表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
永遠の馬鹿  作者: 火浦マリ
太陽王から革命へ編
PR
52/93

グラク二世、恋のスキャンダル

 ヴェルサイユの宮廷は、砂糖菓子と音楽、舞踏と愛の噂で満ちていた。


 ルイ十五世の治世は、政治の厳しさよりも、恋と享楽に彩られていたと言ってよい。




 そんな中、道化グラク二世もまた、知らぬ間に宮廷の恋愛模様に巻き込まれてしまった。




 きっかけはある夜の舞踏会であった。


 黄金の燭台が照らす大広間、絹のドレスが波打つように揺れる。楽士の奏でるリュートとヴァイオリンの調べに合わせて、貴族たちが優雅に踊っていた。




 その片隅で、グラクは皿に山と積まれた砂糖漬けの果物をむさぼっていた。


「う、うまい! この葡萄、皮まで甘い! あっ、この柑橘は酸っぱ……でも砂糖でまた甘い! 酒より旨いぞ!」




 口の周りをべたべたにしながら夢中で食べていると、一人の貴婦人が近づいてきた。




「まあ……あなたって、本当に子供のように無邪気なのね」




 絹の扇を持ち、紅をさした唇で笑うその女性は、国王の愛妾のひとり、マダム・ド・ポンパドゥールに仕える若い貴婦人だった。


 彼女はわざと人々の目の前で、グラクに砂糖菓子を差し出した。




「ほら、これも召し上がって? あなたの笑顔をもっと見たいの」




 グラクは大喜びでそれを頬張った。


「んんっ! 甘い! お前は天使か? 俺にこれをくれるとは、愛してるぞ!」




 ――その瞬間、周囲の空気が変わった。




 貴婦人は顔を赤らめ、笑ってごまかしたが、他の貴族たちは一斉に囁き合った。


「見たか? あの女が道化に……」


「まさか、あの二人が?」


「いや、ありえる。恋は身分を超えるものだ」




 たちまち「恋の噂」は広がり、翌日には「グラク二世と貴婦人の密会」が囁かれるようになった。




 そしてある日、嫉妬に駆られた若い貴族が、グラクを庭園に呼び出した。


「この馬鹿め! 我が婚約者に手を出したと聞いたぞ! 今すぐ謝れ!」




 グラクは首を傾げ、口の中のマカロンをもぐもぐと飲み込んだ。


「え? 俺はただ、旨い菓子を食っただけだぞ?」


「嘘をつけ! 『愛してる』と言っただろう!」




 貴族は剣の柄に手をかける。周囲には人だかりができ、緊張が走った。




 その時、グラクは大声で叫んだ。


「愛してるとも言った! だがな、俺は旨い菓子をくれる奴なら誰にでも言うんだ!」




 一瞬の沈黙。


 そして、見物していた貴族たちから爆笑が起こった。


「ははは! なんだそれは!」


「恋ではなく、菓子への愛か!」




 剣を抜こうとした若い貴族も、怒りより先に笑いに崩れた。




 その騒ぎを耳にしたルイ十五世は、かえって上機嫌で言った。


「よいではないか! 恋も菓子も、笑いに変えられるならば、宮廷は安泰だ!」




 こうして「恋のスキャンダル騒動」は、道化の馬鹿げた一言によって笑いに終わった。




 その夜もグラクは甘い菓子を前にして幸せそうに言った。


「俺は馬鹿だが、甘いもんは嘘をつかない。愛よりも砂糖だ!」




 ヴェルサイユの夜会に、また新たな笑いが広がった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ