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5 下水道探索2 中央下水道の果て(ときめきの出会い)

 フレデリカの下水道探索はその後も続いた。

 西側は中央下水道とほぼ同じ作りで、時折人の手でメンテナンスされ、部分的に魔法を使った修繕もされているが、魔石を設置しなければいけないような修繕方法は取っていない。


 西側の探索を終えると今度は中央下水道を下り、行ける所まで行ってみると、その果てには大きな池があった。

 半分は洞窟の中にあり、半分は野外にあって、周辺はさぞ臭っていることだろうと思っていたが、空が見えるあたりは水の濁りは薄まり、川になって下流に行く水はすっかりきれいになっていた。臭いよけの防護膜を解いても臭いは気にならない。

 どういう仕組みだろう。


 フレデリカは持参していたパンをちぎって池に投げてみると、ビチビチと音を立ててパンを奪い合って水しぶきが飛び、やがて元の静かな水面に戻った。

 しかし見えなかった。何が暴れていたのか…。

「ふぅん?」


 少し引き返して洞窟に近い方でもパンを投げ入れてみたが、こちらは反応は鈍い。生き物は水が綺麗な方に住んでいるのだろうか。そう思いながら水面に顔を近づけると、突然濁った水の中から自分の顔より大きな何かが口を開いて飛び出してきた。

 少し驚きながらものけぞってその一撃を避けたが、濁った水と同じ色をしたそれは同じ色の液体をフレデリカに向けて吐きかけてきた。それをそのまま空気の盾で相手に返し、手にした棒で思いっきり殴ると大小ばらばらな4個体に分割し、四方から襲い掛かってきた。

 フレデリカがパチンと指をはじくと、雷撃が落ち、分割した四つを含め、周囲1メートルにいたスライムがプカプカと水面に浮き上がっていた。


「…ちょっとやり過ぎた…かな」

 電撃とは言え、命を奪うほどの出力は上げていないつもりだった。無事意識を取り戻したものはその場から逃げ、まだ浮いたまま動かないものは残念ながら昇天してしまったのだろう。先に襲ってきたのだから仕方がない。

 その周囲にいたスライムたちが威嚇の色を浮き立たせながらもスーッとフレデリカのいる岸から遠のいていった。怯えてはいるが戦う気はないようだ。


「あなた達がここの水をきれいにしてくれている訳ね? ありがとう」

 フレデリカの言葉が通じたのか、スライムたちは緊張を解き、あるものはより汚れのひどい洞窟の方へ、あるものは水の清い下流へと移動していった。



 この池はスライムだらけだった。ここのスライムは汚水を餌にしていて、途切れることなく補給される餌に丸々と太り、池の底にはかなり重量級のスライムもいるようだ。大小さまざまなスライムは時に流れてくる大物を廻って奪い合いをすることもあるが、餌は足りているので基本的にのんびりと過ごしている。気の向くまま池を動き回り、時に水のきれいなところに行き、浄化された水に住む魚や虫、水草なども餌にしている。

 汚水を食べれば汚水色のスライムに。清い水に住めば透明なスライムに。一見色は違うが、ここにいるスライムは皆同じ種類だ。どちらに住むかは、スライムたちの気分次第のようだ。



 池の周りを一周していると、廃墟を見つけた。石造りの竈が残っていたが、天井も柱も崩れて家の体をなしていない。池が見渡せる好立地。背後に広がる森を見れば、これがあのヘクターの家であることは想像がついた。


 朽ちた家具らしきものの下には図書や書類が埋まり、半ば腐っている。その中からヘクターが書いた日記が見つかった。そこには池の様子が細かく書かれていて、特にスライムの観察記録には文字さえも楽し気で愛さえ感じられる。街から買ってきた食材を与えたり、森の恵みを取って来て与えたりしているうちに、呼べば近づいてきて、そのうち足音を聞き分けて寄ってくるものもでてきた。名前がついているものもいた。

 彼はスライム愛好家だったのだ。


 ここを下水道の最終地点にすることは彼の念願で、水質浄化機能もさながら、真の狙いはかわいいスライムたちに自分がいなくなった後も食料を提供し続けるための画期的なシステムづくりにある、とこの日記に書かれていた。


 …とはいえ、街の人口が増え、スライムたちが汚水を処理しきれなくなったら、下流の人達はさぞ困ることになると思われたが、そのあたりの心配は全くしていない。実際、今のところ東西に膨らんだ街の汚水全てを引き受けても何とかなってはいる。豊富な餌のおかげでスライムが順調に増えたのも功を奏したのだろう。そこまで読めていたとすると、ヘクターは魔物使いと言っても過言ではない。


 この街は大魔法使いグレアムの魔法都市というより、大魔物使いヘクターの魔物共生都市と言うべきではないだろうか。



 上空を旋回していた鳥が清流の魚を狙って滑降した。

 ぼちゃん、と音がして水の中に入った鳥は、二度と浮き上がって来なかった。数枚の羽根が水面に浮いたものの、やがてそれもなくなった。


 この森には魔物が生息し、街の人はここまで来ることは滅多にないと聞いている。足しげく通っただけでヘクターは「変人」呼ばわりされていたのだ。しかし、この森にスライム以外の魔物の気配は感じない。街の近くまで気配をたどってみたが、魔物ではない生き物は多少いるが、スライム以外魔物は住み着いていない。

 魔物界の底辺、ザコと呼ばれているスライムが、この周辺では最強の生物になっているようだ。


 こんな素敵な魔物を見つけ、愛でながらも活用方法を見い出したヘクター。そしてその愛を受け無限の給餌場ですくすくと育つスライム。

 スライム自身は自分達がこれほどまで人の役に立っていることを知らず、人もまたここを見つけたなら恩を感じることなく退治してしまうかもしれない。

 ここは魔物の森の中にあってしかるべき池なのだ。


 絶妙なバランスの美しさ。フレデリカはスライムという魔物の未知なる可能性に心をときめかせ、時々この池の様子を見に行くようになった。

 何度か行き来しているうちにわかった。

 中央下水道がこの池までずっと立って歩けるように作られた理由はメンテナンスのためもあるだろうが、下水道を通ってスライムに会いに行けるようにするためだ。

 公金を使って自らの趣味のためにここまでやるとは。

 魔物愛好家ヘクター、恐るべし。


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