狩猟者1
アルベルトは通りに面した窓からこちらを見下ろす、ディラン・マイヤーに気が付いた。
戸口で名乗ると、中から返事があった。扉が開くまでには少し間がある。出てきた男は短い灰褐色の髪で、制服を見ても驚かなかった。
静かで、厳かな佇まい。狩猟者という事前情報が無ければ、戒律の厳しい宗派の僧侶と思ったかもしれない。
「監察局だな。用件は」
「昔の仕事について聞きたい」
「昔の方か。入れ」
アルベルトは一瞬身構えた。それから周囲を確認する。その振る舞いをディランには見透かされたような気がした。
部屋は狭かったが、客用の椅子はあった。壁際には繕いかけの厚い上着が掛かっている。狩猟に使うものかと思ったが、裾まで見ても血や泥の染みはなかった。
アルベルトは技能報告の写しを出した。細い魔力で、離れた標的を貫く。傷の形についても記述がある。昨日読み直した記録の中で、確かめる価値があると思った一人だった。
「これに覚えはあるか」
「古い記録だな。最後は簡単なものだったが、最初は何度もやらされた」
「今もできるのか」
「もう目も、足も悪い」
「近ければ?」
ディランはアルベルトを見た。それから、記録へ目を戻した。
「殺しの件か。新聞に出ていたな」
「目が悪いと言ったが」
「遠くの話だ。老眼になって日常生活は楽になったよ」
ディランは初めて微かに笑みのようなものを見せた。
「それなら早い。話を聞かせてくれ。クレマンス・ルロワに会ったことは」
「ない。それが被害者か。確か複数だろう」
「最近の被害者だ。なぜ事件に興味を」
「興味があるとは言っていない。狩猟者の魔術が使われたかもしれないと思っただけだ」
アルベルトは男の顔をじっと見た。感情に乱れはない。ただの感想を口にしただけに見えた。元狩猟者からしても、やはりそういった印象にはなるらしい。捜査の方向性自体は正しいのかもしれない。
死亡した時期を伝え、その晩の行動を尋ねた。ディランは、普段使う食堂と、一緒にいた者の名を挙げた。人付き合いのない暮らしではなさそうだ。
「仕事は」
「定職にはついていない。昔の知り合いからたまに請け負うくらいだ。狩猟者など元々定職とも言えないがな」
「人を撃ったことは」
「ある。古い話だ」
「聞かせてもらっても」
「治安局に捕まった。担当はクラーク」
アルベルトは、報告の担当者名を確かめた。記録は抜粋で、逮捕の詳しい手順までは載っていなかった。そういえば治安局時代の話で、狩猟者を捕まえたことがある、というような話もあったかもしれない。酒の席だったのではっきりしないが。
「その人は今、監察局にいる」
「そうか。二十年ほど前になるか。私もまだ若かった。あれは私に責がある話だ」
言葉は簡潔で、嘘や誤魔化しは無さそうに思えた。それらが時間の無駄と思っていそうだ。同じく一見感情に乏しいニコルだが、こういった研ぎ澄まされた感じはない。
「知人と言い合いになってな。偶然近くにいた治安局員に掴まった。それだけだ」
「被害者は」
「良い穴は空いたな。狙い通りの場所だったから、後遺症もないだろう」
ディランはまた僅かに笑みを作ったように見えた。
簡単な質問をいくつかしたが、ディランは相変わらず無表情で、端的に答えた。事件の時間帯は友人と酒場で身内だけの賭博に興じていたらしい。相手の名前と酒場の場所を控えて、それは確認に回すことにした。供述が合えば、ディランは白だ。
家を出て、アルベルトは次の確認先を確かめた。やはり狩猟関係者を地道に洗っていくことになるだろう。




