セラフィエル降臨——神からの啓示
### 6-5 セラフィエル降臨——神からの啓示
美幸との通信に成功した翌朝。
隼人は久しぶりに深い眠りから目覚めた。
蓮は相変わらずモニターの前に座っているが、目は血走っている。
「蓮……まだ寝てないのか」
隼人が声をかけると、蓮はようやく画面から目を離した。
「オメガのデータ解析を続けてた。あと、美幸ちゃんとの通信を安定化させる方法を探してる」
隼人は蓮の肩に手を置いた。
「無理するなよ」
「お前もな。さっき寝言で『美幸』って何度も呼んでたぞ」
二人は苦笑する。
◇
その時、開発マシンのモニタリング・アラートが再び点滅した。
蓮は反射的にキーボードに手を伸ばし、リモート接続する。
「また接続が? でも、今回は俺が信号を送ったわけじゃない……」
モニターに映像が映った。
だが、美幸ではない。
白い空間に、一人の老人が立っている。
「誰だ……?」
隼人が警戒する。
老人は、画面越しにこちらを見て微笑んだ。
『志藤隼人君、そして桐生蓮君。初めまして』
二人は驚愕して立ち上がる。
◇
「何だこれ……VNC映像がハックされた!?」
蓮が画面を凝視する。
『落ち着きたまえ。私は敵ではない』
「あんたは……誰だ」
隼人が低い声で問う。
『私の名はセラフィエル。転生管理局の事務官だ』
「転生管理局……?」
蓮が眉をひそめる。
『君たちが探していた答えの一部を、私は持っている』
セラフィエルの声は穏やかだが、威厳がある。
『これから君たちの前に姿を現そう。驚かないでくれたまえ』
画面が光り——その光が部屋に溢れ出す。
光の中から、老人が実体化した。
隼人は反射的に身構える。
「驚かせてすまない。だが、直接会って話す必要があった」
セラフィエルは、穏やかに微笑んだ。
◇
「どうなってんだ? あんたいったい誰だ?」
蓮が警戒しながら尋ねる。
「私は君たちが『神』と呼ぶ存在といっていいだろう。厳密には、神々の世界の住人の一柱だな」
セラフィエルは、ゆっくりと椅子に座った。
「座りたまえ。長い話になる」
隼人と蓮は、警戒しながらも座った。
セラフィエルは、深く息をついた。
「まず、志藤美幸について」
隼人の体が緊張する。
「彼女の転生は——我々の管理下で行われたものではない」
「どういうことだ」
隼人が前のめりになる。
「本来、死んだ魂は私たち転生管理局が管理する」
セラフィエルは、静かに語り始めた。
「記憶を消去し、同じ世界——つまり地球上で転生させる。これが自然の摂理だ」
蓮がメモを取り始める。
「だが、最近は魂の処理が追いつかない。その隙をオメガが突いてきた」
「オメガ……」
隼人が歯噛みする。
◇
「オメガ=ℕ・ロジスティクスは、我々のシステムの脆弱性を利用している」
セラフィエルの声に、疲労と後悔が混じる。
「処理待ちの魂を横取りし、記憶を保持させたまま異世界に送っている」
「これは重大な犯罪だ。多元宇宙の秩序を乱す行為だ」
「なぜそんなことを?」
蓮が尋ねる。
「世界を不安定化させるためだろう」
セラフィエルは、悲痛な表情を浮かべた。
「記憶を持った転生者は、世界に備わったナラティブ、『物語性』を破壊する」
「オメガの真の目的は、多元宇宙全体の秩序を崩壊させ、転生ビジネスを独占することだ」
隼人は拳を握りしめた。
「美幸は……その実験台にされているのか」
「ああ」
セラフィエルは静かに頷いた。
◇
「だが、オメガは大きな誤算を犯した」
セラフィエルは振り返り、リモート接続表示されている美幸の開発マシンの画面を見た。
「彼女は転生先の世界の『創造者』だった」
「創造者……?」
蓮が顔を上げる。
「我々神々は、地球の創作物を参考に新しい世界を創造する」
「なんだって?」
セラフィエルは、ゆっくりと説明した。
「君たちが生み出す多くの物語、小説、戯曲、コミック、ゲーム、映画——それらの情報は『世界の雛形』として神界に蓄積される」
「そして優れた設定は、実際の世界として具現化されるのだよ」
「美幸のゲーム『エターナル・クラウン』が……?」
隼人が息を呑む。
「その通りだ。エルデリア大陸世界は、そのゲームの設定を元に構築された」
セラフィエルは、穏やかに微笑んだ。
「美幸は自分が創った世界に転生してしまったのだ」
◇
「だから……美幸ちゃんの開発マシンが異世界と繋がってるのか」
蓮が理解を示す。
「彼女の魂が転生した際、あのマシンが『アンカー』になった」
セラフィエルは、開発マシンのバーチャルコンソールを指さした。
「世界の創造者である彼女の記憶と創造性が、マシンに刻まれている」
「あれは地球と異世界を繋ぐ『扉』だ」
蓮は、バーチャルコンソールを見つめた。
「そして、おそらく彼女は『世界の設計者』として、世界の根幹にアクセスできるはずだ」
「オメガは彼女に世界を破壊させるつもりだったのだろうが……」
セラフィエルは、わずかに笑った。
「彼女は逆に、世界を『デバッグ』している」
「デバッグ……」
隼人が呟く。
「プログラマーとしての本能だろう。バグを見つけると修正せずにはいられないようだな」
「結果、エルデリア大陸世界は以前より安定している」
セラフィエルは、感心したように頷いた。
◇
「本来なら、我々が直接介入すべきだった」
セラフィエルの声に、自責の念が滲む。
「だが、神々の間にも派閥がある」
「保守派は『人間の世界に干渉すべきでない』と主張している」
「私は事務方の身。戦闘能力はない」
「じゃあ、どうやって美幸ちゃんを助ける?」
蓮が前のめりになる。
「君たち人間の力を借りるとしよう」
セラフィエルは、二人を見た。
「中立派の神、クロノスが君たちに興味を持っている」
「時間と運命を司る神だ。彼は『面白い展開』を好む」
「面白い……展開だと?」
隼人が眉をひそめる。
「君と美幸の物語——兄妹の絆が世界を救う展開を、彼は『面白い』と判断したようだ」
セラフィエルは、苦笑した。
◇
「クロノスは『バトルライダーシステム』を開発している」
「バトルライダー……?」
蓮が首を傾げる。
「地球の創作物——ライダーヒーローのコンセプトを応用したものだ」
セラフィエルは、立ち上がった。
「変身能力を得て、異世界に物理的に干渉できる」
「変身……?」
隼人が驚愕する。
「肉体ごと異世界に送るのは危険すぎる。君はまだ地球で生きているのだから」
「だが、『投影体』としてなら可能だ」
「バトルライダーに変身し、異世界に短時間だけ出現できる」
◇
「投影……VRみたいなものか?」
蓮が興味深そうに尋ねる。
「似ているが、より実体に近い。志藤隼人の意識と魔力が異世界に投影される」
「物理的な攻撃も可能だ。オメガの工作員と戦うこともできる」
「それで美幸を守れるのか?」
隼人が身を乗り出す。
「ああ。オメガは必ず美幸を狙ってくるだろう」
セラフィエルは、厳しい表情になった。
「彼女の能力を利用するか、あるいは排除するか、それは分からないが……」
「君が彼女を守り、オメガの計画を阻止することができれば……」
「その功績により、正規の転生許可が下りるかもしれない」
「正規の転生……つまり、投影ではなく実際に異世界に行けるってことか?」
隼人の声が震える。
「完全な転生には、クロノスの許可が必要だ」
「だが、君が功績を上げれば、可能性は高い。あの高速道路でのバトルはクロノスを感心させたようだな」
「畜生、こっちは命懸けだったってのに。エンタメ扱いかよ……。とはいえ、プロライダー的には見世物上等ってところだな」
隼人が苦笑した。
◇
「ただし、完全な接続には時間がかかる。段階的に進める必要がある」
セラフィエルは、指を折りながら説明した。
「第一段階:映像の観察——すでにクリア済みだ」
「第二段階:音声通信——これも君たちは成功させた」
「第三段階:バトルライダーとしての短時間出現」
「そして第四段階:完全な物理転送——これはクロノスの許可が必要」
「どれくらいかかるんだ?」
隼人が尋ねる。
「君たちの努力次第だ。早ければ数週間、遅ければ数ヶ月」
セラフィエルは、厳しい表情を浮かべた。
「だが、時間をかけすぎるとオメガが先に動くだろう」
◇
「俺は?」
蓮が手を挙げる。
「君は地球側のサポートだな」
セラフィエルは、蓮に向き直った。
「美幸の開発マシンを通じて、異世界との接続を維持する」
「君の技術力が必要だ。量子通信の安定化、バトルライダーシステムの調整……」
「なるほど、ライダーでいう『おやっさん』役か」
蓮は、ニヤリと笑った。
「その表現は正確だ」
セラフィエルも、微笑んだ。
「わかった。美幸ちゃんを助けるために、全力を尽くそう」
「良い友人を持ったな、隼人」
「ああ」
隼人は、蓮の肩を叩いた。
◇
セラフィエルは、立ち上がった。
「では、準備を始めよう」
「バトルライダーシステムの試作品は、数日以内に届く」
「それまでに、美幸との通信を安定化させておくことだ」
「わかった」
隼人が頷く。
「一つ警告しておく」
セラフィエルの表情が、厳しくなった。
「オメガはすでに、君たちの動きに気づいている可能性が高い」
「今後、地球でも襲撃があるかもしれない」
「覚悟はできてる」
蓮が眼鏡を押し上げる。
「頼もしい。では、私はこれで」
光に包まれ、セラフィエルの姿が消える。
部屋には、再び静寂が戻った。
◇
隼人と蓮は、向き合った。
「神様が出てくるとはな……」
蓮が、疲れた表情で笑う。
「ああ。でも、これで道筋が見えた」
隼人も、笑った。
「バトルライダーシステムか……楽しみだな」
「お前、ワクワクしてるだろ」
「当然だろ。本物のライダーヒーローだぞ」
蓮は、目を輝かせた。
隼人も、笑った。
「美幸を助けるためだ。遊びじゃない」
「わかってるよ。だが、ワクワクすることと真剣なことは両立する」
蓮は、モニターに向き直った。
「美幸ちゃんを助ける。そのために最新技術と神の力を使う」
「こんな面白いこと、滅多にないぜ」
「……そうだな」
隼人も、モニターを見た。
画面には、まだ美幸の開発したゲームのタイトル画面が映っている。
二人は、拳を合わせた。
「行くぞ、蓮。美幸を助けに」
「ああ。後方支援はまかせろ」
二人の決意は、固かった。
これから始まる戦いに向けて——。
地球側の準備が、着々と進んでいた。




