第二話 花畑へのお誘い
森の小道を歩く赤ずきん。
鳥のさえずりが聞こえ、木漏れ日が地面にまだら模様を落としています。本来なら、絵本の一ページにふさわしい、のどかな風景でした。
そんな赤ずきんの前に、突然一人の少年が飛び出してきました。
「やあ、赤ずきん!」
頭にはふさふさの耳、後ろにはゆらゆら揺れる尻尾、それはおおかみの少年でした。
「どこへ行くんだい?」
「おばあちゃんの家です」
赤ずきんは歩みを止めずに答えました。
「へえ!そうなんだ!ねえねえ、途中にすっごくきれいな花畑があるんだ。ちょっと見ていかない?」
「行きません」
「えっ、なんで?」
「寄り道をする必要がないからです」
「でも、すっごくきれいなんだよ!」
「花畑の美しさと、おばあちゃんの安否確認の緊急性に、どのような因果関係があるのでしょうか?」
「えっ?」
おおかみは固まりました。
「いや、だから、きれいなお花が……」
「質問に答えてください。花畑へ行くことで、おばあちゃんの健康状態が改善するんですか?」
「し、しないけど……」
「では、行く理由がありません」
赤ずきんは、すたすたと歩いていきました。
「ま、待ってよ!」
おおかみは慌てて追いかけます。
「じゃあさ、花畑に寄ってから行けばいいじゃないか!」
「その場合、移動時間は何分増えますか?」
「え?」
「花畑までの往復時間、滞在時間、そこからおばあちゃんの家までの移動時間。それぞれ具体的な数字を示してください」
「そ、そんなの知らないよ!」
「所要時間も把握せずに他人の予定を変更させようとしているんですか?」
「ううっ……」
おおかみの耳が、しゅんと垂れました。
赤ずきんは、彼の横を通り過ぎます。
「では、失礼します」
「ちょっと待って!まだ話は終わってないよ!」
「私は終わっています」
「ひどい!」
おおかみは叫びました。
しかし、赤ずきんは振り返りもしません。
おおかみは、地面にしゃがみ込みました。
「あの子、絶対におかしいよ」
その目には、うっすらと涙が浮かんでいました。




