03 変化する環境
「——はあ、つかれた」
ぼくは寮のベットに、荷物といっしょにしずみこんだ。
足はなまりのように重たくて、かたにも力が入らない。
(このままねころんだら……すぐにねちゃいそう……)
ツトムもめずらしくあくびをして、目をこすった。
「お昼すぎに学園にとうちゃくして、そのまま入学セレモニーでしたもんね。今日はよくねむれそうです……」
ここは、ぼくたちの部屋のなか。ベットと机があるだけの小さな部屋だ。
二人部屋なんだけど、ラッキーなことに、ツトムとはたまたまいっしょの部屋になったんだ。それぞれ分かれてしまったリュウとヒョンタも、ぼくたちの部屋に合流していた。
「明日はいよいよ初授業ですね。ほら、さきほど配られた紙に、時間割ものっていますよ」
リュウが口をへの字にまげる。
「うへぇ~、授業って三時まであるんだ。そんなに集中できるかなあ」
「で、でも、そのあとはクラブ活動の時間なんだよね? みんな、どこ行く?」
「あっ、たしか、さっき配られた冊子にのってたよ。———ほら!」
ぼくはみんなの前で、『クラブ活動一覧』と書かれた冊子をめくった。
『目次』のページを開くと、ズラ~ッと、いくつものクラブ名がかかれてる。
「ええと……『チェスクラブ』に『料理クラブ』、『サッカークラブ』に『馬術クラブ』、『ファッションクラブ』、『金楽器クラブ』……って、わあっ、まだまだページが続いてる!」
「クラブ活動は、重要な時間ですからね。勉強面以外のぼくたちを、守護霊に評価してもらう場でもあるんです」
「へぇ~!」
「たとえば……リュウくんならこれ、『剣術クラブ』がいいんじゃないでしょうか?」
「えっ、そんなのあるのかよ!」
リュウはツトムから冊子を受け取ると、食い入るように顔を近づけた。
横からヒョンタがのぞきこむ。
「ほ、ほんとだ! 『騎士を目指す者、ここに集結』って書いてあるよ」
「それなら、リュウにぴったりだね!」
リュウはしばらくしてから、ほほを真っ赤にしてうなずいた。
「うん、うん! オレ、決めた! ぜったいここにする!」
「え? も、もう決めちゃうの? 体験は?」
「そんなの、行ってられるかって! さっそく明日から練習に参加して、みんなに差をつけてやるんだ」
(リュウってば、すっかりやる気まんまんだ)
ぼくとヒョンタとツトムは、顔を合わせてほほえんだ。
「じゃ、じゃあ、ぼくたちはどうする? ぼく、まだどんな守護霊がいいか決めてないんだ」
「ぼくもだよ! じゃあ、色々見て回ろうよ」
ツトムが、すまなそうに手をあげる。
「ぼくは気になってるクラブがあるので、別行動でお願いします」
「あっ、そうなんだ! どこが気になってるの?」
「『植物クラブ』と『天文クラブ』、それと、『歴学クラブ』に行ってみようかと……」
ぼくたちはびっくりして目をまるくする。
「わっ、ど、どれもむずかしそう!」
「実はぼく、将来は学者になりたいんです。まだ、専門にする学問は決めてないけど、どれもとても奥深くて、面白そうなんですよ」
「そ、そっか! ツトムくんのお父さん、学者さんだもんね」
ツトムはうなずくと、照れたように頭をかいた。
「はい! ぼくも、父みたいな学者になるのが夢なんです」
(すごいや、ツトム。もう自分の将来を決めてるんだ)
ぼくは、もう一度『クラブ活動一覧』に目を落とした。
このなかのどれかに、ぼくも入ることになるんだ……。
(まだ、ぜんぜん想像つかないけど。でも、これからは将来のことを、ぼくだって考えていかなくちゃならいんだ……)
゜*。:━゜◆+.゜◇+━.+゜*。:゜
放課後、レッスン棟の出入口に行くと、もうヒョンタはそこにいた。通り過ぎていくひとをちらちら見ながら、うつむいて、手をもじもじさせている。
ぼくに気付くと、ぱっと顔をあげた。
「あっ、コハクくん!」
けど、ぼくの顔を見て、とたんにおろおろしだした。
「ど、どうかした? なんだか、げっそりして見えるよ」
「うん……」
ぼくは、ふか~くため息をついた。
「実は今日、授業で失敗しちゃって……」
理科の授業では白衣をわすれ、外国語の授業はちんぷんかんぷん。あてられても答えられなかった。おまけにそうじの時間には、道にまよっちゃって、時間までにたどりつけなかったんだ。
(自分がこんなにできないなんて、思わなかった。これまでなんとかなってきてたのって、家族のおかげだったんだ……)
落ちこむぼくを、ヒョンタが必死にはげましてくれる。
「だ、大丈夫だよ、コハクくん! ぼくも、色々失敗しちゃったし。自己紹介で、舌をかんじゃったりとか……」
「そっか……」
「あ、あーっ、そうだ! そういえばコハクくん! 制服、似合ってるね」
ヒョンタはあわてたようにぼくのかっこうを指さした。
そういえば、そうだった。ぼくたちが着てるのは、今まで着てたような服じゃない。チューリップそでの白いブラウスに、黒いズボン。足元はピカピカの革ぐつで、かっこいいけど、歩くのがちょっぴり大変だ。女の子はブラウスのすそがひだになっていて、その上にワンピースを重ね着してたっけ。
ぼくはぶんぶん頭をふった。
「うん……ありがとう。ヒョンタも似合ってるよ!」
「ほ、ほんとう? まだ着慣れてなくて、変な感じがするんだ。みんな同じふくそうなのも、おもしろいよね」
ぼくたちはおしゃべりしながら、クラブ棟のある方向に歩いた。
学園にはたくさん建物があって、授業が行われるレッスン棟と、クラブが行われる棟はわかれてる。とんでもなく広い敷地にはお店もあったりして、まるで小さな町みたいだ。
「あっ、あれ、ナナコちゃんじゃない?」
「え? あ、ほんとだ!」
こっちに歩いてくるナナコに手をふろうとして……。ぼくたちは、あげたうでをピタリととめた。
ナナコは、知らない女の子とうでをくんでいた。楽しそうにおしゃべりしながら、体をおりまげて笑ってる。
声をかけそびれて、ぼくたちは通り過ぎたナナコを見送った。
「あ、あれってナナコちゃん、だよね……?」
「うん、たぶん……」
そうなんだ。見慣れない制服姿なのもあるかもしれないけど、ぼくたちの知るナナコとは、ちょっとちがって見えた。
(まだ、学園に来て二日目なのに! もう、友だちができたんだ)
ヒョンタがぽつりと、さびしそうにつぶやいた。
「なんだか、ナナコちゃんが遠くに行っちゃったみたいだね……」
「うん……。そうだね」
しんみりした空気がただよっていると、後ろからとつぜん、かたをたたかれる。
「わあっ」
「やあ、君たち。『占いクラブ』をのぞいてかない?」
ふり返ると、茶髪の先輩(だと思う)ひとが、にっこり笑っていた。体の前には、ピンク色のペンキでぬられた『占いクラブ』の看板をかけている。
「え? いや、あの、ぼくたち、別のクラブに行こうとしてて——」
「いいじゃない、細かいことは。さあ寄った寄った」
先輩は問答無用で、ぼくたちをずるずる連行していく。
赤いカーテンを手でよけて、目の前にあった部屋に入った。
「おーい、一年生、二人確保してきたぞ~」
部屋のなかは、明りがついてるのに、なぜだかひっそりして見えた。
(——あっ、分かった! 窓ガラスを、まっ黒な布でおおってるからだ)
それ以外にも、あちこちにミニ電球がはりめぐらされていたり、白い毛糸が、クモの巣をマネるように、テープでとめられてる。
けど、なにより一番すごいのは……
「ああ、ユウジ、おかえり。その子たちは?」
「すぐそこにいたから、連れてきたんだ!」
先輩たちは、だれもかれも個性的なかっこうをしていた。
白いワンピースを着た、おかっぱ頭の女の人に、えんび服にマントをはおった男の人、えりまきトカゲみたいな、えりがじゃばら折りの服を着た人……。
(もしかしてぼくたち、おかしなクラブに来ちゃったのかも)
ぼくとヒョンタは顔を見合わせる。
うん。きっとヒョンタも、同じこと考えてるよ。




