表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢幻酷法〜Starting Story〜  作者: SOR
2章 実行務編
10/18

案山子と甘夏

11月初め、季節はもうすっかり冬だ。

半袖だった生徒も、もうほとんどが長袖になっている。


「は〜もうテスト始まんのねぇ…如紗は勉強した?」

「してない」

「はいはい、いつものあれね。してるけどしてないっていう」

「してないです」

「…マジで?」

「マジ」


そんな空っぽな会話をゆかちゃんとしながら学校へと向かった。

テスト前だからかみんなはそれぞれ机に向かって教科書を広げている。

その中には京くんもいた。


「…おはよ」

「お、おはよう」


そんなぎこちない会話だけして私は席についた。

私の成績は、いつも普通よりちょっと低いくらいの位置にいる。


「はいみなさん、教科書を閉まって〜問題用紙と配りますよ」


前から用紙が回ってくる。

高3になると学年、クラス、番号、氏名の他に志望校を書く欄がある。

私はいつも書いている特に興味もない大学名を書いた。




「はい、今日はここまで。テスト前に出した人から帰ってよし!」

「よーし遊ぼうぜ!!」

「テストは明後日まであるの忘れてないかお前ら」

「ぎぇ〜そうだった…」


出来はいつも通り。良くも悪くも無しと言ったところか。


「如紗、帰ろ〜」

「うん帰ろっかゆかちゃん。今すぐに」

「おーっと相田、今日は逃さないぞ」

「えっ先生?なんかしたの如紗」

「な、何のことですか…?」

「この前の懇談もはぐらかして終わらせただろう。この後職員室へ来るように」

「はい…ごめんねゆかちゃん、先帰ってて」

「はいはーい頑張れ〜」


本当は帰りながらオープンキャンパスについてゆかちゃんと話そうと思ってたんだけど仕方ない…

ちなみにいうと。


「憂間、お前もだ」

「げっ…」


どさくさに紛れて帰ろうとしていた京くんも捕まっていた。




職員室の前で私と京くんは先生を待っていた。

話したいことは山ほどあるのになぜか話が進まない。

週5で学校へ来てるはずなのに、ミロックでの出来事が濃すぎて、こうやって二人になるのは久々なような気がする。


「ま〜たイチャコラしてんの?ここ学校だよ二人とも」

「別にしてねえよ、見てから言え」

「が、学校で会うの初めてだね仁奈」


仁奈はしっかりと制服を来てメガネをかけていた。

まさに絵に描いたような優等生だった。


「この前会った時は通学途中だったもんね。それで何してるの?」

「先生に呼び出されてて」

「え、ガラスでも割った?」

「相田さんがそんな乱暴な人に見えるのかよお前は」


あれ、相田さん呼びに戻ってる。


「進路のことだよ、なかなか決まらなくて」

「なるほどね、そりゃシーズセラピーだなんて言えないもんね」

「俺も同じ理由」

「京に関してはそのまま病院連れて行かれそう」

「悪かったな」

「ああ、あと如紗。加羅が呼んでたわよ」

「加羅くんが?」


仁奈は迷惑そうに言った。


「そりゃもう大声でね。如紗ちゃんとこのクラスいつ終わるかな!?って叫んでたよ」

「は、恥ずかしい…」

「あいつのせいで如紗はある意味有名人だから私らのクラスでは。あとで連絡してみたら?」

「そうする…」

「お、なんだお前ら友達になったのか。そろそろ懇談始めるぞ」

「それじゃ私はこれで。先生さよなら〜」

「望月も気をつけて帰れな〜」


そう言うと仁奈は階段を降りて行った。

廊下にある机とイスに座った私たちは担任からプリントを渡された。


「相田、志望校はちゃんと記入しているみたいだが本当にここでいいのか?」

「いいです…」

「先生が見た限りでは相田が本気でやりたいとは思わないがな。

憂間に関してはまだ白紙、どうするんだ?」

「俺、進学はしません」

「えっ!?」


先生より先に私が驚いてしまう。


「ということは高校卒業したら働くのか?」

「いやそういうつもりでもないです…」

「あのなあ憂間、お前にも大切な人っているだろう?家族とかさ」

「大切な人…」

「その人を幸せにしたいと思わないか?」

「そりゃ思いますよ」

「ならいい。その人のことを考えてその答えなら先生はもう何も言わないぞ。

今の時代、どんな道を進もうが勝手だからな。相田もだ。でもな」


私と京くんは下を向いた。


「自分だけの自分じゃないんだぞ、よく考えてな」





懇談が終わった後、京くんは用事があるからと先に帰ってしまった。

もしかして逃げられた???

しょんぼりしながら私は一人で下駄箱に向かう。


「あっ如紗ちゃん!」


笑顔で私に手を振っているのは加羅くんだった。


「懇談だったんだろ?お疲れ様」

「ありがとう。何か用事?」

「ううん、一緒に帰ろうと思って」

「そ、そっか…」

「腹減ったなあ、どっか寄ってくか?」

「あっそうだ!今日ドーナツ100円セールしてるんだ」

「マジ!?なら行こうぜ」


決まり!と加羅くんは嬉しそうに飛び跳ねた。

ほんと子どもみたい、こういうところは変わっていない。

ドーナツ屋に着いた私たちは適当な席に座った。


「懇談って進路のことだろ?まだ決まってないとか?」

「うん…自分でも何がしたいのか分からなくて」

「そっかあ」

「加羅くんは大学どうするの?」

「俺は経済系に進もうかなと思ってる」


そういえば加羅くんは昔から理系だったっけ。


「そうすれば実行務にだって役に立てられるだろ?

結局俺もミロックにメリットがあるとこに行くっていうな」

「そういう考え方もあるんだ…」

「如紗は?」

「私?」

「シーズセラピーやって、自分が伸ばしたいって思ったことやればいいと思うよ俺は」


シーズセラピーをしていて伸ばしたいこと…

足りない部分はたくさんある。知らないことだってたくさんある。


でもやりたいことは見つからない。


違う、やりたいことと足りない部分を結びつけられればいいんだ。


「ありがとう加羅くん、私なんとなく分かった気がする」

「それは良かった、また話聞かせてな。

こう見えても俺、如紗ちゃんのこと心配してるんだから。本当に、マジで」

「嬉しいけどクラスで話すのはやめてね。加羅くんただでさえ声大きいのに」

「どうせ仁奈から聞いたんだろ!?あいつはほんとにおせっかいというか…」


太陽は沈みかけているというのに、私の心は小さな光が溢れていた。




翌日、私は担任に志望校の話をしに行った。

それを見た先生は驚いた顔をしていた。


「心理学の大学、か」

「はい」

「まあいいだろう、憂間も今日進路希望調査持ってきてな。あいつと同じ顔してるぞ相田」

「う、憂間くんと同じ顔ですか」

「決意に満ちた顔だったよ。そんな嫌がるなって、あいつもいいところあるんだぞ?」


それは十分知ってます、と私は心の中でつぶやいた。


「まあこれでもらっておこう。あとは試験に向けて頑張れ」

「はい、ありがとうございます」


私は深々と先生に向かって頭を下げた。





少し前進した(つもり)のテストも無事全日程が終了した。

こうやってテストを受けられるのって、あと何回あるんだろう。


私はふと京くんの方に目をやった。

こうやってみんなと授業を受けるのももう少しなのか…

そんな感傷に浸っていると、ブブブッとケータイが鳴った。

メールの相手は京くんだった。

そういえば今日家まで来いって言ってたっけ、忘れてたや。

立ち上がろうとすると、ドンッと誰かが私の机も叩いた。


「相田さん、今日のこと忘れてないよね??」

「わ、忘れてない忘れてない!今からだよね」

「うん、帰ろう」


どうしたんだろ京くん、なんか怒ってない?

気のせい?カルシウム足りてない?

おどおどしながら私は京くんの後についていった。

そういえばこうやって二人で帰るのって初めてのような…


「き、緊張した…」

「え?」


校門を出た瞬間、京くんはつぶやいた。


「教室で人に話しかけるのって勇気いるんだな…しんどい……」

「そこまで?話しかけるって私なのに」

「だってみんな見てるだろ!?俺が話しかけてるの見てるじゃん!!」


京くんってここまでこじらせてたんだ、知らなかった。


「それに馴れ馴れしく如紗って呼んだらみんなから変な目で見られるだろ!!?

だって呼び捨てだよ、女の子を呼び捨てにするなんてそんな、そんな…」


ああ、だから相田さんって呼んでたんだ。

京くんはその場でうずくまり小さくなった。


「無理…もう生きていけない……」

「あの、飴ちゃんいる…?」

「いる…」


いるんかい。

イチゴ味の飴を食べた京くんは落ち着いた。


「それで今日はどこに行くの?京くん家だよね」

「いやそれは俺が誘いを失敗した時…今はプランBに移行してる」

「ごめん私の中の京くんが崩れていく音がするんだけど」


ケータイで地図アプリを開いた京くんはある場所を指して言った。


「ここだ、相…如紗に見て欲しくてさ」

「か、空手…?」


空手ってあの空手?

やっぱ京くん怒ってない?


「こんにちは、憂間です」

「京か!いらっしゃい、トレーニングか?」

「はい、お願いします」

「おっと後ろにいるのは?」

「俺のクラスメイトです」

「こ、こんにちは相田如紗です」

「こんにちは、部屋はこっちな」

「今日は指導大丈夫だよ」

「おう分かった。気が済んだら声をかけてくれよ」

「ありがとう」


こっち、と京くんはとある部屋に入った。

そこには畳と何体かのかかしが置いてあった。


「とりあえずそこで見てて」


言われた通り入り口で待機している私にそう言って、京くんはかかしに近づいて言った。

そしていきなりかかしに飛び蹴りをかましたのだ。

その姿は今までの京くんからは予想のつかないものだった。


かかしも見た目以上に頑丈なようでなかなか倒れない。

京くんはそのかかしに向かって何度も飛び蹴りやパンチを食らわす。

その動きに全く隙はなく、思わず目を見入るほどだった。


「おっやってるねぇ、どうだ京の調子は」


先ほど声をかけてきたガタイの良い男性が話しかけてくる。


「あの、京くんはいつからここへ?」

「一昨日くらいだったか、急にここへ通いだしてな。強くなりたいってそれだけ言って。

若いモンにしては面白いヤツだよ」


一昨日って実行務試験があった次の日じゃない…!

テストもあるというのにここに来ていたってこと?


強くなるために、約束を守るために。


「そんで、如紗ちゃんはやっぱ京の事好きなのか?もうチューした?」

「なっなにを…!」

「ははは、冗談冗談」


こちらの様子に気づいたのか京くんは戻ってきた。


「はあ…はあ…。師匠、今日もダメだった。

いけると…思ったのに、ビクともしないよこのかかし」

「そりゃうちの名物だからねぇ。セメダインでガッチガチに床にくっつけてるから、相当な力じゃねえと動かねえぞ」

「ほんと性格悪い」

「そのかかしに負けてるお前に言われたくはねえよ」


京くんもちゃんと未来を向いていた…



『出来なかったのなら、次はそうならないように努力なさい』



アヤメさんの言葉が脳裏に浮かぶ。

そうだ、くよくよしたって何も始まらない。


「とりあえず休憩したらどうだ。ジュース持ってくるから」

「いつもありがとう師匠」

「いいってことよ、如紗ちゃんの分も持ってくるな」


そういうと師匠は中へ入ってしまった。

いや、私が師匠って呼ぶのは変か。

…そういえば名前何ていうんだろう。表札見てこればよかった。


「ただいま〜…全くあの担任クソ話長えわ。父さんアイス食べる〜」

「えっ…!?」

「はあ!?なんでお前らここにいんの!!?」


そこにいたのは、仁奈の同期で以前私を使って仁奈をおびき寄せようとしたBe Quietのツキだった。


「なんだ(さとる)、京たちと知り合いなのか?」

「あれ、というかその制服って…」

「三ツ山だけど」

「高校も一緒だったんだ…」

「マジで!?もう意味わからねえんだけど!?」


いちいち声が大きいなこの人…

耳がキンキンしてきた。


「京は最近来た新人だぞ。まあ知り合いなら話は早いや。

親子水入らずって言うし俺は失礼するわな」

「父さん、それちょっと意味が違うような…」


ジュースを渡され、私たち三人に沈黙が訪れる。

そりゃそうだ、何を話せっていうんだこの状況で。


「…あれからどうしてたんだよ。

あんなことしてQuiet様がお許しになるわけないのに」


おっと、京くんが核心に触れたぞ?

一番聞きにくいことを一番に聞いたぞ?


「俺は別にどうもされてないよ。ただ…ただ、ツミは違った」


制服の名札がちらりと見えた。そこには日輪と書いてある。

ツキの本名は日輪悟(ひわさとる)のようだ。


「自分から全部の責任を追いやがった。

俺は関係ないって何度もガーネさんに言い張って」

「庇ってくれたんだ…」

「あれもこれも全部ニーナのせいだ、あいつさえいなければ今頃…!」

「なあ、前から思ってたんだけどお前仁奈のこと好きだろ」

「「はあ!!?」」

「なんで如紗まで反応すんの?」


もしかして京くんはちょっかいを出すのは好きな子だから、とかいう安直な考えで発言していらっしゃる?

さすがにそれはないだろう。

あそこまでしておいて度がすぎ…


「んなわけないだろォ!?」

「声裏返ってんぞ」

「図星!?」

「と、とにかくあいつの仲間であるお前らにももう用はねえよ。

その…前はすまなかった、それは謝る」

「謝って済むなら警察いらねえけど」

「あぁん!?なんだよお前こそ実行務試験落ちたくせに!」


グサァと大きな矢が刺さった音が京くんの心から聞こえてきた。

こっちも一番聞きにくいことをズカズカ聞いてるなあ…


「俺はアイスが食いたいんだ!さっさと帰れ!」


そう言うとツキは中へ入って行ってしまった。

もうすごく意味が分からないし正直めんどくさいから関わりたくない。

時間も遅くなってきたので私たちはそのまま帰ることにした。


もしかしたらツキも悪い人ではない、のかもしれない。

いつか分かりあえる日が来たりするのかな…

今はまだ想像できないけど。


「そういえばシーズセラピーの活動場所、決まったみたい」

「そうなのか?」

「うん、ミロックにある小さな建物をもらえたんだ。

それで私のお願いでトレーニングルームをつけてもらった」

「ミロック城のトレーニングルーム、結構しっかりしてるもんな」

「そこまで立派なものではないけどね。

それでさっきの日輪さんのとこ見て思ったんだ。私ね…」





「どう!?なかなかの出来だと思うんだけど」

「完璧ですよ利愛先輩!」

「え〜俺も褒めてよ〜」


一週間後、私たちはシーズセラピーの活動場所となる小さな家に来ていた。

トレーニングルームに人型の機械がいくつか置いてある。

私が利愛先輩と白空先輩に頼んで作ってもらったものだ。


「こうやってこの人型の的にダメージを与えると、数値化されて出てくるんだ」

「大きい数字になればなるほど力が強くなるってことだ」

「目に見えて力の強さが分かるのってすごい便利ねこれ」


仁奈も感心したように的を見た。


「でもこれどう見てもかかしだよね?」

「如紗から言われた通りに私も白空も作ったんだけど」

「えへへ、ちょっとアイデアをいただいてね」


おそらく今も京くんはそのアイデアをくれた場所で頑張っているだろう。


「なんだなんだ面白いことしてるじゃん」

(りゅう)なんでここにいんの?」

「その言い方ひどくない?ちょっと立ち寄っただけじゃん。ここがシーズセラピーの拠点かあ」


ふむふむと師走竜(しわすりゅう)先輩はトレーニングルームを歩き回る。


「そうだ、試しに四季剣と四醋剣でダメージ見てみようよ」

「おっそれいいな!今この場に両方あるしな」

「でも竜の四季剣って二段階あったよな」

「あるぜ、両方やってみようか」


二段階の四季剣技が生で見られる…!

四醋剣と違って四季剣は使い手次第でたくさんの技を覚えることが出来る。

二段階以上の四季剣技を使えるのは、如月先輩、卯月先輩、師走先輩の三人だけだと聞いたことがある。



『四季剣解放、大雪!』



師走先輩が四季剣を解放すると、小さな雪が降ってきた。その数もかなり多い。

何より驚くのは一つ一つの雪のダメージが300を超えているのだ。

300超えというと小石を投げつけられた時の痛さと同じくらいだという

とは言ってもこの数だ。塵も積もれば山となる、かなりのダメージを食らうだろう。


「へへっ、呆気にとられたって感じだな。それじゃ次行くぜ!」


師走先輩はそういうと次の四季剣を解放した。



『四季剣解放、極雪!!』



次の瞬間、師走先輩は大きな吹雪の中に消える。そして大きな氷の竜が出現したのだ。

その竜はまるで威嚇するように咆哮する。

口から出た氷がかかしに当たり、判定が出る。


「い、一万ダメージ…!」


近くで見ていた仁奈も思わず口を抑えた。

すごい、これが四季剣の力…


「俺の名前も竜だし、気に入ってるんだこの四季剣」


師走先輩は竜を呼び寄せると、頭を撫でながら言った。

実体化しているから触れることができるんだ、すごい…!

私の四醋剣とは全く比にならない。


「それにしてもこのかかし、汎用性高そうだな」

「かかしじゃないよ、立派なトレーニング用のシステムなんだから」

「はいはい。俺はこんなもんだったけどむつきや優はもっとすごいぞ。腰抜けるかもな」

「なんたってあの二人は四醋剣技も使えるからねえ」

「えっ?如月先輩たちが持っているのは四季剣なんじゃ…」

「あ〜その辺の話、加羅辺りから聞いてないのか?」

「全く…」


あちゃーと師走先輩は言った。

どうやら何か事情があるみたいだ。


「見て分かるようにこのダメージ値も一定じゃないの。人によって数値は変わってくる。

せっかく導入したんだしもっと人を集めて試してもいいかもね」

「それは私も思いました。

ならまずはシーズセラピーのメンバー集めですかね…

さすがに四人じゃ少ないですよね」

「それならあそこに行ってみたら?なかなか面白いヤツがいるぜ」




「こ、ここって…」


師走先輩から教えられた通りに行くと着いた場所は、例のバ…カフェだった。

確か初めてミロックへ来た時、ここに寄って仁奈と話をしたんだった。


カランコロンとドアの音が鳴る。

中は相変わらずウエスタ店長が女の子をはべらかせていた。

うっ…仁奈にもついてきてもらえればよかった…。

そんな後悔をしていると、テーブル席に一人座っている女の人に気がついた…


ウエスタ店長は生粋の女好きなのに、なんであの子だけ放置してるんだろう?


「あっ如紗ちゃんじゃん!いらっしゃい」

「こんにちはウエスタさん。あの一つ聞きたいことがあるんですけど…」

「ん?風呂入る時にどこから洗うのかって?そりゃあもちろん…」

「違います!あのテーブル席の子ですよ」

「ああ、あの子ね。どうかした?」

「なんで相手にしてあげないんですか?

結構可愛い女の子なのにウエスタさんが放っておくなんて」

「やだなあ如紗ちゃん、あの子は男だよ」

「…は?」


私はもう一度テーブル席に目をやる。

ピンク色の巻き髪、頬はほんのり赤色、そしてぱっちりした緋色の瞳…


「そんなに気になるなら話しかけてみ」


私は立ち上がり、その子に近づいた。


「あの、すみません…」

「なあに?さっきからあたしのことジロジロ見てたけど」


超えは中性的な感じだ。でも近づいて見れば見るほど可愛らしい雰囲気をしている。


「あーっ!あんた知ってる、シーズセラピーの相田如紗だ!」

「えっ!?なぜ私の名前を…」

「実行務会議に出てたでしょ。

あれの議事録が新聞みたいに後日配布されるの。

もう有名人なんじゃないあんた。

そんなやつがなんでこんなところに?」


知らなかった…

私いつの間にか有名人に……


「あっ、あたし分かっちゃった。

あんたシーズセラピーのメンバーを探してるんでしょ?」

「ど、ドキッ…」

「それであたしを勧誘しようと声をかけた、と」

「ドキドキ…」

「図星かあ。今何人いるんだっけ」

「えっと、私と仁奈と京くんと加羅くんと…」

「京?京ってもしかして憂間?」

「うん、そうだけど知り合い?」

「…乗った」


その子は立ち上がると、ウエスタさんにお金を払い戻ってきた。


「あたし、笹田甘夏(ささだあまなつ)。よろしくね如紗」

「ということはつまり…?」

「シーズセラピーに入ってあげるってこと」

「ほんとに!?やったあ!」


私は甘夏の手を取り喜んだ。


「あと一応言っておくけどあたしも四醋剣持ってるから」

「そうなの!?」

「でもこんなとこで見せられないしなあ…」

「それじゃシーズセラピーの本拠地に来てよ!

トレーニングルームがあるから」

「シーズセラピーの本拠地って長い名前ね」

「いや、名前というか…」

「呼びにくくない?あたしが決めてあげる」


うーんと三十秒ほど悩んだ甘夏は、これだ!と言った。


「シーズハウス!どう?なかなか良くない?」

「なんかそのまんまな気が…」


それに如月先輩たちが集まってた家もミロックハウスとか言ってたような…?


「うるさいわね。それじゃシーズガーデンは?」

「そっちの方が良いかも」

「それじゃ決まりね!

早くシーズガーデンに案内しなさい、如紗。

あたしの素晴らしい四醋剣見せてあげるから!」


こうしてまた一人、シーズセラピーに新しい仲間が増えたのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ