02 はじまる不思議な学園生活
「うわあ~っ、すっげ~!」
ぽかん、とぼくたちは口をあけて立ちつくした。
(……すごいや)
真っ赤なじゅうたんがしかれたろうかに、天井にはシャンデリア。窓は、一面ステンドグラスになっていて、色とりどりのあかりがふりそそいでる。
ここは、学園のなか。ぼくたちは二日間かけて、ようやくたどりついたんだ。
(まるでお城か、貴族のやしきみたいだ)
チャラーン、チャラーン……と遠くで美しい鐘の音がする。
「さあ、立ち止まらないで、前に進みましょうね~。これから入学セレモニーがおこなわれる、講堂に案内しますよ。列をみださず、ついてきてくださ~い」
『先生』の声に、ぞろぞろと列が動き出す。前と後ろには、同い年の子たちがたくさん。
たしか、こういう子たちのことを『同級生』っていうんだよね。
ツトムがこうふんしたように、体を乗り出した。
「わっ、すごいですよ、よく見たらこのステンドグラス『、守護霊伝説』をあらわしてます!」
ツトムが指さしたほうを見てみると、そこにえがかれていたのは、かんむりをかぶった王様と、ひざまずく六人の守護霊たち。
するどい剣に、きたえぬかれた大きな体、きれいな弧をえがく弓に、いかめしい盾と、古木のつえ………。それぞれの武器が、ひときわ大きくえがかれてる。
リュウが首をかしげた。
「守護霊伝説? なんだっけそれ?」
「大昔、守護霊たちが生きていた時代のいつわですよ。この場面はおそらく、王様が病にかかったと知らされる直前ですね」
「へぇ~っ!」
「あ、あれ? あの、ひとりだけ、後ろを向いてる守護霊は?」
ヒョンタが指さしたのは、ひとりだけ輪から外れてる守護霊。
うす茶色の小さな頭に、ぶかぶかの緑色のローブと、つばの大きなぼうしをかぶっていて、かたわらには、体より長くて、先がねじまがったつえをもっている。
「あれは……。おそらく、伝説の守護霊じゃないでしょうか」
ツトムは右手で眼鏡のふちをもって、身を乗り出した。
「伝説の守護霊が、なぜ姿を見せないのか——それに関しては、いくつか説があるんですが、その一説に、他のシックスたちと、意見が対立してしまったという説があるんです。あれはきっと、その様子をあらわしたものですよ!」
「へぇ~!」
ツトムの解説に感心していると、リュウがとつぜん、「あっ!」と反対方向を指さした。
「おい、見てみろよ! 向こうに大きな銅像があるぜ! もしかして、有名な守護霊かな⁈」
「あっ、リュウ、ダメだよ。列をはみだしちゃ———」
あわててとめようとすると、リュウの足元から女の子の顔があらわれる。
「うわあっ!」
『あなた! 列をみだしてはダメだと、カトリーヌは言ったはずよ』
女の子は地面から体全体を出すと、リュウに向かって指をつきつけた。
てっぺんが四角くて黒いぼうしをかぶっていて、よく見るとその体はすけている。
(……び、びっくりした……! 守護霊だったんだ……)
まだドキドキしてるぼくたちを前に、女の子はどこからともなく、しなる棒をとりだした。
右手にもつと、リュウの足元をぴしぴしたたく。
『早く列にもどって! ほら、早く。分からないの?』
リュウは、あわてたように飛びすさった。
「わ、分かったから、ごめんなさい!」
『分かりました、でしょう? まったく、教育がなってないわね』
そのとき、前方から悲鳴が聞こえた。 列のなかからとつぜん火がふき出して、天井高くまであかあかと燃えている。
「かっ、火事だあ~!」とたちまちあたりがおおさわぎになった。
『あきれた、きっと、火おこしゾインの仕業ね! 今朝、守護する対象者が亡くなったと聞いてはいたけど、もう学園にあらわれるなんて!』
女の子の霊は、列をすべるように、すっと前にとんでいった。
「な、なんだよあの女。おっかねえっ~」
「先生の守護霊なのかな?」
ツトムが、手にもっていた分厚い図鑑を、ものすごい速さでめくり出す。
「あれは、たしか——あっ、いました! 『新任教師レイン』です! 『職業は教師。ランクは☆☆ですね」
ランクっていうのは、守護霊の強さだったり、地位をあらわしたもの。
一番上が☆五つだから、二つってことは……。
「あれ? 新任って、新しい教師ってことでしょう? なのに☆が二つもあるの?」
「ええ。期待の新人なんです! 手にもっている棒は魔道具で、魔法を打ち消す力があるんですよ」
「へぇ~!」
もりあがるぼくらのすぐ横で、またもや悲鳴が聞こえた。
「うっ、うわあっ!」
「ヒョンタ⁈ どうしたの?」
あわててふり向くと、ヒョンタがぼう立ちになって、体をぶるぶるふるわせてる。
「ヒョンタくん! 大丈夫ですか?」 ツトムが心配そうに背中に手をおく。
「った、たすけ……」
ヒョンタはなにか言いかけると、カクンとうなだれた。
「ヒョンタくん!」
「ヒョンタ⁉」
ぼくらは青ざめて、助けをよぼうと先生を見る。そのとき、かたに手がおかれた。
「——大丈夫さ。しばらくの間、体を借りてるだけだからな」
「え」
ふり返ると、ヒョンタがニッと笑っていた。その声は、まぎれもなくヒョンタの声。だけど、顔や仕草からなにまで、ヒョンタなのに、ヒョンタじゃない!
ヒョンタはラジオ体操でもするみたいに、うでをゆっくりふったり、背中をそらしたりした。
「う~~~んっ、とこせ。いやあ~なんだこいつ、ほそっこいなあ。ちゃんと食べとるのかあ? せっかく長い体をしとるのに、もったいない」
ヒョンタは高らかに右手をあげた。すると、豆電球がともるみたいに、指先に光があつまっていく。
「ここは、わしがうまく活用してやろう。——ほ~れ!!」
かけ声とともに、ヒョンタの指先から光の玉がとびだす。
「わあ~っ!」とその場から、歓声があがった。
なんと、光の玉は花火のように打ちあがって、ぼくたちの真上で、あざやかな光の雨をふらせたんだ!
「ほ~れ、ほ~れ、美しいだろう~」
ぼくたちはびっくりして、口をあんぐり開けた。
「なっ、なにこれ。これ、ヒョンタがやってるの⁈」
「いえ、もしかすると——」
ツトムがなにか言いかける。そのとき、前からレインがとんで来た。
『こらっ、モグじい! 悪さしないでよ』
レインが棒をたたきつけようとすると、ヒョンタの体から、おじいさんの霊が飛び出してきた! シルクハットをかぶっていて、お腹のあたりは、たてじまの服がはちきれそうなほどでっぷりふくらんでいる。
『ほっ、ほっ~い! これだからレイン嬢は頭がかたい。せっかくの入学記念なんだ。ドハデにやればいいじゃないか』
『こっちはスケジュールがぱんぱんなのよ! よけいなことをしてるヒマはないの!』
『よけいなことねぇ~。これのどこがよけいなんだ。ほれ、みんなもよろこんどるだろ?』
『そういう問題じゃ、ないんだってば!』
レインが棒をふりまわすと、おじいさんの霊はかたをすくめて、逃げるように飛んでいった。
(今のって……!)
ツトムが目をきらきらさせた。
「もしかして! あの守護霊が、ヒョンタくんにのりうつっていたんではないでしょうか? わあ~っ、はじめて見ました! ああ、でもそうか、ここは学園で、未契約の守護霊がたくさんいるから……!」
ツトムは熱心に手帳にメモする。
「そ、そっか。——あ、そうだ、ヒョンタ!」
思い出して、あわててふり向くと、ヒョンタは苦しそうに背中をまるめていた。
「ヒョンタ、大丈夫……?」
顔をのぞきこんで、ひょうしぬけする。
その顔はすっかり上気して、ほほはピンク色にそまっていたんだ。
ヒョンタはいきおいよく顔をあげると、こうふんしたように声を大きくした。
「——す、すごいや! ねぇ、みんな見てた? ぼく、魔法を使ったんだよ!」
ぼくたちは顔を見合わせる。
「たしかに、すごかったけど……。体は大丈夫なの?」
「うん、ぜんぜん平気! のりうつられてる間はびっくりして、息の仕方もわすれちゃったけど」
晴れやかな笑顔をうかべるヒョンタのまわりに、わっとひとが集まってきた。
「ねぇ、今のすごかったね!」
「さっきの霊、なんだったの?」
「のりうつられるって、どんな感覚だった⁉」
みんながおしかけてきて、ぼくたちはあっという間におしつぶされる。
ぎゅうぎゅうで、ほとんどすきまもないなか、ツトムは必死に図鑑をめくった。
「先ほどの守護霊は——あっ、見つけました、『きっかいの奇術師モグドラ』です! 『職業は奇術師。ランクは☆☆☆』ですね! 子どもたちに大人気の、旅するエンターテイナーですよ。手の平に、実は小さなステッキをかくしもっていると言われていて——うわあっ」
ツトムの声がとぎれて、聞こえなくなる。
レインが空中で、ジタバタと手足を動かした。
『も~うっ! 静かに、前に進みなさいって言ってるでしょう!』




