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17/28

第17話 会見の前夜

自宅待機四日目の朝、片桐弁護士から一通のメールが届いた。

佐伯さん

本日午前中に、スターリット側へ通知書を送付します。

内容は以下です。

一、佐伯美月氏に対する悪評流布の停止要求。

二、自宅待機命令の理由および根拠資料の開示要求。

三、LumiRiseに関する契約・追加同意書・外部施策説明記録の保全要求。

四、未成年者および所属タレントへの不利益取扱い禁止要求。

五、証拠隠滅・記録改ざんを行わないことの警告。

送付後、会社から直接連絡が来ても、私を通すようにしてください。

 私は文面を読み、深く息を吐いた。

 いよいよ、正式な手続きが始まる。

 これまでは記録だった。

 現場判断だった。

 本人意思だった。

 保護者からの確認だった。

 今日からは、弁護士名義の通知書が会社へ届く。

 会社は、もう「佐伯が勝手に騒いでいる」とだけでは処理できない。

 同時に、反撃も強くなるだろう。

 黒崎は、こちらが専門家を入れたことで本気で潰しに来るかもしれない。須藤はさらに噂を流すかもしれない。神田は瑠璃やLumiRiseへの圧力を強めるかもしれない。真壁は、外側から別の火をつけるかもしれない。

 私はノートを開いた。

 表紙には、昨日書いた言葉が残っている。

 限界の合図を聞き逃さない場所。

 その下に、今日の日付を書いた。

 今日は、ただ守る日ではない。

 外に出す準備をする日だ。

 午前九時、LumiRiseのグループチャットにはいつも通り体調報告が並んだ。

 花音。

起床しました。睡眠六時間。体温36.4度。今日は午後から取材予定です。詳細はまだ未共有です。

 優芽。

起きました。睡眠七時間。足首痛み一。今日は踊りなしの予定って聞いてます。

 奈々。

起きました。睡眠七時間。体温36.5度。昨日配信がなくなって少し楽です。

 澪。

起床。睡眠六時間。気分は普通。契約確認の返答待ちです。

 私は返信しない。

 その代わり、保護者共有用の連絡網に、片桐事務所から一般的な注意文が送られた。

本日以降、事務所側から契約確認や活動方針に関する説明があった場合は、即答せず、文書での回答を求めてください。

未成年者の稼働、SNS配信、外部会社による施策については、保護者・専門家に共有のうえ確認してください。

所属タレント本人が不利益を受けたと感じた場合は、日時・発言者・内容を記録してください。

 私ではなく、片桐事務所から。

 それが今は正しい。

 十分後、花音がグループチャットで言った。

片桐先生からの文面、確認しました。

今日の取材も、内容が不明なので事前確認します。

 澪。

須藤さんに聞きます。文面で。

 優芽。

一人で突撃しないでね。

 澪。

しない。

 奈々。

四人で聞きましょう。

 花音。

私から送ります。

 私は画面を見ながら、静かに頷いた。

 彼女たちはもう、手順を理解している。

 午前十時過ぎ、相沢から連絡が来た。

佐伯さん、今日中に相談したいことがあります。

RVE関連の証言、さらに増えました。

「炎上耐性テスト」という言葉を使った会議資料の存在を示す証言です。

ただし、資料そのものはまだ手元にありません。

それと、スターリット側が先に声明を出す準備をしている可能性があります。

 私は眉を寄せた。

どんな声明ですか。

「一部元従業員による事実誤認」「外部媒体への不適切な情報提供」「所属タレントを巻き込む行為への厳正対応」あたり。

佐伯さん個人を名指しするかは不明ですが、におわせる可能性が高いです。

 先に被害者ぶる。

 よくある手だ。

 内部告発の前に、告発者を問題人物にしておく。

 そうすれば、後から何を出しても「逆恨み」「情報漏洩」「事実誤認」と処理しやすい。

 私は片桐へ転送した。

 片桐からすぐに電話が来た。

「佐伯さん、相沢さんの情報はかなり重要です。会社側が先に声明を出す可能性があるなら、こちらも準備が必要です」

「こちらから先に出しますか」

「いきなり公表は危険です。ただし、会社の声明が出た場合に即応できる文書を用意しましょう」

「私のコメントですか」

「はい。ただし、感情的な反論ではなく、事実確認を求める形です」

 片桐は淡々と続けた。

「さらに、記者会見も選択肢に入ります」

 私は一瞬、言葉を失った。

「記者会見」

「はい。会社があなたを問題人物として公に扱うなら、こちらも記録と証言に基づいて説明する場が必要になります」

「LumiRiseの名前は?」

「原則として出しません。ただし、会社側が先に彼女たちを利用した場合は別です。未成年者を含む所属タレントの安全を最優先に、匿名化・一般化した形で構造を説明します」

「瑠璃や莉子は?」

「本人同意がない限り実名は出しません。白石さんが実名証言を希望しているとしても、会見で出すかは慎重に判断します」

 私はノートに書いた。

 記者会見。

 準備。

 匿名化。

 構造説明。

 証拠提示。

 「記者会見」という言葉は重い。

 芸能事務所の元マネージャーが、所属事務所の問題を公に語る。

 それは、業界の中ではほとんど宣戦布告に近い。

 黒崎が言った「業界で二度と仕事ができると思うな」が、現実味を帯びる。

 けれど、もう会社の中だけで収まる段階ではない。

 スターリットは、LumiRiseを守ろうとする動きを潰そうとしている。

 RVEは、炎上を成果として扱っている可能性がある。

 過去にはMilky Gateの莉子が傷ついた。

 瑠璃にも圧力がかかっている。

 そして今、会社は私を問題人物として先に潰そうとしている。

 沈黙すれば、相手の物語だけが残る。

「片桐先生」

「はい」

「会見を開く場合、何が必要ですか」

「まず、目的を明確にすることです。会社を攻撃するためではなく、事実関係の説明と、タレントの安全確保、記録保全、第三者調査の要請。そこに絞ります」

「第三者調査」

「はい。スターリット内部だけで調査させても不十分です。外部弁護士や有識者を含む第三者委員会の設置を求める形が良いでしょう」

「証拠はどこまで出しますか」

「最初から全部は出しません。出すのは、存在を示せるもの、かつ証言者を危険に晒さないもの。たとえば、あなたへの自宅待機命令、黒崎常務の発言メモ、会社への通知書、契約開示請求の事実、RVE契約の問題点の概要、SNS切り抜き対応の経緯。ただし、内部資料の扱いは慎重に」

「莉子の証言は?」

「匿名証言として概要のみ。本人が同意しても、最初は詳細を伏せるべきです」

「瑠璃は実名で出たいと言っています」

「白石さんは影響力があります。彼女が出れば大きな力になりますが、同時に彼女への攻撃も激しくなります。本人と改めて確認が必要です」

 私は頷いた。

「わかりました」

「今日中に、会見想定問答を作りましょう。実施するかは会社の出方を見て決めます」

 通話を切ると、私はしばらく椅子に座ったまま動けなかった。

 会見。

 つい数週間前まで、私はレッスン室の空調や控室の鍵、軽食の手配、タクシーの到着時間に気を配っていた。

 それが今、記者会見の準備をしている。

 おかしな話だ。

 でも、全部つながっている。

 控室に鍵がないことも、食べるなと言われたことも、足首の痛みを我慢させられたことも、未成年者の夜配信も、切り抜き動画も、契約書の小さな文字も。

 すべて、人を守らない仕組みから生まれている。

 会見で話すべきは、怒りではない。

 仕組みだ。

 午後、LumiRiseの取材予定を巡って、また問題が起きた。

 花音がグループチャットに共有した須藤からの返信。

今日の取材は、ファンミ後の反響について。

澪と奈々の関係についても聞かれる可能性あり。

チャンスなので、あまり固くならず本音で話してください。

佐伯の件には触れないように。

契約確認の話も不要です。

 澪がすぐに反応した。

「聞かれる可能性あり」じゃなくて、聞かせる予定ですよね。

 優芽。

また不仲話に戻そうとしてる?

 奈々。

ちょっと怖いです。

 花音。

取材前に質問項目を確認します。

不仲説、佐伯さん、契約確認については、事前に回答方針を文面で求めます。

 私は見守る。

 返信しない。

 数分後、花音が送った文面が共有された。

本日の取材について、質問項目の事前共有をお願いします。

SNS上の不仲説、切り抜き動画、佐伯氏の処遇、契約確認に関する質問が含まれる場合、回答方針を事前に確認したいです。

未確認のまま、その場で誘導的な質問に回答することは避けたいです。

 須藤の返信。

面倒なグループになったね。

取材は流れで答えるもの。

そんなに管理したいなら、もうアイドルじゃなくて役所にでも入れば?

 私は画面を見て、唇を結んだ。

 また、見下し。

 記録を嫌がる人間は、たいてい記録されると困ることをしている。

 花音は返信しなかった。

 代わりに、宣伝担当へ同じ内容を送り、取材媒体にも正式に質問項目の確認を依頼した。

 宣伝担当からはすぐに返信があった。

事前確認します。

不仲説を煽る質問は避けてもらうよう調整します。

佐伯さんの件、契約確認についてはメンバー本人へ直接聞かないよう依頼します。

 優芽。

宣伝担当さん、神。

 澪。

神ではなく仕事。

 奈々。

でもありがたいです。

 花音。

お礼は後でちゃんと言おう。

 四人は、また自分たちで一つ危険を避けた。

 私はスマートフォンを伏せ、会見用の時系列表を作り始めた。

 時系列。

 第1段階、LumiRise担当開始。

 過密スケジュール、食事制限、未成年稼働。

 第2段階、現場判断。

 優芽の足首、夜配信変更、医療機関受診。

 第3段階、降格と権限剥奪。

 補佐職、承認制、外部キャラ施策。

 第4段階、RVE関与。

 ファンミ不仲演出、SNS不仲説、切り抜き動画。

 第5段階、契約問題。

 追加同意書、ネガティブ拡散成果報酬、本人・保護者説明不足。

 第6段階、担当外し・自宅待機・悪評流布。

 第7段階、証言と保護者開示請求。

 これを、感情ではなく事実として並べる。

 会見で必要なのは、怒りの熱ではない。

 冷たい順序だ。

 夕方、白石瑠璃から連絡が来た。

美月さん、片桐先生から連絡をもらいました。

会見の可能性があると聞きました。

私、出ます。

 私はすぐに返信した。

即答しないでください。

リスクを整理してから決めましょう。

 瑠璃。

整理した上で、出ます。

私はスターリットに育ててもらった恩もあります。

でも、美月さんが止めてくれなかったら、今の私はありません。

それを黙って、会社の都合のいい物語にされるのは嫌です。

 私は画面を見つめた。

 瑠璃はもう決めている。

 それでも、私は止める義務がある。

出る場合、あなたへの仕事への影響、契約上のリスク、ファンへの説明、今後の活動への影響があります。

片桐先生と必ず相談してください。

 瑠璃。

相談します。

でも、美月さん。私は、自分の声で歌ってきました。

今回も、自分の声で話します。

 その文面を見て、私は目を閉じた。

 自分の声。

 莉子が失ったもの。

 LumiRiseが守ろうとしているもの。

 瑠璃が、今使おうとしているもの。

 私はそれを止められない。

 ただ、守る形を整えるだけだ。

 夜八時、相沢と片桐、私の三者でオンライン会議をした。

 相沢は、画面越しでも疲れて見えた。取材が詰まっているのだろう。

「会社側の声明、早ければ明日出ます」

 相沢が言った。

「どの媒体に?」

「業界紙と一部スポーツ紙にリークする形です。正式リリースではなく、『関係者によると』で流す可能性があります」

 片桐が眉を寄せる。

「また匿名関係者ですか」

「はい。内容は、佐伯さんがLumiRiseメンバーを扇動し、契約確認を促し、外部記者へ情報を流したというもの。自宅待機は適切な措置だ、と」

 私はメモを取った。

「LumiRise本人たちは?」

「今のところ名前はぼかすようですが、『若手アイドルグループ』とは出るかもしれません」

「それだと特定されます」

「でしょうね」

 片桐が言った。

「こちらは、会社がそのようなリークを行った場合、即時に抗議文を出します。同時に、佐伯さん個人としてのコメントを準備します」

 相沢が頷く。

「会見は?」

 片桐は私を見た。

「会社がリークを出した場合、会見を開く合理性は高まります。ただし、こちらから先に会見を予告するのはまだ早い」

「場所は?」

 相沢が聞く。

「弁護士会館近くの会議室か、貸し会議室。配信も検討します」

「参加者は?」

 私は答えた。

「私と片桐先生。瑠璃は本人希望がありますが、まだ決定ではありません。莉子さんは出しません。LumiRiseも出しません」

 相沢は頷いた。

「それがいいです。LumiRiseを矢面に立たせたら、相手の思うつぼです」

 片桐も言った。

「会見の目的は三つに絞りましょう。

 一、佐伯さんへの悪評流布に対する事実説明。

 二、所属タレントの安全管理と契約説明に関する問題提起。

 三、第三者調査の要請」

 私はメモする。

 相沢が少し身を乗り出した。

「RVEの名前は出しますか」

 片桐が答える。

「出すとしても、断定は避けます。『外部プロモーション会社』『ネガティブ拡散も成果対象とする契約の可能性』という形で、調査を求める」

「真壁は?」

「現時点では出さないほうがいい」

 私は頷いた。

 真壁の名前を出せば、レイヴンとの全面戦争になる。

 いずれ必要になるかもしれない。

 だが、今ではない。

 会議の最後に、相沢が私を見た。

「佐伯さん、会見を開いたら、後戻りはできません」

「わかっています」

「業界内の仕事は、一時的にかなり厳しくなると思います」

「黒崎にも言われました」

「それでも?」

 私は少し黙った。

 部屋の机の上には、新事務所準備ノートがある。

 LumiRiseの体調記録。

 莉子の証言。

 瑠璃の言葉。

 宮内のメモ。

 契約書の小さな文字。

 奈々の「怖いです」。

 澪の「切り取られた一部だけで全部を決めないでほしい」。

 花音の「怖いは、止まる合図」。

 優芽の「長く踊り続けたい」。

 全部が頭に浮かんだ。

「後戻りできないのは、もう同じです」

 私は言った。

「黙っていても、私は潰されます。なら、記録を残した意味がある形で進みます」

 相沢は静かに頷いた。

「わかりました」

 片桐が言った。

「では、会見想定問答を今夜中に仕上げます」

 通話が終わったあと、私は一人で画面を見つめていた。

 静かな部屋。

 会社の喧騒も、控室の笑い声もない。

 それでも、孤独ではなかった。

 今、いくつもの声が私の背中にある。

 夜十時過ぎ、LumiRiseのグループチャットに一日の報告が入った。

 花音。

取材、無事終わりました。質問項目を事前確認できたので、不仲説を煽る質問はありませんでした。

 優芽。

佐伯さんのこと聞かれそうになったけど、宣伝担当さんが止めてくれました。

 奈々。

怖くなったら、花音ちゃんが一度休憩を入れてくれました。

 澪。

須藤さんは不機嫌でした。

 花音。

でも、私たちは予定通りできました。今日は全員、早めに帰れています。

 私は返信しない。

 だが、画面の前で深く息を吐いた。

 よかった。

 彼女たちは今日も、自分たちで危険を避けた。

 そのあと、花音が続けた。

佐伯さん、返信不要です。

私たちは大丈夫です。

でも、佐伯さんも一人で抱えないでください。

 優芽。

ご飯食べて!

 奈々。

寝てください。

 澪。

会見するなら、ちゃんと準備してください。

 私は手を止めた。

 会見。

 なぜ知っている。

 すぐに澪が続けた。

なんとなくです。

佐伯さんが黙って終わる人じゃないので。

 優芽。

澪、勘が鋭い。

 花音。

もし何かあるなら、私たちは自分たちの言葉で立てるように準備しておきます。

 奈々。

怖いけど、もう何も知らないままは嫌です。

 私はスマートフォンを握りしめた。

 返信はしない。

 できない。

 でも、心の中で言った。

 ありがとう。

 そして、ごめん。

 あなたたちを守るために、私は外で戦う。

 でも、その戦いでまた、あなたたちを不安にさせるかもしれない。

 それでも、もう止まれない。

 深夜前、片桐から会見用の想定問答案が届いた。

 私は一つずつ確認する。

 質問。

 「会社への恨みではないのか」

 回答。

 「個人的感情ではなく、記録に基づく安全管理と契約説明の問題です」

 質問。

 「所属タレントを巻き込んでいるのでは」

 回答。

 「未成年者を含むタレント本人を矢面に立たせないことを最優先にしています。本人や保護者の権利確認は、本人たちの正当な権利です」

 質問。

 「内部情報漏洩では」

 回答。

 「社内資料の不適切な公開は行いません。一方で、タレントの安全や権利侵害に関する問題について、適切な手続きで記録保全と調査を求めます」

 質問。

 「RVEやレイヴンの関与を断定するのか」

 回答。

 「現時点で断定はしません。ただし、外部プロモーション会社の施策とSNS炎上、契約上の成果指標に関して、第三者による調査が必要だと考えています」

 私は赤字で少し修正した。

 硬すぎるところを、私の言葉に変える。

 怒りを削ぎ落とし、事実を残す。

 最後に、冒頭発言案を開いた。

私は芸能マネージャーとして、担当タレントを売るために守る仕事をしてきました。

しかし、守る判断が会社方針に反するとされ、降格、担当外し、自宅待機を命じられました。

私が本日お伝えしたいのは、個人の処遇だけではありません。

未成年者を含む若いタレントが、契約内容を十分に理解しないまま、SNS上のネガティブな話題化や炎上を含む施策に組み込まれる可能性があること。

体調不良、怪我、不安、涙が、本人の意思に反して宣伝素材にされる危険があること。

そして、それを止めようとした現場判断が、組織内で処分の対象になっていることです。

私は、所属タレント個人を矢面に立たせるためではなく、同じことを繰り返さないために、第三者による調査を求めます。

 私は何度も読んだ。

 私の言葉として、まだ少し硬い。

 でも、方向は合っている。

 売るために守る。

 その軸はぶれていない。

 午前零時を少し過ぎた頃、瑠璃からメッセージが届いた。

美月さん

片桐先生と話しました。

会見が開かれる場合、私は文書でコメントを出す形にします。

いきなり登壇はしません。

でも、私の名前で出します。

自分の声を守るために。

 私は目を閉じ、ゆっくり息を吐いた。

 片桐と話して、少し慎重な形を選んでくれた。

 それでいい。

 登壇しなくても、実名コメントは大きい。

わかりました。

その形なら、リスクを少し抑えられます。

最終文面は必ず片桐先生と確認してください。

 瑠璃。

はい。

美月さん、怖いですか?

 私は少し考えた。

 嘘はつきたくなかった。

怖いです。

 すぐに返信が来た。

怖いは、止まる合図でしたっけ。

 私は思わず笑った。

止まるだけでなく、確認する合図です。

 瑠璃。

じゃあ、確認して進みましょう。

 その言葉に、私は救われた。

 怖い。

 でも、止まるだけではない。

 確認して進む。

 それが今の私に必要なことだった。

 最後に、私は今日の記録を書いた。

会社側、佐伯に関する否定的情報をリーク準備の可能性。

片桐弁護士と会見準備開始。

目的:事実説明、タレント安全管理・契約説明問題の提起、第三者調査要請。

LumiRise、取材前に質問項目確認。不仲説・佐伯処遇・契約確認への誘導を回避。

白石瑠璃、実名文書コメントの意思。登壇は保留。

会見は最終手段だが、準備を完了させる。

 保存。

 ノートを閉じる。

 会見の前夜になるかもしれない夜は、静かだった。

 けれど、その静けさの下で、いくつものものが動いている。

 会社のリーク。

 弁護士の通知書。

 記者の裏取り。

 保護者の開示請求。

 瑠璃のコメント。

 莉子の証言。

 LumiRiseの自立。

 そして私の決意。

 明日、何が出ても、私は逃げない。

 怒鳴らない。

 泣かない。

 記録を持って、言葉を選び、前に立つ。

 裏方は、本来ステージの真ん中に立つ人間ではない。

 でも、誰かが裏で火をつけているなら。

 その火元を照らすために、一度だけ前に出る。

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