失意と疑問
『今回の憂間郁の一連の行動は、全て四醋剣の乗っ取りによるものであり本人は一切関係ない。四醋剣へはこれからも十分に注意するように』
「…さっきの、どういうことか説明してもらえますか」
「聞いてたのか。そのままの意味だ」
「全部四醋剣が悪いと?」
「ああ、そうだよ」
卯月先輩は頷くだけでそれ以上何も言わなかった。
「見損ないました、もういいです」
「きょ、京くん待ってよ!」
乱暴に掴まれていた卯月先輩の手を叩く(はたく)と、京くんは振り向きもせず出ていった。
それを少し見た後、卯月先輩も奥へと行ってしまった。
確かに四醋剣が原因かもしれない。
しかし四醋剣だって乗っ取る人を選ぶ。
いっくんはミロック王になって、誰よりも力を求めていたから四醋剣に選ばれたのかもしれない。
なのに四醋剣に全ての非があるとは言い難いだろう。
きっと京くんはそれを言っていたのだ。
「ごめんね如紗ちゃん」
如月先輩はバツの悪そうに私に話しかけた。
不思議と私には何の感情もなかった。
「優もこんなことしたくと思うよ、私だってそう。
でもこうしないと二次災害が起こるから…」
「だから全ての罪を四醋剣側に寄せようと?」
言葉を発して、やっと分かった。
京くんのように取り乱してはいないけど、私の中にも怒りがあった。
そして浮かぶ言葉、裏切り。
「相手を鎮めるのに暴力や権限を使う方法がある。
でももう一つだけあるの、それが共通の敵を作ること。こうすることで目標が一つに…」
「つまり如月先輩たちはシーズセラピーを敵としてみなしたということですか?」
「違うよ如紗ちゃん、私はただ…」
「失礼します」
礼もせずに私は客間を出た。
アヤメさんはその様子を悲しそうにただ見つめていた。
ミロック城を出ると、京くんが座っていた。私に気づくと立ち上がる。
「ごめん如紗、俺…」
「ううん大丈夫。京くんのおかげで私は冷静でいられたの。いなかったら私が手を出してたかも」
「頭では分かってた、卯月先輩たちは何よりもミロックを守ることを優先しなければいけない。
郁の件はさすがに先輩たちでも庇いきれないだろう。
俺らシーズセラピーとミロックを天秤にかけた結果なんて言われなくてもわかる。でも…」
シーズセラピーは如月先輩や卯月先輩たちの支援により成り立っているようなものだった。
私もみんなも心より尊敬をしていただろう。
京くんは何も言わず、床を殴った。
擦れた部分から血が滲みだす。
それでも京くんは何度も何度も何度も床を殴りつけた。
やり場のない怒りを発散するかのように。
裏切られたショックの他に思い知らされたことがあった。
結局私たちシーズセラピーはまだ、誰かの助けを得ないと動くことができないのだ。
真っ赤になりつつある京くんの拳を私は止めた。
「離して、こうでもしてないとおさまらな…」
「別に京くんがすることじゃない」
そう言うと私は京くんと同じように床を殴りつけた。
砂利が指に食い込んでくる。ガリッと肉がえぐれる音が聞こえた。
それを見ていた京くんは慌てて私の腕をつかむ。
「お前何してるんだよ!?」
「痛いね、京くん」
「如紗?」
「痛い、痛いよ……」
頬から流れ出した涙が指へ落ち、血に混ざる。
そんな私を京くんはぎゅっと抱きしめてくれた。
京くんの頬も少し湿っていた。
夢を見つけて、仲間も増えて。
どれだけ失敗してもついてきてくれる事に喜んで。
成長した気がしていた、気になっていた。
でも実際は景色だけが入れ替わっているだけで、その場で足踏みをしていただけなんだ。
私はいつになれば、前に進めるのだろう?
翌日、ミロック中に新聞が配られた。
大見出しは『アイス様冤罪?全ての元凶は四醋剣』だった。
卯月先輩の言うとおり、四醋剣が原因として場を治めるみたいだ。
「優さんがこれをねぇ…」
「記事によると郁はBe Quietに保護されたらしい。
急に国のラインが消えたのもそのせいかもしれない。
こうするしかなかったことは分かるだろう」
「そうだけど腑に落ちないって言うか」
甘夏はチラッと部屋の隅に目をやった。京くんが何か本を読んでいる。
その視線に気づいたのか京くんは口を開いた。
「俺はネチネチした男だから、されたことは一生忘れないぜ」
「まさに京のイメージそのままって感じね」
「そうだな」
甘夏からかいにも京くんは反応しなかった。
悪い悪くないは置いといて、今卯月先輩たちと縁を切るのはとてもまずい。
このミロックで活動していくためにはどうしても彼らの力が必要になる。
それに私はまだ少し、甘夏とは気まずい空気のままだ。
コトン。
郵便受けに何かが入った音がした。
「甘夏見てきてくれ」
「え〜またあたしが行くの?最近お兄ちゃん妹扱いが雑じゃない?」
「妹じゃなくて弟だがな」
「いちいち訂正しなくていいの」
も〜といいながら甘夏はポストを確認しに出て行く。
いつものように仁奈はBe Quiet、加羅くんは実行務のためにリオン国へ行っている。
あれ、そういえば廉さんがいない…?
「なんか怪しいよこの封筒、どうする如紗。開ける?」
「MR、2?」
ただそれだけ書かれた封筒を甘夏は持っていた。
首をかしげる私とは裏腹に、冬利さんと京くんは少し青ざめながらその封筒を見ていた。
「え、MR2(えむあーるにじょう)って…」
「ああ京、おそらく例のモノだろう」
「ちょっと二人だけで話してないであたしたちにも説明してよ。なんなのこれ?」
「MR2、日本語にするとミロック反対組織だ」
「え……?」
ミロック反対組織!?
「MR2のどこがミロック反対組織なのよ」
「MR2はミロック、むつき、ルチアの略称だ」
「待って肝心の反対って単語が入ってなくない?
それにその略称ならM2Rだし」
「しかも単語のほとんどが如月先輩を指してるじゃん」
それだけ如月先輩がミロックに与えた影響というものは大きかった、ということだろうか。
「反対という単語が入ってないのは隅においておこう」
「とりあえずMR2の創設者は馬鹿だということが分かった」
「名前のむつきさんを指すイニシャルから察せるように、この組織は3代目王ルチアから発足したものだ」
「結構前からなのね」
「細々とやっていたようだったから、俺らもウワサ程度くらいしか知らなかった。本当に存在するなんて…」
「そ、それでその中は何?」
「いや開けちゃいけないぞ」
「どうして?」
冬利さんは封筒の宛名の下に書いてある文字を指差した。
「親展とかかれたものは宛名本人じゃないと開封してはならないようになっている。そしてその宛先は…」
「廉、さん…」
これは紛れもなく、ミロック反対組織であるMR2と廉さんに繋がりがあることを示していた。
「なあ冬利、廉さんはお前の知り合いなんだろ?何者なんだよあいつは」
京くんの質問に冬利さんは口を閉ざした。
「廉さんのことは私がなんとかする」
「如紗?」
私は立ち上がるとそう言った。
「とりあえず四醋剣保持者リストがなくなっちゃったからみんなにはそれの修復をお願いしたいの。誰がどこを担当するかはここに書いてる」
パソコンのモニターにそれを映し出すと、みんなは覗き込んだ。
「今やることが本当にそれで良いのか?」
冬利さんは私を見つめる。
声には出さずに大きく頷くと、はあとため息をつき分かったと言った。
「甘夏がサラ国、俺がマリック、京がここか」
「加羅くんにはあたしから連絡してみるから。あっちでも忙しそうだから遅くなるかもしれないけど…」
「分かった、出来る限り早く集めるよ」
「ありがとう!お願いします」
私は頭を下げた。
まずはひとつずつ、ひとつずつ片付けていこう。
そうすれば大きな目標も達成しているかもしれない。
絶対にシーズセラピーはこんなところで終わらせたりしないから。
それに廉さんには個人的にも話をしたいところがあった。
リーダーの資格なんて私にあるかはまだ分からないけど、分からないで済ましていたらダメな気がする。
その後、廉さんにはすぐに連絡がついた。
待ち合わせはいつものウエスタさんのカフェと指定され私はさっそく向かった。
「如紗〜こっちこっち」
私の姿を見つけた廉さんは座ったまま手を振った。
その隣に座ろうとすると机の上に書類を提出がたくさんあるのに気がつく。
も、もしかしてこれはMR2に関する資料とか…!!?
「ねえウエスタ、今月は売り上げどれくらい?」
「ん〜?別に今までとはそんな変わらないよ」
「店の話じゃないわよ?」
「ああ例のブツのことか。4:6でちょっと憂間京が勝ってるよ」
「やっぱうーちゃんは強いな、何より女性だけじゃなくて男性受けもしてそうだし」
「憂間京に三千円賭けたのは俺だからそこんとこ覚えとけよ」
「ふん!まだ分からないじゃないの、ここからかーちゃんの逆転よ」
「あの一体何の話を…」
「この前したじゃん如紗にも。ほらブロマイドの話よ」
「ブ、ブロマイド!?」
「ほれ如紗ちゃんも見てみ」
ウエスタさんか封筒が手渡される。
恐る恐る私はその中身を覗いた。写真のようなものが三枚ほど入っている。
「これとかどうよ如紗、まさに男子高校生!!って感じしない?スポーツして汗を流すかーちゃんはイケメン三割り増しよ」
「いやいや、俺はこれとか捨てがたいな。
その名もおやすみ前の憂間京!!
この今にも寝てしまいそうな表情がたまらんってお客さんが絶賛してたぜ」
「一体どこでこんな写真撮ってるんですか!!?」
とは言いつつも片目で京くんの写真を見る。
ぐっ……ほ、欲しい…………
「へえ如紗ちゃんってそっち系は疎いと思ってたけど、そんな理性を必死に抑えようとする顔もするんだね?お兄さん嫉妬しちゃうなあ」
「あんたが言うと犯罪染みてくるからやめなさい」
「あ、ちょっと待ってもしかして憂間京の仕込みだったりする?それなら話が変わってくるな…」
そういえば最近いっくんのこともあって京くんと日常的な会話をしていない気がする。
今何してるんだろう、まだシーズセラピーにいるのかな…
「…如紗、このブロマイド特別にピン売りしてあげようか?」
「ほんとですか廉さん!!」
「これでどう?」
そう言うと廉さんは右手の指を三本立てた。
「三百万ですか…分かりました、払います」
「如紗ちゃん!!?桁おかしくない!?」
「あっ忘れてた、これもう予約が入ってるんだった。ごめんね如紗」
「そ、そんなぁ…」
ピピッ、と何かの機械音がする。
「あとでうーちゃんにさっきの如紗の様子を録画した動画を送って、また写真協力してもらおっと」
「悪魔だなお前。てかカメラ仕掛けてあんの??俺の店だけど??」
「ウィンウィンだからいーの」
「というか如紗ちゃんから頼めばそれこそ何でもやると思うけどあいつ。街中ででも全裸になるんじゃね?」
「そ、それは私のキャラが崩れるというか…」
「あっ、なって欲しいんだ?そこは否定しないんだ?」
「てか思考が犯罪者っぽくてキモイよ、ウエスタ」
私が悶々としている隙に、廉さんはぽちぽちとケータイをいじっていた。
『如紗ちゃんの動画あげるからまた撮影させてね(o^^o)⭐︎ 廉』
「……………」
「何そんな真剣にケータイ見つめてんのよ」
「甘夏、俺もうすぐ死ぬかもしれない」
「はあ?」
「とりあえず今から俺は何をすればいい!?
かぼちゃの馬車でも用意してお姫様を迎えに行けばいいのか!!?月に誓ってキスでもすればいいのか!!?」
「お兄ちゃん、京がおかしくなった」
「いつものことだろう。じきに大人しくなるから放っておけ。ずっとそのままなら相田を呼べばいい」
「はーい」
「ああ…如紗…好き……」
「…いやいやいやそうじゃなくて!!!?」
私はノリツッコミをするこんなことを話にここに来たわけではない。
「廉さんに渡したいものが…」
「それ、尺の問題とかもあるから次回にしてくれないかな?
「えっしゃく…じか…え?どういうことです?」
「次回に続きまーす」
そんな雑なフリでいいの!!?
久々に後書きを。
如紗のキャラがブレましたね!!ザ・主人公!!!
如紗と京にはバカップルでいてもらいたい所存でございます…まだ正式には告白も何もしてませんけどね。




