魔王と勇者①
指から火を点火してしまった私は、マジックだったととっさの嘘をついた。
この世界では魔法なんて非科学的なものだし、マジックと言えば誤魔化せるだろう。
そう思っていたのに…。
「あなた…」
前世も含めて人生始めての壁ドンからの股ドン。
オーディション会場で隣りに座っていた少女から、部屋を出た途端に逃げるまもなく気づいたときには、壁ドンと股ドンをされていた。
「え、えっと、なに…?」
目を細めてじっと見つめてくる少女。
それにしても、アイドルオーディションを受けに来るだけあって、目の前の少女はかなりの美少女だ。
ハーフだろうか、瞳は青く、肩までの長さである明かりに照らされ輝く雪のような白い銀髪。
魔王(男)としての記憶を取り戻したとは言え、目の前の少女にこんだけ接近されれば、同性だろうとドキマギしてしまうだろう。
それにしても、本当になんのつもりだろうか…?
「あ、あの。そろそろ、離れてもらえるとありがたいのだけれど…」
「さっきの、指から火が出たのって」
「マ、マジックですよ?」
「いえ、あれは完全に魔法でした」
「ま、魔法なんて非科学的なもの、使えるわけないじゃないですか~。あはははは…」
引きつった笑顔でそう答える。
「あなた、もしかして転せ--」
私は、少女がある言葉を発する前に、瞬時に腕を掴み、少女を連れてその場を走り去る。
会場の部屋からはそれなりに離れた、人目がないところまで来た私は、少女から手を離す。
「お、お前!今、なんて言おうとした!?」
「だから、あなた転生者ですよね?」
聞き間違えであってほしかった。
目の前の少女ははっきりと、私のことを転生者だと言った。
「しかも、その魔力の感じ、身に覚えが…」
そう言う少女は、顎に手を当てながら、またしてもドギマギしてしまうほどの至近距離で私の顔を覗き込む。
転生者とばれたところで不都合はないのかもしれないし、目の前の少女が転生者だとしても、同じ異世界からの転生者とも限らない。
だが、万が一にも同じ異世界からの転生者だったとしたら、バレるわけにはいかない。
なんと言っても、私は”元”魔王だから。
前世の記憶と能力を取り戻したとは言え、能力は全盛期に比べたら、天と地の差だ。
元魔王だとばれ、『あの時の恨み!』と襲われでもしたら、能力を取り戻したばかりの私では、もしかすると太刀打ちなんてできないかもしれない。
ここはとりあえず、誤魔化そう!
「て、転生者ってなんのこと…?」
「あ、そう言うのは大丈夫です。転生者ってことはもう確定なので」
「さ、さいですか…」
だめだった!
でも、私の前世の魔力に身に覚えがあるってことは、私の魔王軍配下か、それこそ、私と相対した者達だけだ。
例えばそう。
魔王である私と死闘を繰り広げ、その力を持って私を討滅した、白銀の鎧を全身に身に纏った人類の英雄、”白銀の勇者”とか。
「あ、わかりました」
「…え!?」
「あなた、魔王ですよね」
終わった…。
「魔王ですよね?」
「…」
「ですよね?」
「…」
「笑顔で無言を貫いてますけど、汗、やばいですよ?」
そう言われても、私は無言を貫き続ける。
だが、少女も諦めまいと、私の顔を右顔、左顔、右顔、左顔、と交互に見つめながら、『ですよねー?』を永久的に繰り返す。
「…っ」
「で、す、よ、ねー?」
「あーー!! そうだよ!! 前世で私は魔王だったよ!! 悪い!? いや、悪いわな!! 魔王なんだもの!!」
「あ、いえ。悪いとは言ってないじゃないですか…。いつ記憶を取り戻したかは知りませんが、貴方からは、邪悪なオーラは感じ取れません。…いや、あの時も、邪悪なオーラは感じませんでしたが…」
そこまで言われてはっきりと、目の前の少女の前世が何者だったのか理解する。
ここまで、私のことを気持ちを感じ取れる者なんて、配下ですらいなかった。
「お久しぶりですね魔王。私、前世では白銀の勇者と呼ばれていました。現世では、”一ノ瀬 ユシャ”と言います。お見知り置きを」
転生してまたも私は前世を含めての初めてを体験する。
『壁ドンからの股ドン』
そして今度は、よく分からずアイドルのオーディションを受け、前世で私のことを討滅したはずの勇者との再開。
それに対する”絶望”である…。
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