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夢幻酷法〜Starting Story〜  作者: SOR
3章 四季醋戦争編
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炎と愛

こんにちは相田如紗(あいだきさ)です。

今私は小さな小屋に来ています。外では九代目王のいっくんを捕まえようとBe Quietや住民が走り回っています。

ちなみに、そのいっくんはというと…


「あっ起きた?体調はどう?如紗さん」


目の前にいますね。


「いっくん、私に何をしたの?」

「ブラッドキスって聞いたことない?」

「そ、それって卯月先輩が使う…」

「この前見せてもらったんだ優さんに。

僕は実際にこの目で見た技を一度だけコピーすることが出来るから」

「つまりパクりってこと?」

「言い方が微妙に引っかかるけど、まあそういうこと」

「でもブラッドキスって確か…」

「如紗さんの心臓は一瞬だけ動きを止めたよ」

「違う、私が言いたいのは…」


その負担が使用者にも響くこと。

それにいっくんは元々四季剣保持者だ。

卯月先輩の四醋剣技、ブラッドキスはかなり重いだろう。


「もしかして僕の心配をしてるの?さすがにお人好しすぎだよ如紗さん」

「…これからどうするつもりなの?」

「そうだなあ、もうここまでしちゃったし亡命でもしようかな。リオン国あたりまで」

「亡命……」

「ああでもリオン国には加羅がいたね。それなら無理か」

「いっくんは本当にそれで…」


私がそこまで言いかけた時、いっくんはカッと目を見開きうめき声をあげた。

そしていきなりうずくまる。


「いっくん!?やっぱり負担が…大丈夫!?」

「き…如紗さん…」

「どうしたの!?無理に話さないで、すぐにどこか休めるところに…」

「僕から…離れて……」

「えっ?」

「離れて!!」


ドンッといっくんは私の身体を押した。

その衝撃で私は後ろに倒れこむ。


「いっくん!」


私の方には振り返らずにいっくんは走って行った。

…嫌な予感がする、彼を止めなきゃ。

脳ではそう分かっていても上手く身体が動かない。

まだブラッドキスのダメージが効いているのだろうか。

これじゃあ、また私は見てるだけ…


「あれ、そこにいるのって如紗じゃない?何やってんのよ」

「仁奈!」


そんな私を見つけてくれたのは仁奈だった。

仁奈は私に駆け寄り、背中をさすってくれる。


「なんか、ただごとじゃないみたいね」

「仁奈、いっくんを止めて…」

「いっくん?どこにいるか知ってるの?」

「四季剣と四醋剣のラインの境界線の方へ向かった…だから…」

「分かった、分かったから。

如紗からすればすぐにでもいっくんのところへ行きたいだろうけど、あなたの療養を優先するわよ」

「…ごめん、ありがとう」

「シーズハウスからもそこまで離れてないからそこに向かいましょ。掴まって如紗」


仁奈の肩を借りながら、私はシーズハウスへ向かった。




「連絡してみたんだけど、今は誰もシーズハウスにはいないみたい。

集まるように声はかけたからそのうち来ると思う」


電話を確認しながら仁奈は言った。

みんなに話さなきゃ。

いっくんのこと、そして私の中にある四季剣のこと。


「待って嘘…なにこれ……」


シーズハウスへ着いたはずの仁奈は呟いた。

それを聞いて私はゆっくりと顔を上げる。



「シーズハウスが、燃えてる」



今までのことが頭によぎる。

初めての活動、みんなとの出会い。

いろんなきっかけを得て作ったトレーニングルーム。

アヤメさんや如月先輩やたくさんの人に支えられて出来た私たちの第二の家。

その全てが、私の夢が無残に燃えていた。


「やだ、やだ…!!」

「如紗ダメ!今飛び込んだら死ぬわよ!?」

「分かってる、でも私はここを守らなきゃいけない!!」


だってリーダーだから、その言葉が詰まって出てこない。

窓からある書類が見えた。

それは私が実行務会議で指示を促し、やっと完成しつつあったミロック界の四醋剣保持者リストだった。

それに気づいたのか、仁奈も窓を見つめていた。


「あの書類って…」

「仁奈、お願い」

「如紗?正気なの?消化器だってないのに今いったら確実に…」

「何もかもなくなっちゃうの!

みんなの夢も、私の夢も、積み上げてきたものが全部…あれだけでいい、あれだけ守らせてよ!

あの四醋剣保持者リストが、私の夢の第一歩だったの。

初めてのシーズセラピーだったの、それをこんなことで失いたくない!!」

「…やばいと思ったら止めるからね」


仁奈は私の腕をしっかりと掴み、燃え盛るシーズハウスへ近づいた。

黒い煙が立ち込めていて焦げ臭い。

酸素が薄いのを感じる。


窓付近で仁奈は歩みを止める。

そしてゆっくり鍵を開けた。

あとは手を伸ばすだけ、そう私に言っているようだった。

熱い、書類に近づくほど熱気が増してくる。

別にいい、腕くらいくれてやる。

だからこれだけは、これだけは…!


バシャーン!!!

水しぶきが上がった。


「お前ら何してんだよ!早く水持ってこい」

「加羅、でも…」

「消火が先だ、急げ!」


加羅くんの他にも冬利さんと甘夏がいた。

私たちは必死になって水をかけたが、なかなか火は消えなかった。

二十分ほどしてようやく真っ黒になったシーズハウスの姿が見えた。

私はフラフラと入り口へ近づき、灰になった紙切れを拾い上げた。


「如紗…」


その様子を仁奈は静かに見つめていた。


「この放火、どうやらいっくんの仕業らしいんだ」


バケツを置いて冬利さんは話し始めた。


「なんでそんなことを…」

「分からない。ただあいつを見た住人はみんな別人のようだったと言っていた。もしかしたら他に事情が…」

「いっくんの中には、四醋剣が混じってる」

「えっ如紗?」

「だからきっと、今いっくんは暴走してるんだ」

「もし如紗ちゃんの言うことが本当ならかなりやばいぞ。

四季剣保持者の中に四醋剣があるなんて、身体の負担もそうだし周りの被害だって…」

「私が止める」

「やっぱり四季剣側に寝返るんじゃ」

「違う」


甘夏の言葉を遮る。

分かっている、甘夏だって心配しているのだ。

私が意思を曲げるつもりはないと分かったのか、甘夏はため息をついた。


「別にあんたが郁を助けようがそれは構わない。

ただこれだけ教えて。なんで如紗は四季剣のラインを超えられたの?」

「四季剣のラインを超えた?如紗は四醋剣保持者じゃないの」

「だから聞いてるの、どうして?」

「私の中に四季剣があるから」


今更隠すこともないだろう。私は正直に言った。


「四醋剣保持者が四季剣を宿すだと…?そんなことありえるのかよ」

「かなり稀な例だとは思うが、あり得ることではある」

「その四季剣は、いっくんの使う四季剣なんだ」

「つまり如紗といっくんの剣がひっくり返ったってこと?」

「そう、それに…」


私は自分の手のひらを見た。

いっくんは私といるとなぜか力が湧いてくると言っていた。

それも精神的な力ではなく、肉体的な力だ。

本人にはまだ伝えていないが、実は私も同じだった。


「私、いっくんを救いたい」


みんなの方を向いて、私ははっきりと口にした。


「…そういうことなら俺は乗るぜ。二人の援護をする」

「俺も加羅に賛成だ。甘夏、仁奈はどうする?」

「私も行くわ、このままだとほんとにミロックは滅びかねないし」

「甘夏は?」

「……あたしはあたしなりに動く。

まだあんたに対する疑いは晴れてないし、納得もしてないから」

「分かった」


それ以上甘夏に言及はしなかった。


「援護っていっても直接干渉はしないで欲しいんだ。

とりあえず私はいっくんと落ち合う。

だからみんなは住人の安全確保に力を注いで欲しい」

「おう、任せろ」

「また何かあれば連絡する」

「私もBe Quietの人たちに呼びかけてみるわ」

「ありがとう、みんな気をつけて。甘夏も」


そう言ったが甘夏の反応はなかった。

さあ、いっくんを探しに行こう。




探しに行くと言っても、私にはなんとなくいっくんがいる場所の予想はついていた。

四季剣と四醋剣の境界線…おそらくあそこにいるだろう。


「…あいつを止めにいくのか」


加羅くんたちがそれぞれ動き出したのを見届けてから動こうとすると、シーズハウスの反対側から声が聞こえた。


「うん、京くんも一緒に来る?」

「あまりいい誘いじゃないね」

「だろうね、相手は実の弟だし」


京くんは私のそばに来ると、まだ焦げくさい臭いが残るシーズハウスを見つめた。


「今の状態を引き起こしたのは、一体誰なんだろうな」

「やっぱり四醋剣かもしれないね」

「如紗はそう思う?」

「少しは思う」

「そうか、確かに四醋剣という存在がなければこんなことはなかった可能性はある。でも気づけなかったこともあるはずだよ」

「もしかして京くん励ましてくれてるの?」

「そうだよ」

「す、ストレートだなあ…」

「俺はオブラートに包むのが嫌いだから。あれ、あんまりおいしくないし」

「そりゃ単体で食べてるからじゃないの?」


未だに手の中に残っている変わり果てた四醋剣保持者リストを、京くんは私から奪い取った。


「マリック二十五人、リオン十七人」

「えっ読めるの?」

「読めるわけないじゃん」

「………京くん?」

「こんなものいつだって作れる。また頼めばいいさ、如紗ならやれるよ」


そう言いながらも京くんは大切そうに、そして悔しそうに四醋剣保持者リストを握り締めた。


私が欲しい言葉を彼はいつも簡単に言ってくれる。

そう、別にこれくらいなら作り直せる、執着する必要なんてない。

それくらい私には分かっていた。

それでも目の前で燃えていく夢を、私は見ていられなかった。

ずるい、ずるいよ京くんは…


「俺も郁のとこへ行く。連れて行って」

「いくのとこへいく…?」

「ボケる余裕があるなら大丈夫だな」

「いやっ今のは条件反射というか!!?」

「三宅菌が移ったのか?早く除菌しないと」

「加羅くんまたどっかで泣いてるよ」


私は笑いながら京くんに言った。

ああ、やっぱり私、この人のこと好きだなあ。

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