グラク一世、狩りの饗宴
ある秋の朝、ヴェルサイユの庭園からさらに広がる森に、太陽王の狩猟行列が出発した。
赤や青の羽飾りをつけた帽子、金糸を縫い込んだ外套、磨き抜かれたブーツ――煌びやかな装いの貴族たちが、駿馬に跨がって整然と並ぶ。その中心には、白馬にまたがったルイ十四世の堂々たる姿があった。
笛が鳴り、猟犬たちが一斉に森へ駆け込む。角笛の音が木々に反響し、狩りの興奮が広がっていく。
ただ一人、場違いな姿の男――道化グラク一世は、馬に乗るのもおぼつかず、必死にしがみついていた。
「お、おお……落ちる、落ちるぅ! 昔、馬に乗った気がするが……」
見かねた従者が手綱を引き、何とか列から外れないようにしてやる。
鹿が姿を現すと、貴族たちは弓や銃を構えた。やがて一頭の大鹿が仕留められ、歓声が上がる。
だがそのとき、グラクが口を挟んだ。
「なあなあ! 鹿は立派だが、ウサギのシチューの方が旨いぞ!」
一瞬、場の空気が凍りついた。
貴婦人の一人が「なんて下品な!」と顔をしかめ、若い貴族が「王の獲物を侮辱する気か!」と怒鳴りかける。
しかし太陽王は腹を抱えて笑った。
「ははは! 鹿よりウサギか! 確かに庶民の皿には、鹿よりもウサギの方がよく登るであろうな!」
グラクは得意げに叫んだ。
「そうだ! 鹿は見事だが、旨いものは庶民の鍋にある!」
貴族たちは苦笑しながらも、王が笑った以上は逆らえない。こうして道化の一言は、森に笑いを広げた。
狩りの後、宮廷一行は広場に設けられた大テントで饗宴を開いた。
長テーブルには、焼かれた鹿肉が大皿に盛られ、香草を詰められた野鳥が並ぶ。濃厚な赤ワインが銀の杯に注がれ、砂糖をまぶした果物や、蜜で飾られた菓子塔まで置かれている。
グラクは目を輝かせ、鹿の腿肉をわしづかみにしてかぶりついた。
「おお! 歯ごたえがすげえ! でもちょっと硬いな。やっぱり煮込んだウサギの方が柔らかい!」
またも貴族たちが眉をひそめるが、王は杯を掲げて愉快そうに言った。
「よい、よい! 鹿もウサギも余の食卓には並ぶのだ。愚かなる舌ほど正直なものはない!」
衣装にソースを垂らしながら肉をむさぼるグラクを、絹の衣を着た貴族たちが見て囁く。
「あれが道化か……」
「笑うべきか、呆れるべきか……」
だが彼の食欲と馬鹿さ加減が、豪奢な宴に奇妙な温かさを添えていた。
ワインをあおり、腹をさすりながら、グラクは天井を見上げて呟いた。
「結局、どんな狩りも、どんな饗宴も――腹が膨れりゃ同じだな!」
その言葉に、ルイ十四世は声をあげて笑った。
「馬鹿め! だが真理をついたぞ!」
こうしてヴェルサイユの森での狩りは、道化の馬鹿げた舌によって、より鮮やかな記憶となったのである。




