乱暴者再び1
荷車は倉庫の脇へ入っていった。マルコムは足を緩め、下請けの男たちが荷場へ入るのを待った。距離はかなりある。マルコムは悪目立ちするため、妥当な判断だ。これ以上近づいたら押し留めようと考えていたが杞憂だった。
倉庫の戸口には見張りがいた。川側にも二人。荷運びの者が次々に通っていくのに、その三人だけは持ち場を離れない。
「奥のやつも護衛だ。荷に触ってねえ」
マルコムが小声で言った。アルベルトは頷いた。薬物かどうかは、外から箱を見ても分からない。今は、荷台にいた男を見失わないことだ。
「俺が声を掛ける。お前は待ってろ」
「ビアンキーニがお前見たらどうする」
「まだ下請けしかいねえよ」
荷台の男が飛び降りた。こちらを見て足を止める。
「マルコム? 何しに来た」
その声に、戸口の見張りが振り向いた。男が木箱の向こうへ下がると、マルコムは走り出した。いきなり始めるやつがあるか。アルベルトも後を追った。
「待て、マルコム!」
と言って止まる男でないことは百も承知である。すぐに位置関係を考える。護衛が二人。一人は元狩猟者と確定、遠距離攻撃が得意なはずだ。
ある程度距離が詰まっている現状なら問題なしと見る。どのみちマルコムが先に的になるだろう。一発目は自分で防いでもらうとして、その後はアルベルトが障壁を張れば間に合う。
あくまで皮算用である。あとは出たとこ勝負だ。
マルコムは荷車と倉庫の間を走り抜けた。その先には木箱が積まれていて、元狩猟者はそちらへ回り込んでいる。右の倉庫からも見張りが出てきそうだが、とりあえずは正面に注意を払う。
木箱の脇から白い光が飛んだ。マルコムが大きな肩をすくめて頭を下げ、その後ろで荷台の板が割れた。巨体に似合わぬ俊敏な動きで攻撃をかわす。期待以上だ。
アルベルトは車輪に足を掛け、荷台越しに左手を出した。マルコムの前に障壁を張る。二発目が当たり、青い面に白い光が散った。
「監察局だ! 手を下ろせ!」
男はこちらを見た。聞こえたはずだが、次はアルベルトに向かって撃ってきた。右手にも障壁を出して受ける。名乗ったことによる効果は特にないらしい。信じていない可能性もある。
車輪から下り、荷車の脇を抜けると、マルコムが木箱の手前で足を止めていた。
「お前がついてきたせいで散々だ」
そうアルベルトが言うと、マルコムはゲラゲラと笑って「いい気味だな」と返した。
右の搬入口から見張りが出てきた。その後ろには荷鉤を持った男もいる。二人くらいならと思っていたが、まだ増えるらしい。
川側を窺うと、あちらの見張り二人は別の荷車を動かしていた。荷を逃がすようだ。こちらの狙いは荷ではないので、結果的によいカモフラージュと言える。結局荷の中身がわからない上に、時間もなかった。今回は見逃すしかない。今はとにかく、相手の戦力が分散してくれるならありがたい。
アルベルトは右手を別の方向へ向けた。正面の元狩猟者には左の障壁を残す。どちらも遠くから撃つ分には何とかなる。問題は荷鉤の方だった。魔術が届かないのを見ると、障壁の手前へ回ってきた。
「おい、マルコム、何とかしろ」
「うるせえ!」
お前の方が煩いだろう、と言い返す間もなく、マルコムがそちらへ出た。振り下ろされた荷鉤を避け、男に肩からぶつかる。さらに白く光る腕で殴りつけると、相手は搬入口まで吹き飛ばされて、壁に強か打ち付けられた。一瞬死んだかと思ったが、受けた男が起き上がったので、逆に安心した。
正面からまた撃たれる。アルベルトが障壁の位置を調節してそれを防いでいる間に、マルコムは倉庫の見張りにも腕を向けた。
「どけ!」
見張りが飛び退き、後ろの空箱が砕けた。男はそのまま倉庫へ逃げ込み、荷鉤を落とした男も後に続く。
元狩猟者が木箱から離れようとしていた。倉庫の壁沿い、その奥に外階段が見える。二階へ入られると厄介だ。建物の中がどうなっているか分からない。
「マルコム、俺の左へ来い。あっちに行かれたら厄介だ。撃ち終わったら一気に詰めるぞ」
マルコムが隣に来たところへ、白い光が二人を襲った。アルベルトは障壁で受けると、前へ走った。木箱の川側を回れば、階段まで遮るものはない。
しかし、角を回る前にマルコムが撃った。元狩猟者の隠れていた箱が吹き飛び、木片が降ってくる。アルベルトは頭上への障壁を躊躇して、木片は手で払うに留めた。魔力を無駄にはできない。
男は階段へ逃げ、もう数段上がっていた。こちらへ振り向いたので、アルベルトは前の障壁を上向きに傾けた。
「頭を下げろ!」
マルコムが屈む。その上を覆うように障壁を広げ、光を受けた。直後にマルコムが魔力を込めた木片を放り投げた。木片は鉄塊と化したかのように、今度は階段の手すりを破壊した。なるほど、こういう使い方もできるらしい。
元狩猟者が足を滑らせた。捕まえられるかと思ったが、男は這うようにしてまた上がっていく。さすがに元狩猟者とでも言うべきなのか、足腰が鍛えられている。
マルコムが階段へ突っ込もうとしたところで、登り口の右脇にある扉が開いた。先ほど倉庫に逃げた男だ。荷鉤の代わりに突起物のある長い得物を持っている。どう見ても他人を傷つけることを目的とした造形である。
マルコムがわずかに身を引くと、鼻先を棒が横切った。マルコムは体勢を崩しかけながらも、相手の腹へ蹴りを入れた。男が戸口に倒れ込み、棒を落とす。
マルコムは落ちた棒を遠くへ蹴り飛ばすと、再び階段を見上げた。
二階の踊り場で、元狩猟者が両手を向けていた。今までより光が強い。こちらが下で手間取る間に、十分な準備をしたらしい。
「どけ、マルコム!」
アルベルトは階段の一段目に足を掛け、マルコムの前に出た。両手で障壁を展開すると、紋様が重なった。白い光が激突すると、右手の障壁により重さがかかった。視界が白み、手すりの砕ける音がした。階段が心配になった。
昨日の連中よりは間違いなく強い。それでも、正面から来ると分かっていれば防げるが、狭い階段で視界が奪われる。二人を覆う幅だけ残して障壁を絞り、踏みとどまると、マルコムが飛び出そうとした。それでは丁度良い的ではないか。
「おい、待て」
「お前がついて来い!」
作戦とも呼べない作戦だが、動き出したマルコムを止める術はない。正面突破である。しかし一理ないこともないと踏み、アルベルトも障壁を展開しながら突っ込んだ。
マルコムが身をかがめて両手に魔力を溜める。防御範囲は狭く、狩猟者の術が肩を掠めて、呻き声を漏らした。しかしそれで止まる男ではなかった。アルベルトもその隙に追いつき、狩猟術による追撃を弾いた。
こうなると後は早かった。マルコムが狙いの狩猟者に、重たい一撃を見舞った。




