魔王と勇者②
『来たか、勇者よ』
『…』
数々の同胞を討ち破り、私のもとへとたどり着いた初めての相手、銀の鎧を全身に身に纏った人類の英雄、”白銀の勇者”。
彼を前にして、私はすべてを悟った。
この者には、絶対に勝てない。
私は、人間にとっては世界を支配しようとする絶対的悪として映っているだろう。
間違ってはいないかもしれないが、私にも私の信念が存在する。
魔物は倒されると魔石を落とし、姿かたちは霧散する。
人間達がその魔石を利用し、生活を豊かにしていっていた。
魔石の有能性が認知されていったため、魔物は倒されて当然。
これが人間達にとっての常識として、定着していってしまった。
だが、私達魔物側としては、理不尽極まりない常識だ。
人間が魔物を襲うのは良くて、魔物が人間を襲うのは悪い。
だがら私は、考えた。
世界を支配し、魔物が自由に過ごせる世界を作ろうと。
だが、それももう叶わぬ夢ということか。
『最後に、勇者よ。名前を聞かせてくれないだろうか?』
『…』
『そうか…』
やはり、勇者の眼にも私は悪にしか映っていないのであろう。
だが、無理だとわかっていても、何もせずに負けを認めるだけなんて私は出来ない。
『いくぞ!! 勇者よ!!』
それから、私が勇者に討滅されたのは一瞬だった。
* * * * * * * * *
「どうして、お前まで転生してるんだ」
「まあ、色々有りまして」
「いろいろって…」
転生というものがどういうシステムで成り立っているのかは知らない。
だがもし、同じ時期で亡くならないと、同じ時期に転生できないのだとしたら。
勇者にもなにかあったのだろう…。
ま、私には関係ないことか。
「名前」
「…え?」
一人でそんな事を考えていると、元勇者に急に名前を聞かれて、素っ頓狂な声が出てしまう。
「私は名乗ったのに、あなたの名前は聞いてません」
「っふ。前世で私が名前を聞いたときは教えてくれなかったくせに。それに、さっきのオーディションで名乗っただろう」
「オーディションのときは緊張していて、他の人の声なんて耳に入ってきませんでしたし。それに、前世でのあのときは…」
「いいよ。気にしてないし。興味もないから」
そう言って私は、その場をあとにしようとする。
「そうですか…」
元勇者は、私の答えと行動に、誰が見てもわかるくらいに落ち込むような顔をする。
「三澤 真桜。真桜でいい」
「…!!」
私がそう言うと、さっきとは真逆で、凄く嬉しそうな顔を浮かべる。
「私も、ユシャでいいです!!」
笑顔でそう答えるユシャの笑顔は、もの凄く悔しいが、かなり可愛い。
私でなく、誰が見てもそう思うことだろう。
こういう純粋そうな子がアイドルとして成功するのだろうな。
と言っても、今私が抱いた感想は、私自身のモノというよりは、記憶を取り戻す前の真桜の記憶が引き起こしている感想だろう。
今でも記憶は混乱している。
私という存在は一体どちらが正しいのかと。
人間達に恐れられてた魔王なのか。
アイドルに魅入られ、アイドルを目指している一人の少女なのか。
オーディション会場に戻れば、それが見つかるかもしない。
「さ、ずっとここにいるのもあれだし、会場に戻るか」
「はい!! 行きましょう!!」
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