07 最強の剣士を探せ
男の子は、自分の名前はセナだとおしえてくれた。
ぼくとセナは、そろって背のびしながら、第一体育ホールのなかをのぞきこむ。
窓からそっと中の様子をうかがうと、ユニフォームを着た生徒たちが、もくもくと剣をふっているのが見えた。その頭上を、ときおり騎士の守護霊たちが、剣をふりながら通り過ぎて行く。
「ツルギといったら、剣術クラブだと思ったのに。おかしいな、ここにはいないみたいだ」
「そういえば学園新聞にも、どこに行ったのか分からない、みたいなこと書いてあったよ」
「ふーん……」
ぼくたちが考えこんでいると、洗い場から声がして、だれかが近づいてくる音がした。あわててしげみのうらにかくれて、そっと息をひそめる。
「——まったく、先輩たちも人づかいがあらいよな」
剣術クラブのユニフォームを着た二人の男子生徒が、おしゃべりしながらやってきた。二人とも、両手にはたくさんのタオルや制服をかかえてる。
「でも、したがうしかねーよ。ここを追い出されちゃたまんないし」
「ああ、どうにかして気に入ってもらわねーとな。ツルギねらいだってことも、話さないほうがいいぜ。きっと先輩たちにめぇつけられるから」
「ああ、そうだな。にしても、ツルギ、ほんとに学園に来てんのか? せっかく剣術クラブに入ったっていうのに、まだ一度も見てねーよ」
ぼくとセナは顔を合わせて、そっとしげみをぬけだした。
体育ホールをはなれたあたりで、セナがかたをすくめる。
「どうやらここを見張ってても、意味ないみたいだね」
「うん……」
ぼくはうわの空で答えた。さっきの二人の会話を、ぼぅ……と頭のなかで思い返す。
(あの二人、たぶんぼくと同じ一年生だ。てことは、もしかしてリュウが変わったのって……)
「もしかして、ツルギはまだ、だれの前にも姿をあらわしてないのかも。守護霊たちだけの空間にいるのかもしれない」
「うん……」
「よおーし。それなら、アネッサをさがそう。アネッサは一番魔法薬にくわしいから。守護霊界へ行くための方法も、きっと知ってるはずだよ。——って」
ぶんぶと、目の前でセナの手がふられた。
「おーい、起きてる?」
「——あっ、うん! えっと、なんの話だっけ」
「やっぱり」
セナはやれやれと、両方の手の平を上に向けた。
「ハーブ魔女アネッサの話だよ。アネッサに魔法薬を調合してもらうんだ。そうと決まれば、さっそくアネッサをさがしにいこう。ねぇ、どこにいると思う?」
歩き出したセナに、ぼくもあわてて後を追う。
「ねぇ、セナはどうしてぼくにつき合ってくれるの?」
「別に、コハクにつき合ってるわけじゃないよ。ぼくもツルギに会いたいんだ。なんたってツルギは、シックスの一人でしょう? ——あ、そうだ、色紙を買っておかなくちゃ。家宝にするんだ」
うれしそうに笑うセナを見て、ぼくはなんだか気がぬけてしまった。
守護霊からサインをもらおうとするなんて、きっとセナぐらいだ。
(セナって、ちょっと変わってる……)
けっきょく、ぼくたちは二人とも、『クラブ活動一覧』も『学内地図』ももってなかったから、アネッサの居場所をさがすために、かたっぱしからひとにたずねることにした。
そうして、とうとう薬学クラブにたどりつく。
「あの子が言ってたのって、ここだね」
「うんうん。たしかに、アネッサは魔法薬のスペシャリストだもんね。ここなら、いてもおかしくないよ。よおーし」
セナはコンコンッとノックしてから、引き戸をあけた。
「こんにちはー! 聞きたいことがあるんですけど」
なかにいた先輩たちが顔をあげる。そのうちの二人が、わざわざろうかまで出てきてくれた。
「なに? どうかしたの?」
「ここに、アネッサはいませんか? ハーブ魔女アネッサ。ぼくたち、わけあって彼女をさがしてるんです」
先輩たちは顔を見合わせる。
「ここには、いないけど……」
「でも、アネッサにくわしい子なら知ってるよね」
「わーい! やったあ! じゃあ、そのひとって、どこにいます?」
「アリスっていうんだけど、薬学クラブと園芸クラブ、どっちもに所属してるの。この時間は、園芸クラブのハウスにいるんじゃないかしら」
ぼくたちはお礼を言って、そのままの足で園芸クラブに向かった。
園芸クラブは屋外の広いスペースにあって、先輩たちはそれぞれ、自分の畑に散らばっていた。みんな土をいじったり、雑草をぬいたり、なにかといそがしそうだ。 ぼくたちは、一番近くにいる先輩にたずねた。
「あの、ぼくたちアリスさんをさがしてるんですけど、どこにいますか?」
男の先輩は顔をあげて汗をぬぐうと、ひとつのハウスを指さした。
「アリスなら、あのハウスのなかにいるよ。ハウスにはカギがかかってるけど、外から呼んだら、すぐ出てきてくれるんじゃないかな」
「ありがとうございます!」
ぼくたちはさっそくハウスに向かって、外から大きな声で呼びかけた。
「お~い、アリスさん。いますか? ぼくたち、聞きたいことがあるんですけど」
カチャリ、とカギのはずれる音がして、なかから女の先輩が出てくる。
うしろで髪をひとつにくくっていて、パーカーにオーバーパンツ、腕カバーに、手袋、それとエプロンを身に着けてる。
アリスさんは、ぎゅっとまゆをひそめた。
「だれ、あんたたち? あたし今、いそがしいんだけど」
「ぼくたち、ハーブ魔女アネッサをさがしてるんです。どこにいるか、知ってますか?」
すると、アリスさんはキッとぼくたちをにらみつけてきた。
「——そんなの、あたしが知りたいわよ! もう二年になったのに、まだ一度も会えてないんだから。あ、もしかして、あんたたちも、アネッサをねらってるってわけ? あ、分かった、ライバルの様子を見に来たんでしょ! そうはいかないから。このハウスに、一歩だって足をふみいれさせるもんですか」
「あっ、ぼくたち、そうじゃなくて——」
バタンッ、とぼくの鼻先でドアが閉じられる。
ぼくとセナは顔を見合わせた。
「イライラしてたね」
「うん、すっごくね。でも、こまっちゃったな。あてがなくなっちゃった」
二人して、う~ん、と頭をなやませる。
(ええと、とにかく、アネッサに会えたらいいわけだから)
うんうん頭をはたらかせていると、とつぜんパッと、頭のなかに、ピンク色のパンフレットが思いうかんだ。
「そうだ! 呼び出してもらえばいいんだ。セナ、いい方法思いついたよ。占いクラブに行こう」




