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01 出立のとき

——この国の守護霊は、魔法と剣の時代に生きていたひとたちです。一部の力の強い守護霊なら、今でも魔法が使えます。

 騎士になりたいのなら騎士の守護霊を、商人になりたいのなら商人の守護霊を、お城で働きたいのなら、使用人の守護霊と契約を結びましょう。

 あなたがどんなひとになりたいのか、今一度、むねに手をあてて考えてごらん。あなたを手助けしてくれるもの、それが守護霊というものです——。

 

 第4版 守護霊図鑑『この本の使い方』より。


゜*。:━゜◆+.゜◇+━.+゜*。:゜


「っひくっ、ひくっ、ひく」


ひとつ前の席から、ヒョンタの泣き声が聞こえてきた。ガタン、ガタンッとゆれるふきぬけの馬車の上では、おえつもすぐ風に流れてく。


「お父ちゃん、お母ちゃん……カンタ、アオイ……コウタ……っう、うぐっ」


  リュウが前の座席にむかって、ぷりぷりおこりだした。


「泣くなよ、ヒョンタ! 今別れたばっかりだろ」

「だっ、だって。っふっ、ぐすん……し、しばらく、家族と会えなくなるんだよ。リュウくんは、さびしくないの?」

「あったりまえだろ! さびしいなんて言ってたら、騎士にはなれないんだ」


 大きく胸をそらすリュウに、ナナコがため息をついた。


「なによ、ひとりだけ大人ぶっちゃってさ。ほんとうはさびしいくせに」

「なっ、ちがうって! ほんとのほんとに、さびしくなんかないんだ! だって、学園に行けば、ようやく自分の守護霊を手に入れることができるんだぜ」


  そう言って、リュウは目をきらきらさせる。


「今、どんな守護霊がいるのかなあ。騎士の守護霊、いるといいなあ」


 守護霊っていうのは、ぼくたちを見守ってくれるそんざいのこと。

 体がすけていて、空中をただよっているから、たぶん、幽霊みたいなものだと思う。

 あっ、はじまして。ぼく、コハク!

 ぼくたちは今、これまで住んでいた山を出たところ。

 そしてこれから、自分の守護霊を見つけるために、学園に行くところなんだ!


『へぇ~、騎士の守護霊か!』


 御者台にいるナツ(にい)の背中から、にゅっとフィリップがあらわれた。

 紫色のニット帽にケープをはおっていて、目は好奇心いっぱいにクリクリしてる。

 守護霊とは、こうやっておしゃべりすることもできるんだよ。


『オレも昔、騎士を目指してた時期があったんだぜ』

「えぇ~! マジかよ、フィリップ! ねぇ、どんなだった?」

『そりゃあ、かっこよかったなあ。けど、修行があんまりにもきびしくってさー』


 フィリップは手をぶらぶらさせた。


『毎日手に、豆ができてたんだ。オレには合わなくて、すぐにげ出した。やっぱオレには、商人のほうが合ってるんだよなあ~』


 リュウは口をへの字にまげた。


「……ふーん、なんだよ、きびしいからって、あきらめるなんて」

『オレは、自由が一番なんだ。それに、そんなこと言って、リュウ。あまちゃんのお前に、あのきびしい練習にたえれるとは思えないね』

「へへーん、見てろよ。ぜったい、りっぱな騎士になるんだ! オレ、守護霊にするなら聖騎士ツルギがいいなあ。今、学園にいないのかなあ」


 ため息とともに、ナツ兄がふり返る。


「いるわけないだろ。ツルギは今、第一騎士団団長、ウェルム様を守護してるんだから」

「ちぇ~やっぱりか」


  すかさずツトムが、眼鏡をおし上げて解説した。


「生きている人間のうち、ひとりしか守護できない——これは、ぜったいの決まりですからね」

「ああ、そうさ。それに、たとえもし——考えたくもないが、ウェルム様が亡くなって、ツルギが学園にくることになったとしても、お前は選ばれないだろうよ。なんたってツルギは、シックスの一人なんだから。あ、シックスって知ってるか?」


 リュウはくちびるをとがらせる。


「それぐらい、知ってるよ。とんでもなく強い六人の守護霊のことだろ」

「ああ、そうさ。聖騎士ツルギに、老武道士ガイゼン。名手ツバキに、鉄壁のムウ、魔術師ロハネス。こいつらを守護霊にできるのは、オレたち人間のなかでも優秀なやつらばかりだ」


  ヒョンタが指をおって数えながら、首をかしげた。


「ね、ねぇ、あと一人たりないよ?」

「ああ、そいつは——」


 ツトムがナツ兄をさえぎって、息まいて答える。


「最後のひとりは、『伝説の守護霊』です! だれも名前を知らない、姿を見たこともない、正体不明の守護霊なんですよ。うわさでは、ロハネスと同じか、それ以上に強いと言われています」

「へぇ~! そんなやつがいるんだ!」

「じゃ、じゃあ! もしその守護霊と契約を結べたら、すごいことになりそうだね」


 こうふんするぼくたちに、ナツ兄がくぎをさした。


「バ~カ。あんなのフィクションに決まってるだろ。ゴロがいいからとかの理由で、だれかが勝手に作っったつくり話さ」

「えぇ~分かんないだろ。もしいたら、面白いじゃんか」

「ほんと、お前らはまだガキんちょだな」


  ナツ兄は、やれやれとかたをすくめる。


「お前らが学園でうまくやっていけるか、今から心配だぜ。学園は、お前らがのんびり過ごしてきたような山とはちがうんだ。——あ、もちろん、ナナコちゃんは別だぜ?」


 デレデレとふり返るナツ兄に、ナナコはつんとそっぽを向いた。


「そりゃもちろん。いっしょにされたらこまるわよ」

「だよなあ~。悪い虫がつかないか、オレ、今から心配だよぉ」


 ううぇ~とぼくたちは思いっきり顔をしかめた。

 ナツ兄ってば、ナナコの前ではいつもこんな感じだ。たしかに、顔はかわいいかもしれないけど……。

 きっと、ナツ兄はナナコがほんとうはどんな子か、分かってないんだ。


「ったくナツ兄ってば、見る目ないよな~。こいつ、すっごく女王様気質だっていうのに——ぃてえっ!」


リュウは片足をあげてもんぜつした。

その横で、ナナコはふかぶかとため息をつく。


「あ~あ、早く学園に着かないかなあ。ここにはあたしの良さに気付ける子、いないんだもん。それにね、あたし決めてるんだ。学園では、女の子の友達をつくるんだから」


 ナナコは夢見るように、うっとり目をとじた。


「今までまわりにいた子が、こうだもんね。友達と恋バナしたり……街にでかけたり……はあ~楽しみだなあ」


  ナツ兄がぎょっとふり返る。


「こっ、恋バナって、ナナコちゃん、好きなひとがいるの⁈」

「今はいないわ。けど、素敵な彼氏もつくるつもり」


  ガーンとショックを受けているナツ兄に、ぼくたちはケラケラ笑った。

 あたたかい太陽の光が、ぼくたちを照らす。こうやって、みんなと笑い合う日は、いつまで続くんだろう……。


(……友だち、かあ。ぼくにもできるのかなあ)


  学園には国中から、ぼくたちと同い年の子や、ひとつ上の子たちが集められてる。そんな場所なら、きっと新しい出会いもあるはずだよね。


「………ぼく、それでもみんなと、ずっと友だちでいたいな」


  ぼつりとつぶやくと、シーン……とちんもくが広がった。ぶっ、とみんがふき出す。


「え? あれっ、ぼく、おかしなこと言った?」

「だってねぇ」

「おかしくはないですけど。ふ、ふふふ」

「う、うん。バカにしたわけじゃないんだよ」


 リュウがぼくの肩にうでをまわした。


「なに、急にしんみりしたこと言ってんだよ! そんなの、あったり前だろ! ——なあ、学園って昼休みがあるんだよな? じゃあさ、みんなでサッカーしようぜ」

「う、うん、やろう! もしかすると、人数がふえて、もっと楽しくなるかもしれないね」

「たしかに、そうですね! 正規の人数は二十二人ですから」


 わいわいするぼくらの真上を、白い鳥がとんでいく。

 見上げると、そこにはどこまでも続く、青い空が広がっていた。

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