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悪役令嬢はデバッグしたい ~転生したら作りかけの乙女ゲームの悪役令嬢だったので、前世の知識で世界をデバッグすることにしました~  作者: 神楽坂らせん
第五章:成長の二年間

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十四歳の秋——隣接領地への長距離ツーリング

### 5-4 十四歳の秋——隣接領地への長距離ツーリング


 秋晴れの朝、ミユキは動きやすい乗馬服に身を包んでいた。


 数日前の夕食後、父から「アーベント男爵家を訪ねてみるといい」と言われていた。隣接領地との交流を経験し、領地経営の実務を学ぶため——領主家の一員としての教育の一環だ。


 そして、今回はセバスチャンが護衛として同行することも決まっている。


 離れのガレージに向かうと、銀色に輝く魔動バイク——ジルバーヴィントが、すでに準備されていた。


 魔動バイクは厩舎ではなく、離れのガレージに置いている。エンジン音が馬たちを驚かせてしまうからだ。わざわざ町の工房から通っているアグスが昨晩のうちに整備を済ませてくれたらしく、ピカピカに磨かれている。


『調子は完璧だ。遠出しても問題ない』


 アグスの書置きがジルバーヴィントに置かれている。


「ありがとうございます、アグスさん」


 手紙にお礼をそっと言うと、ミユキは魔動バイクに跨った。


 数ヶ月前に復活させたこの魔動バイクは、もう完全にミユキの相棒だった。毎朝の領地ツーリングで操縦技術も向上し、今では自在に操れる。


 そこに、セバスチャンが馬を引いて現れた。


「お嬢様、準備はよろしいですか?」


「はい。お願いします、セバスチャン」


 ガレージを出ると、エルヴィンが腕を組んで立っていた。娘を見守る父親の表情。


「ミユキ、先日も言ったが、隣接領地のアーベント男爵家では色々と見聞を広めてこい」


「はい、お父様」


「領地経営とは、単に自分の領地を治めるだけではない。隣接領地との関係、街道の管理、民の暮らし——全てが繋がっている」


「お前が学ぶべきことは、書物の中だけにあるのではない。実際に見て、感じて、考えることだ」


 ミユキは、父の言葉に深く頷いた。


『お父様は、私を領主として育てようとしてくれている』


『魔法の研究だけじゃなく、領地経営の実務も』


「わかりました。行ってきます」


「セバスチャンがついている。安全には十分に配慮してくれ」


 エルヴィンは、ふと笑みを浮かべた。


「それと——セバスチャン、置いて行かれるなよ?」


「ご心配なく」


 セバスチャンは、穏やかに応じた。


「私の馬も、なかなかの健脚です」


 ミユキは、くすりと笑った。お父様の冗談——珍しいこともある。


 ◇


 ミユキは、魔動バイクのエンジンを始動させた。


 魔法石に魔力が注入され、魔動機関が滑らかに回転を始める。プログラマブル魔法陣で改良した制御システムが、完璧に機能している。


「では、行ってきます」


 ミユキは、ゆっくりとアクセルを回した。


 魔動バイクが、滑らかに走り出す。


 セバスチャンが、馬で並走する。穏やかな表情で、護衛としての緊張感を保ちながら、周囲に気を配っている。


 屋敷を出て、領地の街道を進む。


 秋の収穫期——麦畑が黄金色に輝いている。農夫たちが、鎌を振って収穫作業に励んでいた。


「お嬢様!」


 道端で作業していた農夫たちが、手を振ってくれる。


 ミユキは、手を振り返した。


「頑張ってください!」


 魔動バイクは、麦畑を横切り、森の道へと入っていった。


 ◇


 森の中の街道は、涼しく静かだった。


 木々の葉が色づき、秋の深まりを感じさせる。小鳥のさえずりが響き、時折小動物が道を横切る。


 魔動バイクのエンジン音が、森の静寂に響く。


『気持ちいい……』


 ミユキは、前世でバイクに乗っていた時の感覚を思い出していた。


 兄の隼人と一緒に、休日にツーリングをした記憶。風を感じながら、自由に走る喜び。


『あの頃は、こんな風に自由に走れることが、どれだけ幸せか知らなかった』


『でも今は……わかる』


『この風、この景色、この世界——全てが、かけがえのない』


 魔動バイクは、森の道を軽快に進んでいく。


 セバスチャンが、後ろから見守っている。馬の蹄の音が、リズミカルに響く。


「お嬢様、この先に小川があります」


 セバスチャンが声をかけた。


「休憩しましょうか?」


「そうですね」


 ミユキは、小川のほとりで魔動バイクを停めた。


 透明な水が、岩の間を流れている。小魚が泳ぎ、水音が心地よく響く。


 ミユキは、魔動バイクから降りて、川辺に腰を下ろした。


 セバスチャンが、水筒を差し出してくれる。


「ありがとうございます」


 冷たい水を飲みながら、ミユキは周囲を眺めた。


 森の静けさ、川のせせらぎ、風の音——全てが穏やかで美しい。


「セバスチャン、この景色……本当に美しいですね」


「はい。ヴェルナー領は、自然に恵まれた土地です」


 セバスチャンは、穏やかに微笑んだ。


「侯爵様が、若い頃に領地を駆け回っておられた理由が、よくわかります」


「お父様も……」


「ええ。領地の細部まで、ご自身の目で確かめておられました」


 ミユキは、父のかつての姿を想像した。


 若き日のエルヴィンが、魔動バイクで領地を駆け巡り、民の暮らしを見守っていた姿。


『魔動バイクはすぐ故障してしまったと言っていたけれど……。きっと、お父様も、同じように感じていたんだ』


『この風、この景色——領地を守りたいという想い』


 そして、ミユキは改めて決意した。


『私も、この領地を守りたい』


『プログラマブル魔法陣の研究も、ただの学問じゃない』


『この領地、この世界のために——役立つものにしたい』


 ◇


 休憩を終えて、再びジルバーヴィントに跨る。


 森の道は、さらに奥へと続いていた。


 しばらく走ると——


「セバスチャン、あれは……?」


 ミユキは、前方の異変に気づいた。


 道の真ん中に、荷車が横転している。


 周囲に荷物が散乱し、馬が不安そうに鼻を鳴らしていた。


「事故のようです」


 セバスチャンが、すぐに馬を降りる。


 ミユキも魔動バイクを停めて、駆け寄った。


「誰かいますか!?」


 荷車の下から、うめき声が聞こえる。


「助けて……」


 荷車の下に、中年の男性が挟まれていた。茶色の髪、琥珀色の瞳、商人らしい実用的な服装。


「すぐに助けます!」


 セバスチャンが、荷車に手をかけた。


 元騎士団副団長の膂力——荷車を持ち上げる。


「お嬢様、男性を引き出してください」


「はい!」


 ミユキは、挟まれていた男性を引っ張り出した。


 見たところ、足を痛めている様子。出血はないが、痛みで顔をしかめていた。


「大丈夫ですか?」


 ミユキは、すぐに治癒魔法の魔法陣を展開した。


 ソフィアに教わった治癒魔法——複雑な魔法陣だが、プログラマブル魔法陣の理論を応用して簡略化したバージョン。


 淡い緑色の光が、男性の足を包む。


「これは……治癒魔法……」


 男性は、驚いた表情で見つめた。


「痛みが……引いていく……」


 数分後、痛みが和らいだようだった。男性は、ゆっくりと立ち上がる。


「ありがとうございます……助かりました」


「怪我の具合はどうですか?」


「おかげで、歩けるようになりました」


 男性は、深々と頭を下げた。


「私は、ルカ・ヴァンデルと申します。行商人をしております」


「私はミユキ・フォン・ヴェルナー。こちらは執事のセバスチャンです」


「ヴェルナー侯爵家の……!?」


 ルカは、驚いた表情を浮かべた。


「侯爵令嬢様が、このような場所で……しかも、私のような行商人を助けてくださるとは……」


「困っている人を見たら、助けるのは当然です」


 ミユキは、穏やかに微笑んだ。


「荷車が横転した原因は?」


「ええ……森の道の轍に車輪が引っかかって、バランスを崩してしまいまして……」


 ルカは、申し訳なさそうに頭を掻いた。


「荷物の一部が壊れてしまったかもしれません」


 セバスチャンが、散乱した荷物を確認している。


「幸い、壊れた物はないようです」


「それは良かったです」


 ミユキは、荷物を拾い集めながら尋ねた。


「ルカさん、どこへ向かっていたんですか?」


「王都から、この先のいくつかの領地へ商品を運んでいるところです」


 ルカは、荷物を整理しながら答えた。


「王都では、珍しい品物を仕入れてきました」


「王都……」


 ルカは、荷物を整理しながら、ふと思い出したように言った。


「そういえば、最近、王都で不思議な噂を聞きましてね」


「不思議な噂?」


 ミユキは、少し興味を持った。


「ええ。魔法陣が突然暴走したり、魔導具が壊れたりする事件が多発しているとか」


「不思議な事件って?」


「はい。魔法陣が突然暴走したり、魔導具が壊れたり……」


 ルカは、声を潜めた。


「半月ほど前の事件では、王都の商業地区で複数の魔法陣が同時に暴走したんです」


「同時に……?」


 ミユキは、眉をひそめた。


「ええ。それも、無関係な複数の店で同時に」


「調査の結果、全ての魔法陣に不自然な改変があったとか……」


 ミユキの心臓が、ドキリと跳ねた。


『魔法陣の改変……同時に複数……』


『偶然じゃない』


『誰かが、意図的に魔法陣を改変している?』


「その事件、詳しく調査されているんですか?」


「王宮の魔法使いが調査しているそうですが、まだ犯人は捕まっていないとか」


 ルカは、不安そうに続けた。


「魔法陣の改変——それができるのは、相当な知識を持った魔法使いだけですよね?」


「ですよね……」


 ミユキは、複雑な表情を浮かべた。


『魔法陣を改変できる魔法使い……』


『しかも、複数の場所で同時に……組織的な犯行?』


『いったい誰が……』


 ◇


 セバスチャンが、荷車の車輪を確認していた。


「車軸が損傷しています。このままでは走れません」


「困りましたね……」


 ルカは、途方に暮れた表情を浮かべた。


「お嬢様、この方の荷物を魔動バイクに積んで、アーベント家まで運ぶのはいかがでしょう?」


 セバスチャンが提案した。


「荷車の修理は、アーベント家の職人に依頼できます」


「それは名案です」


 ミユキは頷いた。


「ルカさん、アーベント男爵領まで一緒に行きましょう」


「よろしいのですか? お手間をおかけします……」


「困っている人を見過ごすわけにはいきません」


 ミユキは、荷物を魔動バイクに固定し始めた。


 幸い、荷物はそれほど多くない。セバスチャンが馬に積み、残りをミユキの魔動バイクに固定する。


「準備ができました」


「ありがとうございます……本当に……」


 ルカは、涙ぐんでいた。


「ヴェルナー侯爵家のお嬢様が、このような行商人を助けてくださるとは……一生忘れません」


「困った時はお互い様です」


 ミユキは、魔動バイクに跨った。


「では、出発しましょう」


 ◇


 森を抜けると、視界が開けた。


 緩やかな丘陵地帯が広がり、その向こうに小さな町が見える。アーベント男爵領だ。


 魔動バイクは、街道を軽快に走る。


 ルカは、セバスチャンの馬の後ろに乗せてもらっている。


「お嬢様、あの銀色の乗り物は……魔動バイクというものですか?」


 ルカが、興味津々で尋ねた。


「はい。父が若い頃に使っていたものを、修理して復活させました」


「素晴らしい……初めて見ました」


 ルカは、感嘆の声を上げた。


「魔動機関の技術は、王都でもまだ発展途上だと聞いています」


「それを、こんなに滑らかに操れるとは……」


「プログラマブル魔法陣で、制御システムを改良したんです」


「プログラマブル……魔法陣?」


「変数を使って、魔法陣のパラメータを調整できる仕組みです」


 ミユキは、簡単に説明した。


「それにより、魔力の流れが最適化され、安定性と効率が向上しました」


「……驚きました」


 ルカは、目を輝かせた。


「そんな革新的な理論を、お嬢様が考案されたとは……」


「まだ研究途中です。学園に入ったら、さらに改良していくつもりです」


「学園……王立魔法学園に進学されるのですか?」


「はい。そうなる……予定です」


「それは素晴らしい!」


 悪役令嬢シナリオに抵抗のあるミユキは若干戸惑いながら答えるが、もちろん事情を知らないルカは嬉しそうに笑って言うのだった。


「お嬢様のような方が、王国の魔法技術を発展させてくださることを期待しています」


 ◇


 アーベント男爵家の屋敷に到着すると、エドワードが駆け寄ってきた。


「ミユキ! 来てくれたんだ!」


 明るい茶髪、緑の瞳——幼馴染の笑顔。


「エドワード、久しぶり」


「ジルバーヴィント……かっこいいな」


 エドワードは、魔動バイクを眺め回した。


「なんだか私よりこの子(ジルバーヴィント)を見て喜んでるみたいね」


 エドワードは、目を輝かせていう。


「うちの屋敷の前にあるのがなんだか新鮮でさ! 俺も自分で乗ってみたい! 乗っちゃだめか?」


 ミユキは、少し考え込んだ。


「でも……二輪車は、バランスを取るのが難しいの」


「慣れないと、すぐに転んでしまうかも」


 魔動バイクは、馬と違って自分で判断してくれない。ライダーがバランスを取り続けなければ、倒れてしまう。


「えー……でも……」


 エドワードは、残念そうな表情を浮かべた。


 ミユキは、魔動バイクを見つめながら考えた。


『初心者でも安全に乗れる方法……』


『前世では、子供用の自転車に補助輪がついていた』


『それと同じように、魔動バイクにも補助輪をつけたら?』


『あるいは、サイドカーをつけて三輪にすれば、もっと安定する』


「……そうだ」


 ミユキは、ぱっと顔を上げた。


「補助輪やサイドカーをつけたら、初心者でも乗れるかも」


「補助輪? サイドカー?」


「うん。バランスを補助する装置があれば、安全に練習できる」


 エドワードは、少し考え込んだ。


「なるほど……確かに、それなら安全そうだ」


「今度、アグスさんに相談してみる」


 ミユキは、嬉しそうに微笑んだ。


「完成したら、エドワードに最初に試乗してもらうね」


「本当!? 約束だよ!」


「約束」


「でしょう?」


 ミユキは、誇らしげに微笑んだ。


「いつか、エドワードも自分の魔動バイクを持てるといいね」


「ああ! 絶対に欲しい!」


 ◇


 アーベント男爵家の主人、ハインリヒ・アーベントが温かく迎えてくれた。


「ようこそ、ミユキ様。遠路はるばる、ありがとうございます」


「お招きいただき、ありがとうございます」


 ミユキは、丁寧に挨拶した。


「それに、行商人のルカさんを助けてくださったとか」


「困っている人を見たら、助けるのは当然です」


「素晴らしい心がけです」


 ハインリヒは、満足そうに頷いた。


「エルヴィン様の教育方針が、見事に実を結んでおられる」


 昼食をご馳走になり、ルカの荷車の修理も手配してもらった。


 ハインリヒは、領地経営の話を色々と聞かせてくれた。隣接領地との街道整備の協力、収穫期の情報交換、魔物対策の連携——全てが、領地を守るために重要なことだった。


『領地経営は、一つの領地だけで完結するものじゃない』


『隣接領地と協力し、民の暮らしを守る——それが領主の務め』


 ミユキは、多くのことを学んだ。


 ◇


 夕暮れ時、ミユキは魔動バイクに跨り、帰路についた。


 セバスチャンが、馬で並走する。


 夕日が、西の空を赤く染めていた。


 魔動バイクのエンジン音が、静かに響く。


「お嬢様、今日は良い経験になりましたね」


 セバスチャンが、穏やかに声をかけた。


「はい。色々なことを学びました」


 ミユキは、頷いた。


「領地経営の実務、隣接領地との関係、そして……」


「……王都の事件のことも」


「はい」


 ミユキは、少し表情を曇らせた。


「魔法陣の暴走事件……気になります」


「もし、誰かが意図的に魔法陣を改変しているなら……」


「お嬢様は、何か心当たりが?」


 セバスチャンは、鋭く尋ねた。


「……いいえ。まだなんとも……」


 ミユキは、曖昧に答えた。


『魔法陣の改変……同時に複数……』


『それは偶然じゃない。誰かが意図的に……?』


 セラフィエルが言っていた、魂を奪う組織——その影が、頭をよぎる。


『いや、まだ分からない。でも……』


 夕日が、ミユキの銀髪を赤く染めている。


 魔動バイクは、静かに領地へと戻っていった。


『魔動バイクは、ただの乗り物じゃない』


『人を助けるための道具にもなる』


『もっと、色々な場所に行って、色々な人に会いたい』


 魔動バイクは、夕暮れの街道を駆け抜けていった。


**あとがき**


魔物倒したり、長距離ツーリングしたり、どうにもミユキお嬢様のワイルド化がとまりませんね……。

令嬢より冒険者を目指したほうがよさそうな……?

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