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夢幻酷法〜Starting Story〜  作者: SOR
2章 実行務編
8/18

実行務会議と試練

終業のチャイムが鳴る。

バタバタと校門の方へ走っていく人影が三つ…


「「如紗!!」」

「如紗ちゃん!!」

「みんなごめんね、お騒がせしました」


三人はホームルームが終わってからすぐ飛び出してきたのか息が上がっている。

なんとか体調も良くなり、1日ぶりの学校が終わったところだった。


「ほんとにもう大丈夫なのか?水は?」

「あれはほんとごめん…」

「そりゃあビビるぜ!?いきなり血とかいうから…」

「当たり前でしょう加羅、如紗は私たちと違ってピュアなんだから」

「俺らが汚れてるみたいな言い方はやめてもらいたいもんだな」

「でもほんとによかった…」

「無視かいコラ」


仁奈はそう言うと私を抱きしめてきた。とてもあったかい。

ツキとツミの件からやたらスキンシップが多くなった気がする。


「おーい仁奈さん、そこ俺の場所なんだけど」

「京はいちいちうっさいわね、後でイチャコラすればいいでしょ」

「そうする」

「京くん!!?」

「え、何それ聞いてないんだけどどういうこと如紗ちゃん」


こうやってみんなで笑い合えるのは本当に幸せなことかもしれない。

私は改めて三人に向かい直すと、頭を下げた。


「こんな私だけど、これからもよろしくお願いします」

「嫁入り前の娘じゃないんだから〜」

「うんうん。

そして、そんな君たちに優さんシーズセラピーの諸君はミロックへ来るように!という言伝を預かってる今から行くか!」

「えらい唐突ね…話の流れぶった斬られたけど」

「こいつの存在自体が唐突だから」

「憂間さあ、ボケたいのは分かるけどちょい意味不明だぞ」


話ってなんだろう。

でも私のせいでシーズセラピーの話し合いも止まってたことだし、早く行ったほうが良いかも。

そうして私たちはさっそくミロックへ行くことにした。


「…如紗大丈夫か?」


京くんが気にかけてくれる。

そういえば一睡もせずにそばにいてくれたってアヤメさんが言ってたっけ。

京くんの性格上、直接言っても寝た!とか言いそうだから心に留めておこう。


「うん、大丈夫だよ。ありがとう」

「え?大好きって言った?」

「大丈夫って言ったの!!」

「何言い合いしてるの二人とも…

如紗、アイマスク持ってきたけどつける?私がミロックまで誘導してあげる」

「え?なんでそんなことするの?」

「私がしたいから」


仁奈は真顔で言う。


「仁奈に誘導任せると変なとこ連れて行かされそう」

「私は如紗のこと好きだからそんなことしないよ?あ〜、でも大ッッキライな加羅にならするかもね。

汚い和式トイレに足突っ込ませるかもね」

「ちょっと想像しちゃったじゃねえかよやめろよ」

「最低だな三宅」

「なんでもう行ったことになってんの!?事後じゃねえよ!」

「というか仁奈と三宅って実際仲良いよな」

「私もそう思う…」

「いいとこのお嬢様ならもっと女の子らしくだな…」


加羅くんが会話を止めた。

前にニコニコとしている人物がいたからだ。


「関心関心、みんな仲が良いようだねぇ」

「えっと…白空(はくう)さん…?」

「いかにも、俺は鏡賀白空(きょうがはくう)だ。

新シリーズが始まり少し出番が少なくなってきたからこの辺で増やしておこうかと目論み」


ぐぇっと白空さんは声をあげる。

彼の首の根っこを掴んでいたのはピンク色の髪をした女の子だった。


「機械の調子見てこいって優に言われたの忘れた!?

こんなとこで油売ってる暇ないよ」

「いやでも利愛(りあい)、ほんとに出番がないと忘れられてしま…」

「早く戻る!!」

「…はーい」


2人は双子の兄妹で、ミロックで機械関係を担当している。

ミロック城での監視カメラは二人の自作らしい。

他にもトランシーバーや城内の電球なども手がけている。

隠れ天才だと私は密かに思っている。


白空さんがおとなしくなったのを確認した利愛さんは、私たちに告げた。


「優とむつきがミロックで待ってるよ!」

「ありがとうございます」


私はぺこりと頭を下げた。

利愛さんはまたね〜といいながら、ずるずると白空さんを引きずり行ってしまった。


「ほんと、なんかミロックってすごい所だよな」

「あんな感じでもみんな実力者だもんね」

「うん…オーラが違うからな…」

「何肩落としてんの、俺らシーズセラピーだって負けてないだろ」


京くんが真顔で反論してきた。


「うわ京ってそんなキャラだったっけ」

「さ、先を急ぐぞ。卯月先輩たちを待たせてるんだから」

「キーッ!こうやってまた憂間だけ無駄に株が上がっていくんだ!!」

「加羅は誰に言ってんの?」


そんなこんなしながら私たちは卯月先輩たちが待つミロックへたどり着いた。


「忙しいところすまない。とりあえず用件だけ伝えよう」

「もうすぐ開かれる実行務会議のことなんだ〜」

「なんでむつきが言うんだ!?俺の仕事なのに…」

「別にいいじゃん、誰が言ったって。

実行務会議が来週あるから、何か言いたいこととかあればまとめておいてほしいんだよね」

「言いたいこと、ですか」


なんの話をしているのか全く見えない。


「その会議でシーズセラピーについて報告する場をもうけるつもりなの。

活動予定とかそういう感じ。発表するのは如紗ちゃんになるかな」

「ミロック界のお偉いさんが集まってくる大切な場だから、頑張れよ相田」

「何プレッシャー与えてるの」


うっ…胃が痛くなってきた……


「わ、分かりました。考えておきます」

「うん、とりあえずシーズセラピーに関してのお知らせはこれでおしまい。あとは優からどうぞ」

「はいよ」


ごほんと卯月先輩はせきばらいをする。

まだ何かあるのかな。


「率直に言おう、実行務に欠員が出た。それの埋め合わせをしたい」

「け、欠員ですか!?どこの国で!?」

「リオンだ。家庭の事情らしい」


リオンってなんだろう…?

私の頭の中は一瞬でハテナマークで埋め尽くされた。


「ほら優、如紗ちゃんがこの上なくアホな顔になってるよ。説明説明」

「えっごめんなさい!?」

「そういえば相田はまだミロックに来て間もなかったな」


卯月先輩が言うには、リオンというのはミロック界の中にある国の名前らしい。

私たちがいるのはミロック界のミロック国であり、他にもミロック界の○○国といった風に存在している。とてもややこしい。


「まだリオン国は出来て間もなくてな。ミロック王はもう八代目だが、リオン王は一代目なんだ」


そう考えるとミロックってすごい歴史があるんだ…


「確かジュゼッペ?さんでしたっけリオン王は」

「合ってるよ加羅くん。ジュゼッペは吸血族っていう、いわゆる吸血鬼でちょっと厄介なんだよね」

「吸血族…血……」

「あ、あああ!それで、用件ってなんですか卯月先輩」


私のスイッチが入る前に京くんが話題を変えた。


「端的に言うと、そのリオン国の実行務として加羅を第一候補にしようと思ってる」

「お、俺ですか…!ってことは、候補生じゃなくて実行務に昇格するってことですか?」

「そういうことだ。心構えはしておけよ」


加羅くんは目を輝かせながら卯月先輩を見ている。


「それとな、実行務長には推薦枠があるんだ。

その推薦枠に憂間、お前の名前を挙げる」

「はぁ!?なんで!!?」

「京くん!先輩だよ先輩」

「す…すみません取り乱しました…」

「前々から思ってたけど京くんって今までにいなかったタイプだよねぇ」


まじまじと如月先輩が見つめる。


「それでその審査を今週の日曜日にしようと思う」

「日曜日…」


今日は月曜日なのでまだもう少し時間がある。


「三宅と憂間で簡単な勝負をしてもらう。

もちろん四季剣や四醋剣を解放してもいい、それも実力の内だ。

その結果勝った者にリオン国の実行務をやってもらう」

「まあ簡単に言えば試験ね」

「分かりました、やりましょう」


加羅くんの瞳に濁りはなかった。

卯月先輩を見て宣言した後、京くんを見て言った。


「お前もやるよな?」

「…当たり前だろう」

「よし、決まりだ」


卯月先輩は京くんと加羅くんの肩に手を置いた。


「楽しみにしてる」


卯月先輩なんてあろうお方からそんな期待の言葉をかけられたら嬉しさにおかしくなりそうだが、二人はもうお互いのことしか目に映っていなかった。




来週は実行務会議、そして今週日曜にはリオン国の実行務を決める試験…また忙しくなるなあ…


あれ、そういえば実行務会議っていつあるんだろう。平日は学校があるから土日しか行けないんだけど。


ミロックから帰宅した私はベッドの上でぼんやりとそんなことを考えていた。


実行務の枠は一つ…

加羅くんにも京くんにも実行務になってもらいたい。どちらかだけなんて残酷すぎる。

…なんかモヤモヤしてきた。ちょっと散歩でもしてこようかな。


身体を起こし、私は外へ歩きに出かけた。

いつもの公園の前を通りすぎようとしたが、私は足を止めた。

とても静かだ。静かなのに何かの気配を感じる。これは一体…


「そこにいるのは、京くん?」


私は誰もいない公園に声をかけた。

側からみると完全にヤバい人だ。

返事はない、やはり気のせいだったのかもしれない。

公園をあとにしようとしたその時だった。


「俺が分かるのか?」


京くんは突然姿を現したのだ。


「よかった、ヤバい人認定されなかった」

「何を言ってるんだ…?一応、フィールド化を…していたんだけどバレちゃった…か」


フィールド化、確か他の人には見えないように異次元空間を作り出す技のことだったな…

京くんの手には四醋剣が握られていた。


「もしかして日曜のために特訓を?」

「何もしないわけには…いかないから……」

「でも休んだ方がいいよ、なんかすごく疲れてるし」

「俺は大丈夫…もう少し特訓していくよ…それじゃまたね」


そう言うと京くんはまたフィールドを張り私から見えなくなった。

これは京くんにとって千載一遇のチャンスなんだ。

逃すことなんて出来ない。

口出しはせずに見守っておこう。





加羅くんも京くんも卯月先輩から実行務の件が伝えられてから、学校が終わるとすぐに家に帰っていた。


仁奈も仁奈で忙しいらしく、あれ以来シーズセラピーで集まっていない。


私も来週の実行務会議で発表することをまとめておかなければならない。

なんとなく骨組みは出来たが、自分一人で完結させてしまっていいのだろうか…


本当はみんなに見てもらいたいけどそれどころではない。

その時に頭に浮かんだとある人物に、私は電話した。


「もしもし如紗?なんか久しぶりね」

「アヤメさん!先日はお世話になりました」


その相手はアヤメさんだった。

実行務会議の発表案を見て欲しいと伝えるとアヤメさんは快く了承してくれた。

すぐにミロックへと向かった私はアヤメさんと合流し、まとめたプリントを読んでもらった。


「うん、なかなかいいんじゃない?

四醋剣の問題はミロックだけじゃなくて他の国でも起こってることだから、きっとみんな親身になって聞いてくれるわ」

「ありがとうございます!ごめんなさい忙しいのに」

「いいのよ、今は如紗たちの方が忙しいみたいだし」

「おかげさまで…」

「あれお客様?」

「如紗が来てるの」

「久しぶりね!私のこと覚えてる?」


綺麗な黒髪をポニーテールでまとめ、綺麗な紫色の瞳をしているこの人は…


梅崎零(うめざきれい)…先輩ですよね?卯月先輩の妹の」

「そうそう!私のことは零でいいわよ。それで今日はどうしたの?」

「せっかくだから零にも見てもらったら?」


アヤメさんに言われるがまま私は書類を零先輩にも渡す。

読み終わった零先輩は、なぜか懐かしそうな顔を言った。


「なんだかむつきのことを思い出すわね…」

「如月先輩?」

「ええ、むつきもミロック王になった時に住人の前でスピーチをしたの。

今まで女王がいなくて批判ばかりだったけどそのスピーチで住人の心をわしづかみにしてねぇ。

そこからうなぎのぼりにむつきの評価が上がっていったわ」


如月先輩も本当にすごい人なんだ…


「大丈夫よ如紗、自信を持って」

「はい、ありがとうございます!」


大丈夫、今の私なら絶対に出来る…!


「如紗ちゃんの声がしたと思ったら…

よかった、ちょっと伝えたいことがあったんだ」

「噂をすればって感じね」

「ん?」

「いえ、こっちの話よむつき。それでどうしたの?」

「実行務会議の日程が決まったんだけどそれが今週の日曜になっちゃったんだよね…」

「今週の日曜!?」


それって、実行務を決める日と同じ…


「でも優もかぶってるんじゃないの?実行務長だし」

「優は予定を考慮して、今回は欠席するんだって。

ただ如紗ちゃんに関しては実行務と直接関わりはないから…

それに今回の実行務会議のメインはシーズセラピーってみんなに伝えてあるし、如紗ちゃんはどうしても外せないというか」

「…分かりました。それまでにまとめておきます」

「如紗、いいの?」

「私にとってシーズセラピーは大切ですから」

「会議は午前中に行われる。実行務候補の件は13時からにしよう、それでどうだ相田」

「う、卯月先輩!?」


なんだなんだ、どんどん客間に人が集まってくるぞ…?


「ゴキブリのように湧いてくるとか思われてるよ優」

「ここはミロック城だから仕方ない、我慢してくれ。

とにかく急げば会議が終わってすぐに戻ってこれるだろう。

それにミロック王としてアヤメも出席するから何かあればアヤメに頼ればいい」

「そうよ如紗、何が何でも間に合わせるからね」

「お嬢様の願いならば私たちも命を捧げる覚悟で参ります!」

「相変わらずアヤメのボディガードは極端だな」


そういえばなんでアヤメさんってボディガードがいるんだろう…

また聞いてみようかな。


「さあ、そうと決まれば早いとこ実行務会議までにもう少し練った方がいいんじゃないの如紗」

「そうですよね、それじゃ私戻ります」

「ああそれなら送っていくよ」

「優も戻るの?」

「ちょっと気になることがあってな」

「わ、わかりました」


そして卯月先輩と二人で戻ることになった。正直何を話したらいいのか思い浮かばず、気まずい。


「憂間とはうまくいってるのか?」

「えっ!?」


急に京くんのことを聞かれ私は驚く。


「その様子だと上手くいってるようだな」

「どんな様子ですか…。

逆に卯月先輩は京くんのことどう思ってますか?」

「…俺はそんな趣味はねえ」

「違いますよ!!実行務長からですよ!!嫌だなあ!!」

「今の割と恥ずかしいから今のは忘れてくれ…」


卯月先輩は頭をかきながら言った。


「もし何も感じていなければわざわざこんなことはしねえよ。

欠員はすぐにでも埋めた方がいいだろう。

そのまま加羅に任せてる」

「その言葉を聞いて安心しました」


私は笑いながら卯月先輩に言った。


「何でお前が安心するんだよ」

「えへへ、すみません」


そんな話をしながら歩いていると、私の家の近くまで来た。


「ここがお前の家だな」

「な、何で知ってるんですか?」

「加羅の家に何度か来たことがあるからな。

それで今憂間はどこにいる?」

「たぶん公園で特訓をしてると思いますよ」

「特訓…?」

「実行務試験に向けてですよ。京くん、本気だからそれで…」

「その公園はどこだ!?」


卯月先輩は顔色を変えて叫んだ。


「そこの角を曲がったとこですけど…」


私の言葉を最後まで聞かず卯月先輩は走り出した。

何か胸騒ぎがする。

卯月先輩のあとを追いかけ、公園へ行くとやはり京くんはいた。


そんな京くんにずかずかと近づくと、卯月先輩は京くんの頬を叩いた。


「う、卯月先輩!?」


私はびっくりしてその場から動けなかった。

ぐったりしている京くんを担いで卯月先輩は私のところまで来た。

え、気絶するくらいの勢いでビンタしたんですかこの人。


「こいつが起きたら伝えておけ、四醋剣は預かったと」

「…どうしてですか」


私はその時、初めて卯月先輩に敵意を向けた。

説明も何もせずこんな仕打ちはあり得ない。


「そんな顔で睨むな相田。憂間のためなんだ。

こいつは四醋剣に頼りすぎだ、元々病弱なのにこんな無理をしちゃ戦い以前の問題だ。

四醋剣はハイリスクハイリターンなのを忘れていないか」


ハッとする。

京くんがぐったりしているのは卯月先輩の強烈ビンタと特訓の疲れだと思っていた、

しかしあれは四醋剣による身体への負担が理由だったのだ。


「ご、ごめんなさい私…」

「とりあえず憂間の四醋剣は預かる。

事情はお前から話せ。当日には返してやると」

「分かりました…」


卯月先輩は静かに去っていった。

私は気を失っている京くんをベンチに座らせた。


おそらく、京くんの体力は一本の糸のみで保っていたんだろう。

その糸を卯月先輩が切ることによって今こうなっている。

ものすごく強烈なビンタのように見えたが、実際はそうじゃなかったのかもしれない。


ギリギリの状態を保つよりは一度気を失ってしまった方が良い。

その時、京くんのポケットに何か入ってるのに気づいた。

治療薬…?

りゅうさんのサインが入っている。

もしかしてさっき卯月先輩が強烈ビンタをした時に入れた?

そして私、強烈ビンタって言いたすぎ?


そうだ、京くんの四醋剣には癒し効果もある。

もし疲れても四醋剣を使って回復すれば何度だって動ける。

疲れて四醋剣を使って回復の無限ループなのだ。


でも、四醋剣だからこそリスクがある。

京くんは人の二倍四醋剣のストレスを受け、依存している。


どうして、もっと早く気づいてあげられなかったんだろう。

震える手でその液体薬のふたを開けるとこぼれないように京くんの口へと運ぶ。

綺麗なまつ毛と白い肌にドキドキしてしまう。



こんなにまじまじと人の顔見るのって人生初めてかもしれない…


「そんな見ないで」


「おはようごばいばす!?」

「ごばいばす」


うーんと伸びをしながら京くんは身体を起こした。危機一髪。


「あれ、俺何して…確か特訓を…」


京くんは何かを探している。

そしてそれが手元にないことに気づき私を見た。


「如紗、どういうこと?」

「京くんの四醋剣は卯月先輩が持ってる」

「ああ、どっかで落としたのかな。それじゃ今から取りに…」

「違うの!!」



私は知っている。

卯月先輩は意地悪したんじゃなくて、京くんを思って取り上げたこと。


私は知っている。

京くんにとって実行務になる夢が、どれほど大きなものかを。

そして加羅くんに対抗できる武器は、四醋剣しかないこと。



「京くんの四醋剣は回復もあるんだよね?

だから、使いすぎだって…だから卯月先輩が取り上げてそれで」

「ふざけんなよ」


京くんは低い声で言った。


「もう時間がないんだ!このままじゃ三宅に取られちまう…

せっかくのチャンスなのに、なのになんで…!?

やっぱり四醋剣だからなのか?四醋剣だから、俺はまた夢を」

「京くん!!」


私は京くんの身体を抱きしめた。

治療薬が床に落ち、残っていた液体がこぼれる。


「ごめん…」

「なんで謝るんだよ。そんなことより四醋剣を」

「お願い、今日は休んで」

「如紗まで何言って…もう時間がないって言ってるだろ!?

夢を応援するっていうのも嘘だったのかよ!?

「それでも聞かないなら私がここで止める」


私は京くんから離れると四醋剣を構えた。

もう治療薬は使えない、時間をとって休むしか京くんには残されていない。


「ふっ…今お前とやり合ったらそれこそ死んでしまうわ」


京くんはベンチから立ち上がると言った。


「今日はおとなしく帰るよ、卯月先輩から連絡来たらそう伝えといて」

「分かった、お大事にし…」

「何言ってんの、如紗も来るんだよ」

「えっ??」

「ちゃんと看病してよ、俺病人なんだし。

こんなにストレス与えといてほったらかすつもり?」


京くんは不敵に笑った。





京くんの家に来るのは二回目だ。

でも一回目とは明らかに違う点がある。


「あらおかえり京、早かったのね」

「ちょっと疲れたから寝る」

「はいはい。あら、あなたは…」

「は、初めまして、相田如紗といいます」


こういう時、私はどういう立ち位置で挨拶をすれば良いのだろう???


「如紗ちゃん、いらっしゃい。ゆっくりしていってね。

今日は泊まっていく?」

「ま、まさか!」

「別に俺はいいけど」

「泊まりません!!」


そう、京くんのお母さんがいるのだ。

仁奈のおかげで完全復活したおばさんはとても元気そうだった。


「如紗ちゃん、好きな料理とかある?」

「えっと、シチューとか好きですかね…」

「そうなの!?ちょうど今日の夜ご飯シチューなのよね〜

しかも気合い入れて作りすぎちゃった〜〜〜困ったな〜〜」


チラチラとこちらを見ながら言う。


「さっきメールで聞いた時、まだご飯できてないから弁当買ってくるとか言ってただろ…

2回行こ、如紗」

「もう!あんたは余計なこと言わないの!」


後ろで叫ぶおばさんを背に私たちは京くんの部屋へ向かった。


「それにしてもおばさんと京くんってほんと似てないよね、性格とか」

「俺の弟もお母さんに似てないよ」

「それじゃお父さん似なの?」

「…そうかもな」


あっそういえば京くんのお父さんってもう…

無神経な質問をしてしまった、と私は京くんの部屋に入りながら思った。話題を変えなければ。


「さ、さあ早く休んで京くん!ほら布団かけてあげるから!」

「添い寝」

「え?」

「こういう時は添い寝って相場決まってるんだけど」

「なんの相場!?」


してくれないと俺は寝ない、絶対に寝ないとなぜか京くんは意地を張り始めた。

私は仕方なくベッドの上で寝転がると満足そうに布団をかぶった。


当たり前だけど、狭い。近い…


「最近バタバタしてたから、二人きりなのも久しぶりだね」

「そ、そうだね…」


どうしよう、いつもは普通なのに変に意識してしまう…!

そりゃこんな状態だからだと思うけど…

そもそも私たちって付き合ってるんだっけ?

付き合ってはないような…


「京くんあのね…」

「ぐう」

「寝てる!?」


こいつ、人に添い寝しろって言いながらものの数秒で寝たぞ!?

それなら私はもうここにいなくても大丈夫かな…


「うっ」


起き上がろうとする私の腕を京くんはつかんだ。


「ぐう…」

「起きてるでしょ京くん」


どうやら離してもらえるわけではないらしい


「如紗…きだよ……」

「…ッ!」


そういえば私は京くんに好きと言ったことはあったっけ。ないような気がする。

私は京くんのことが好きなんだっけ、というか好きってなんだっけ。

ゲシュタルト崩壊しそうだ。


じっと京くんの寝顔を見つめる。

彼は今、どんな気持ちなんだろうか。

大丈夫、きっと上手くいくよ。

私はそう小さく呟くと京くんの隣で眠りに落ちた。







「USBよし、配布レジュメよし…」


ついに実行務会議当日がやってきた。

持ち物を確認した私はすぐさまミロックへ出かけた。

実行務本部があるのもミロック国の近くらしい。


「如紗、身体の力を抜いて。

自分の伝えたいことをありのまま言うのよ」


アヤメさんからそうアドバイスをもらった。

確かに当日の朝から私の心はざわざわしていたが、このざわざわは実行務会議によるものじゃないと私は確信していた。


今日、リオン国の実行務が決まるんだ…


「相田、余計なことは考えるなよ」

「卯月先輩…」

「憂間にはちゃんと四醋剣は返しておいた。

心配はいらない、思いっきり当たって砕けてこい」

「砕けちゃってるよ優」


横から如月先輩が出てくる。


「二人は?」

「もうトレーニングルームに引きこもって最後の調整をしてるみたい」

「そうですか…」

「会いたかった?」

「いえ、二人も頑張ってるんです。私も頑張らなくちゃ」

「その意気だよ如紗!私も応援してる」

「ありがとうございます、如月先輩」

「そろそろ時間です、実行務会議出席者は第一ホールまでお集まりください」


アナウンスが鳴った。いよいよだ。

第一ホールの扉を開けると、もうミロック以外の王は既に着席していた。

…あれ、王!?


「なんか今日はシーズセラピーの説明があるからって実行務じゃなくて国王が出席してるみたいなの」

「そ、そんな偉い人たちが…」

「私もその一員なんだけどね」


急に手が震えだす。

その手をアヤメさんはぎゅっと握ってくれた。


「大丈夫よ如紗、私も見守ってるから」


アヤメさんはそういうとミロック王とかかれたプレートの後ろに座った。

大丈夫、私ならやれる。


司会らしき人が全員揃ったのを確認すると会議の始まりを告げる。

今の時刻は11時、二人の実行務試験は13時から。

大丈夫、なんとかなる。

いや、なんとかする。


「それではさっそくシーズセラピーについて創設者の相田如紗より話をしていただきます」

「は、はいっ」


私はその場で立ち上がった。

そしてレジュメを回す。

この日は王は全員集まっているみたいだ。

プレートを見るとリオン国、サラ国、マリック国、そしてミロック国の四国だ。


「とりあえず自己紹介した方が良くない?

そっちの方が緊張解けるだろうし」

「アイスブレイクって感じかしら。しりとりでもしてみる?」

「そんな時間はないですよサラさん」


ど、どうしようなんか騒がしくなってきた…

これじゃ13時まで間に合うか…

その時、ガタッと音を立ててアヤメさんが立ち上がった。


「ミロック八代目王のアヤメといいます、よろしくお願いします」

「アヤメさんはみんな知ってるでしょ〜!あはは!」


リオン国王が笑った。


「はい、私終わったから時計回りで自己紹介してね」

「なんか初々しくていいですね、それでは」


アヤメさんの隣に座っていた落ち着いた女性が立ち上がる。


「私は初代サラ国王のサラです。

国王の中では最年長かしら?

もうそろそろ二代目に受け渡してもいいと思ってるんだけど王の仕事が楽しくて。

ちなみにアヤメは私の妹なのよ、知ってた?」

「えっ!?」


し、知らなかった…

ということはアヤメさんは元々サラ国出身だったの!?


「お姉ちゃん、その話は長くなるのでまた後ほど。

それではその隣の方」

「ほい、俺は初代リオン国王のジュゼッペ!吸血族っす!」

「その言葉遣い、改めた方がいいわよ」

「ああごめんごめん!」

「えっと、国名って初代王の名前からもじるんじゃなかったんですか?ミロックとかサラもそうですけど…」

「それも深い事情があるからまたの機会にね」

「は、はい…」


まだまだ私の知らないことばかりだ…


「次は私ね、私は二代目マリック王の霜月(しもづき)みな。よろしくね」

「みなはとても賢くて、その…むつき大好き人間なのよ」


どういうこと??


「とまあ、これで終わりかしら。それじゃ如紗に返すわね。どうぞ」


アヤメさんは私のフォローをしてくれたみたいだ。

ありがとうございます…!

そして私はゆっくりと話し始めた。



「みなさん初めまして、私の名前は相田如紗といいます。もうご存知の通りシーズセラピーの創設者です。まずは創設までに至った理由を述べます」


それから私はパワーポイントを使い、今まで経験してきたことを述べた。


実行務のこと、商店街での出来事、Be Quietの任務中の爆発…

国王たちは私から目をそらさずに真摯に話を聞いてくれた。


「シーズセラピーの最大の目的は四季剣を潰すことではありません。

ましてや優位に立とうとなんて思っていません。

ただ、四醋剣にも人を守ることが出来るということを知ってもらいたいんです。


私は最近ミロックへやってきた余所者でしかありませんが、今のこの世界は異常だと思います。

私たちが知らないだけで今も尚、四醋剣保持者というだけで苦しんでいる人がいると思います。


四季剣保持者やそれ以外の人にも四醋剣を知ってもらいたい。

そして四醋剣というコンプレックスを抱えてしまった人たちをその沼から救ってあげたい。

これがシーズセラピー創設に至った目的です」

「言いたいことは分かったわ」


マリック王のみなさんが言った。

皆さん、ではなくみなさんが言った。正直ややこしい。


「それでそのシーズセラピーについてなんだけど、具体的に何をするの?」

「シーズセラピーのメンバーは現在四人ですが、全員が四醋剣保持者ではありません。

四季剣保持者やBe Quietもいます。

シーズセラピーの施設を設けて、四醋剣はどのように他のものと違っているかをこれから研究していこうと思っています」

「なんだ、シーズセラピーとかいうからみんな四醋剣保持者だと思ってたんだけどそういうわけではないんだねぇ」

「確かに四醋剣保持者だけだと考えが偏りそうだしいいんじゃない?」


なるほど、とリオン国のジュゼッペさんが頷く。


「でも四人だけだと少し人数不足のように感じますね。そのような大きなことに取り組むのならば」

「確かに私もそう思うわ。如紗、増やしてみたらどう?」

「はい、その予定です」


集まるかどうかは不安だけど…


「他に質問があればどうぞ」


司会が全員に促した。特に誰も反応しない。


「ないようであればシーズセラピーからお願いがあります。

それぞれの国で統計調査を行って欲しいんです」

「統計調査?」

「はい、住民の四季剣と四醋剣保持の割合を出して欲しいんです。

シーズセラピー本部はミロックに置く予定ですが、いずれは各国に最低一カ所は置くように考えています」

「なるほど、そういうことなら構わないわ。面白そうだし」


ニコニコしながらサラさんは言う。

腰まである長い髪がとても綺麗だ…


「それでその調査結果は誰に渡したらいいの?」

「各国の実行務に渡して。実行務長は優でミロックによく出入りしているからそこから受け取ります」

「は〜い了解。そこのお嬢ちゃんと会うことあんまりないだろうから、その辺はうまいことやってね〜」


お、お嬢ちゃん…


「おっとあんまり絡むとみなが怒るかな」

「私情を挟まないで、ジュゼッペ」

「へいへい」


なんか話がトントン拍子で進んでいく。


「他に何か質問はありませんか?」


私がそう聞いたが特に返事は返ってこなかった。

時計は12時45分を指している。


「それでは今回の実行務会議はこれで終了ということで。今日の議事録担当はどなた?」

「はーい、多分私」

「それではみなさんよろしくお願いします」

「みなさんだと霜月みなじゃなくてみんなを指してるみたいね」

「よく言われるわ」


はははとみなさんは笑った。

私も先ほど思ったことだから思わずつられて笑ってしまった。


「如紗、行っておいで」

「はいっ!」


アヤメさんがそう言うと私は慌てて飛び出していった。あと15分…どうか間に合って…!

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