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ラサリオン神聖紀2 〜アル・ラーサとラシアス

帝国に新たな英雄が生まれた。

 毎年行われる帝国騎士剣技会でアル・ラーサという十七歳の若者が優勝したのだ。


 この剣技会で優勝することは帝国の騎士にとって最高の名誉である。帝国の記録の残る限りにおいては、長き歴史を誇るこの剣技会で史上三番目の十代での優勝であった。

過去の二人はいずれも十九歳であったので、史上最年少での優勝であった。


 ラサリオンは帝国の人々が普段の話題にするにははばかられる、あまりにも遠い存在であった。

 人々は身近な英雄を求めていた。帝国全土は、この若き英雄の話題で持ちきりであった。


 帝国の高等官任用試験に合格してから一年、ラシアスは帝国の官僚としての基本的な実務の習得に励んでいた。

 試験の合格者として皇帝ナル・アレフローザには一度、他の合格者と一緒に謁見の栄には浴したが、ラサリオンと逢う機会はまだなかった。


 ある日、ラシアスの元にラサリオンよりの使者がつかわされた。


「ラシアス殿、殿下がお呼びです」


驚愕する同僚を残し、ラシアスはラサリオンのもとにおもむいた。


 ラサリオンの居室には、それは常のことであったが、妹のアサカと、アーク、ラルフアーサがともにいた。

 ラサリオン、アサカのあまりの美しさにかすんではいるが、アークも、そしてラルフアーサも極めて美しい少年であった。

やはり、

「とても人とは想われない」

というべきレベルの美であった。


 ラシアスは頭を垂れた。とても正視できなかった。

 殿下は常にそのお三方とともにいらっしゃる。従者を除いてそれ以外のものが居室に呼ばれることはない、ということはラシアスも聞き及んでいた。

 が、その時はあと一人、すでに居室に呼ばれている者がいた。見れば評判の英雄、アル・ラーサである。

 ラシアスもそうであったが、アル・ラーサもまた何故呼ばれたのか判らないようであった。その全身に緊張が見られた。


 ラサリオンはアル・ラーサの隣に立った。


「アル・ラーサ」


ラサリオンが、アル・ラーサに呼び掛けた。


「はっ」


「先日の帝国騎士剣技会でのそなたを見た」


「はっ」


「見事な動きであった」


「はっ」


「一体、どういう人物であればあのような動きができるのかと思ってな。今日はここに来てもらった」


「はっ」


「普段はこのような佇まいの男なのだな。そなたのことは分かった」


「はっ」



「ラシアス」


「は」


「昨日、昨年そなたが試験の際に提出した帝国の政務に関する論を読んだ」


「は」


「見事であった」


ラサリオン殿下が私の論を読み、かくのごとき評価を与えて下さった。

ラシアスは感激にその身を震わせた。


「ラシアスよ。そなたに訊ねる。政治の要諦は何か」


「は、お答えいたします。

人々を飢えさせないこと。

人々の日々の生活の安全を保証すること。

人々の言論が自由であること。

この三点です」


「判った。ラシアスよ」


「は」


「そなたを帝国宰相に任ずる」


帝国宰相、それはかつて存在した帝国最高の官職である。帝国宰相はただ、皇帝にのみ責を負う。その権力のあまりの強大さにここ百年以上、その職に任じられたものはいない。


「お待ち下さい」


「何か」


「それは、あまりにも常識をはずれたおことばです。私は去年任用試験に受かったばかりの十八歳の若輩者です。誰がそのようなものの命に服しましょうか」


「ラシアスよ」


「は」


「そなたを帝国宰相に任ずると帝国全土に布告を出す。ラサリオンの名でな。ラサリオンの名あるものに誰が異議を挟むというのだ」


そうだ、この方は皇帝を超える存在の方だ。この方が決められたことに異議を挟む者がいるわけがない。


「おことば、謹んでお受けいたします」


「うむ。」


 ラサリオンはラシアスの傍らに佇むアル・ラーサにその視線を再び投げた。


「アル・ラーサ」


「はっ」


「そなたを帝国元帥に任ずる。帝国元帥は軍令において全権をもつ。軍政を含んでその余のことは帝国宰相が全権をもつ」


帝国元帥。軍事における最高職。帝国宰相同様、やはり、百年以上、その職に任じられた者はいない。


「殿下」


「何かなラシアス」


「殿下へのご報告はいかようにいたせば宜しいのでしょうか」


「報告は不要。全てそなたたちの考えるとおりに行えばそれでよい」


ラサリオンはことばを切った。


自らの傍らに座し、今のやりとりを静かに微笑みながら見守っていた三人の方を見た。


「私はこのものたちと、いずれアナイオンに行かねばならぬのでな」


「は」


「そう言えばラシアス」


「は」


「そなた、ルーレアートなるものを知らぬか。そなたと同郷なのだが」


「親友でございました」


「今、何をしている」


「草原にまいりました。草原の部族、アルーサの王子の教師をしております」


「そうか、彼の論もまた見事であった。いささか精緻さに欠けるが、気宇の面ではそなたを上回っておった。彼にもそなたと並ぶ権限をもたせようと考えたがやむをえまい」


「今のおことば、ルーレアートがいかばかり喜びますことか。草原に使いを発し、呼び戻したく存じます」


「いや、よい」


ラサリオンはことばを継いだ。


「そうか、草原の部族アルーサの王子の教師か。それもまたよし。以上」


「は」  


 こうしてラグーンに、十八歳の帝国宰相と十七歳の帝国元帥が誕生した。


 ラシアスは、以後しばらくの間アル・ラーサのことを

「はっ、のお兄さん」

と呼んだ。

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