変らぬ兄ちゃんと変わる私
一座の旅は続き、季節は巡った。小蓮はいつしか背が伸び、幼い丸顔から面影を残しつつも、凛とした美しさを帯びるようになった。舞台で踊れば観客の目を引き、語れば澄んだ声が響く。
ある町の市の日、小蓮は布屋で立ち止まり、手にした髪飾りをじっと眺めていた。
「兄ちゃん、これどう思う?」
竹に紅い紐を結んだだけの簡素な飾りだったが、少女の黒髪に映えそうだった。
愚楽は首をかしげる。
「うーん……食べられそうにないな」
「もう! そういうこと聞いてるんじゃないよ!」
小蓮は頬を膨らませたが、結局その飾りを買い、舞台の前に髪に挿した。
舞台が始まると、観客は「小蓮がますますきれいになった」と囁いた。
小蓮は小太鼓を叩き、語り部の声に合わせて愚楽と掛け合いをする。
「英雄は剣を振るった!」
「俺は箸を振るった!」
観客は大爆笑。だがその笑いの渦の中で、小蓮はちらりと横に立つ愚楽を見た。
――兄ちゃんは、最初に会ったときからちっとも変わっていない。
自分は成長し、衣を替え、化粧を覚え、女として舞台に立つようになった。だが愚楽は相変わらず少年のような顔で、太鼓に合わせてドジを踏んでいる。
舞台が終わり、観客の歓声を背に一座が荷をまとめるとき、小蓮はそっと呟いた。
「ねえ、兄ちゃん。私、もう子どもじゃないよ」
「え?」
愚楽は団子を頬張りながら振り返った。
「見りゃ分かるだろ。背も伸びたし、声も大人っぽくなったし」
「そうかな? 俺にはずっと小さい小蓮のままに見えるけど」
小蓮は苦笑した。
「兄ちゃんが変わらないからだよ」
その夜、焚き火を囲んで一座の仲間と食事をしていると、座長が愚楽を肘でつついた。
「おい、お前、気づいてるか? 小蓮はもう娘から娘盛りに変わったんだぞ」
「へ?」
「お前がのんきに団子を食ってる間に、あの子は立派な看板役者になってる。観客も小蓮目当てに集まってるくらいだ」
愚楽は口いっぱいに団子を詰めたまま、きょとんとした。
小蓮は焚き火の向こうで、少し化粧を施した顔を炎に照らしていた。頬には紅を差し、唇にはわずかに色を乗せている。仲間から教わった身支度に、彼女なりの大人びたい気持ちがにじんでいた。
ふと、愚楽の視線に気づいた小蓮が笑った。
「どう? 似合ってる?」
「……うん。美味しそう」
「もう! また食べ物に例えるの?」
小蓮は呆れつつも、頬を染めて笑った。
夜更け、皆が眠りについた後も、小蓮は焚き火の残り火を見つめていた。
「兄ちゃんは、どうしてちっとも変わらないの?」
小さくつぶやいた声は、眠っている愚楽には届かなかった。
風が火の粉を舞い上げ、闇に溶けていった。




