第四話 おばあちゃんの家
しばらく歩くと、森の奥に小さな家が見えてきました。
赤ずきんのおばあちゃんの家です。
赤ずきんは扉をノックしました。
コン、コン。
「おばあちゃん、赤ずきんです。お見舞いに来ました」
すると、家の中から声がしました。
「は、はい……どうぞ、入っておくれ……」
声が妙に上ずっています。
赤ずきんならずとも、違和感を覚える声でした。
「失礼します」
扉を開け、室内へ入ります。
部屋の中は薄暗く、窓のカーテンが閉められていました。
ベッドには、頭から布団をかぶった人物が横たわっています。
赤ずきんは、ベッドのそばまで歩いていきました。
「おばあちゃん、具合はいかがですか?」
「だ、大丈夫だよ……」
「そうですか」
赤ずきんは、ベッドの横に置かれた椅子に腰掛けました。
「ところで、おばあちゃん」
「な、なんだい?」
「今日は、ずいぶんと声が違いますね」
「か、風邪をひいているからね……」
「なるほど。では、熱は何度ですか?」
「えっ?」
「体温です。測りましたか?」
「そ、それは……」
「体温計はどこにありますか?」
「し、知らないねえ……」
「ご自宅の備品の所在を把握していないのですか?」
「い、いや、そういうわけじゃ……」
赤ずきんは、じっと布団を見つめました。
「……おばあちゃん。お顔を見せてください」
「い、いや、今はちょっと……」
「なぜですか?」
「病気だから……」
「病気であることと、顔を見せられないことに、どのような関係が?」
「そ、それは……」
「まさか、私に顔を見せられない事情があるのですか?」
布団の中で、何かがもぞもぞと動きました。
「……おばあちゃん?」
赤ずきんは、そっと布団の端をつまみました。
「失礼します」
ばさっ!
布団がめくられました。
そこにいたのは、ふさふさの耳、大きな鼻、鋭い歯、そして涙目の少年。
「……おおかみさん?」
「…………」
「なぜ、あなたがおばあちゃんのベッドにいるんですか?」
「…………」
「おばあちゃんはどこですか?」
「…………」
「質問に答えてください」
「うわああああん!」
おおかみは、再び泣き出しました。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ぼく、こんなことするつもりじゃなかったんだよおおお!」
「……順を追って説明してください」
赤ずきんは、冷静に椅子へ座り直しました。
おおかみは鼻をすすりながら、布団の中で小さく丸くなりました。
しかし、赤ずきんはまだ質問を続けます。
「その前に、一つ確認しておきます」
「な、なに……?」
「どうして、そんなに耳が大きいんですか?」
「えっ?」
おおかみは、思わず顔を上げました。
「……そこから?」
「はい。先ほど森で会ったときより、耳が目立っている気がします。帽子をかぶって隠そうとしたんですか?」
「そ、そうだけど……」
「なぜ隠す必要が?」
「おばあちゃんのふりをするため……」
「なるほど。では、どうしてそんなに目が大きいんですか?」
「暗いところでも、よく見えるから……」
「それは生まれつきですか?」
「う、うん……」
「では、その口が大きいのは?」
「……歯が、大きいから」
「なぜ歯が大きいんですか?」
「オオカミだから……」
「オオカミであることと、おばあちゃんに変装することは別問題ですよね?」
「ううっ……」
「それから、どうしておばあちゃんの服を着ているんですか? ご本人の許可は?」
「…………」
「どうしてベッドにいるんですか?なぜカーテンを閉めているんですか?なぜ声を変えているんですか? そして、なぜ私が来ることを知っていたんですか?」
「うわあああああん!」
おおかみは、ついに布団を頭からかぶってしまいました。
「もうやだあああ! 質問が多すぎるよおおお!」
「質問が多いのではありません。あなたの説明が足りないのです」
「それが多いんだよおおお!」
赤ずきんは、ふむ、と考え込みました。
「……確かに、説明を一度に求めすぎたかもしれませんね。では、最後に一つだけ聞きます」
おおかみは、涙目のまま顔を上げました。
「ほ、本当……?ひ、一つだけ……?」
「どうして、おばあちゃんのふりをしているんですか?」
おおかみは、ぽかんと口を開けました。
そして、その顔がみるみる歪みました。
「うわあああああん! もう嫌だああああ!」
おおかみは、子どものように大声で泣き始めたのです。




