ダンジョン、出来ました
アキラがテラと約束を交わした次の日。
二人は連れ立って、紫星家跡地に新しく作っている施設へ来ていた。
現場の作業員はテラを見て驚く。
あまりにも場違いな美少女が、ヘルメットを被って作業現場を歩いているからだ。
その中で、一際背の高い金髪の男が二人に近寄ってきた。
「……おうアキラ、どうしたんだ?……テラ連れて」
金髪の男、安藤拓人はアキラに声を掛ける。
彼の隣にいる存在へ、かなりビビりながら。
アキラとはこの現場でしょっちゅう会っていたが、テラを目にするのは久しぶりだった。
たまにアキラの家へ行った時に見かけるくらいだ。
それだって心の準備があって、やっと平静を保っていられる。
今みたいな突発的なエンカウントは心臓に悪かった。
「あ……ヤンキー……勝負する?」
「お、おう……今日は止めとくわ」
俺は、テラにヤンキーとして覚えられていた。
金髪でバイクに乗っていて喧嘩を売ったかららしい。
それは別にいいんだけど、以前、俺が喧嘩を売ったことで、時折また戦うか聞いてくる。
流石にまだ勝てる気がしないから命を懸ける理由もなくは戦わないが、そのうち挑もうとは思っていた。
パンチの威力が核兵器くらいになったら。
「今日はコイツに、現場の手伝いをさせようと思ってさ」
アキラがテラを指差し質問に答えてくれる。
だけど、それは随分と現実的ではない答えだった。
「え……テラって建築現場で働けるの?」
思わず彼女へ視線を送る。
なんとなく壊す専門なイメージがあった。
「この施設内に、ちょっと特殊な建造物を作りたくてね」
アキラが指差したのは地面。
「その為に僕とテラの力が必要なんだ」
地球上最強の二人が、力を合わせて何かを作る。
そこにはワクワクするような伝説の匂いがした。
「……俺が手伝えることはあるか?」
是非ともそれに一枚噛みたい。
俺の申し出に、アキラは髪を掻き上げ微笑む。
「そうだね、なら拓人には施設のトライアルをお願いしようかな」
実験体ってことか?
ならば俺の十八番じゃねえか。
「任せてくれ……得意分野だ」
ニヤリと笑って親指を上げる。
「本当に拓人はいつも頼りになるよ、ならチャチャっと作っちゃおうかな」
アキラは嬉しそうに笑いながら、両手を広げて地面につけた。
「テラ、話した通りだ……オマエが創れ」
「りょうかい……龍胎創世」
テラも同じように地面へ手を置く。
すると二人を中心にして地面が光を発し、何やら図形や文字が浮かんできた。
チャクラを回して二人を視ると、膨大な魔力とマナが地面に注がれている。
見続けていると、その量と強さに眼が痛みを訴えるほどだった。
まるで、地球を壊そうとしているような力の入れようだ。
ついには地面が激しく揺れだす。
震度は強まっていき、真っ直ぐ立っているのが難しくなってきた。
「お、おいアキラ……大丈夫か?」
邪魔はしたくなかったが、これ以上揺れが続くとせっかく作った施設まで壊れてしまう。
集中し過ぎて周りが見えなくなってるなら、止めなければならない。
「あとちょっとだから大丈夫だよ」
アキラはそう答えると、最後の一押しとばかりに光を強めた。
周囲一帯が、目を開けているのも辛くなるほどの眩さに包まれて、俺も光の中に入っていた。
熱さと共に感じたのは生命の鼓動。
何か巨大なものに身を預けたような感覚。
そして何かが聞こえた。
『――――』
音なのか、それとも声だったのかはわからない。
だが、そこに意思を感じた。
産声のような、誕生を示す力強い叫び。
魂に響くような強烈な音色。
光が収まった時、俺は涙を流していた。
呆然としながらも、今起きた新たな何かの誕生に感動を覚えた。
「何が……生まれた?」
零れる涙を腕で拭きながら、二人に問う。
「あ、拓人は聞こえたんだ?世界の産声が」
「せ、世界?」
アキラとテラは、ゼロから世界を創ったらしい。
おそらく、この地面の下に。
「うん、テラの龍胎創世って技で、世界を新しく創ったんだ」
ダメだ、話のスケールがデカすぎて理解できない。
「ローグライト風ダンジョンに……した」
テラが胸を張って自分の技を誇っているが、ますますわからない。
「入り口は、ある程度の強さが無いと入れないように結界をしないとね」
アキラが手を動かすと、地面が急に盛り上がる。
そして、マンションのように入り口がガラスドアで、幅が10メートルはある近代的なエントランスが一瞬で出来上がった。
「男女で着替える場所とかあるといいから、地下一階はスーパー銭湯を参考にしよう」
扉を開けて中に入ると、広々とした部屋に地下への階段が造られていく。
それを追うように下っていくと、目の前にカウンターが造られ始めた。
「ここで受付をして、男女で別れて着替えるといいね」
「温泉……つくろう」
「そうだな、運動後は汗も流したいだろうし」
もはやツッコむ余裕もなく、ただ口を開けて目の前の奇蹟を眺めるしかなかった。
「とりあえず細部を作り込むから、拓人は一時間くらい温泉で汗流して待っててくれる?」
渡されたのは大小のタオル。
俺はそれを素直に受け取って、造られたばかりの温泉施設に向かった。
考えても無駄だ、望まれたことをやればいいだけ。
その為の準備を整えるように体を洗い、風呂に浸かった。
休憩所で寝転びながら備え付けの漫画を読んでると、二人が迎えに来た。
「お待たせ、だいたい出来たよ」
アキラは達成感に顔を輝かせている。
「つかれた……」
それとは逆に、テラは随分と疲れている様子だった。
かなり精気が無くなっているように見える。
「……だ、大丈夫なのか?」
テラを心配するってのも変な話だが、顔色まで悪くなっている彼女を見て不安になってしまった。
「生命力……ほとんど使っちゃったから……しにそう」
きっと冗談ではない。
額に汗を掻いて、瞳が虚ろになっている。
「アキラ!テラがヤバイぞ、回復してやらねぇと!」
彼女のふらついている体を支えて、休憩所のクッションに座らせた。
「いや、それでいいんだ……殺すために弱らせたんだから」
にこやかな笑顔のままに告げられた衝撃の告白。
それを聞いて俺は固まってしまう。
「テラは死んだあと……赤ちゃんになって……沙耶に育ててもらうの」
ひどく疲労した顔で、それでも嬉しそうに笑うテラへ恐怖を覚える。
あまりにも常識外の思考。
そこに命の尊さは無かった。
きっと、一度や二度死ぬくらいは大したことではないのだろう。
「とりあえず拓人には、試しに降りられるところまで行ってもらいたいんだけど、いいかな?」
「わかった……任せてくれ」
とりあえずテラのことは置いておこう。
俺の尺度では測れない生き物だ。
アキラに頼まれたことのみに集中しよう。
「危なくなったら、すぐに脱出させるから安心してね」
どうやらこの先には俺が危なくなるほどの危険が潜んでいるらしい。
上等だ、何が待っているかは知らないが、全力でブチ破ってやる。
「……いってくる」
俺は、灰色の作業服に身を包みながら、部屋の中央に造られた幅の広い階段を下りていく。
「そうだ、これ持って行って」
アキラから投げられたのは黒い短めの棒だった。
くるくると回転して向かって来たそれを、片手で受け止める。
「さっき拓人用に造った棒だから、中で使って」
その棒は、手に吸い付くように一瞬で馴染んだ。
見た目以上の重さがあり、間違いなく特殊な素材で造られている。
「……サンキュー」
アキラが造ったということは、おそらく絶対に折れない棒なのだろう。
おまけに自分の体の一部みたいに気や魔力が通る。
心強い相棒が出来た。
永遠に続くような階段を下りながら、その存在に頼もしさを感じていた。
そして手の内にある棒へ、自然と浮かんだ名を付ける。
『奈落打』
神と龍が造ったダンジョンを打ち壊していくための武器。
その意味を込めて、強く握りしめた——。




