バトルライダーシステム
### 6-6 バトルライダーシステム
セラフィエルが去ってから三日が経過した。
隼人と蓮は、美幸のマンションで開発マシンの前に座り込んでいた。
床には工具、ケーブル、基板が散乱している。蓮のノートPCからは、複雑なプログラムのコードが流れ続けている。
「通信の安定化は成功した。あとは R.I.D.E.R.——投影システムの実装だけだ」
蓮は、モニターに表示された設計図を指差した。
「R.I.D.E.R.?」
「Remote Imprint Dimensional Embodiment Relay——遠隔刻印・次元的実体化中継ってとこか。意識だけを異世界に送る技術だ」
「なんだそのカッコいい名前……」
「クロノスが命名したんだろう。しかし、これがまた難しい」
蓮は、ホワイトボードに複雑な数式を書き始めた。
「量子もつれ通信だけじゃ足りない。意識の『実体化』が必要なんだ」
「実体化?」
「魂のデジタル化と再構築。オメガがやってる転生技術の部分的な応用だ」
蓮は、眼鏡を押し上げた。
「だが、いまは完全転送じゃなくて一時的な投影だから、リスクは低い……はずだ」
「はず、って……」
隼人が苦笑する。
◇
その時、開発マシンのモニターが光った。
「また接続が!」
蓮が反射的にキーボードを叩く。
モニターに美幸の姿が映る——異世界のミユキ、まだ顔立ちに幼さが残る銀髪の美少女だ。
『お兄ちゃん……聞こえる?』
隼人は、モニターに駆け寄った。
「美幸! ああ、聞こえる!」
『よかった……また繋がった』
ミユキの声は、安堵と喜びに満ちている。
「美幸、無事か? 怪我はないか?」
『大丈夫。私は元気だよ。それより……お兄ちゃん、まだ私を探してくれてるの?』
「当たり前だ。お前を連れ戻すまで、俺は諦めない」
ミユキは、寂しそうに微笑んだ。
『でも……私、もうここで生活してるから……』
「何を言ってる。お前は俺の妹だ。必ず——」
通信が途切れた。
「美幸!」
隼人が画面に手を伸ばす。
「ダメだ。接続時間が限界だ」
蓮が、残念そうに呟く。
隼人は、拳を握りしめた。
「くそ……もっと長く話したかった」
「大丈夫だ。バトルライダーシステムが来れば、もっと長く接触できる」
蓮は、隼人の肩を叩いた。
◇
翌朝、玄関のチャイムが鳴った。
隼人が応対に出ると、配達員が大きな黒いケースを運んできた。
「志藤隼人様、お荷物です」
隼人は受け取ると、差出人の欄を確認した。
そこには「C.T.」とだけ書かれている。
「C.T.……クロノス・テンポラリスか?」
蓮が興味深そうに覗き込む。
二人は、ケースをリビングに運び込んだ。
蓮がケースを開けると——中には銀色のベルトと、複数のカードが入っている。
「これが……バトルライダーシステム……」
隼人は、ベルトを手に取った。
◇
ケースの中に、手紙が入っていた。
蓮が読み上げる。
「『志藤隼人へ。時の神クロノスより。これが君に授けるバトルライダーシステムだ』」
「『使用方法は同封の説明書を参照せよ。だが、一つだけ警告しておく』」
「『このシステムは君の意志と決意に応じて力を発揮する』」
「『迷いがあれば、システムは起動しない。覚悟を決めろ』」
隼人は、ベルトを見つめた。
「これで……美幸のところに行けるのか」
「説明書を見てみよう」
蓮は、分厚いマニュアルを取り出した。
◇
蓮が説明書を読み上げる。
「『クロノスドライバー——時空間跳躍用変身ベルト』」
「『起動方法:腕時計モードから展開、腰部に自動装着』」
「『ライダーカードを挿入することで変身』」
「『基本フォーム——時の騎士』」
「『能力:時間操作(限定的)、異世界投影、身体能力強化』」
「すげえ……これ、本当に動くのか?」
蓮は、目を輝かせた。
「試してみるしかない」
隼人は、ベルトを腕時計モードにセットした。
◇
ケースには、三枚のカードが入っていた。
蓮がカードを読み上げる。
「『時の騎士』——基本フォーム」
「『投影の刃』——異世界投影専用」
「『加速装甲』——高速戦闘特化」
「これを使い分けるのか」
隼人が、カードを手に取る。
「なるほど、状況に応じてフォームチェンジするわけだ」
蓮が、ニヤリと笑った。
◇
隼人は、ベルトを腕時計モードにセットした。
「システム起動」
腕時計が光り、ベルト形態に展開する。
自動的に隼人の腰に装着された。
「すげえ……」
蓮が息を呑む。
隼人は、「時の騎士」カードを手に取った。
「カード……挿入」
ベルトにカードをスライドする。
ベルトから、機械的な音声が響いた。
『Card Accept——Time Knight』
ベルト中央の時計盤が回転し始める。
隼人の体が光に包まれた。
装甲が実体化していく——銀と黒のライダースーツ、時計をモチーフにしたデザイン。
「隼人……お前、本当にライダーヒーローになってる……」
蓮が、呆然と呟く。
「これが……バトルライダー……」
隼人は、自分の手を見た。
◇
隼人は、試しにパンチを放った。
室内の空気が揺れた。
「パンチ力五トンだって。人間じゃねえ」
蓮が、説明書を見ながら呟く。
隼人は、軽くジャンプする。
が、そのまま天井に頭を付きそうになり、慌てて両手で天井を抑え、着地する。反射神経も鋭くなっているようだ。
「ジャンプ力三十メートルだとさ……ビルの十階まで届くぞ」
蓮が、驚愕する。
「これなら……あの怪人ども、オメガの工作員と戦える」
隼人が、拳を握る。
「ああ。でも、本番は異世界投影だ」
蓮は、開発マシンに向き直った。
◇
「開発マシンを『ゲートウェイ』として使う」
蓮は、ケーブルをバトルライダーベルトに接続した。
「お前の意識をデジタル化して、異世界に送る」
「準備はいいか?」
「ああ」
隼人は、「投影の刃」カードをベルトに挿入した。
ベルトから、再び音声が響く。
『Card Change——Projection Blade』
装甲の色が変化した——透明感のある銀色に。
「開発マシン、ゲートウェイモード起動」
蓮が、キーボードを叩く。
モニターが激しく点滅する。
「量子もつれ通信……確立。R.I.D.E.R.システム……起動!」
開発マシンから、緑色の光が立ち上る。
「投影プロトコル……開始」
隼人の体が、光の粒子に分解されていく。
「これが……投影……」
「行ってこい、隼人。時間は五分だ」
◇
光に包まれる隼人。
意識が引き伸ばされる感覚——まるで高速でトンネルを抜けるような。
次の瞬間——周囲の景色が変わった。
森の中、月明かりに照らされた小道。
「ここが……異世界……」
隼人は、周囲を見回した。
蓮の声が、骨伝導イヤホンから聞こえる。
『隼人、聞こえるか?』
「ああ、聞こえる」
『投影成功だ。残り時間四分三十秒』
「美幸はどこだ?」
『マシンのログによれば、近くにいるはずだ。魂の共鳴を辿れ』
隼人は、周囲を見回した。
遠くに、建物の灯りが見える。
「あそこか……」
◇
隼人は、全力で走った。
バトルライダーの身体能力で、超高速移動する。
木々が後方に流れていく。
『残り三分! 急げ!』
蓮の声が、焦燥を帯びる。
隼人は、屋敷の庭園に到達した。
庭で、誰かが魔法の実験をしている。
銀髪の少女——。
「美幸……!」
少女が、振り向いた。
ミユキ・フォン・ヴェルナー。
「誰……?」
隼人は、駆け寄ろうとした。
だが——。
『ダメだ! 時間切れだ! 強制帰還!』
蓮の声が響く。
隼人の体が、光の粒子に分解され始める。
「待ってくれ! 美幸!」
「お兄……ちゃん……?」
ミユキの声が、遠くなる。
隼人の視界が、白く染まった。
◇
気がつくと、隼人は美幸の部屋で膝をついていた。
「大丈夫か?」
蓮が、肩を支える。
「ああ……見えた。美幸を、確かに見た」
隼人は、荒い息をついた。
「接触は?」
「できなかった。時間が足りない」
隼人は、立ち上がった。
「でも、次は必ず」
「五分じゃ短すぎる。投影時間を延ばす方法を考えよう」
「頼む」
◇
蓮は、データを解析し始めた。
「問題点が見えてきた」
蓮は、ホワイトボードに数式を書く。
「投影時間の制限——現状五分が限界」
「これはエネルギー供給の問題だ。開発マシンの出力が足りない」
「どうすればいい?」
「魔法石……異世界のエネルギー源があれば、出力を上げられる」
蓮は、眼鏡を押し上げた。
「あとは、お前自身の訓練だ」
「バトルライダーの能力を完全に引き出せれば、投影も安定する」
「わかった。訓練する」
「それと……もう一つ問題がある」
蓮の表情が、厳しくなった。
「さっきの投影、オメガに察知された可能性が高い」
「オメガが?」
「ああ。異世界でも監視してるはずだ」
蓮は、モニターに警告表示を出した。
「美幸の近くに異常な魔力反応——つまりお前が現れたら、奴らは気づく」
「じゃあ、次に襲ってくるのは……」
「美幸のほうだろう。オメガは彼女を排除するか、利用するか決断するにちがいない」
◇
隼人は、拳を握った。
「その前に実体化をめざそう。美幸を守る。それが俺の使命だ」
「ああ。でも無茶はするな」
「わかってる。だが、美幸のためなら——」
「命を捨てるな。生きて助けろ」
蓮が、隼人の肩を掴む。
「……ああ。そうだな」
モニターに向き直る蓮。
「俺は美幸ちゃんともっとしっかり話せるように、システムを改良する」
「頼む」
「任せろ。お前は身体を鍛えておけ」
蓮が、ニヤリと笑った。
「バトルライダーの力を、完全にコントロールできるようになれ」
「やるさ。こうみえてもライダーのプロなんでね。伊達じゃねえところを見せてやる」
隼人も不敵に笑った。
二人の決意は、固かった。
次こそは——美幸に会える。
そう信じて。
*あとがき*
とうとうバトルライダー登場です!! 本当はバトルじゃなくてそこは漢字二文字だったんですけど、大人の事情でバトルなのです。
名前の通りしっかりバトルしてもらいたいところですねー。




