巨大な卵料理の誕生
大鍋の湯気が食堂に充満していた。
中に沈んでいるのは、子供の頭ほどもある白い卵――市場で大騒ぎを呼んだ、アフリカ産のダチョウの卵である。
商人の言葉を思い出す。「観賞用だ、食うものじゃない」と人々は言う。だが愚楽は聞く耳を持たなかった。
「食えるもんは食う! 俺は馬鹿でも旨い飯の味は忘れない!」
薪を絶やさず一時間以上、ようやく卵は茹で上がった。
イザベラが慎重に殻を割り、丸ごとの巨大なゆで卵を取り出す。白く輝き、湯気が立ちのぼる光景に、周りの客たちはどよめいた。
「おお……」「本当に食えるのか?」
愚楽はよだれを垂らしながらかぶりつこうとした。
「よし、丸ごと――」
その頭をイザベラが小突いた。
「待ちな! ただ齧るだけじゃ馬鹿の極みだよ。せっかくの珍品なんだ、料理に仕立ててやる」
彼女はひき肉を香辛料と混ぜ合わせ、大きな布の上に広げた。
その真ん中に、ゆで上がった卵をどん、と置く。
人々は息を呑んだ。
「まさか……」
「卵を肉で包むのか?」
イザベラはにやりと笑う。
「ただの珍品じゃなく、とんでもない料理にしてやるさ」
ひき肉で卵を丸ごと包み込み、衣をつけて油鍋へ。
じゅわぁぁぁ! 熱油が弾け、肉の香ばしい匂いが一気に立ちのぼった。
市場から押し寄せた人々は目を輝かせ、厨房の前に鈴なりになった。
しばらくして、イザベラと愚楽が両腕で抱えながら運び出したのは――
球体の巨大な肉塊。外はこんがりと揚がり、まるで黄金の岩のように見える。
「――完成!」
イザベラは胸を張り、宣言した。
「名前なんてつけられない。そうだね、“馬鹿の卵料理”でいいだろう!」
愚楽が両手を広げて叫ぶ。
「名は愚楽! 馬鹿でも旨い飯の味は忘れない!」
笑いと拍手が起こり、人々は切り分けられた塊を受け取った。
外の衣はサクサク、中のひき肉は香ばしくジューシー、真ん中には巨大な白身と黄身が丸ごと詰まっている。
アフリカ人の船員が頬張って目を剥いた。
「観賞用だと思ってたが……これは旨い!」
アラブ商人は香辛料の効きに感心し、インド人の船乗りは「我が国のスパイスで煮込んでも合うだろう」と声を上げた。
愚楽は涙を流しながら齧りついた。
「うまいっ! 歴史は忘れても、俺の舌は絶対に忘れねえ!」
蓮承も杯を掲げた。
「小蓮商会の名にかけて、この馬鹿げた料理を記録に残そう。愚楽が生んだ“誰も知らぬ奇跡の宴”として」
後にスコッチエッグと呼ばれる料理、それもダチョウの卵のスコッチエッグが誕生した。
人々は歌い、踊り、食堂の前は祭りとなった。
港町の夜に響いたのは、国も言葉も超えた笑いと歓声だった。




