グラク二世、砂糖菓子に溺れる
太陽王ルイ十四世が世を去った後も、ヴェルサイユ宮殿の煌めきは衰えなかった。いや、むしろ王の死によって、一時の陰りを越え、新しい王ルイ十五世の治世とともに、宮廷はさらに享楽の色を濃くしていった。
だが、その変わらぬ姿に人々が驚きを覚える者がいた。
――宮廷道化、愚楽である。
かつて「グラク一世」として太陽王の退屈を笑いで吹き飛ばした男は、ルイ十五世の時代になってもなお、全く老けた様子がない。皺もなければ白髪もない。いつもと同じ、子供のような目で料理に飛びつく姿のままだ。
「なあ、あれはおかしいのではないか?」
「王が替わったのに、道化は十年前と寸分違わぬ顔をしておる……」
「まさか妖術か?」
廷臣たちがひそひそと囁き、ついには若き王の耳にも届いた。
「道化よ。お前、いつから宮廷におる?」と、ルイ十五世は問いかける。
愚楽は一瞬、ぎくりとしたが、すぐに胸を張って答えた。
「わ、私は“グラク二世”! 先代のグラク一世の息子にございます!」
その場が静まり返った。
だが、次の瞬間にはざわめきが広がった。
「なるほど、一族だったのか!」
「だから同じ顔をしているのか!」
「そうか、道化の家系か!」
人々は勝手に納得してしまった。
ルイ十五世も微笑んで言った。
「そうか、二世か。ならば余の宮廷でも務めよ。父と同じく、我を笑わせるがよい」
こうして愚楽は「グラク二世」として、再び宮廷に居座ることとなった。
この頃、ヴェルサイユには砂糖の甘美な文化が広がっていた。新大陸からもたらされた砂糖は、もはや富裕層の必需品となり、王侯貴族の食卓には甘味が山と積まれていた。
長いテーブルには、アーモンドを練り込んだマカロン、焼き立てのマドレーヌ、砂糖を煮詰めて作られた透き通るような飴細工の塔。葡萄や柑橘は砂糖漬けにされ、季節を問わず鮮やかな色を保っている。
その光景を見た愚楽は、目をきらきら輝かせた。
「な、なんだこれは! 甘い料理ばかりではないか!」
彼はマカロンを両手で掴み、口いっぱいに頬張った。
「んんっ! なんだこのふわふわは! 歯がなくても食えるぞ!」
次に飴細工の塔に飛びつき、飾りの鳥を丸ごと齧った。
「おお! 噛んだら砕けた! 甘い石だ!」
貴族たちは呆れ果てたが、王は声をあげて笑った。
「父と同じだな! だが父よりも甘党ではないか?」
愚楽は砂糖でべたべたの指を舐めながら答えた。
「甘いものは酒よりも頭を軽くする! 俺は馬鹿だが、これを食えばもっと馬鹿になれる!」
宮廷は大爆笑に包まれた。だが一部の貴族は顔を曇らせていた。
「……この甘美の影に、民衆の苦しみがあることを、奴は知っているのか?」
「いや、あれはただの馬鹿だ」
そう囁かれながらも、グラク二世は菓子の山に埋もれて幸せそうに笑い続けた。
こうして、太陽王の威光を継いだ華麗な宮廷で、“馬鹿の二世”は砂糖の甘さに溺れながら、またひとつ時代の証人となったのである。




