黒い陰謀と白い希望
時間は前日にさかのぼる。
天界。この世界に住まう、神と呼ばれる種族。神に近い力を持ち、人のように感情を持つ種族だ。この者達が住まう王都、イレグロの中心の城のイスに鎮座する人物がいた。
その者こそ、神皇帝と呼ばれる人物だった。
「神皇帝様!先ほど、龍蘭と千李様が一緒に発見されました」
神皇帝は、驚いた顔をする。
「何!?真か?千李は無事か!?」
「ええ。今のところは無事だと思います。おそらく龍蘭が誘拐したものと思われます」
恰幅のよい兵が、神皇帝の前にひざまずき述べる。
神皇帝は眉間にしわを寄せた。そして、こめかみに手を当てて嘆く。
「ああ、なんということだ・・・。すぐにでも、千李を救出せねば・・・」
「神皇帝様、千李様は必ずやわたくしめが救出いたし、保護します。どうか、ご安心を」
「ああ。頼んだぞ。・・・今はもう下がってよい。わしは、疲れた」
はっ、と兵が敬礼し、部屋を後にする。その部屋には、神皇帝ただ一人だった。しん、と静まり返った部屋に突如、乾いた笑いが響き渡る。
「ふ、ふふ・・・」
「ふはははははは!まさかこれほどまでにうまくいくとは!!」
いきなりヒステリックに笑い出した神皇帝に、もしこの場に近衛がいれば、気が触れたと思う事だろう。神皇帝は饒舌に一人叫ぶ。
「まさか、龍蘭に千李の誘拐の疑いがかかっているとは!」
神皇帝はがたっとイスを立ち上がり、大きく両手を広げた。
「龍蘭・・・本当にわしのためになっているのはあやつじゃ・・・自分から蜘蛛の糸に引っかかりおって。わしの不始末を身をもってもみ消してくれるとはな・・・本当に優秀な奴じゃ。感謝しておるぞ」
神皇帝の高らかな笑い声がだだっ広い部屋に反響した。
一週間。この時間は長いようで短い。週初めには「ああ、今日から一週間始まるのか~・・・」と気だるさ全開でスタートするのだが、金曜日まで来ると、「もうこんなにきたのか~」と思うようになることが多いのである。
これが、一般的な一週間だ。しかし、今、幸樹はこれの真反対で、一週間が長かったと、しみじみ思っている。
最初は札さばき(?)の上達や、体力づくり(もっとも、今から始めた所で何が変わるというわけでも無いのだが)、その他もろもろで一日の経過がとても早かった。しかし、中盤になると、体力温存をしておかないといけなく、家でごろごろしているしかなかった。鈴や花子のところへ行こうと思ったが、大事な作戦の前だ。誰かと話す気分ではないだろう。
そして、何もしないというのが一番体力を使う。頭ではネガティブな事ばかり浮かぶし、暇だし、いっそ寝てしまおうかとも思ったが、さすがにそれはだらけすぎると、自重した。ここで気を緩めてしまっては、今まで花子たちと積み重ねてきたものがすべてぱあになる。それだけは避けたかった。
それに、千李のことも。
(千李様が一番悩んでいるはずなのに・・・特別な鎌づくりやら作戦立てやら、親のことやら・・・倒れなきゃいいけど)
そんなこんなで、とても長く感じた一週間だったのだ。
だがしかし。それも終わりを告げ、今は決戦前。沈みかけている夕日の光に照らされて家を出る。
玄関を開けると、そこには花子がいた。
「花子さん、どうしてここにいるの・・・?」
夕日で赤く染まった花子はにこっと笑う。昔から変わらない笑顔だ。
「うん。お礼を、言いに来たんだ」
「お礼・・・?」
花子は、そっと目を伏せた。
「言えないで終わるのは、嫌だからさ・・・」
「そんなこと・・・っ」
いきなり何を言い出すのかと幸樹は戸惑う。花子は少し寂しそうに笑った。
「ごめん、ちょっとネガティブになっちゃったね。ホントに君には感謝してもしきれない。君に助けてもらってばっかしだよ。ありがとう。この恩は、一生忘れない」
その言葉に、幸樹は目頭が熱くなった。
「僕も花子さんに会えて良かった。本当にありがとう!」
花子は静かに頷くと、手を前に出す。すると、幸樹の前に、一本の刀が下りてきた。
「花子さん、これは?」
「それは私の力のみで生み出した刀。鎌ほどじゃないけど、それなりに力はあるわ。恐らく追っ手との戦闘は最低でも一度はあると思うの。そのときに、自分の身を守って欲しい。私も、今回はさすがに自分のことで精一杯だと思うから・・・」
申し訳なさそうに言う花子に、幸樹は微笑みながら言う。
「わかってる。僕も花子さんの足手まといにはなりたくないから。一緒に戦うよ。」
「そっか。そう言ってくれると助かるな。それじゃあ、私、先行ってるね」
花子は踵を返した。その後姿は、見た目よりも大人びて見えた。
「それでは、皆さん。無事そろったみたいなので、最終決戦といきましょうか」
千李が手をぱんっ、と叩く。その場にそろった5人は皆、それぞれ覚悟を決めた顔つきだった。
「では、龍蘭殿。お待たせしました。この鎌です」
千李が龍蘭の前へ行って鎌を差し出す。一般の神が持っているものとは少し違い、白銀に輝く鎌だった。
「ありがとうございます。確かに受け取りました。こちらは任せてください」
「頼もしいかぎりです。こちらも、無事説得してみせます」
二人は互いに頷きあった。その後ろで、鈴と青蘭が話している。
「青蘭、私がいなくてもしっかりやるんだぞ。怠けたら後で覚えておけ」
「ったく、お前は俺のかーちゃんかなにかかってんだ。お前だって、しっかり神皇帝を元に戻すんだぞ」
「ああ。任せておけ」
二人の絆の強さが垣間見えた瞬間だ。信頼関係が強い二人だから、離れていても安心して任せられる。
「幸樹君。今回の作戦、君がキーだ。しっかり頼むぞ」
鈴が幸樹の肩をぽんと叩きながらそう言った。
「任せてください、鈴さん!」
「心配すんなって、鈴。なんたって、この俺がついてんだぞ、な?幸樹」
「はは、そうですね」
「全く・・・お前だから心配なのだ」
青蘭がぐっと幸樹の肩を引っ張る。最初はこの人とはそりが合わないと思っていた幸樹だが、今では頼もしい尊敬する兄とでもいうべき存在だった。
花子が鎌をコン、と地面に立てた。作戦開始までもうすぐだ。
「それじゃあ、皆、それぞれやる事は違うけど、目指すところは同じ。気持ちを一つに頑張りましょう」
花子の言葉に皆が頷く。幸樹は、なんともいえない緊張感に襲われていた。手に持つ札に力がこもる。まるで、徒競走のときのピストルがなる瞬間のように気持ちが高ぶった。
「さぁ。最終決戦よ!作戦開始!!!」
花子はそう高らかに叫び、白銀に光る鎌で空間を切り裂いた。




