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悪役令嬢はデバッグしたい ~転生したら作りかけの乙女ゲームの悪役令嬢だったので、前世の知識で世界をデバッグすることにしました~  作者: 神楽坂らせん
第八章:暗躍する影——世界の歪みと真実

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学園への帰還準備

### 8-7 学園への帰還準備


 かなり早く目が覚めた。


 窓の外はまだ薄暗く、東の空がほんのわずかに白み始めているだけだ。起き上がると、昨夜の夢の余韻がまだ体の中に残っている……。胸の奥に熱を感じる。あの夢……。


 ミユキはしばらく窓の外を見ていた。


 今日で学園に帰る。


 その事実は嬉しい——が、ここを離れることには少しだけ抵抗があった。家族と一緒にいる時間だけは、侯爵令嬢ではなく、ただのミユキでいられる。気を張らなくてもいいし、考えすぎなくてもいい。


『けれど、行かなきゃね』


 森の結界のこと。学園での既視感。昨夜確かめた夢。オメガという存在。


 リリアーナの笑顔を思い出す。


 守るものが、学園にだってある。


 ミユキは立ち上がって着替えを始めた。


 ◇


 朝食は家族全員が揃った。


 カタリーナが台所と連携して用意した品数の多い食卓で、ソフィアが開口一番、


「今日帰っちゃうのー? もう一日だけいてもいいんじゃないー?」


「いえ、だって、学園の規則がありますから……」


「私も通ってたけど、あそこって本当に融通がきかないのよねぇ。いっそ休学すればいいのに」


「それは困りますって」


 ミユキは苦笑した。ソフィアの「融通がきかない」は本気ではない。分かった上で言っている。ただ名残惜しさをそういう形で表しているのだ。


「ソフィア、困らせてはだめよ」


 カタリーナが穏やかに言い、テーブルにパンを並べながら続けた。


「ミユキ、今度帰ってくる時は、もう少し長めに滞在できるといいわね」


「はい。次の長期休暇には、もう少しゆっくりしたいです」


「そうしてちょうだい。今回は短かったから」


 短かった——という言葉に、ミユキは少し胸が痛んだ。帰郷期間はそれなりの日数があったはずなのに、領地の用事や森の調査で、純粋に家族と過ごした時間は思ったより少なかった。


「次はもっとゆっくりします。約束します」


「……楽しみにしてるわ」


 カタリーナは微笑んだ。


 フリードリヒが、パンを千切りながら言う。


「ミユキ、なにかあったらすぐに連絡しろよ。手紙でも使者でも、どっちでもいい。すぐに駆けつけるから」


「……お兄様、それは今回で何度目ですか」


「五回目か六回目か、まあそのあたりだな」


 ソフィアが吹き出した。


「自分で分かってるんじゃない、フリードリヒ!」


「分かってても言う。大事なことは繰り返すもんだ」


「騎士の心得みたいに言わないでください……」


 ミユキは苦笑したが、悪い気はしなかった。フリードリヒが口癖のように同じことを言うのは、それだけ心配しているからだ。そういう不器用な過保護さが、お兄様らしいとも思う。


「分かってます。何かあったら連絡します」


「約束だからな」


「はい、約束します」


 フリードリヒはそれで満足したのか、パンを口に入れた。


 その隣で、ソフィアがこっそりミユキの袖を引っ張った。


「ミユキ、手紙書いてね? 私にも送ってね」


「送ります。学園の話とか」


「攻略対象の話は特に!」


「……そっちの目的!?」


「乙女ゲームの世界にいる妹がいるんだから活用しないとでしょ!」


 ミユキは声を出して笑った。ソフィアはコンピュータゲームなど全く知らないはずなのに、なぜそういうことを言うのか。冗談にしてくれているのだろう、一瞬だけ心臓が跳ねた。——けれど、冗談にすることで思いつめないようにという姉の優しさなのかもしれない。


 ◇


 食後、ミユキが荷物をまとめて玄関に下りると、アグスが入り口に立っていた。


「お嬢、ちょっと工房に来い」


 アグスが短く言う。


 ミユキは荷物を置き、ガレージ兼工房と化した離れの方へ向かう。


 そこには、黒と銀の機体があった。アグスが持ち込んでくれていた戦闘用のバイクだ。


 工房に差し込む朝の光が、装甲の質感をはっきりと浮かび上がらせる。流線型の外装。厚みのある前面装甲。フレームの随所に刻まれた魔法陣——以前より完成度が上がっていた。


「マルコの商会に話してある。学園の近くに商会の倉庫があるから、そこへ届けてもらう手配が済んでる。着いたら他人がいじる前に必ず受け取れ」


「分かりました」


「魔導砲の使い方はここで教えておく。そう複雑じゃない——サイドのグリップを押しながら、魔力を注いだら自動で発射される。照準は直感で合わせろ、集中して魔力を送れば大体合う。このあたりのセンスはお嬢にある」


「自分の魔力を使うんですか?」


「そうだ。蓄積魔石も積んであるが、お嬢の魔力の方が精度が高いだろう。緊急時は蓄積魔石で充分だから状況で使い分けろ」


 ミユキは機体のサイドに触れた。装甲が少し振動した——魔法陣が呼応したのだ。すでに自分の魔力を認識している。


「調整、してくれてたんですね」


「お嬢専用だからな。他の奴が乗っても使いにくいようになってる」


 ぶっきらぼうに言ったが、その「専用」という一言に、ミユキはつい嬉しくなってしまった。限定や専用という特別感には弱い。


「アグスさん、ありがとうございます」


「お礼は完成させてからにしてくれ。学園に着いたら魔法陣の最終調整を頼む。俺には細かい最適化は難しい。お嬢の方が向いてる作業だ」


「やります。必ず」


「頼んだぜ」


 アグスが顎をしゃくって、表へ出ていく、これから町に向かうのだろう。


 ミユキは機体と向き合ったまま、少しの間だけそこに立っていた。


 黒と銀の装甲が、なんとなく、夢の中で見た隼人の装甲と色が似ていると思った。


 ◇


 出発の準備が整って、屋敷の門に家族が集まる。


「気をつけてね」


 カタリーナがミユキを抱きしめた。腕の力が、帰ってきた時より少しだけ強かった——離すまいとするような、静かな強さだった。胸元でゆっくりとした呼吸の動きが感じられる。確かな思いが、言葉より先に伝わってきた。


「はい。お母様も、お体に気をつけてください」


「あなたほうこそ、ね。こっちがそう言いたいくらいよ」


 放してから、カタリーナはミユキの顔をしばらく見た。何かを確かめるように。それから静かに微笑んだ。


「行ってらっしゃい」


「行ってきます」


 ソフィアが前に出て、ミユキの両手を握った。


「ミユキ、手紙送ってね。毎日じゃなくていいから、時々でいいから」


「送ります。ソフィアお姉様も送ってください。領地の話、聞きたいので」


「もちろんよ! じゃあ週に一回くらい交換しましょう!」


「……週に一回は少し多いかもしれませんが、努力します」


「努力じゃなくてやってよ」


 笑いながら押し問答になっているところに、フリードリヒがそっと割り込んできた。


「ソフィア、時間が」


「分かってるわよ! ミユキ、愛してるわよ!」


「は、はい……ありがとうございます、ソフィアお姉様」


 ソフィアが離れると、フリードリヒがミユキの前に立った。


 今度は何度目の台詞が来るのかと身構えたが——フリードリヒは少しの間、黙っていた。


「……すまなかった」


「え?」


「学園ではあまり時間が合わせられなかったこと——ずっと申し訳ないと思っていたんだ。お前を置いて、騎士団の訓練を優先して」


 ミユキは目を見開いた。


 フリードリヒが謝罪を口にすることは、ほとんどない——少なくとも、こういう形で。


「お兄様、それは……」


「騎士になるには実地訓練が必要だった。分かってる。でも、お前が学園で頑張っている間、俺は一度も様子を見に行けてない」


 ミユキは首を横に振った。


「お兄様のせいじゃないです。私だって、お兄様に来てほしいなんて頼みませんでしたし」


「言えないから言わないんだろう」


「……それは」


「まあいい。ただ——俺はお前の兄だ。忘れるな」


 フリードリヒがミユキの頭に手を置いた。子どもの頃から変わらない仕草だ。


「何度でも言う。何かあったら連絡しろ。学園の連中だろうと貴族だろうと、ミユキに手を出す奴には俺が行く」


「……七回目ですね」


「これから毎日言うぞ」


「それは困りますよ」


 ミユキは笑った。笑いながら、目頭が少し熱くなった。


 ◇


 セバスチャンは、屋敷の門の横に立っていた。家族の見送りに加わるのではなく、一歩引いた位置で待っている——いつもの距離の保ち方だ。


 ミユキが近づくと、セバスチャンはわずかに頭を下げた。


「お嬢様、今回はゆっくりとお時間を取っていただきありがとうございました」


「こちらこそ。色々と話せて良かったです」


 セバスチャンが少し間を置いた。


「お嬢様」


「はい」


「……何か起こる予感がします」


 ミユキは真顔になった。セバスチャンが「予感」という言葉を使うことは珍しい。この人は普段、曖昧な表現を避ける。確認したことだけを、必要なだけ言う。それがセバスチャンという人物だ。


「根拠があっての話ですか?」


「確かな根拠はありません。ただ——昨日お伝えした結界の状況と、長年の勘を合わせると、という話です」


「学園で気をつけろ、ということですか」


「はい。ただ、気をつけろとだけ言っても意味がありませんので」


 セバスチャンは言葉を選ぶような間を置いた。


「お嬢様が何かを感じた時、それを流さないでください。以前のように『気のせいかもしれない』と片付けず、記録し、信頼できる方に報告してください」


「……分かりました」


「ヴィクトール先生への連絡も、私の方で準備を進めます。お嬢様の学園での見守りを、正式につないでおきます」


「ありがとうございます」


「お気をつけて」


 セバスチャンは深く頭を下げた。


 ミユキは会釈を返してから、魔動バイクの方へ向かった。


 ◇


 こちらは戦闘用の機体ではなく、いつもの愛車、ジルバーヴィンドだ。領地で何度も乗ってきた、自分の相棒。


 跨り、魔動機関を起動する。魔法陣が静かに反応し、魔力が馴染む、あの感触。


『行こう』


 アクセルを握る。


 後ろを振り返ると——屋敷の門のところで、カタリーナ、ソフィア、フリードリヒが並んでいた。三人が手を振っている。


 ミユキも、片手を上げた。


「いってきます!」


 バイクを走らせ始めた。


 砂利道からなだらかな坂をくだり、領地の街道へ出る。しばらくは農地が続き、その先に林がある。このあたりの景色は、子どもの頃から何も変わっていない。


 街道をある程度進んでから、ミユキは一度だけ振り返った。


 屋敷の影は、もう見えなかった。


 でも、さっきの三人の姿が網膜に残っている。手を振っていた、あの姿が。


『絶対に守る』


 空に目を向けた。


 朝の空は澄んでいた。大月と小月が、それぞれの位置に並んで浮いている——昼の空でもかすかに見える、この世界ならではの光景だ。なんとも不思議な二つの月が、いつもそこにある。


 でも——今朝は、その光がわずかに揺らいでいた。


 気のせいかと思って見直す。揺らいでいる。星の光が大気の乱れで滲むように、月の輪郭がほんのわずかぼやけていた。


 ミユキは眉を寄せた。


 以前のミユキなら「気のせいかも」と流していたかもしれない。でも今は、流さない——セバスチャンの言葉と、自分の決意がそれをさせない。


 これも、観察して記録する。


『何かが、動いてる』


 確信は薄い。でも、感触はある。


 バイクの速度を少し上げた。


 学園に戻ったら、調べることがたくさんある。魔法陣の観察、ヴィクトール先生への接触、プログラマブル魔法陣使った解析の続き——やることは山積みだ。


 でも今は、ただ走る。


 領地の風を切りながら、ミユキは前だけを向いた。


 草の匂い。土の感触。慣れた街道の振動。


 空では、大月と小月がまだ揺らいでいた。



**あとがき**


さぁて、徐々に緊張が高まってまいりましたねぇ。


次回からいよいよ! と言いたいところなのですが、すいません、連休中書き溜めるつもりがいろいろ忙しくてストックが乏しくなってまいりました。


毎日更新していましたがちょっとまた間あけてしまうかもです。


可能ならなにかでっち上げますが(ぉぃ)上手くまとまらなかったら数日お休みするかもです。

それでも続きのプロットはしっかりできていますので、ちょっとだけ待っててくださいませ(´・ω・)(・ω・`)ネー


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