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人類の敵

 拓人がテラの造ったダンジョンに降りて行ってから半日が過ぎた。


 その間も、アキラは設備の増築と調整を続けていた。

 そのためのエネルギー源は、引き続きテラから供給されている。


 彼女の力を最後の一滴まで絞るような行為だったが、それも全てテラが望んだこと。

 少しでも楽に殺されるよう、進んで己の力を削いでいた。



「そろそろかな」


 アキラが顔を上げて呟いた瞬間、足元の影が揺らぎ、そこから拓人が現れた。


 その姿は、血塗れでボロボロになっている。

 だが、アキラが治療をすると、それもすぐに治った。


 影から出したアル茶を渡して飲ませると、拓人は深く息を吐く。


「……死ぬかと思った」


 呟かれた言葉とは裏腹に、その顔はニヤついている。


「結構長く潜ってたけど、中はどうだった?」


 よほど刺激的な場所だったのだろう。

 拓人はダンジョン内を思い出して瞳を輝かせた。


「スゲェとしか言いようがない……楽しかったぜ」


 だが次の瞬間、拓人は頭を掻いて眉を寄せる。


「でも……コレは誰に向けて造ったんだ?」

 

 その表情が、ダンジョンの危険さを物語っていた。

 

 人類最高峰の力を持つ拓人がズタボロにされるような場所。

 そんな危険な施設を使える人間なんて限られてしまう。


「僕やキミの子供たちだよ」


 それを聞いて拓人は目を見開く。


「マ、マジかよ……危な過ぎるだろ……」


 もうすぐ生まれる我が子を、こんな危険な場所へ送りたくない。

 アキラの考えとはいえ、実際に味わった身としては許容しにくい提案だった。


「僕らの子供はきっと次世代の能力を持っているからね、それを伸ばすための場所がどうしても必要なんだ」


 だが、アキラは子供たちの成長のために、このダンジョンを造り出したらしい。


「……でもよ、中にはティラノザウルスとか空飛ぶ龍がいて襲ってくるんだぜ?危なくないのか?」


 拓人が体験したのは、次から次へと敵が襲ってくる世界だった。

 この下には、階を降りるたびに相手が強くなっていく、試練のようなダンジョンが広がっていた。


「もちろん死なないように、安全装置はちゃんと設定するよ」


 アキラは穏やかに微笑み、子供たちの安全は保障すると約束した。

 そして、ダンジョンのシステムを説明しだす。

 

「階層ごとにモンスターと呼ばれる普通の敵と、ボスを置いたんだ」


 拓人は頷く。

 ボスを撃破すると次の階層へ進めたのだ。


「ボスは、昔のテラを模した姿の龍が置かれているから、倒し甲斐があるよ」


 拓人は何体か倒したボスを思い出す。

 それは今のテラとは似ても似つかない、恐竜のような姿だった。


「ついでに錬成術で造ったアイテムとかも宝箱に入れて配置したよ」


 それは本当にダンジョンそのもの。

 確かに途中にあった箱の中から、アル茶や防具が手に入った。


「最新部には今のテラとほぼ同じ強さのテラがいるから、いつか誰かが倒してくれたらいいなと願ってるよ」

 

 ラスボスは地球最強。

 それを聞いて拓人の瞳に螺旋が浮かぶ。

 

「……ってことは、これをクリアしたらアキラに並べるってことか」


 全身から立ち上る黄金のオーラは、先ほど死にかけたとは思えないほど猛々しく輝いていた。


「そうだね、僕でも苦労するだろうから」


 拓人のオーラを見て、嬉しそうに目を細めるアキラ。

 そしてクリアの困難を口にした。


「ここ……何回入ってもいいのか?」


 今すぐまた潜りたいとでも言いたげに拓人が問う。


「僕がいる間なら何度でも大丈夫だよ」


 進化を望む拓人の姿に、アキラの瞳が感動で揺れる。

 だが次の言葉は、あまりに重かった。


「でも、今からテラ殺すから、戻ってくるまでちょっと時間かかるかもしれないや」


「……マジで殺るのかよ……テラは本当にそれでいいのか?」


 俺の嫁たちは揃ってテラを深く恨んでいる。

 だけど俺は別にテラに対して恨みはなかった。

 アキラへ並ぶために倒したいだけだ。


 なんならこの施設が出来た時点でもう挑む必要すら無くなった。


「……いい」

 

 テラはかすかに答える。

 その声は、風に消えそうなほど弱々しい。

 休憩所のベッドで横たわりながら、顔色を真っ青に染めて浅い呼吸を繰り返していた。


「どちらにしても、子供産めるようになるので生まれ変わらなきゃダメだしね」


 アキラが苦しそうなテラの代わりに、死が必要な過程だと口にした。


「下手に元気だと、殺しきれないで苦しみを長引かせるからさ」


 どうやら最強生物は、殺すのも一筋縄ではいかないらしい。


「……というか、テラって子供産むのか?」

 

「うん、そしていつか僕か僕の子供との間に産ませないといけないんだ」


 拓人は告げられた答えに首を捻る。


「簡単に言うと、テラの強さに見合う相手じゃないと子供が出来ないってこと」


「ふーん……なるほど」


 拓人は、あまりよくわかっていなさそうだったが頷いた。


「一応、僕には息子が一人まだ生きていて、テラと子供が作れるかもしれないほど強いんだけど、ちょっと問題があってね」


 アキラが悲しそうに眉を寄せる。


「え?そうなのか?男の兄弟がいるなんて嫁たちは何も言ってなかったけど……」


「うん、色々あって娘たちとは仲が悪いんだ」


 アキラは悲しみを隠さず深く息を吐く。

 その姿は、自分の子供たちが仲違いしている現状を憂いていた。


「……俺がなんとかしようか?」


 アキラのために出来る事があるなら何でもする。

 それが拓人の行動理念だった。


「ありがとう、でも多分無理かな」


「そうか?少なくとも俺の嫁たちは話を聞いてくれると思うぜ」


 何があったかは知らない。

 だが、拓人が彼女たちへ願えば歩み寄ることは出来るかもしれなかった。


「息子は、テラを敬愛し過ぎて人類を滅ぼそうとしたんだ」


「えっ……無理」


 テラを敬愛している時点で分かり合えないだろう。

 その上、人類を滅ぼそうとしたなど激怒するに決まってる。


「そして彼はきっと、今も世界のどこかでテラが現れるのを待ってると思う」


 テラに迫るほどの力を持った人類の敵。

 アキラの息子。


 それを倒すのをアキラに任せてはいけない。

 自分の子供を、自らの手に掛けさせるなんてあってはならない。


「……俺がやるよ」


 自然と口から出ていた。


「もしソイツがまた人類を滅ぼそうとしたら、俺が止めてやる」


 殺すとは言わない。

 アキラを悲しませたくなかった。

 どんな凶悪な人物だろうがアキラはきっと愛してるから。

 

 だから、止める。

 諦めるまで何度でも。


「そっか、拓人は本当に頼もしいな」


 心から嬉しそうにアキラが笑う。

 二人の間には、血よりも濃い絆があった。

 それは幾重にも折り重ねた尊い重み。


「それじゃ、キミにお願いするよ」


 差し出された手は信頼の証。


「おう、任せてくれ」


 それを拓人は強く握り返し、己の使命を増やした。



 こうして、人類の守護者としての役目を担うことになった拓人。

 命を懸けるような修行の道は、今後も激しさを増していくのだった——。

 

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