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STIGMA  作者: キタガワ
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19/24

狩猟者1

 アルベルトは通りに面した窓からこちらを見下ろす、ディラン・マイヤーに気が付いた。


 戸口で名乗ると、中から返事があった。扉が開くまでには少し間がある。出てきた男は短い灰褐色の髪で、制服を見ても驚かなかった。


 静かで、厳かな佇まい。狩猟者という事前情報が無ければ、戒律の厳しい宗派の僧侶と思ったかもしれない。


「監察局だな。用件は」

「昔の仕事について聞きたい」

「昔の方か。入れ」


 アルベルトは一瞬身構えた。それから周囲を確認する。その振る舞いをディランには見透かされたような気がした。


 部屋は狭かったが、客用の椅子はあった。壁際には繕いかけの厚い上着が掛かっている。狩猟に使うものかと思ったが、裾まで見ても血や泥の染みはなかった。


 アルベルトは技能報告の写しを出した。細い魔力で、離れた標的を貫く。傷の形についても記述がある。昨日読み直した記録の中で、確かめる価値があると思った一人だった。


「これに覚えはあるか」

「古い記録だな。最後は簡単なものだったが、最初は何度もやらされた」

「今もできるのか」

「もう目も、足も悪い」

「近ければ?」


 ディランはアルベルトを見た。それから、記録へ目を戻した。


「殺しの件か。新聞に出ていたな」

「目が悪いと言ったが」

「遠くの話だ。老眼になって日常生活は楽になったよ」


 ディランは初めて微かに笑みのようなものを見せた。


「それなら早い。話を聞かせてくれ。クレマンス・ルロワに会ったことは」

「ない。それが被害者か。確か複数だろう」

「最近の被害者だ。なぜ事件に興味を」

「興味があるとは言っていない。狩猟者の魔術が使われたかもしれないと思っただけだ」


 アルベルトは男の顔をじっと見た。感情に乱れはない。ただの感想を口にしただけに見えた。元狩猟者からしても、やはりそういった印象にはなるらしい。捜査の方向性自体は正しいのかもしれない。


 死亡した時期を伝え、その晩の行動を尋ねた。ディランは、普段使う食堂と、一緒にいた者の名を挙げた。人付き合いのない暮らしではなさそうだ。


「仕事は」

「定職にはついていない。昔の知り合いからたまに請け負うくらいだ。狩猟者など元々定職とも言えないがな」

「人を撃ったことは」

「ある。古い話だ」

「聞かせてもらっても」

「治安局に捕まった。担当はクラーク」


 アルベルトは、報告の担当者名を確かめた。記録は抜粋で、逮捕の詳しい手順までは載っていなかった。そういえば治安局時代の話で、狩猟者を捕まえたことがある、というような話もあったかもしれない。酒の席だったのではっきりしないが。


「その人は今、監察局にいる」

「そうか。二十年ほど前になるか。私もまだ若かった。あれは私に責がある話だ」


 言葉は簡潔で、嘘や誤魔化しは無さそうに思えた。それらが時間の無駄と思っていそうだ。同じく一見感情に乏しいニコルだが、こういった研ぎ澄まされた感じはない。


「知人と言い合いになってな。偶然近くにいた治安局員に掴まった。それだけだ」

「被害者は」

「良い穴は空いたな。狙い通りの場所だったから、後遺症もないだろう」


 ディランはまた僅かに笑みを作ったように見えた。


 簡単な質問をいくつかしたが、ディランは相変わらず無表情で、端的に答えた。事件の時間帯は友人と酒場で身内だけの賭博に興じていたらしい。相手の名前と酒場の場所を控えて、それは確認に回すことにした。供述が合えば、ディランは白だ。


 家を出て、アルベルトは次の確認先を確かめた。やはり狩猟関係者を地道に洗っていくことになるだろう。


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