表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

05 友達の異変

「これ、見てくださいよ」


 向かいの席にすわるツトムが、ぼくの前に学内新聞をさしだしてきた。

 ここは食堂で、まわりは、朝ごはんを食べに来た生徒でにぎわっている。ぼくたちもちょうどさっき、トレーの上に、焼きたてのパンとサラダ、ゆらゆらと湯気のたつスープをとってきたばかりだ。


「え? なになに?」


 ツトムがさしだしてきたのは、今朝発行されたばかりの最新号。

 一番右上に、ひときわ大きな文字で、『聖騎士ツルギ、いずこへ?』と書かれた見出しがついてる。


(またツルギだ。最近、ずっとこればっかり)


 ツルギが守護していたウェルム様が、不幸な事故で亡くなったのは半月前。守護する相手がいなくなったツルギは、学園に来ることが決まっていたんだ。

 生徒であるぼくたちは、次にだれがツルギと契約を結ぶのか、ずっとソワソワしてるというわけ。


(とくに、めずらしい話題じゃなさそうだけど……)


 ぼくは、記事を声に出して読んだ。


「半月経っても、あらわれないツルギ。ツルギは今、どこにいるのか。ほんとうに学園に来ているのか……」

「あっ、そっちじゃなくて、こちらです」


 ツトムはビシッと、新聞がやぶけるんじゃないかと思うほどのいきおいで、ひとつの見出しを指さした。

 そこはツルギの記事とくらべたらあきらかに小さなスペースで、白黒写真と、短い文章がのせられてる。


(ツトムに言われなくちゃ、きっと気付けなかったや)


 ぼくは、今度は声には出さずに記事に目を通した。


『イタズラ守護霊 たくみな手口にご注意!』

——最近、守護霊のイタズラが多発している。ニセの指輪をもちだし、とりつく手口は、見破るのがむずかしい。異変を感じたら、一年B組担任、カトリーヌ先生の守護霊、レインに要相談―—。


 写真にはレインがのっていて、しなる棒で守護霊を追い出している場面が切り取られていた。


「守護霊のイタズラは、昔からよくあることですけど、ニセモノの指輪までもちだすなんて、相当手がこんでますよ。きっとこれから、ますます被害者がふえるはずです。ぼくたちも気を付けないと……」


 むずかしい顔をするツトムのうしろで、ヒョンタがぼんやりした顔で、トレーをもって歩いてるのが見えた。ねむたそうにまぶたをこすっていて、歩いてくる生徒に、あやうくぶつかりそうになっている。


「ヒョンタ、こっち!」


手をあげると、ヒョンタはようやくぼくたちに気が付いた。生徒をよけながら、ちょっとずつ近づいてくる。


「お、おはよう」

「おはよう、ヒョンタ。今日はおそかったね———って、え、どうしたのその顔!?」


 ヒョンタのまぶたは、ハチにさされたみたいにぷっくりふくれていた。

 ヒョンタははずかしそうにうつむきながら席につく。


「じ、実は昨日の夜、家族のことを思い出して、そ、その、さびしくなっちゃって……」


 ズビッ、と鼻をすするヒョンタに、胸がいたんだ。だって、その気持ちはぼくにもよく分かる。


(そうだよね。こんなに家族とはなれてるの、はじめてだもんね……)


 朝起きたとき、なつかしいスープのにおいが鼻をくすぐった気がしたり。おはよう、と言ってくれる、なつかしい声が聞こえた気がしたり……。ここは学園だった、と気が付いてハッとすることが、ぼくにもときどきあるんだ。

 ツトムがヒョンタの背中を、やさしくさすった。


「ぼくも分かります、その気持ち。夜、コハクくんもいなくて、シン……とした部屋にひとりでいるときなんか……。急にさびしくなりますもん」


 ヒョンタはこくりとうなずいた。


「うん、ありがとう……。でも、泣くのは今日で終わりにする」

「え……?」

「ぼ、ぼくだって、もっと強い男にならなくちゃ」


 ぼくとツトムは目を見開いた。


「急にどうしたの、ヒョンタ?」

「きゅ、急じゃないよ。前から思ってたんだ。ぼくは、みんなみたいに堂々とできないし、すぐに泣いちゃうから……。もっと、自分に自信がもてるようになりたいんだ」


 なみだをぬぐったヒョンタの目は、今までとちがって……ううん、今までよりも、ずっとかがやいて見えた。


「すごい……すごいよ、ヒョンタ! カッコいいよ。」

「すごいです、ヒョンタくん! それを卒業までの目標にしましょう」

「うん、そうする。ぼく、がんばる」


 決意をかためたヒョンタに、ぼくたちだけじゃなくなくて、まわりのみんなも、ぱらぱらとはくしゅを送る。

 ヒョンタははずかしそうだけど、さっきとちがって、しっかりと顔をあげていた。


(ヒョンタは、学園生活をきっかけに変わろうとしてるんだ……)


 きっとそれは、ヒョンタだけじゃない、ツトムだって、ナナコだって。ここ最近、会えてないけど、もしかしたらリュウだってそうだ。


(ぼくも……ぼくは、どうしたらいいんだろう)


 ぼんやりと手の平をながめていると、入り口が急ににぎやかになった。朝練おわりなのか、ユニフォームを着た集団が、楽しそうに歩いてくる。


「あっ、あのユニフォームは、剣術クラブですね。ということは、もしかするとリュウくんも……」


  ぼくたちは、首をのばしてリュウをさがした。


「——あっ、いた!」


 まっさきに見つけたぼくは、すぐ横を通り過ぎようとするリュウに声をかけた。


「リュウ!」


  リュウはぼくたちに気付くと、顔を明るくした。


「おっ、ひさ——」


 けど、なにか言う前に、後ろから先輩らしきひとに、かたをたたかれる。


「なんだよ、お前、こんな地味なやつらと知り合いなのか?」


 リュウははっとして、ぶんぶん首をふった。


「ちっ、ちがいますよ! ぜんぜん、知らないやつらです」


  あぜんとするぼくらの前で、リュウは先輩の背中をおした。


「ねぇ、それより、早く食べに行きましょうよ! オレ、おなかぺっこぺこで。先輩たちがボコボコにしてくるから」

「あははっ、なんだよ。あの程度でまいってちゃ、騎士にはなれないぞ」


 笑いながら通り過ぎていくリュウに、しばらくの間、だれも口を開くことができなかった。


「……どうして、あんな…………」


 ヒョンタが泣きそうに声をふるわせる。


「ね、ねぇ、さっきのって、ひどいよ。ぼくら、友だちなのに」

「うん……」

「ええ……。リュウくんならふつう、ぼくたちをけなす先輩に、おこりだす場面なのに……うん? ふつうなら……———あ、そうか!」


 ツトムは顔をあげて、新聞記事を指さした。


「もしかしてリュウくん、守護霊にとりつかれてるんじゃないでしょうか!?」


 ぼくとヒョンタは、目をまたたかせる。


「と、とりつくって……。もしかして、最近ウワサになってる、イタズラのこと?」

「はい! 今、リュウくんのまわりには、昔のリュウくんを知るひとはいません。だれも気付かなくても、おかしくないですよ!」

「そっ、そんな、リュウくんがとりつかれてるなんて……」


 こんわくするぼくらに、ツトムは力説した。


「だって、リュウくんなら、ぼくらにあんなこと言うはずがありません。この記事にも、たくみな手口だと書いてあります。それに、たとえばもし、『オレと契約したら、ツルギと話せる』なんて言われたんだとしたら……」


 ぼくたちははっとした。


「たしかに、それならありえるかも。リュウ、ツルギを守護霊にしたいって言ってたもん」

「うっ、うん! それにまだ、ほんもののツルギはあらわれてないもんね。だまそうと思えば、いくらでもだませちゃうよ」

「とりつかれた守護霊を追い出すには——」


  ツトムは新聞記事を目であさった。


「あっ、レイン嬢に助けを求めましょう! もう、あと少しで朝礼が始まってしまいますから、放課後に職員室の前で集合しましょう」


 ぼくたちは、かたくうなずき合った。


(うん、そうだよ。とりつかれてるんじゃなかったら、さっきのは、ほんとうにリュウが言ったことになる。そんなの、ぜったいおかしいよ。レインに言って、リュウを、もとにもどしてもらうんだ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ