VS.怪人ニボシ
巨大ウツボがアトラクションホール全体に響く大声で、俺の存在を指摘する。
すると……慌ただしく動いていた係員達は無表情となって、一斉にこちらを向いた。テクスチャを張りつけただけのような顔が帽子の影に隠れていき、見えなくなる。
一方で、俺の背後からも視線を感じている。何が起きているのかさえ分からず、ただ怖がっていただけのゲスト達が、俺の正体に気付き始めたのだ。
「服が少し違うけど、この人は……巷を騒がす第二ヒーローだ」
「少し前まで痛い人だったけど、工東区で女性を助けた動画が五百回再生された、あの第二ヒーロー」
「いいねの数が五十をついに超えた、第二ヒーロー」
「……この傾いた人が第二ヒーローでしたか」
世の中における俺の評価、低過ぎませんかね。まあ、気にしないけど。
ゲスト達の声はウツボにも届いているようで、巨大な眼が細められていく。
「この者が本部に手配されていた第二ヒーローか。ただのアマチュアと聞いていたのだが……ほう。私が管理するテーマパークを嗅ぎつけて現れるとは、聞いていた以上にやるではないか。評価しよう」
俺って、どうして悪の秘密結社からばかり過剰評価されてしまうのだろうか。
ウツボが顎を振って、係員達に合図を送った。
係員達が帽子を脱ぎ捨てて顔を晒すと……そこにあったのはミイラのように干からびた魚の顔だ。目は虚ろ。というか、物理的に窪んでしまっている。
「さあ、怪人ニボシ達よ。第二ヒーローを捕縛し、私の前に突き出せ!」
「ボシ」
「ボシ」
怪人ニボシ共の動きは、実に非人間的だった。歩いているというよりも動作している。感情のないミイラや人形が動くように近づいてくる。
俺の後ろにいるゲスト達は、自分達が怪人のアジトで窮地に陥っていたとようやく理解して、騒ぎ始めた。
「か、怪人だァッ!?」
「ここは万葉県よ。どうして怪人がッ」
怪人が、しかも複数体。複数現れた時点で異例なので、同種の怪人が多数いる事にはそこまでの驚きはない。
これまでの第二ヒーローならば、この時点で詰んでしまっている。拳を振り上げ果敢に挑んだとしても、大人と子供の勝負未満の戦いにしかならないからだ。
「ここは俺が食い止める。ゲストは全員、地上に逃げろ!」
「終わったァ。第二ヒーローが瞬殺されて俺達もここで終わるんだぁ……」
「玉の輿に乗る私の未来が、こんなところでぇ。シクシク」
「ええぃッ。お前等、邪魔だから早く上に行けって!」
勝手に落胆しているゲスト達を守らなければならない理不尽さを込めたタックルを、怪人ニボシの細い体に叩き込む。
だが、筋力強化されている怪人に対して、ただ体重を乗せただけの攻撃が通用するはずない。
「ボ……シッ?!」
……だから、怪人ニボシが空を飛び、シリンダー部屋のガラス壁を突き破って倒れた事に全員が驚く。
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▼第二ヒーロー(戦闘型V2)
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“戦闘力:2.7 → 7 (New!)”
“怪人技:
模倣するは猫(劣化コピー)
疑死回生(遺言メモ)
蜻蛉切(プラスチック製フォーク)”
“上杉恭介考案の外骨格フレームを新たに追加し、戦闘力を強化した第二ヒーロー。
流用元は介護用のパワードスーツであるが、部品レベルでカスタマイズが行われている。研究室にサンプルとして保管されていた戦闘服や、怪人ミノム氏が用意していたソファーから剥ぎ取った革を繊維状に加工して製造した疑似筋肉により、戦闘力の大幅な上昇を実現した。
なお、ソファーの色が白だったため、フレームの一部が白く遠目には骨のように見えてしまう。第二ヒーロー本人は白を気に入っていないが、開発期間短縮のため塗り直しを断念した経緯がある。
更に、緊急時はブースト薬を戦闘服に注入する事で、一時的にはあるが戦闘力を二倍に増強可能。ちなみに、三分間分のブースト薬の作成のためにはサウナで三時間過ごす必要があり”
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俺も驚いた。いくら戦闘服を強化していたからといって、妙に、攻撃に手ごたえがあるのだ。
別個体の怪人ニボシの腹を蹴り飛ばしてみた。怪人は衝撃に耐えられずに後ろに後退、後ろの仲間を巻き込んで倒れていく。
「この怪人、弱いぞ?!」
設計した眼鏡先輩いわく、戦闘員ならば十分に戦える程に戦闘力強化したとはいえ、怪人相手にはまだ厳しい。そう聞いていたので、最初の攻撃で敵を驚かせて即時撤退するつもりだったのだが、怪人が面白いぐらいに倒れていくのだ。
「怪人ニボシの戦闘力は5。数いる怪人の中の底辺ではあるが、それでも一般的な戦闘員よりは上のはず。第二ヒーローが結社の戦闘服を盗んだだけの一般人では説明がつかん」
攻撃が通用するのならば、後退せずに攻撃継続だ。怪人ニボシ共の顎を殴って倒し、鳩尾に膝蹴りを叩き込んで倒し、ジャイアントスイングで倒す。
さすがにクリティカルヒットでなければ一撃必殺とはいかないが、アトラクションホールにいる半数以上の怪人にダメージを負わせる事に成功した。
これならば、ゲスト達が逃げるまでの時間を十分に稼げる。
「今の内だ、早くエレベーターに乗れ!」
実際のところ、止められる恐れのあるエレベーターに乗るのは悪手なのだが、地上へのルートはそれしかないのだから仕方がない。戦えない一般人を連れて、敵アジトを彷徨える程に強くなったと自分を過信する方が危険だ。
ゲストの数は二十人弱。
エレベーターへと全員が殺到してしまうと……ブーブーと体重超過の警報が鳴ってしまう。だというのに醜い押し合いが終わらず、無駄に時間がかかっている。
「早い者順だ!」
「女性優先。年齢優先よ!」
「全員の体重を書き出して、最も少ない回数で運べるように調整だ!」
「悠長に計算している暇があれば、俺を乗せろ!」
白けてしまうが、後退して説得している余裕はない。
時間がかかっている所為で新たな怪人が現れてしまい、ソイツの相手をしなければならなくなったからだ。
「――旧人類とは、こうも見苦しい存在だったハギ。怪人ミズチ様、ここは新参者たる俺様に活躍の機会を」
「よかろう。怪人スキンヘッド」
バックヤードより現れた新怪人は、魚に人間の手足をくっ付けた魚人である。俺が知っている怪人の中では怪人アジヒラキに似ているが、アジヒラキはもう少し人間に近かった。こいつは本当に魚に手足を生やしただけで、何となく急造品っぽい。
ハンティングキャップを頭の上の棘に刺して、無理やり被っている。
「第二ヒーローも不運な奴ハギ。怪人に生まれ変わった俺様は、もう置き引きなどというセコい商売をする必要がなくなった。今後は悪の秘密結社の一員として旧人類と戦うハギ!」
「魚型怪人! お前の名前を聞いておこうか」
「ふふ、俺様は怪人スキンヘッド。新進気鋭のカワハギ型怪人よ」
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▼怪人スキンヘッド
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“戦闘力:19”
“怪人技:神は死んだ”
“遊園地を困らせていた置き引き犯が怪人化して誕生したカワハギ型怪人。
かつて遊園地でのデートに失敗し、それが切っ掛けで遊園地の客から荷物を奪う悪事を働くようになった。なお、失敗理由と髪の薄さは関係ない”
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「……ああ、ハゲか」
「ハゲって言うなッ!?」
馬のような顔の魚型怪人、怪人スキンヘッドが怒った。ハンティングキャップを床に叩きつけている。すぐに被り直して頭頂部を気にしているが……髪の毛のない魚が何を気にしているのか。
「いや、俺の地元だとカワハギをハゲって呼ぶぞ」
「二度もハゲって言ったハギ!?」
また、キャップを床に叩きつけて怒っている。お陰で時間が生まれて、エレベーターに第一陣が乗り込んで上昇を開始してくれていた。残っているゲストは十人程度。回数的には残り一、二回。
怒れる怪人を恐れて身を寄せ合っている居残りゲスト達。その中で一人だけ、見知った女が俺を応援するように手を振っていた。
よし、やや元気が出たぞ。
このハゲを早く煮付けにしてしまおうと張り切っていると――、
「――新人教育なら、モジャコの僕も参加させてくださいよ」
――時間経過が俺の有利に働かないという事を知らせるように、更なる怪人が出現する。
「新卒モジャコって言います。第二ヒーローさんは僕の出世のための屍になってくださいね」
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▼怪人新卒モジャコ
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“戦闘力:10”
“怪人技:出世意欲”
“遊園地に遊びに来ていた新卒サラリーマンが怪人化した小魚型怪人。
戦闘力は低いものの、出世意欲は高い”
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