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STIGMA  作者: キタガワ
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14/23

行方3

***


 局へ戻ると、アルベルトは二つの登録番号をイングリッドに渡した。ドミニクとエーミール。同じ人物が二回、別の名前で登録されている。


 ただし記述を合わせるためか、聖痕の位置は合っている。形に関する部分は、意味は変わらないものの、微妙に異なる書き方になっていた。


「名前だけ書き換えたのではないのですね」

「ええ。ドミニクの登録も、そのまま残ってる」


 イングリッドは二つの登録を確かめた。


「住所や勤め先を変えるなら、普通は登録を直すだけなんだけどね。ニコルの住所変更でも、番号は変わらなかったでしょう」

「はい」

「エーミールの方を、別の聖痕発現者として登録したのね」

「正規の手続きじゃないな。何を使って本人と確認したのかも、確かめたい」

「登録を作った時の書類ね。そっちも探すわ」


 どうやって承認が通ったのか。アルベルトは報告書へ二つの番号を書いた。


「支局長に報告する。来てくれ」

「はい」


 オリヴァーは報告に目を通し、アルベルトへ顔を上げた。


「本人を確かめたな」

「はい。家主の確認も取りました。帰りの乗合の記録も、本人の話と合っています」

「遠くまで追った甲斐はあった。生きて戻って、働いているところまで確かめたんだ。よくやった」

「先に店で会っていたのに、気づきませんでした」

「別人として話を聞いたんだろう。気づかなかったことも、確かめ直したことも書けばいい。見つかった理由を報告から落とすな」

「色の話を確かめたのはニコルです」

「それも書いてくれ」


 オリヴァーは二つの登録番号を見比べた。


「別の番号を作った経緯は調べる。窓口に出た書面も取り寄せてくれ」

「工場へは、どう説明しますか」

「まず無事だったと伝える。その上で、配置変更を正式に申し出る。今の店で続けたいという本人の希望も添える」

「無断で辞めた件は」

「それも残せ。以前に相談した時、どう扱われたかを確かめたい」

「工場が連れ戻せと言ったら」

「俺へ回せ。お前は今の働きぶりと、本人が話したことをまとめろ」

「戻せと言われれば、その手続きも俺の仕事です」

「分かっている。だから今、お前一人の判断で約束させるつもりはない。戻せばどうなるか。そこまで上へ出す」

「許可が出ない場合はどうするんですか」

「それは向こうの出方次第だ。今悩んでも仕方ない。本人にも、決まったことだけ伝えてくれ」


 アルベルトが頷く。事実に即して処理する。この仕事の基本だ。


「仕事はできていたそうだな」とオリヴァーが言った。

「工場では、勤務態度に問題はなかったと」

「働けるから、働き続けたいとは限らん。配置の書類では、その違いがなかなか拾われない」

「適性は見ているはずですが」

「お前な、元は戦時の動員から続いている方式だぞ。管理優先なことくらいわかってるだろう」

「……はい」

「隣国との通商交渉も、止まったろう。魔術師を兵隊に回す話にならなければいいがな」

「話し合いで済めばいいんですが」

「ああ。ここで働きたいって奴らを、他所へ送り出したくはない」


 オリヴァーはニコルへ向き直った。


「ニコル。実際に同行してみて、感じたことはあるか」

「聖痕の反応を確かめる以外にも、できることがありました」

「何だ」


 ニコルは言葉を探す。


「……推理、でしょうか」


 オリヴァーがにやりとしながら顎を触った。もっと実務的なものがあるだろう。アルベルトが続けた。


「聞き込みと、記録の照合です。推測と確認できたことも報告してもらっています」

「続けたいか」

「はい。記録の扱い方は、慣れてきました」

「よし。こっちも人手不足だ。暫定の調査補助官として手続きを進めよう。条件は書面で渡す。読んでから返事をしてくれ。確認事項にお前の推測を混ぜないようにだけ注意しろ。他は問題ない。良いコンビだ」

「お願いします」

「住まいや食事で困っていることは」

「ありません」

「ほかに、してみたい仕事や行ってみたいところはあるか。今の仕事を始めたから、ほかを考えてはいけないという話ではない」

「まだ、この仕事で知らないことが多いので」

「一応聞くが、修道院へ戻るつもりはないのか」

「こちらで、お役に立てると思います」

「良い心がけだ。自分の能力は、使えるところで使えばいい」


 アルベルトが、正式な採用までの担当を確認した。


「引き続きお前に任せる。現場の危険と、任せた仕事を報告してくれ。ニコルも、分からないことをそのまま引き受けないように」

「それなら今のところ、聞いてばかりです」

「それでいい。新人は迷惑をかけてでも仕事を覚えろ」


 オリヴァーが笑うと、アルベルトも短く息を漏らした。


 残りの報告を済ませて、二人は席を立った。廊下に出ると、部屋の中より少し涼しかった。


「これまでのところ、私は非常識でしょうか」


 また何を言い出すんだ。常識があるとは言えないが、非常識とまでは言わない。アルベルトが視線を返す。


「取り立てては」

「自己評価を改める機会にしようと。なにぶん世間に疎くて」

「黙って勝手に行動される方が困る」

「それなら、現状を保ちます」

「遠慮してくれてもいいが」

「不都合があった場合に教えてください。お互いにとって最善かと」


 窓の外に、向かいの建物の屋根が見えた。その向こうには今日戻ってきた道があり、別の道もいくつも通っている。


「見つかっても、終わりではないのですね」

「人探しは終わりだ。次は登録の問題だな」

「ドミニクさんはどうなるのでしょう」

「公文書の偽造は軽い罪じゃない。本人が何を知っていたかも調べる。店で続けたいという話は、局長が上へ出す。俺も、あそこで聞いたことは全部書く」


 そう言ってアルベルトは執務室の扉を開けた。


 アルベルトは机へ戻ると、ドミニクの報告の残りを書いた。ニコルも向かいに座る。


「殺人事件の方へ戻る」

「じゃあ、こっちね」と待ち構えていたイングリッドが、クレマンスの照会を持ってきた。


「新しい返事はまだ。続きが届いたら知らせるわ」


 クレマンス自身が、何かを聞いて回っている。紹介を頼まれたから人を繋ぐ、といういつもの仕事とは違うらしい。それ以上のことは分からなかった。


「普段とは違う仕事をしているのではないか、とのことですが」

「そういう話だ。具体的にはわかってない」

「それでも捜査対象なのですか」

「良く言えば経験則だな」

「悪く言うと」

「手詰まりだ」


 アルベルトは手帳を開いた。ニコルも渡された紙にもう一度目を落とす。

 クレマンスは何を探っているのか。


「手詰まりと言うほどの状況ではなさそうですね」


 実際問題として、周辺事情をある程度握っていそうなクレマンス、あるいはさらに詳しい情報屋筋を訪ねるのは妥当である。


 しかしその目論見はすぐに外れることとなる。


 翌日、クレマンス・ルロワが殺害されたとの報せが届いた。


失踪者編、以上になります。


次章からは内容的には新しいエピソードとなります。引き続きよろしくお願いします!

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