加羅は私情を持ち出しすぎだ」
「私情?」
「相田のことだよ。さっきの見ただろう、加羅もいるっていうのに相田は憂間にしか声をかけなかった」
「告白したようなもんだよねさっきの。
京くんあんな表情もするんだってびっくりしたもん」
「そういうことだってあいつも分かってるだろう」
「恋のパワーかあ、若いねえ」
「何ババア面してるんだよお前は」
「今ババアって言ったね??」
「やめろ!!その関節はそっちには曲がらねえよ!!」
「それにしても、優が加羅くんを見限るなんて」
「そういうわけではない。
加羅は昔はもっと純粋に実行務に対する憧れがあった。
でも今はなんだ、憂間に負けたくないプライドと嫉妬から実行務を志望してるようなもんじゃねえか」
「優そういうの嫌いだもんね。
京くんを推薦枠に選んだ時点で薄々感じてたけど」
「あいつの実行務に対する思いは本物だからな」
「そこまで心は決まってるのになんで対決させるの?」
「やはり憂間の四醋剣が気になる」
「京くんの四醋剣、確かりゅうさんと同じ治癒系なんだっけ?」
「それだけじゃない、自己完結したらマズイんだ」
「自己完結?」
「回復と攻撃が四醋剣で成り立ってしまうとどうなる?」
「どうなるって…それずっと四醋剣解放してれば無敵じゃないの?」
「そうだ、それが四季剣ならまだいい。
あいつが持っているのは四醋剣だ。
知らないうちに自分の身を削ることになる」
「この前京くんの四醋剣を没収したのもそれね」
「その兆しが見えたんだ。
実行務への思いが強い分、四醋剣も強くなっていくだろう。
でもあいつの場合それではダメなんだ。
ちゃんと自分で制御できるようにならないと」
「もし何かあったら、私も全力止めに行くからね」
「ああ、頼むよ」
『ルールは簡単、膝をついた方が負けだ。
もしどんな攻撃をくらって吹っ飛んでも膝さえつかなければ問題ない。
逆に言うと無傷でも膝をつけばその時点で負けだ』
膝をつけば負け、というルールは昔から起用しているルールだとアヤメさんから聞いたことがある。
京くんと加羅くんはトレーニングルームの真ん中で向かい合った。
お互い何も言葉を交わしていない。
私はぎゅっと手を握りしめた。
「始まったかな」
「あ、あなたはジュゼッペさん!?」
「やっほ〜!見にきたんだ!」
先ほど実行務会議で会ったリオン国王のジュゼッペさんがモニターを覗きに来た。
そりゃ自分の国の実行務が決まるんだ、見に来るだろう。
それにしてもそんな国王にすらタメ口とは利愛先輩も割とすごい人なのかもしれない。
「利愛と如紗はどっちに賭けてるんだい?」
「うーん、どっちもどっちかなあ。
武器だけ見るとそりゃ四醋剣の方が有利だけど、加羅の方が経験も多いし」
「リスクもついてくるもんな。如紗はどう?」
「私は…」
その時、大変なことに気づいた。
さっき私は京くんに声をかけるためにトレーニングルームへ行った。
しかし、もちろんその場には加羅くんもいただろう。
自分にはエールをくれずそのまま立ち去る私を、どんな気持ちで見ていたんだろう…
やば、お腹痛くなってきた……
「ジュゼッペ、その辺にしてあげて」
「え?僕は何もしてな」
『それでは、開始!』
モニターの中でホイッスルが鳴り響く。
どうやら始まったようだ。
今日で全てが決まる。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
実行務という夢を、如紗との約束を破るわけにはいかない。
『四季剣解放、新月!』
まだ序盤というにも関わらず、三宅は四季剣を解放した。
俺も太刀打ちするために解放したかったがそうはいかない。
卯月先輩に四醋剣を取り上げられた理由はなんとなく察していた。
俺が持っているのは四季剣じゃない、四醋剣なのだ。
今四醋剣を解放したって途中で力尽きるのがオチだ。
自滅なんてダサいことはしたくない。
三宅の四季剣、新月は相手ではなく直接地面に振動を与えることによって地震を起こす技である。
…なるほど、体制を崩させて膝をつかせようという寸法か。
俺だって今までバカみたいに本ばかり読んでいたわけではない。
地面が揺れているのならば、地面につかなければいい。
俺は小さく飛びながら三宅との距離を縮めた。
それを見た三宅は言った。
「それだとすぐに体力を消耗するぞ、憂間。そんなことも分からないのか」
「忘れたのか、俺は四醋剣保持者だぞ」
「なっ…!」
新月を使い、床に集中していたからか三宅の上半身はガラガラだった。
俺はまだ解放していない四醋剣で脇腹を小突いた。
三宅の身体はぐらりとする。
「四醋剣を授かった時から体力作りくらいはしている。少なくともお前よりは」
「へっ…生意気なこと言ってくれるじゃねぇか…!」
四季剣のデメリットはもう一つある。
技のバリエーションが少ないということだ。
如月先輩たちとは違い、大抵の四季剣保持者は一つしか技を使えない。
その技からどのように攻撃を繋げていくかが肝になるのだ。
「お前に如紗ちゃんは、渡さねえ」
「…は?」
次の瞬間、三宅は思いっきり顔にめがけて四季剣を振りかざした。
ギリギリのところで交わすが、頬に痺れるような痛みが走った。
こいつ、本当に殺る気だ。
「さっき言ったな、四醋剣保持者は体力をつけていると。
別に動きでどうこうするつもりはねえよ」
「ど、どういうことだ」
切られた右頬の血を拭いながら俺は聞いた。
「自滅させるのが一番なんだよ」
三宅の目は鋭く光った。
とりあえずすぐに回復しなければこれじゃまともに戦えない。
切られたのは頬だが縦に長く、まぶたにも近い。
目を開けるのが少しずつしんどくなってくる。
これじゃ視力にも障害が出てしまう…
『四醋剣、解放!』
…あれ、痛みが消えない?
どうして、解放したはずじゃ…
「四醋剣で回復出来ないギリギリの攻撃をした。
あと二、三回ほど四醋剣を使えば治るんじゃねぇか?」
「そういうことか…!!」
そんなに一気に四醋剣を解放すると逆に体力を消耗してしまう。
それは負けに直結するだろう。
三宅のやつ、俺の四醋剣をそこまで読んでいたのか?
一体どうやって…
いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
試合前に卯月先輩が言っていた。
どれだけ力が残ろうとも、膝をつけば負けなのだ。
「四醋剣対策として相手の技量を知っておく、ミロックでは常識だぞ憂間。
対等に戦っても勝てない、相手が勝手にへばるのを待つのが賢いんだよ。
既に知ってるんだと思って…」
「お前、それ如紗の前で言えるのか?」
「……」
三宅の動きが止まった。
やはりこいつの弱点は如紗だ。
時間を稼ぎながら痛みが治まるのを待とう。
「そんな思いでシーズセラピーにいるなんて如紗も幻滅するだろう」
「勘違いをするな。
俺がシーズセラピーには入ったのは如紗ちゃんを四醋剣から守るためだ」
「ならどうしてそんな小声で言うんだ?
モニター越しに見てる如紗にも聞こえるように言いなよ」
三宅は無言で俺から目を逸らした。
俺はゆっくり目を開けてみる。
うん、大丈夫。はっきりと見える。
もう一度見た三宅は、何やら微笑んでいた。
この状況で何を笑ってるんだ?
「ああ、そうだよ憂間。その通りだ」
「は…?」
「俺はいずれこのシーズセラピーをぶっ潰すつもりだよ。
俺は四醋剣じゃなくて四季剣保持者なんだよ。
あ、もしかして期待しちゃってた?
もしかしたら本当に協力してくれるって?」
「お前……………」
「夢だか約束だか知らねえが如紗を巻き込んだこと後悔させてやるよ」
腹の底から沸々と怒りの感情が込み上げてくるのが分かる。
『大丈夫、自分を信じて!
京くんの思いは絶対に裏切ったりなんかしない!
必ず夢に繋がってる!!だから…』
「今までご苦労さん」
そう言うと三宅は俺の背後に回る。
「これで、終わりだ憂間」
分かっていても振り向くことはしない。
そして静かに、俺は言った。
『四醋剣解放、京華紗』
京くんが四醋剣を解放したまでは私も把握出来ていた。
でも、その四醋剣は京くんの本来の四醋剣ではなかった。
京華紗はたちまち大きな鎌になっていった。
回復している様子はない。
「お、お前まさか二つ目の技を…」
加羅くんは腰を抜かしてしまっている。
それに構わず京くんは襲いかかった。
「ぐはぁっ…!」
京くんの鎌は容赦なく加羅くんの身体に突き刺さった。
「加羅くん!!」
「ちょ、ちょっと如紗!気持ちは分かるけど今行ったら危ないよ!!」
「でも…」
利愛先輩は首を横に振った。
「なんだ…お前お人好しだから人を斬るなんで出来ねえと思ってたよ…ははは」
「笑っていられる状況か?」
ヨロヨロと立ち上がりながらそれでも尚、加羅くんは笑っていた。
「俺の弱点は如紗ちゃんだと踏んで挑発してきたとこまでは良かった。でもそれはお前も一緒だよ憂間」
加羅くんの四季剣が禍々しく光り始める。
「もう実行務がどうとか関係ない…これ以上如紗ちゃんの心を占めるのならば、俺がここで…」
『四季剣解放、正春!』
次に聞こえてきたのは四季剣を解放すると加羅くんの声ではなかった。
加羅くんのそばには声の主とは別の人物がいた。
「これ以上やると三宅も危ない。まだ制御しきれてないんだろう」
「優先輩…」
バタンッと人が倒れる音がする。
「やったか?」
「うん、なんとかね。罪悪感しかないけど」
スッと如月先輩が京くんから剣を抜くのが見えた。
「とりあえず加羅は兄貴のところへ行け。放っておくと大事になるから」
「じゃあこの勝負は…」
「憂間の、反則負けだ」
四季剣正春、それは如月先輩が使う四季剣の第二段階の技である。
外ではなく中身にだけダメージを与える…一番分かりやすい例は腹痛や頭痛だろう。
血が出たりそういったものはなく、内側からズキズキ痛むイメージに近い。
このように段階を踏むのは四季剣だけだ。
そう、四季剣だけなのに…
「本当に憂間から何も聞いてないのか?」
「私は何も…」
「そりゃそうでしょ優。
だって四醋剣の第二段階なんて聞いたことないしり
「憂間にはもう治癒という四醋剣の能力があるからな…」
「だからといって反則負けもかわいそうな気もするけどなあ」
利愛先輩はオレンジジュースを飲みながら言った。
リオン国の実行務を決める戦いは、加羅くんが勝利した。
しかし、その結果はあまりにも複雑すぎて。
「ただでさえ京くんはここ最近、四醋剣を酷使していた。今度なんてないんだよ利愛」
「む〜、めんどくさいなあ」
「まあなんで四醋剣の第二段階を憂間が使えたのか、その理由は明白だがな」
卯月先輩たちは一斉にこちらを見た。
「私ですか!?」
「だって京華紗なんて名前なんだよ。京くんと如紗ちゃんの名前が入ってるじゃん」
「活字じゃなくてもなんとなく漢字のイメージがつくよね、安直というか」
「読者には活字だが俺たちには音声でしか伝わってないから、漢字なんて分からないぞ」
「ちょっと、メタ発言やめなさい」
「京華紗だよ!京都に華に紗!」
京華紗、私と京くんの名前が華を囲んでいる。
「なんか恥ずかしいです…」
「「「だろうね」」」
三人の声がハモった。
「というわけでこれはお前に渡しておく」
「四醋剣?もしかして京くんのですか?」
「時期を見て憂間に返してやれ」
「優が持ってるよりは全然いいからね。如紗ちゃんから渡してあげて」
「分かりました」
ぎゅっと京くんの四醋剣を抱きしめる。
このちっぽけなキーホルダーに、どれだけの思いが込められているんだろう。
「…あと加羅の様子もちょっとは心配してやれ。今兄貴と隣の部屋で休んでるから」
「はははははい!」
「むつきもこれくらい分かりやすかったらいいんだがなあ」と言う卯月先輩に、「なら一発受けてみる?」と如月先輩は四季剣を構えた。
「まーた夫婦コントやってる…如紗もほっといて様子見に行っておいで!」
「はい、ありがとうございます利愛先輩」
私は慌ててドアを開けた。
「結局京のとこに行くんだ…」
「おう、如紗ちゃんか」
「こんにちはりゅうさん、京くんの具合はどうですか…?」
「今眠ってるよ」
「それじゃ私ここにいますね。京くんが起きたらまた連絡します」
「うんそれもいいんだけど加羅のことも気にしてあげてな」
「あっ」
そういえばさっき卯月先輩に言われたんだった…
「もしかして忘れてたのか?」
「このことはどうか内密に…」
「ははは、それはどうだろう」
先に加羅くんのところへ行こう。
始まる前も京くんにだけ声かけちゃったし、なんか少し後ろめたい…
それに、聞かないといけないことがある。
りゅうさんから居場所を聞いた私は加羅くんの元へ向かった。
教えられた部屋ではなく、加羅くんは外へ出て包帯を巻き直しているところだった。
「やっときた」
「ご、ごめん…」
「え?本当に忘れてたの?」
しまった、謝ったら確信犯だとバレるじゃないか。
「…憂間はどう?」
「まだ寝てるみたい、疲れたみたいで…」
「ふーん、やっぱ俺より先に寄ったんだ?」
「た、たまたま部屋が隣で…!」
「そっか」
加羅くんは少しさみしそうに笑った。
「遅くなったけど実行務おめでとう。
花束かなんか持ってこれればよかったんだけど」
「ありがとう。でもこの状況で花はいろいろびっくりするわ」
沈黙が流れる。この話題は微妙だったかな…
ドキドキしていると加羅くんは口を開いた。
「あいつは大丈夫だよ、見た感じ優先輩は憂間の事期待してる。
今は俺の方が優秀みたいに見えるかもしれないけどすぐ追い越されるよ」
「そ、そうかな…」
「なんで如紗ちゃんが気にしてんの、訳わかんね」
ポンポンと加羅くんは私の頭を撫でた。
京くんのことが好きなのは間違いない。
でも加羅くんに対しての気持ちが抜け切れていないことは自分でも分かっていた。
…本当にずるい奴だ。
「俺頑張るから、見ててな如紗ちゃん」
「うん…」
「それじゃ俺行かなきゃ。ジュゼッペさんと話があるんだとよ」
「もう怪我は大丈夫なの?」
「そりゃあのりゅうさんに治療してもらったからな、もう何ともないぜ」
「よ、よかっ…た……」
「如紗ちゃん!?」
私は思わず泣いてしまった。
二人が戦っている時、どちらか死んでしまうんじゃないかという気すらしていた。
それくらい本気の試合だった。
「泣き虫なのは変わってねえな、昔から」
「そんなことない…」
「学校の裏で飼ってた子犬が死んだ時も大泣きしたよなお前。俺が慰めに行ったらビンタされた」
「それはほんとごめん」
「いろんな意味で如紗ちゃんに鍛えてもらったわ、女ってすごい」
「どういう意味!?…その時だったよね、加羅くんがこの髪飾りくれたの」
「物に釣られる軽い女なのも知ってたから」
「え、ひどい」
「冗談だって、また新しいの買ってあげようか?もうなんか汚いし」
「ううん、これがいいの」
「そ、そうか…それじゃ俺もう行くから!!」
「え…?そんな身体でどこへ…??」
加羅くんはなぜか急いで行ってしまった。
顔が少し赤かったような気がする。
加羅くんを見送った後、私は来た道を戻った。
京くんのところへ行かなきゃ。
ドアをコンコンとノックしてみるが反応はない。
まだ寝てるのかな…
「お邪魔します……」
そっと開けてみると、向こう側を向いて寝転がっている京くんがいた。
やっぱりまだ寝てるよね、疲れてるだろうし。
今日だけの話じゃない。
今までいろんな準備をして鍛えて、頑張ってきたんだから。
私は寝ている京くんに近づいたが、すぐに足を止めた。
小さな嗚咽が聞こえる。もちろんその声の主は…
「……ごめん如紗、約束破っちゃった」
「私はそんな風に思ってないよ」
京くんは私と顔を合わせないまま話しだす。
「卯月先輩に危ないから止めろってさんざん言われたのに、反則負けって」
「でも分からなかったよ。あの時如月先輩たちが止めてなかったら勝敗がどうなってたか」
「やっぱり四醋剣だからなのかな」
京くんはゆっくりと起き上がった。目はうつろだ。
そんな彼に私は必死に話しかけた。
「また卯月先輩がチャンスをくれるかもしれない。今回だけじゃ…」
「今じゃないとダメなんだよ!!」
今まで聞いたことのないような悲痛な大声を京くんはあげた。
「相手は三宅だった、あいつに負けたんだ。
俺の中の四季剣像はあいつそのものだった。
三宅に勝てばこれから何があっても上手くいくような、そんな気がしたんだ。なのに、負けた」
「だから違うよ。負けたんじゃなくてこれは…」
「もういいよ如紗。初めから諦めてればよかったんだ。才能なんてなかった」
私から目を逸らしたまま、教訓はベッドから起き上がる。
「四醋剣を持った時点でもう俺の未来は確定してたんだ。こんな夢、さっさと捨てるべきだった」
「…京くん、こっち向いて」
「何?」
振り返ると同時に、私は京くんの頬を引っ張った。
「いっは、はひふふんはほ」
「私の知ってる京くんは、そんなこと言わない」
「はぁ…?」
「京くんは四醋剣なんかで夢を諦めたりなんかしない!こんなつまらないことで夢を簡単に捨てたりしない!!」
私がそう言うと、京くんはいきなり地面に倒れた。
「京くん!?どうしたの!?」
「なんか、力抜けた」
「ご、ごめん…」
ふらふらと立ち上がろうとする京くんに私は手を貸した。
「あーあ、如紗のせいで余計わからなくなってきた」
「ご、ごめん…」
「そう思うなら付き合って」
「えっ!?」
つ、付き合ってってもしかしてそういう…
「如紗、勘違いしてない?
明後日学校終わったら俺んち来て。テスト期間だから早く終わるでしょ」
そういえばもう10月も終わり、センター試験に向けて本格的に忙しくなってくる時期だ。
そのため定期試験は早めに行われることになっている。
「分かった…」
「あとさ、どうせ持ってるんでしょ俺の四醋剣」
その辺りに、と京くんは私のポケットを指差す。
ず、図星だ…
「まあお前が持ってる方が気は楽だよ。それじゃ俺は先に戻るね」
そう言うと京くんはドアノブに手をかけた。
「ねぇ京くん、それだけ?」
「何?」
また振り向かずに返事をした。
「他に言いたいことがあるんじゃないの?」
「…別に何もないよ」
「本当に?」
「うるさいな、本当だよ。もう全部言っ…」
私は後ろから京くんを抱きしめた。
京くんの身体は少し震えていた。
「嘘つき、まだ出してない感情があるよ」
「…や、し……」
微かに京くんの口が動いた。
「ん?なあに?京くん」
そう言うと京くんは正面から私を抱きしめ直した。
「悔しいよ…悔しい……意味が分からないくらい悔しい…!」
「うん」
「行けると思った…負けるはずがないと……なのに負けた…俺は……」
「うん………」
私を抱きしめる京くんの腕が強くなる。
「約束…守れなかった…」
その言葉を皮切りに、私と京くんはわんわん泣いた。
何に対してかわからない。
わからないけど一緒に泣いた。
そして泣き疲れて、京くんはそのまま眠りについた。
…分かっている、きっとこれも四醋剣のせいなのだろう。
寝息を立てて寝る京くんを私はもう一度抱きしめた。




