郁と決着
前回のあらすじ。
俺の名前は憂間京いつものようにトレーニングしてたのはいいんだけど、ミロック界へ来てみればそこはまるで別世界だった。
住人の怒号は響き渡り、あちこちで乱闘が起こっている。
俺は如紗たちと合流しようとシーズハウスへ向かったが、そのシーズハウスも事に巻き込まれていた。
到着した時には既に遅く、シーズハウスのほとんどは燃えてしまっていた。
ショックを受けながらも今回の事件のタネの張本人である実の弟、憂間郁を止めようと如紗は決心した。
…あらすじってこれでいいの?
堅苦しいというかなんというか。
もっとボケた方が良かった?読者の人気を得るにはこういうところでもアピールしないといけないって師走先輩から言われてたの忘れてたや。
ああ、もう時間ないので始まります。
私たちが向かったのは、四季剣と四醋剣のちょうど境界線だった。
その線を見て立ち止まる。
「ここに郁がいるの?」
「そんな気がする」
「以心伝心ってやつ?」
「ど、どうだろう…」
いっくんの話をすると京くんの機嫌が少し悪くなるのは気のせいだろうか…
「俺やっぱ帰るわ」
「えっ!?なんで!?」
「気分が乗らない」
「そんなのでいいの京くん!腐っても京くんはこの作品のヒーロー枠だよ?人気を加羅くんに取られてもいいの!?」
「急にメタぶっこんできたけど、如月先輩に何か言われた?」
「別にそういうわけでは…」
ギョッとしながら京くんは言った。
反応しているあたり、やはり加羅くんのことは敵対視しているらしい。
「なんというか気まずいとこあるだろ、家族なんだし。この場は如紗一人で何とかなるよ。俺はもう少し今のミロックの状況を知りたい」
「…か、……で……」
「ん?ごめん聞こえなかった。なんて?」
聞き返す京くんの裾を私はぎゅっと掴んだ。
「行かないで…」
いや、何言ってんだ自分。おい自分。
夢幻酷法はラブ要素なくてもやっていけるんだよ。無理やり入れなくてもいいの。
だってあれじゃん?ラブ要素なんか入れると男の人が見なくなるでしょ!?
読者大事、大事だから。大事…
「…そんなに言われたら仕方ないなあ」
「そんなに言ってないよ!!」
「はいはい、ならそばにいるよ。そんな顔して言われちゃあ無理だわ」
「ありがとう…」
「郁が来るのが先か、俺の理性がぶっ飛ぶのが先か…。いくら賭ける?俺は後者に一億」
「な、何ゆうとんねんな!」
「うわっすごい訛ってる」
最近京くんが、如月先輩の話す卯月先輩にとても似てきている気がする…
それから五分ほどした頃だろうか。
急に空が暗くなってきたのだ。
いや、違う。暗くなっているのは私たちの周りだけ…?
「もしかしてこれ、フィールド化か?」
「フィールド化!?でもあれはそんな広範囲に出来るものじゃ…」
フィールド化とは四季剣四醋剣に関わらず、保持者であれば誰でも使える技だ。
戦闘の際、周りに被害を与えないように一時的に別の空間へ飛ばしてしまう。
「正解だよ、これはフィールド化」
「郁…!」
京くんが振り返った先には、いっくんがいた。目がオッドアイになっている。
「僕は今まで散々な目にあってきた、もうそろそろ報われてもいいと思わないか兄さん」
「何言ってるんだよ、気持ち悪いからやめろ」
「きょ、京くん…」
「相変わらず冷たいね、昔からそうだった」
京くんは私を庇うように一歩前に出る。
「お前は上手くいかない時、いつも自分の境遇を言い訳にしていた。それが気に食わなかったんだよ」
「何とでもいいなよ。僕が今欲しいのは兄さんじゃない」
「…如紗は渡さねえ」
「違うよ」
いっくんはそういうと急に姿を消した。
「ど、どこへ行った!?」
「ここだよ」
フッとどこからか声がする。
その声は私の耳元で囁かれていた。
「僕が欲しいのは力、ただそれだけだ」
空の黒が一気に頭上に集まってくる。
「また会おうね兄さん」
私の腕を掴んだいっくんはそのまま後ろへ引っ張った。
「如紗!!」
京くんが手を伸ばしてくれたが、もう遅かった。
「本当にすごいや、四醋剣って。こんなことも出来るんだね」
さっき集まっていた黒い雲…あれはフィールド化の予兆だったんだ。
まんまと乗せられた私は、いっくんと二人フィールドの中にいた。
「どうするつもりなの…?」
私は恐る恐るいっくんに尋ねた。
「この前も言ったよね、僕は如紗さんといる時に力を得ることが出来る。手を繋いだり一緒にいるだけでこれだったんだ。それ以上のことをしたらどうなるんだろうね」
「何そのラブコメ的な展開、寒いんだけど」
「ラブコメというかエロ同人でしょ」
「なんではっきり言っちゃうの!!?」
その若干的はずれなところ、すご〜く京くんに似てる。
って今はそんなことを考えてるつもりじゃない。
私は持っていた剣をいっくんに向けた。
それを見たいっくんは笑いながら言った。
「もしかして僕を刺すつもりなの?」
「そうかもしれないよ」
「それは大変だなあ」
「余裕なんだね、四季剣は四醋剣よりも劣るっていっくんは私より知ってるはずなのに」
「逆に聞いてもいい?なんでだと思う?」
「もう諦めてるからじゃないの?」
「如紗さんは僕に四醋剣を向けられない」
いっくんは迷いなく言い切った。
言っていることとは逆に、私の声は震えていた。きっといっくんはそれに気づいたのだろう。
ゆっくりといっくんは私の方へ剣の矛先を向けた。
「僕はやるよ、もうあんな思いはしたくないんだ」
この人は、本気だ。
目の色が違う。窮地に立たされているのはいっくんも同じなのにこの余裕。
このままじゃ私はやられる…!
「でもね如紗さん、僕が君を殺しちゃうとそれこそ力を得ることが出来ないんだ。だから僕も殺せない」
にこりとしながらいっくんは剣を戻した。
「取引をしようよ如紗さん。僕は如紗さんから力をもらう、その代わりに君には権力をあげよう」
「権、力…?」
「僕は九代目ミロック王、憂間郁ういまいくだ。シーズセラピーを贔屓にすることができる」
「…そういうことね」
「だから僕と一緒に」
「お断りします」
私は強めの口調で言い返した。
「権力を得るためにシーズセラピーを作ったんじゃない」
「四醋剣の認識を変えるため。分かった、ならもう一つ聞くよ。如紗さんは今何かしてる?リーダーとして今まで何をしてきた?」
「それは…」
「シーズハウスは燃え尽きた、大切な思い出と共に」
もわんと何か黒い影がいっくんの後ろに見えた。
直感で分かる、今私と話しているのはいっくんじゃない。いっくんの身体を借りた何かだ。
静かに歩み寄ったいっくんはそのまま勢いよく私の胸ぐらを掴んだ。
「ぐはっ…!」
呼吸が苦しくなる。
そんな私の様子をいっくんは表情一つ変えずに見つめた。
「相田、如紗。お前のことは絶対に忘れない」
「え…?」
少し胸ぐらを掴む手を緩める。その時にいっくんの顔を見ると、一筋の涙が流れていた。
「だから、ここでおマエは、シぬんだ。ぼクト、一緒ニ」
いっくんは大きく剣を振り上げる。このままだと身体を貫通して即死だろう。
そう分かっていても私の身体は動けなかった。
違う、動かなかったんだ。
この剣は私が受け止めなければならない、そんな気がしてやまなかった。
「…いいよ、死んだって構わない。でもいっくんに殺されるわけにはいかない」
「なにをッ…!?」
私は隙をつき、剣を取り出した。
その剣は四醋剣ではなく、四季剣だった。
『四季剣、解放!』
誰かを守るってこんなに簡単なことなんだね。
だってちょっと押しさえすればいいんだもん。そうすれば人なんてすぐに死ぬ。
どれだけ時間をかけたって、一瞬で死んでしまうんだ。
「…僕は本体じゃないと知っているのに、本体である郁を刺すんだね」
「…ッ!?」
わき腹に激痛が走る。
や、やられた…!
「如紗さんさえそばに置いておければ僕が、この国の頂点に…」
ゲホッと私は咳き込んだ。抑えた手には血が付いている。
そう、血がついていた。
「まだトラウマを抱えているの?もう子どもじゃないんだから」
違う、違う違う違う。
刺したって、殺したって何も変わらない。
刺した瞬間だけ満たされる。その後に残されるのは虚しさだけなんだ。
「さあ、どうす…!?」
私はいっくんを、抱きしめた。
予想外のことだったのかいっくんは目を丸くしている。
「…分かってんの如紗さん。話聞いてた?」
「聞いてた」
「じゃなんでこんなことしてるの?僕に近づいたら今以上に力を与えてしまうのに」
「だからって傷つけたって意味がないよ」
「如紗さん…」
いっくんの目の色が少しずつ変わっていく。
私は一度身体を離し、いっくんに告げた。
「もう、帰ろう」
むすっとしながら、俺はシーズハウスで腰を下ろしていた。
…あっ、といっても仮シーズハウス。本物は郁が焼いてしまったから。
焼いてしまったって表現も変だけど。
「ね、ねぇ京くんごめんって。なんでそんな怒ってるの…?」
「別に」
「沢尻エ◯カはもう古くない?」
甘夏がすかさずツッコミを入れた。
あの後、駆けつけたりゅうさんたちにより如紗と郁は保護された。
郁はどうやら暴走状態だったらしい。そしてそれを止めたのは紛れもなく…
「反抗期なんじゃないか?まさにそんな感じじゃん」
「あたしもお兄ちゃんの意見にさんせーい」
暴走した四醋剣を止められるのは、思いを寄せている人だけ。
それはつまり、郁は如紗のことを…
「めんどくさいから後でうーちゃんの機嫌取ってあげなよ」
「私はそんなんじゃ…って廉さん!?」
「やっほー、落ち着いたみたいね」
廉さんは当たり前のようにドスンとイスに座った。一応ここはシーズセラピーのメンバーの居場所なんだけど…
「それで九代目王さんは今どうなってんの?」
「とりあえずミロック城にいるとだけ…」
如紗、なんか廉さんに対して怯えてる?
「ふーん、その様子だと知らないのねあんたたち」
「どういうこと?」
気が強い甘夏が一歩前へ出る。
「郁…アイス様の評判、やばいよ。そりゃあもう反感買いまくり。今にでも住民が飛び出して来そうな勢い」
「そ、それってまた反乱が起こるってことか」
「その通りよ冬利。とうりよとうり、なんちゃって」
「それじゃ郁は今安全なとこにいるんですか?」
「完全スルーは悲しいわねうーちゃん。さっきも言ったようにミロック城にいるんでしょうね。会いに行くのお兄さん」
「んなわけないだろ、当分顔も見たくないよ」
「行かなきゃ…」
ボソッと如紗は呟いたのに気づく。目に生気が宿っていない。
「シーズセラピー総員で郁を押しかけるのもどうかと思うけど」
「私だけで行きます」
「ならいいんじゃない?リーダーだしねえ」
「待って如紗、俺も行く」
「でも京くんにはまだ用事が」
「俺も行く」
「さっきいっくんに会いたくないって」
「俺も行く」
「ば、バナナ」
「俺も行く」
「うーちゃんが壊れた」
「相田、諦めな」
ちょっと嫌そうな顔をしているけど気にしない気にしない。
「ややこしいことって後にすればするほどめんどくさくなるから、今から行こうか」
「分かった」
「いってらっしゃーい、また報告してね」
扉を開けようとする如紗を甘夏が止めた。
「ごめんね如紗。その…ちょっとカッカしてた」
「別に気にしてないよ。私も事情話してなかったし誤解させてごめんね」
「如紗〜……」
半泣きになりながら甘夏は如紗に抱きつく。
美しき友情かな、こうやって人間関係が築かれていくのか。
俺がしみじみと見ていると冬利が俺を小突いた。
「おい、一応甘夏は男だぞ。抱きつかせてもいいのか京」
「あ、あっ!!!おい離れろ甘夏!!」
「忘れるな」
甘夏と仲直りをしているとなぜか急に怒り出した京くんに引き剥がされ、私たちはミロック城へ向かった。
「ね、ねぇ京くん」
「なんだよ」
私は小声で京くんに話しかける。
「なんでコソコソしながら入ってるの?正面から入ればいいんじゃ…」
「いやなんか突っ切って入れないというか、後ろめたい何かがあるっていうか…」
「いったい何したの!?」
京くんはバツの悪そうな顔をする。
そりゃ自分の身内が今回の騒動の原因となると後ろめたくもなるだろう。
「廉さんが言ってたのは本当だろうな、ミロック全体が妙な覇気に包まれてるのを感じる」
「ほとんどいっくんに向けられたものだろうね…」
「俺たちにも関係ないことではないからな。ここが客間らしい、声が聞こえる」
物音は立てないように、と京くんは私に言った。そっと扉を開く。
中にはいっくんに如月先輩に卯月先輩、そしてアヤメさんがいた。
「とりあえずそのように手配はしておいた。だから何も気にすることはない。むしろ王であるお前がオドオドしている方が国民からすると不安に感じるからな」
「優、その記事っていつ発表になるの?」
「収束は早い方がいい、おそらく明日の朝刊には載っているだろう」
「そっか…」
如月先輩はなぜかやりきれない表情をしていた。
「あなたの気持ちも分かるけど、私たちはミロックを守らなきゃ行けないのよ」
「分かってるよアヤメさん。ただ…裏切っているような気がして」
「むつき」
卯月先輩は力強い口調で如月先輩を止めた。
「甘えた考えを今更持つんじゃない。今まで散々話し合って出た結論だ。ひっくり返すことはもう出来ない」
「ごめん優…」
そして卯月先輩は口を開いた。その内容を聞いた京くんは思わず卯月先輩に殴りかかっていったのだ。
「今回の憂間郁の一連の行動は、全て四醋剣の乗っ取りによるものであり本人は一切関係ない。四醋剣へはこれからも十分に注意するように」




