VS.怪人スキンヘッド、怪人モジャコ
二体の怪人が並び立つ。
遅れて現れた方の怪人、怪人新卒モジャコは黄色い一本線のあるリクルートスーツを着た魚人だ。怪人スキンヘッドよりも人間に近しい形をしているものの、顔は魚そのものである。
「……どうして俺様とお前、同じタイミングで怪人化したのにこうも違うハギ?」
「それを新卒モジャコの僕に言われましても」
後方にまだ怪人ニボシが残っているが、奴等は動かない。二階の巨大ウツボも不動を貫いている。
ウツボについては体の大きさが仇となっていると想像できた。動くだけでもアトラクションの各所を傷付ける。奴が動くとすれば、他の怪人をすべて倒してからとなるだろう。
第一陣を運んだエレベーターは、ようやく地下へと戻ってきている最中か。
よって今は、目の前の二体に集中すればよい。
「先に動いたのは俺様ハギ」
「先手番は譲りますよ。その代わり、ピンチになっても新卒モジャコは動きません」
「若造が言っていろハギ」
怪人スキンヘッドが進み出てきた。二体いるのに協力はしないのか。俺としてはありがたい。
それにしても、体が平べったいので真正面から見ると細いな、この怪人。
「少し斜めを向いた方が写真映りがいいと思うぞ」
「すまんなハギ。一回分のハゲ発言は忘れてやろう。これでどうだ?」
「もう少し……そのぐらい」
「これぐらいだなハギ。さて、第二ヒーロー。怪人ニボシを倒していい気になっているようだが、運だけで生き延びているお前は、俺様の餌でしかない。俺様の怪人技で終わりだ」
いきなり怪人技を使うつもりか。まったく予測できない怪人技を使わせるのは不味い。
止めるべく接近したものの、泳ぐようなバックで距離を取られた。そういえば、カワハギはバックできる魚だったな。
「怪人技“神は死んだ”をッ。……く、くらえェぇ、ハギィぃぃ!!」
怪人スキンヘッドの奴が、自分の肌を剥ぎ取り始めた。突然の自傷行為に目を背けたくなってしまうが、今は戦闘中である。視線を外せない。
「怪人技“神は死んだ”は頭皮を失う苦痛を伴うが、その効果は絶大ハギ。神の見えざる手を拒絶し、幸運を一切起こさせない。俺様が皮を剥いだ瞬間を目撃したお前からは運が消え去った」
「……ん、それって意味あるのか??」
「逃げ場のない正面からの戦い。そして、戦闘力で優れる俺様。この状況下で幸運を失ったお前には、シビアな現実のみが残ったハギ。十二星座占いでは確実に最下位となるぞ」
不確定要素を除外する怪人技か。地味ではあるものの、格下を確実に葬るのには使えるか。
怪人が両腕を広げて迫ったので、対抗するべく俺も両腕を広げて手を掴み取る。単純な握力勝負は勝算が低い。それ以上に怪人とのパワーファイトな恋人繋ぎなどしたくはなかったが、後退できない俺にはこうするしか術がない。
手を掴みあってから十秒間、均衡が崩れる。
怪人スキンヘッドの握力に指が軋み、俺はうめき声を上げたのだ。
「くッ、うっ! い、威張っていた割には、貧弱な怪人だ。俺ごときを圧倒できないなら、そう大した怪人ではない。あがァ?!」
「その減らず口、どこまで続けられるか見物ハギ」
怪人の握力が更に増す。
ジリジリと増していく力から逃れたいのに指が離れてくれず、腕を変に曲げた情けない格好になっていく。相手が油断してくれる程に、真に迫った劣勢だ。
いや、実際にものすごく痛いのだが、代わりに怪人の目をプロジェクターの射程内に捉える。
「この至近距離なら効果は絶大だ。“模倣するは猫”!」
「体が、動かな……ハギぃ?!」
体の自由を奪う光信号を仮面上部から投射して、怪人スキンヘッドを硬直させた。
手の拘束から逃れて、怪人の側面に回る。怪人技発動のために怪人自ら剥がしていた皮を強引に引っ張って、範囲を広げた。
皮を失った白身の部分に防御力はない。
握力のない手を無理やり握り締めて、思いっきり殴りつける。怪人の体に腕の関節まで沈み込んでいく。
内臓部分に達した手を回して、潰す。
「お前の怪人技で証明されたな。第二ヒーローには実力で怪人を倒す力がある」
「馬鹿な、ハギ。怪人となってまだ五時間も経っていないというのに。え、エヴォルン・コールに、栄光あれェェッ!!」
怪人スキンヘッドの断末魔は、直後の生体爆発と混ざって判別できなくなった。
魚の血も赤い。バイザーの付着物の色を見たままの感想を小さく述べる。怪人を撃破した感想にしては淡泊なものであるが、俺の戦闘は終わっていない。むしろ、これからが本番だ。
生体爆発の煙に隠れて近づく次の怪人の一撃が、俺の横腹に叩き込まれる。
「新卒モジャコの出世の一撃ですよ!」
警戒しておいたのに防御できなかった。怪人スキンヘッドの怪人技の効果がまだ続いているなら、これが俺の実力となる。格闘技を習っていない大学生なら当然だ。
内臓が揺れる。
横隔膜が捻じれ、肺が思わぬタイミングで収縮していく。
呼吸困難となっているところを再び怪人に強打された。苦悶していると更に攻撃されて、ダメージ超過で倒れてしまう。
「ぐ、はァ、はァ。げふぉ」
「旧人類が怪人を倒したなら喜んでいてくださいよ。そうしていれば、新卒モジャコが一撃で仕留めてあげたというのに。まったく、面倒な」
「仲間を見殺しにしたな、お前ッ」
「人を冷徹な怪人みたいに言わないでください。同意を取っておきました。怪人スキンヘッドは怪人新卒モジャコの出世の糧となり、僕の経歴の中で生きるのです」
煙の中から現れたこの怪人新卒モジャコ、小魚だけあって小物感が半端ない。
倒れた俺への追撃が腹への下蹴りだ。仮面の下で泣く程に痛いとはいえ、一撃で失神できる威力はない。怪人新卒モジャコは遊んでいる。
「旧人類を痛めつけるのは楽しいなぁ!」
「……怪人新卒モジャコ。遊んでいないで第二ヒーローを捕縛しろ」
「分かっていますよ。怪人ミズチ様」
アトラクションホールの奥にいるウツボに指摘されるまで、たっぷりと俺を蹴り続けた怪人新卒モジャコ。最後の一撃を振る舞おうとして、黒い革靴を大きく振る。
このタイミングを、逃しはしない。
サッカーのシュートポーズのように残っている軸足に対して、プラスチックフォークを突き刺す。
「蜻蛉切ッ」
「うぎゃああぁああ。僕の足ガァァ」
魚が足の怪我で苦しんでいる。
その間に、痛みに耐えながら溜めておいた力で立ち上がると、怪人新卒モジャコの鰓へと渾身の右ストレートを突き出した。
「戦闘服にブースト薬投与。戦闘力強化!」
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“戦闘力:7 → 14 (ブースト中)”
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瞬間的に戦闘服のパワーアシストを倍加させた。殴った相手、怪人新卒モジャコの青い皮が破れて血が噴き出す。
顔を殴っただけで怪人の体が浮いた。床を滑っても止まらず、ウツボの近くまで転がっていく。
力が二倍になった自分を体感して、気分が悪い。怪人共がハイテンションになっている理由の一端に触れて、共感してしまいそうになって唾を吐く。口の中を切っていたので唾は赤い。
「新卒モジャコの僕の顎がぁああ」
怪人新卒モジャコは生体爆発しなかったものの、顎の骨が変形してしまったらしい。陸揚げした魚のように口を閉じずにパクパクさせている。
「このオォォ、よくも僕の青光りする綺麗な顎をォ!」
「実力の差以上に、覚悟の差が出たな。新人にいきなり実戦を任せるべきではなかった。……下がれ、怪人新卒モジャコ」
「第二ヒーローッ。お前は僕が殺すッ!!」
「下がれと言った。私の言葉が聞こえないのか?」
喚く怪人新卒モジャコを制したのはウツボだ。
怪人新卒モジャコは歯向かうように二階を見上げたものの、ウツボの凶暴な面構えを見て顔を青く染める。ばつが悪く、バックヤードへと消えていく。
「この屈辱は、新卒モジャコの出世後に晴らすッ」
二体目の怪人に辛勝といったところか。ダメージを負い過ぎたが、まだ戦える。
ホール内にいる敵は、ウツボと怪人ニボシ数体。ウツボがまだ動かないのならば、どうにかなる。
チラりとエレベーターを確認したが、第二陣は出発して地上に到着済。今は最後のゲスト達を乗せるために下降中だった。
「さあ、次は誰だ?」
「第二ヒーロー、お前は……気に入った。意志の強い旧人類は良い怪人となる」
「スカウトなら止めてくれ。怪人は大っ嫌いだ」
「誰もがそう思う。が、それは経験に基づいた自己の保全行動に過ぎない。一度、理性的に考えてみるべきだが、どうだろうか?」
「交渉を持ち掛けるだけ無駄だ。俺は怪人を許さない」
「ヒーローとは名ばかりか。その意志の強さには、決して癒されない憎しみを感じる。……ならば仕方あるまい――」
ウツボと話している間にエレベーターが到着する。自動で扉が左右に開いていく。
「――怪人ラフ・エイリア。第二ヒーローに旧人類の限界を教えてやれ」
開かれたエレベーターの内部で、歯並びの悪い口から粘液の滴り落ちる音が聞こえた。
逃げるゲストが乗り込んで戻ってくるはずがない。だから、エレベーターは無人であるべきだというのに……凶暴な異星人が乗っている。
「三体目ッ?! しかも後方からッ」
「Wraaaaaaッ!!」
異星人と俺との間にはゲストが残っていた。が、異星人はゲストを完全に無視して突撃してくる。




