ミロックと事情
『私、憂間くんのことが好きなの。だから別にそっち関係でやましいことなんてないわ』
『でもまんざらでもなかったんじゃね?仁奈、確かに地味で目立たないけど普通に可愛いと思うし』
望月仁奈、Be Quietのメンバーの一人。
とても金持ちのお嬢様で京くんのお母さんが入院している病院の持ち主でもある。
しかし、学校では大人しいらしくあまり目立っていない。
京くんは仁奈に不信感を抱いているが、正直私には全く感じなかった。
本当に人助けをしたいように見えた。
しかしそれを肯定するということは京くんのことが好きだというのを認めるということで…
「きーさっ授業終わったよ」
「へっもう!?」
私はキョロキョロと辺りを見渡す。
「今日は部活ないんだ、一緒に帰ろ」
「うん帰ろう!久しぶりだねゆかちゃんと帰るの」
「いろいろと聞きたいこともあるしね〜?」
「ナ、ナンノコトデスカネ」
自分でさえ混乱してるのにこっちが教えて欲しいくらいだよ…
「あれ、なんか落ちたよ如紗」
「ほんとだ何だろう」
下駄箱を開けると紙切れがヒラリと落ちた。私はそれを拾うと中身を見た。
『放課後来れそうなら病院まで来て欲しい。無理はしなくてもいいよ、待ってる。京より』
病院…望月病院のことか。
この前はお見舞いしそびれちゃったから行こうかな。
畳もうとするとまだ何か書いてあることに気づいた。
『PS 俺が好きなのは如紗だけだから心配しないで』
な、なんだこれは…!?
最後の文を読んで一気に顔が赤くなるのを感じる。
「なになに〜?もしかして憂間からの手紙とか?」
「ちちち違うよ!!」
「え、その慌て方ってことは本当にそうなの?」
ダメだ、ごまかしきれない…
校門を出た私たちは歩きながら話を始めた。
「憂間が病院まで来いなんてねえ」
「そうなんだよね…だから果物とか買ってから行こうかなと思って」
うーんとゆかちゃんは唸っている。
そんなに信じがたいことなのかな…
もちろんPSのことは一切言っていない。
「憂間のやつ、どさくさに紛れて親に如紗のこと紹介しようとしてない?」
「えっ!?」
「まあ私は応援するよ〜!私帰りこっちだから。また話聞かせてね」
「えぇ!?ゆかちゃん!!?」
応援すると言われても、実際に私は京くんのことを好きなのかハッキリしていない。
夢は応援したいし、力になりたいと思ってる。
でも、これって恋愛感情なのかな…
なんか、京くんのことを考えてる時っていつもモヤモヤしてる気がする。
「あ、仁奈…」
病院の入り口で仁奈を見つける。緑のショートヘアなのですぐに分かった。
「如紗じゃん!どうしたの、お見舞い?」
「あっ果物買うの忘れてた!」
さっきゆかちゃんと話してたっていうのに…
「今から買いに行くの?やめといたら?
彼、もう首を長くしてずっと待ってるよ。キリンみたい」
「彼って?」
「京に決まってるじゃん」
「でも仁奈は京くんのこと好きなんじゃ…」
「あっそういえばそんな設定だったわね」
「設定!?」
「あれは嘘よ、嘘。だって関係性とかごちゃごちゃした方が人生楽しいじゃない?」
「ごめん、何を言ってるのか全く分からない」
「仕方ないわねぇ…ほら、あそこに想い人がいるよ」
「想い人なんかじゃ…」
「如紗!」
京くんは私を見つけるとニコニコしながら駆け寄ってきた。
「…って仁奈も一緒かよ」
「何その顔、私も京のこと好きなんだけど」
「私も?」
「私は、の方がいい?」
仁奈、完全に今の状況を楽しんでるな…
「お母さん、中にいるから入って」
お前も一応…と仁奈にも声をかける。
病室のドアを開けると中には女の人が窓の外を見ていた。
こちらに気がつくと微笑みながら言った。
「こんにちは。あなたたちが京がよく話してくれてた子ね。こんな姿でごめんね」
「何言ってんだよ仕方ないだろ」
「あ、相田如紗です」
「私は望月仁奈といいます〜!」
「如紗ちゃんに仁奈ちゃんね、二人とも可愛らしい。京と仲良くしてくれてありがとうね」
こちらこそと私と仁奈は頭を下げた。
「それで京、どっちが本命なの?」
「…後で言う」
言わないのかと思ったら言うんだ。
「そういえば望月ってこの前手術のお話をいただいた…?」
「はい、そうです。もしお母さんがご希望でしたらこちらも総力を注ぎます」
もうお母さんなんて言ってるじゃん仁奈。
「そうねえ、私もこんなところでくたばるわけにはいかないんだけどね。郁のこともあるし」
「郁は俺の弟の名前だよ」
京くんが補足する。
「あるけどもう京も郁もしっかりしてるからね。何の心配もないっちゃないよ」
おばさんは自虐的な笑みを浮かべた。
その表情を京くんは少し悔しそうに見ていた。
面会時間はあっという間に終わった。
京くんのお母さんはとても気さくな人だった。
病室を出ると仁奈は京くんに話しかけた。
「もうそこまで長くないこと、あんたも分かってるんでしょ」
その問いに京くんは答えない。
「…そんなにBe Quietが憎いのね」
悲しげな声で仁奈は言った。
「意地を張ってても仕方ないのは分かってる、でも決め手に欠けるんだ。
仁奈の仲間が俺たちに手を出そうとした事実は変わらない」
「そう、分かった。なら私と一緒にミロックへ来て欲しい。そこで私たちが何をしているか見せてあげる」
「ミロックに…」
「大丈夫、何があっても如紗たちに手は出させない。
神に誓ってもいい」
仁奈の眼差しは真剣そのものだった。疑う余地なんてない。
「分かった。如紗、明日の10時に公園に集合だ。
嫌なら来なくていい。
もし10時を過ぎても来なかったら俺だけ行く」
「うん…」
ミロック、それは私にとって全く怖くないものだと言い切れなかった。
なんせ私は悪を持った側の人間なのだ。
私はまだ四醋剣のことを知らない、まだ残虐な面が隠れているのではないかと心の中で怯えていた。
もしその事実を知った時私は四醋剣に、京くんに対してどのような感情を抱くのだろう。
変わってしまうのが怖かった。
「大丈夫、心配しなくてもいいよ」
そんな私の心を見透かしているかのように京くんは声をかけてくれた。
時計が朝の九時半を指している。今日は休日だ。
私は自分の家のまだベッドの上にいた。
今回ミロックへ行くのは仁奈への不信感を取り除くため…それに私は必要なのかな。
そもそも私は仁奈に不信感をほとんど抱いていない。女の勘というのだろうか。
チャリンと四醋剣が床に落ちる音がする。
全く、こんなキーホルダーのせいで私の人生めちゃくちゃだよ…。
だけど不思議と後悔はしていなかった。
ふと京くんが頭をよぎる。
どんな現実を突きつけられたって彼はいつも前だけを向いていた。
自分の夢を、信じて。
「…こんなことしてる場合じゃない」
私はベッドから飛び起きると何も持たず家を出た。
ゴーン、ゴーン。10時を知らせる鐘が鳴った。
約束の時間になっても憂間京は動かなかった。必ず来ると信じていたから。
「きょ…きょう…京くん!」
私は今自分が出せる一番大きな声を上げた。
といっても全速力で走ってきたから息が上がり、そこまで声は出ていない。
「おう」
京くんはそれだけ言うと私に近寄ってきた。
「ぎ、ギリギリセーフ?」
「いやギリギリアウト。今、10時00分30秒だから30秒遅刻」
「細かいなあ…」
フフッと思わず笑みがこぼれる。
「来ると思ってた。もし10時を過ぎても俺はずっとここで如紗を待ってた」
京くんの言葉にドキッとする。
「もし私が来なかったらどうしてたの?」
「家に乗り込んでた」
「来てよかったよ、本当に」
「なんだよ傷つくなあ」
「やっぱり公園ってここのことだったのね」
「仁奈、お前もここに来ると思っていた」
「やっぱり先導役はいるでしょ?行きましょう京、如紗」
どこからか現れた仁奈は、公園の街灯に少し照らされているだけで姿はよく見えない。
なんでだろう、まだ朝だというのに。
急にまばゆい光が全身を包み込む。
目を開けていられず思わず閉じてしまう。
そして次に目を開けたのはまた別世界だった。
「こ、ここがミロック…」
そこはまるで商店街のようだった。
私たちと同じ人間がそれぞれ買い物をしたりおしゃべりをしたりして楽しんでいる。
「Be Quiet本部はこっちよ。迷子にならないようについてきてね」
「分かったよ仁…仁奈!?」
「なによ」
目の前にいた仁奈は制服ではなく、派手なマントに謎の黒い仮面、そして髪型はショートから頭の高い位置のツインテールになっている。
「ツインテールというよりアホ毛…?」
「京、あんた今私のチャームポイントをバカにしたわね!?」
「チャームポイントなんだ…」
クルクルクルッと仁奈はその場で回ると自慢げに言った。
「これが私のBe Quietの姿、任務を遂行する時はこの格好をしてるのよ」
そういえばこの前会ったBe Quietもマントに仮面をしていたような気がする。
「あ、あとこっちでは私のことは仁奈じゃなくてテンバーって呼ぶように!」
「テンバー……??」
「Be Quiet内での名前、みたいなもんだ。正式にはQuietネームと言う」
「へえそうなんだ、仁奈にもそういうのがあるんだね」
「そうよ、これがBe Quietの醍醐味というか特権なのよね!
本名とは別に二つ名を名乗れるのはこの世界でBe Quietとミロック王だけなんだから。
だからこっちでは私のことはテンバーって呼んで!」
「どうでもいいけど早く案内してくれ仁奈」
「ねえ仁奈、Be Quietから帰ってきたらちょっとこの商店街寄ってもいい!?楽しそう!!」
「あんたたち話聞いてた?」
ゴウゴウと仁奈の背後から炎が見えてきたその時だった。
「あれニーナじゃん。さすが任務班は違うな、こんなとこで油売っててもいいとは」
「仕方ないよ〜だって私たちは医務班なんだし」
二人組の男女は仁奈に聞こえるように言う。
「その名前で呼ぶのはやめてツキ、ツミ。
私はこの二人にミロックを案内してるだけよ」
「なるほどねえ、んでその二人は何なの?
案内ってことはミロックの住人じゃないでしょ」
「そ、それは…」
「もしかして四醋剣保持者とかだったりして!」
四醋剣という単語に私は反応する。
「ツミ、それは冗談でもきついぜ。
俺らはミロックの平和を守ってんだ。さすがの仁奈でもそこまでバカじゃねえだろ」
「それもそうね、それじゃまた後で会いましょニーナ」
嫌味だけ言うと二人は去っていった。
はあ、と仁奈はため息をつく。
「とりあえず一度どこかへ入ろう。近くにカフェがあるから」
私と京くんは何も言わずに仁奈についていった。
仁奈に案内されて入ったお店はカフェというよりバーだった。いや、バーというか…
「なんだまた痩せたか?無理なダイエットはやめた方がいい」
「お世辞なんかいいわよウエスタ、それじゃいつものちょうだい」
「はいよ、少し待っててね」
「ウエスタにそんなこと言われると、あたしもっと頑張っちゃう♡」
「だからそのままで綺麗だって」
「ねえウエスタ〜私は?私はどうなの?」
「マキちゃんもすごく綺麗だよ、ヒトメボレしちゃいそうだ」
「やーん♡」
カウンターで店主らしき男の人が複数の女の人と会話をしていた。
カフェという概念を覆された瞬間だ。ここはキャバクラか??
いやど、どちらかというとホスト??
「俺すごい場違いじゃね?」
「一応男性客もいるから…」
戸惑いながらも私たちは席に着いた。するとエプロンをした男の子が話しかけてくる。
「ご、ご注文は!!」
新人なのだろうか、なんかあたふたしている。
「くるみティー三つお願い」
「かしこまりました!」
バタバタと男の子はキッチンの方へ戻っていく。
「なんか、ミロックってすごいね…」
「こんなことで驚いてたらキリがないよ」
さて、と仁奈は椅子を座り直す。
「さっき会ったのはツキとツミ。Be Quietの同期みたいなものよ。
Be Quietの中にも役割があって私は任務班、あの子たちは医務班に属している。
簡単に言えば任務班は表に出てミロックを守る仕事が主、医務班は裏方へ回って負傷者の手当てとかしてる」
「もしかしてあの二人、仁奈が目立ってるから嫉妬とか?」
「まあ大半はそうでしょうね。ほんとに子どもなんだから」
「大半ってことは他に理由があるのか?」
京くんの質問に、仁奈は俯いた。
「Be Quietに昔から憧れてた先輩がいるんだ、ガーネっていうんだけど。
Be Quietに入ってガーネ先輩の近くで任務をこなせるよう必死に頑張った。
本当に文字通りボロボロになるまで。
それで今はガーネ先輩の近くで活動してるんだけど、たぶんそれが原因」
「ガーネか…聞いた事あるな、確か次期Quiet様候補だとか」
Quiet様というのはBe Quietの頂点に立つ人のことらしい。
「そう、だから私はコネで任務班に入れられたって思ってる人が少なくないんだ、むしろ多いんじゃないかな。
みんなBe Quietっていうと任務のことを思い浮かべる。なのに実際入ってみたら裏方ばかりでコネのあるヤツに負けるとか悔しいでしょ」
「仁奈…」
だからあの時、ツキとツミに何も反論しなかったんだ。
「私だって二人の立場だったら同じ事思うもん。
言い返してもケンカするだけだしほっといた方がいいよ」
そう言うと仁奈は笑った。
「だから似てるな〜と思って」
「は?俺が仁奈に?」
「そう、優さんに憧れて実行務目指してるんでしょ?
Be Quietにいてよく見るお尋ね者なのにめっちゃおもろいじゃん。
しかも蓋を開けてみたら同い年で同じ学校!
会いたくもなるよ。転校してきた加羅も実行務候補生とか言ってるし」
「京くんのこと好きって言ったのはそれで?」
「そうだよ?本気にしてたの如紗だけじゃない?」
な、なんか悔しいなあ…
「何如紗見てニヤニヤしてんの気持ち悪」
「うるさいな別にいいだろ!!」
カフェを出た後、これから任務があると仁奈と分かれた私と京くんはせっかくだからミロックを歩き回る事にした。
「ほとんど変わらないんだね」
「みんな生きるために働いて食べて寝る、根本は同じだ」
「ねえ京くん、まだ仁奈を信じられない?」
京くんは黙り込む。しかしもう答えは出ているようだった。
「もしあれが芝居だったとしても、あいつはそこまで器用なヤツじゃない。
こんな俺らにでも弱音を吐くくらいなんだから」
「ということは?」
「頼むよ、お母さんのことは仁奈に頼む」
「よかった!」
「なんで如紗が嬉しそうなの」
「なんとなく、えへへ」
これで一件落着だ。
それに仁奈はBe Quietだ、もしかするといろいろな事を聞き出せるかもしれない。
「え〜ちょっと買いすぎじゃない?」
野菜市場へ向かっていると二人の男女の会話が聞こえてきた。
「でもカレーだろ、白空も利愛も育ち盛りだし」
「育ち盛りって私たちとそんな年変わらないよ…」
「零が気合い入れてるんだからちゃんとしたもん買わねえとだろ」
「優って割と零ちゃんに甘いよね」
「気のせいだって」
まるで夫婦のような二人だ。にしても年は私たちと同年代っぽい。
そんな事を考えていると、京くんはその男の人を穴が開くほど見ていた。
「京くん、どうしたの?」
「優さんだ…卯月優…」
「えっあの人が!?」
何度も言うが、京くんが実行務になると決めたのは卯月優という存在があったからだ。
そしてその人が今目の前にいる…!?
「優、ファンの人っぽいのがいるよ」
「その言い方やめろよむつき」
「如月先輩…!」
京くんはものすごい勢いで二人に近づくと早口で言った。
「は…初めまして!憂間京と言います。
俺、卯月先輩に憧れて実行務を目指してます!!」
ありったけの想いを卯月先輩にぶつけた。
「へえ、こりゃ熱心なファンもいたもんだね」
「正直めんどくせえ」
「なんでそんなこと言うの?一発いっとこうか??」
「お前のパンチはシャレにならねえから遠慮しとくわ」
如月先輩のことを軽く流すと、卯月先輩は京くんに向き直って言った。
「実行務は生半可な気持ちじゃやっていけない。
…でもお前の目は本気のようだな」
「そりゃあもう!」
「そういえばこの前も新入りが来てたね実行務に。
名前は確か…キラとか言ったっけな」
「も、もしかして三宅加羅ですか?」
「あ〜そうそう!もしかして知り合い?」
加羅くん、もうこんなところまで来てたんだ。
だから仁奈がBe Quietにいるのも知ってたんだね。
「は、三宅が実行務候補…?」
「ああ、今は俺の元で実行務のいろはを教えてる。知り合いなら話が早いな」
しかし京くんにとってこれ以上の屈辱はなかった。
同じ実行務候補だというのに、四季剣を持っている加羅くんの方がもう一歩進んでいるという事実を受け止めるのには時間がかかった。
いや、京くんはそもそも実行務候補になっていない。
スタートラインにすら立てていないのだ。
「憂間京か、覚えておこう。またいずれ会おう」
「それじゃあね〜」
卯月先輩と如月先輩は城の方へと歩いて行った。
この圧倒されるオーラ、ただ者ではないことはミロックに来てすぐの私にも分かった。
「京くん…もう帰ろっか」
そう話しかけても京くんに反応はなかった。
仕方ない、私が連れて行くしか…
「クゥン…」
歩き出そうとすると、足元に子犬がいた。どうやらお腹が空いているらしい。
「何か食べるものないかな〜…」
そういえば手ぶらで来てしまったんだった。お金すら持っていない。
「子犬?」
正気を取り戻したのか京くんも子犬に気づく。
「お腹をすかせてるみたい。何かないかな」
「とりあえず市場を出てみるか。この辺は割高だ」
京くんは子犬を抱えようとするが、スルッとその腕を抜けて走り出してしまった。
「京くんって犬から嫌われるタイプなんだ…」
「昔からなんだほっといてくれ」
私たちは子犬の後を追った。大きな道を抜けた時、キキーッという鈍い音がする。
大型トラックが、子犬に向かって走ってきたのだ。
「危ないっ!!」
私は思わず叫んだ。
そして背後から何かがでてくる。その何かは一瞬にして飛び出した子犬を助けた。
「あ、私知らないうちに四醋剣を…」
その何かは四醋剣を使った時に出てくる分身だった。
私の四醋剣は分身を出して戦うという能力だと、最終的に結論付けた。
でも四醋剣解放とは叫んでいない。
どうしてだろうと京くんに尋ねようとしたがもうそれどころではなかった。
市場中の人が私を見ているのだ。
その人たちの顔には恐怖、怒り、悲しみ…負の感情で溢れていた。
「あいつこんなとこで四醋剣を解放しやがった!見ろ、あの子犬を殺した!!」
子犬は音にびっくりしたのかグタッとしていた。しかし死んではいない。
「ち、違う!私はこの子犬を助けようと…」
「それ以上口を開けるな!処刑するぞ!!」
しょ、処刑…!?
「何言ってんだよ、一部始終を見てたヤツいるだろ!?見なかったのか、如紗が子犬を助けるのを」
京くんも声を荒げて叫ぶ。
「また言い訳か、見苦しい。
四醋剣という存在がもう罪だということにそろそろ気づけガキども」
存在が、罪…?
「ほらさっさと自首しろ!Be Quietに差し出してからミロック王に処刑してもらう」
「そーだそーだ!」
「お前なんか死んでしまえ!!」
そのセリフが聞こえた瞬間、どこからか泥だんごが飛んできた。
ぐちゃっと頬で砕ける音がする。
「四醋剣なんて絶滅してしまえばいい、この悪魔め!」
「お前ら…これ以上やると」
「なんだ、お前も四醋剣を持ってんのか?だから庇ってんのか」
「なっ…」
「京くん」
何も言わないで、と私は京くんの裾をつかんだ。
「そんなことをしたって許されねえぞ!みんなやっちまえ!!」
その号令と同時に泥やら水やらが私に向かって飛んできた。
私はその全てを何も言わずに受け止めた。
「おいお前たち、何やってんだ!?」
「うわやっべ、あれ卯月さんとルチアさんだよ。撤退するぞ」
どうやら先ほどすれ違った卯月先輩と如月先輩が戻ってきたらしい。
卯月先輩が一掃すると、如月先輩は私の元へ走り寄った。
「あなた大丈夫!?とりあえずミロック城に連れて行こう」
「いったい何があった?この騒ぎは…」
「優、今はこの子の安全が先決!理由は後!」
「はいはい。お前、憂間といったな。ついてきてもらおう」
如月先輩が立てる?と手を差し伸べてくれたが、私はそれを受け取らなかった。
私が手を取ると、如月先輩が来ている綺麗な洋服を汚してしまうから。
「俺が連れていきます」
それを察してくれたのか憂間くんは私の肩を支えてくれた。そして私たち四人はミロック城へと向かったのだった。




