09 お腹の黒い友達
ナオトさんが、思いっきりユウジさんにだきつく。
「おい、やったじゃねーか! なんだよお前、すげーじゃんっ! こんなことできるのかよ」
「あ、ああ、うん……。これ、ほんとにオレの力なのか?」
「あたりまえだろ! お前以外、だれがいるんだよ」
ざわざわとざわめきが広がる部屋のなか、セナはにっこりアネッサに笑いかける。
「やあ、アネッサ。ねぇ、ツルギに会えるような薬、つくってくれない?」
『ツルギに会えるような薬、ねぇ……。かんたんそうに言うじゃないか。まあ、つくってあげないこともないけど』
アネッサは、かたにかかる長い髪を手ではらった。
『それには、月夜草が必要だ。そいつがありゃ、力を貸してやるよ』
「月夜草、かあ。それって、育てるのがむずかしい薬草でしょ。手に入るかなあ」
『アリスって子のハウスに行けばあるはずだ。というより、今の時代にあの薬草を育てることができるのは、あの子ぐらいだろうよ』
「アリスね。分かった」
セナはおかしそうに笑う。
「ねぇ、そんなにあの子のこと評価してるのに、どうして姿を見せてあげないの?」
アネッサはかたをすくめた。
『ちょいとあたしにたいして、熱がたかすぎるのさ。くすぐったくてたまらないよ。——まあ、卒業までには出ていってやろうかね』
アネッサが姿を消して、ぼくたちはとりのこされた。
「けっきょく、アリスだね。さあて、どうしよう」
「ええっと、月夜草だっけ。ぼく、一株わけてもらえるように、アリスにたのんでくるよ。ちゃんと説明したら、誤解もとけるはずだよ」
走り出そうとしたぼくのうでを、セナがつかむ。
「あ、ちょっとまって、コハク。そんなことしても、ますますアリスはかたくなになるだけだよ」
「うーん、そっか……。でも、じゃあ、どうするの?」
「うーん……——あ、そうだ! いい方法がある」
セナはポケットから、四つにおられた紙を取り出した。
「なにそれ? ———あっ、分かった! それってさっきの真贋書じゃない?」
「あたり。なにかに使えるかと思って、取っておいたんだ。よしよ~し、あの守護霊の名前も書いてあるぞ」
セナはうれしそうに真贋書を広げた。
「ねぇ先輩。今度はドレインを呼び出してよ」
「え? あ、うん、分かった。けどオレ、なんだか今日、おかしくって。いつもとちがうような……」
「大丈夫だよ。さっきはすごかったじゃない。先輩なら、きっといけるよ」
「そうだよ。さっきのは正真正銘、お前の実力なんだから、もっと自信をもてって。な、やってみてくれよ」
ナオトさんの言葉に、まわりのみんなも、うんうんうなずく。
「さっきの、すごかった! ねぇ、もう一回見せて」
「お願い! やってみてよ」
「あたしも見たい! 今度、たのみに行こうかな」
「ええ~ズル~い。あたしもあたしも」
ユウジさんはてれたように頭をかいた。
「ふっ、えへへへ。じゃあ、やってみようかな。よお~し、みんなも応援してくれよ」
「ああ、もちろんだ!」
みんなに応援されながら、ユウジさんはごきげんな様子で魔法陣をかく。かききると目をつむって、呪文をとなえはじめた。
「#$%&*¥#……」
すると、今度はすぐにすべての文字が赤く光って、なかからあのおじさんの守護霊があらわれた。
大歓声につつまれるなか、ドレインは、パチパチと目をまたたかせる。
『いったい、なんだ。なにが起こったんだ?』
「ぼくがたのんで、呼び出してもらったんだよ」
にこにこ笑いかけるセナに、ドレインは『げっ』とうめいた。
『またおめぇーか。もうおめぇーの顔は見たくねぇ』
「え~、つれないこと言わないでよ。ねぇ、ドレイン、お願いがあるんだ。コハクにやったみたいに、とある生徒をだましてほしいんだよ」
『ふんっ』とドレインは鼻をならした。
『やだね。どんな理由か知らないが、きっと面倒なことにちがいねぇ』
「ふーん、そっかあ」
セナはがっかりしたようにかたを落とす。
「それなら仕方ないかぁ。この真贋書、レインに見せに行こうかな。もしかすると、学園内出禁にされちゃうかもしれないけど」
『ああ?』
片目をあけて真贋書を見たドレインは、ぎょっと顔を青くした。
『なっ、おめぇ、なんでそれを!』
「ええ~、ドレインがくれたんでしょ? ねぇ、いいの? 出禁にされても。長い間契約を結べなかった守護霊は、消えちゃうんじゃなかったっけ?」
ドレインは口をぱくぱくさせて、今度は顔を真っ赤にした。
『お、おめぇ、とんでもねぇーやろうだ!』
「わーい、ほめてくれてありがとう」
『ほめてねぇー! ああ、もう、こんなやつに契約をもちかけるんじゃなかった』
頭をかきむしるドレインに、セナはにこにこ笑った。
「やっぱり、もつべきものは友だちだね。——じゃあ、さっそくアリスのところに行こう」
歩き出そうとするセナを、ぼくがとめる。
「ちょっとまって。もう、今日はおそいよ。クラブ活動の時間も、終わっちゃうよ」
「え?」
セナは窓ガラスにはられた黒い布をもちあげて、外を見た。
「あ、ほんとだ。ぜんぜん気付かなった。よく分かったね、コハク」
「たいしたことじゃないよ。時計を見ただけだもん」
「時計?」
壁にかけられた時計を指さすと、セナは目を丸くした。
「わあっ、なにあれ! もしかして、あんな小さな機械で時間が分かるの?」
「え? うん。……時計、見たことないの?」
「うん。実はぼく、長い間封印されてたんだよね。友だちと大ゲンカしちゃってさ。へぇ~、べんりな世の中になったもんだねぇ」
(……封印って、よく分かんない冗談なあ)




