神の能力
5人は一斉に空間の裂け目へ飛び込んだ。途中、表の世界へ向かう道と天界へ向かう道とで分かれ道がある。そこまで5人で突破する予定だ。
しかし、途中の分かれ道につくより前に、兵士が飛び出してきた。
「待ち伏せか・・・!」
青蘭が悔しそうに呟く。鈴が冷静に状況を分析する。
「今この通路で戦ってねじ伏せるのは得策ではないだろう。ここはどうにか撒く方法を考えるしかない」
しかし、すでに兵士達は20人近く展開しており、進路を塞がれてしまっている状態だった。
前回の襲撃のときにもいた恰幅のよい兵が一歩前に出る。
「龍蘭。観念しろ。この人数に敵うと思うのか。それに、お前達もだ。青蘭に鈴。お前達が組んでいる事はすでに知っている。お前らもただでは済まさんぞ」
そう言い放つ兵に、すでに臨戦態勢に入っている花子を手でとどめ、兵に言葉を返す。
「そうか。それはよかった。これで私達は隠れて行動しなくても良いということだ。完全に踏ん切りがついた。とても素晴らしい情報提供、感謝する。この情報の礼と言ってはなんだが、全力で相手させてもらおう」
鈴が眼鏡を押し上げる。途端に、鈴の体を中心に波が広がる。その波は兵たちへ振動し、やがて止まる。しかし、兵たちは倒れることなくそのままつっ立ているだけだった。
(何だ今の・・・?鈴さんの能力だとは思うけど・・・特に敵が痛がっている
様子も感じられないし・・・?)
幸樹がきょとんとしていると、鈴が手を引っ張った。
「幸樹君、行くぞ!」
「え!?」
「私の力不足ですまないが、あの術はあれほどの大人数にかけているのでそう長くは持たない。この機を逃すな!」
「わ、わかりました!!」
他の皆はもうすでに遠くの方に見えた。体重を前に傾け前進しつつ、鈴に聞いた。
「今の技はなんなんですか?」
「あれは、私の能力の一種だ。以前、私は青蘭の補佐として奴を守ることも仕事だと話しただろう。そのために備わっている能力だ。あれは、敵の脳内に波紋を流し、一定時間敵の中の時間をストップさせる技だ。その後は幻を見せて時間を稼ぐ。普通、襲撃者などの敵一人が相手の場合は、その長さを自分で調節できるのだが、20人弱というのはさすがに全員の長さをキープしているのは厳しい。だから、いつ解けるかわからないのだ」
鈴は前を向いたままそう説明した。
「そうだったんですか・・・」
そんなこともできるのかと幸樹はいまさらながら神という存在に畏敬の念を抱いた。
「ああ。恐らくそろそろ解けてしまっているはずだ。急ぐぞ」
はい!と返事をして、幸樹は加速した。先に進んでいる花子達に追いつくために。
分かれ道のところまで無事に着いた。追っ手も見当たらず、今がチャンスだと確信した。
「それでは、私たちは神皇帝の説得に参ります。龍蘭殿、ご武運を」
千李は頭を下げた。そして、フードを深く被ると、天界の方へと歩んでいった。
鈴もいつもはまっすぐに伸ばしている長い髪を束ね、フードを被った。普段はノースリーブの服にジーパンというデキる女性という雰囲気をかもし出す格好だが、今はRPGに出てくるようなフードに、どこから取り出したのかマントを羽織っている。
「その格好、怪しまれないんですか?」
幸樹がおずおずと聞く。
「それを言うなら、青蘭はかなりの不審者になるぞ?」
「おい、不審者はねぇだろ、不審者は」
鈴はマントを羽織ながら言う。青蘭から抗議が聞こえたような気がしたが無視を決め込んだ。
「天界は、民族というものや国というものが無いからな。お前達の世界で流行るものは、こちらでも流行る。つまり、着物を着た神とカウボーイのような格好をした神とが並んで歩いているようなことも日常茶飯事だ」
「うわぁ、シュール・・・」
想像ができない光景に、幸樹は苦笑いした。マントをつけ終わると、後ろで結んだ髪をしっかりとフードの中にしまい、眼鏡の位置を直す。
「と、少ししゃべりすぎてしまったな。だが、これで多少緊張はほぐれただろう。千李様をお待たせしているのでな。私もそろそろ行こう」
では、と鈴は千李を追いかけて猛スピードで去って行った。
「さて、私たちも行きましょうか」
三人は急いで穴のある場所まで向かった。
穴までの道のりには敵兵は見当たらなかった。逆にそれが幸樹には不気味に思えた。なぜ、ここまで敵に遭遇しなかったのか。それは、可能性が二つある。単に先ほどの20人弱しか兵を派遣していないという可能性と、最悪の可能性・・・。
行き先を、読まれている可能性。
「あーあ、やっぱこうなってたかぁ・・・」
花子が呟いた。
今、三人の前には60人を越えるかというほどの兵がいた。その兵の後ろに、問題のでかく成長した大穴。
恰幅のよい隊長格の兵が笑い、言い放つ。
「終わりだ、龍蘭」
それをきっかけに、兵が一斉にわっ、と動き出した。
青蘭と花子が鎌を構えた。幸樹は花子からもらった刀を抜く。
刀の使い方などは知らないが、やらなきゃ死ぬ。それだけだ。覚悟を決めた。
「・・・一つ、疑問があります」
天界までの道のりを移動しながら、鈴は呟いた。
「なんでしょうか、鈴殿」
千李は、周囲を警戒しながら聞き返す。
「なぜ、神皇帝は龍蘭を・・・私たちを狙うのでしょうか」
千李はその言葉に、足を止めずに、鈴の方を見た。
「もしすべて円滑に龍蘭を犯人に仕立て上げ、そして、その龍蘭に穴を塞がせ自分の罪を龍蘭に被せるのが目的だとしたら、今ここで龍蘭の命を狙うのはおかしいと思うんです」
その言葉に千李は頷く。
「もし、何かまだ裏があるとしたら・・・」
鈴が心配そうに俯く。
「鈴殿。そこまで心配しなくても構わないと思いますよ」
「しかし・・・」
「今は、向こうの方が圧倒的に有利なので、つい、向こうはスムーズに、思い通りに事が進んでいると思いがちですが、もし、父に誤算があったとしたら?」
千李は体をぐっと前に倒し加速する。鈴は慌ててそれについていった。
「恐らく、父は私と龍蘭殿達が出会う事は予想外だったはずです。まぁ、鈴殿と青蘭殿がこっちサイドに付く事は想定済みだったとは思いますがね」
「と、言いますと、神皇帝にとって事がうまい具合に進んでしまって、今に至る、と?」
「半分当たりです。父にとって、今の状況はあまりよろしくないはずです。今、まだ龍蘭殿を討つべきではない、もう少し後に兵を出したかった事でしょう。しかし、それができなく、兵が暴走している状況です」
千李の言葉に、鈴はわずかに首を傾げた。
「どうしてですか?撤退命令を出せば、兵は退くはずです。神皇帝の命なら、誰も逆らわないでしょう」
その疑問に、千李は頷く。
「ええ。逆らわないでしょうね」
「そうでしょう・・・」
「しかし、不信感を抱かれる」
「!」
その言葉で、鈴はぴんと来たようだった。
「そう。今の彼等に伝えている話では龍蘭殿は倒さなければならない極悪人のはず。そういう風に兵達に憎しみを植え付けたのですから。でも、それが仇となった。兵達は、その忠誠心ゆえに、急ぎ、彼女を倒そうと奔走している。父には、それを止める口実が無いのです。そして、今のような形の戦になってしまったのでしょう」
その説明に、鈴は頷いた。
「なるほど・・・。では、今神皇帝は少なからず混乱しているはず。心に隙ができている今なら、あるいは・・・」
「ええ。行きましょう。幸い私達は、父の異変の原因の真相を見つけました。これなら、目的は達成できるかもしれません」
二人はそれから無言で、天界までの空間を進んでいった。




