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悪役令嬢はデバッグしたい ~転生したら作りかけの乙女ゲームの悪役令嬢だったので、前世の知識で世界をデバッグすることにしました~  作者: 神楽坂らせん
第六章:現実世界パート——隼人の闘い

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攻略

### 6-4 攻略


 オメガの追跡者から逃れてから、三日が経過した。


 隼人は蓮のマンションに居候していた。自宅に戻るのは危険だと判断したためだ。蓮の部屋は要塞のように電磁シールドで守られており、オメガの追跡からは逃れられる。


 この三日間、蓮は不眠不休でオメガのネットワークを追跡していた。


 ◇


 深夜三時。蓮の部屋は青白いモニターの光に満たされている。


 隼人はソファで仮眠を取っていたが、キーボードを叩く音で目を覚ました。


「蓮……まだやってるのか」


 声をかけると、蓮は画面から目を離さずに答えた。


「ああ。もうすぐだ……もうすぐ奴らの尻尾を掴める」


 蓮の目の下には、濃いクマができていた。三日三晩、ほとんど眠っていない。だが、その瞳は鋭く光っていた。


 隼人は立ち上がり、蓮の隣に座った。


「何か分かったのか?」


「オメガの通信パケットを傍受した。奴ら、普通のIPアドレスじゃない」


 蓮は画面に複雑なデータを表示させた。


「複数のプロキシを経由して、世界中を転々としてる。Torどころじゃない。これは……量子通信の痕跡だ」


「量子通信?」


「理論上は可能だが、商用化されてない技術だ。奴ら、どこでこんな技術を……」


 蓮は顎に手を当て、考え込んだ。


「異世界の技術かもしれない」


「……なるほど」


 隼人は、三日前に見た怪人の顔を思い出した。昆虫のような複眼。あれが人間のはずがない。


「で、何が分かったんだ?」


「データの一部に、地理座標らしき数値列を発見した」


 蓮はキーボードを叩き、衛星写真を画面に表示させた。


「これが……東京湾岸エリアだ」


 画面には、巨大な倉庫群が映っていた。コンテナが積まれ、大型トレーラーが行き交う物流拠点。


「オメガ・ロジスティクスの日本支部……見つけたぞ」


 蓮の声には、確信があった。


 ◇


 隼人は衛星写真を凝視した。


 倉庫群の中央に、特に大きな建物がある。周囲には高いフェンスが張り巡らされ、監視カメラが設置されている。


「セキュリティは?」


「半端ない。監視カメラ、赤外線センサー、それに……」


 蓮は別のウィンドウを開いた。そこには、警備システムの配置図が表示されている。


「こいつは軍事施設並みだ。物理的侵入は無理だな。危険すぎる」


「どうやってこの配置図を手に入れたんだ?」


「オメガのサーバーに侵入したのさ。ついさっきな」


 蓮は淡々と答えた。


「侵入? 危険じゃないのか?」


「もう遅い。奴らは俺を監視してる。だったら、先手を打つしかない」


 蓮は画面に、複雑なコードを表示させた。


「奴らのサーバーには『守護者ガーディアン』がいた。AIじゃない。何か……別のものだ」


「別のもの?」


「自我を持ってる。俺の侵入を検知して、反撃してきた。だが……」


 蓮は、かすかに笑った。


「俺のほうが一枚上手だった」


 ◇


 蓮の説明によれば、オメガのサーバーは異常なセキュリティで守られていた。


 通常のハッキング手法は一切通用しない。ファイアウォールは、まるで生き物のように反応し、侵入者を排除する。


 だが、蓮はその弱点を見つけた。


「奴らのシステム、量子通信を使ってる。それは強みでもあるが……弱点でもある」


「どういうことだ?」


「量子通信は、観測されると状態が変化する。つまり、盗聴されたことが分かる」


 蓮は、キーボードを叩きながら続けた。


「だから奴らは、常に通信を監視してる。だが、それは逆に言えば……監視システムに隙がある」


「隙?」


「監視する側も、観測されたら状態が変わる。俺はその瞬間を狙った」


 蓮は画面に、複雑な波形を表示させた。


「量子もつれを利用して、奴らの監視システムを一瞬だけ欺いた。その隙に、データを抜き取った」


 隼人は、蓮の技術力に改めて感心した。


「で、何が分かった?」


「オメガの日本支部は、東京湾岸の倉庫にある。そして……」


 蓮は別のファイルを開いた。


「これを見てくれ。転生システムのデータを手に入れたぞ」


 ◇


 画面には、複雑な設計図が表示されていた。


 巨大な円形の幾何学模様。中央には、魔法陣のようなパターンが刻まれている。


「これが……転生システム?」


「ああ。奴らはこれを使って、盗んだ魂を異世界に送り込んでる」


 蓮は設計図を拡大した。


「やはり地球の、少なくとも既知の技術じゃない。魔法陣が組み込まれてる」


「魔法陣……」


「美幸ちゃんが開発してたゲーム、『エターナル・クラウン』の設定にあった魔法陣と似てるんだよな」


 蓮は、別のウィンドウに美幸の開発資料を表示させた。


「これを見ろ。美幸ちゃんが設計した魔法陣と、転生システムの魔法陣……構造が酷似してる」


 隼人は画面を見比べた。確かに、よく似ている。


「どっちが先なのかよくわからんが……何というか、つまり……美幸の開発したゲームの世界が、実在するってことか?」


「その可能性はあるな」


 蓮は、転生システムのデータをさらに解析した。


「そして……ここに転送履歴がある」


 画面には、無数のログが表示された。


「実験体01……志藤美幸」


 蓮の声が、震えた。


「美幸ちゃんの名前だ」


 隼人は、画面を凝視した。


 そこには、美幸が「実験体01」として記録されていた。転送先は「エルデリア大陸世界」。転送日時は、——美幸が行方不明になった日だ。


「生きてる……美幸は、生きてるんだな」


 隼人の声は、かすれていた。


「ああ。異世界で、生きてる」


 ◇


 蓮は、さらにデータを解析した。


「オメガの計画は、複数の異世界に転生者を配置することだ。目的は……世界の崩壊」


「世界の崩壊?」


「転生者を使って、異世界の物語性を破壊するんだそうだ。そうすれば、神々の管理能力が限界に達する」


 蓮は、オメガの内部資料を表示させた。


「奴らは、転生管理局のシステムが過負荷状態なのを利用してる。神々が対処しきれなくなれば、転生ビジネスを有利に展開できるんだとさ」


「そんなことが……」


「美幸ちゃんは、その実験体の一人だ」


 蓮は、美幸の実験記録を開いた。


「実験体01・志藤美幸。職業:プログラマー。選定理由:論理的思考と専門知識。期待される効果:魔法システムの脆弱性を発見し、世界を不安定化させる」


 隼人は、拳を握りしめた。


「実験体だと……オメガの連中……許さない」


「待て、隼人。冷静になれ」


 蓮は、隼人の肩を掴んだ。


「奴らの拠点は、軍事施設並みのセキュリティだ。正面から突入するのは自殺行為だ」


「じゃあ、どうする?」


「慎重に計画を立てる。それに……」


 蓮は、遠隔監視している美幸の開発マシンのシステムデータを表示させた。


「美幸ちゃんの開発マシンが、異世界と繋がってる。これを利用すれば、美幸ちゃんと連絡が取れるかもしれない」


 ◇


 その時、開発マシンのモニタリング・アラートが点滅した。


「来たか……!」


 蓮は急いで|リモートデスクトップ接続し《VNCを開き》、録画を開始した。


 画面には、異世界の映像が映った。


 銀髪の少女——ミユキ・フォン・ヴェルナー。彼女は魔動バイクに跨がり、領地を疾走していた。


 その横顔は、確かに美幸だった。


「美幸……」


 隼人は、画面に手を伸ばした。


 だが、映像は数秒で消えた。


「録画できたか?」


「ああ。そして……何か、送信されてる」


 蓮は、開発マシンのログを確認した。


「美幸ちゃんの魂と、あのマシンが量子もつれ状態にある。だから、こうして映像が送られてくる」


「量子もつれ……」


「簡単に言えば、距離に関係なく繋がってる状態だ。美幸ちゃんの魂が、あのマシンをアンカーにしてる」


 蓮は、さらに解析を続けた。


「これを利用すれば、美幸ちゃんに信号を送れるかもしれない」


「本当か?」


「試してみる価値はある。ただし……」


 蓮は、難しい表情をした。


「オメガにも検知される可能性が高い」


「構わない。美幸と連絡が取れるなら、リスクを冒す価値はある」


 隼人の決意は、揺るがなかった。


 ◇


 蓮は、特殊な送信システムを構築し始めた。


 量子もつれ通信を利用して、異世界にメッセージを送る——それは、地球の技術では不可能なはずだった。だが、美幸の開発マシンには、その可能性が秘められていた。


「これで……送信準備完了だ」


 蓮は、キーボードに指を置いた。地球の技術で美幸の部屋へトンネル接続、開発マシンを踏み台にして未知の技術で異世界へ、か細いながらも通信経路がつながった。


「何を送る?」


「まずは、単純な信号だ。美幸ちゃんが気づくかどうか……」


 蓮は、エンターキーを押した。


 美幸の部屋にある開発マシンのモニターが、激しく点滅した。


 そして——。


 画面に、文字が浮かび上がった。


『……お兄ちゃん?』


 隼人は、息を呑んだ。


「美幸……! 美幸なのか!?」


 だが、文字はすぐに消えた。


「接続が不安定だ……もう一度!」


 蓮は、再び信号を送信した。


 今度は、映像が映った。


 美幸——いや、ミユキ・フォン・ヴェルナーが、困惑した表情でこちらを見ていた。


『……これは、夢? 幻?』


 映像越しに、美幸の声が聞こえた。


「美幸! 俺だ! 隼人だ!」


 隼人は、画面に向かって叫んだ。


 ミユキの瞳が、大きく見開かれた。


『お兄ちゃん……本当に……お兄ちゃんなの……?』


「ああ、俺だ! 美幸、お前は無事なのか!?」


『私……異世界に転生して……ミユキ・フォン・ヴェルナーとして生きてる……』


 ミユキの声は、震えていた。


『でも、なんで……お兄ちゃんの声が聞こえるの……?』


「お前の開発マシンが、異世界と繋がってるんだ。だから——」


 その時、映像にノイズが走った。


「クソ、接続が切れる!」


 蓮は、必死で信号を安定させようとした。


「美幸! 聞こえるか!? 俺は必ずお前を連れ戻す! 待ってろ!」


『お兄ちゃん……!』


 ミユキの声が遠ざかり、映像が消えた。


 ◇


 開発マシンのモニターは、再び暗くなった。


 隼人は、画面を見つめたまま動けなかった。


「……美幸と、話せた」


 隼人の声は、かすれていた。


「ああ。接続は不安定だが、可能性は証明された」


 蓮は、椅子にもたれかかった。


「次は、もっと安定した接続を確立する。そして……美幸ちゃんを取り戻す方法を見つける」


「それに、これは……エンジニアとしても興味深い。量子もつれ通信が、実際に異世界と繋がってるなんてな」


「蓮……ありがとう」


「礼はいい。美幸ちゃんは、俺の妹みたいなもんだ」


 蓮は、疲れた表情で笑った。


「それより、美幸ちゃん、お前の事『お兄ちゃん』って呼んでたな。前は『兄さん』って言ってなかったっけか?」


「ふむ、そういえばそうだな……」


「見た目通り精神的にも若返ってるのかもしれねえな。まあ、可愛いじゃないか」


「ううむ、より守りがいがあるというか……増えたというか……」


「まったく、このシスコンめ」


「な、なんだと!?」


「はっはっは、ぼやくなぼやくな」


 どちらにせよ守ろうと思う想いは変わらない。男たちは笑い合った。


 ◇


 その夜、隼人は久しぶりに深い眠りについた。


 美幸が生きている。それが確認できただけで、心が軽くなった。


 だが——。


 オメガの拠点は、目の前にある。


 奴らは、美幸を実験体として利用している。


 それを許すわけにはいかない。


 隼人は、夢の中で決意を固めた。


 必ず、美幸を取り戻す。


 そのためなら、何でもする。


 たとえオメガという組織全てを敵に回しても——。


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