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最後の作戦

「申し訳ありません・・・私のせいで、いらぬ疑いを掛けてしまいました・・・」


千李が申し訳なさそうに謝罪した。


「いえ、千李様が悪いわけではありません。どうか謝らないでください」


そう笑顔で言う花子に、千李は顔を上げて話しはじめる。


「恐らく、今国に戻って皆を説得しても、失敗に終わると思います。神皇帝とは、皆にとって絶対の神であり、安寧の象徴なのです。ですから、その権力も絶大な物なのです」

「そんなに凄かったんだ・・・」


想像以上に国や民と密接に関わり合っていたことに、幸樹は驚いた。


「ええ。また、権力だけでなく、その力もまた同じ。今の私では、到底太刀打ちできません」

「その通り。だから、真っ向から立ち向かうのではなく、なるべく見つからないように行動しなければなりません」

「じゃあ、とっととこの穴塞いじゃおうよ!」


幸樹の言葉に、花子は言いづらそうにおずおずと口を開く。


「そのこと、なんだけどさ・・・ここまで大きくなると、私たちだけじゃどうにもならないんだよね・・・」

「え!?」

「ええ。私もここへ来てみて、ここまで事態が進んでいると知り驚きました。これでは私の代まで持たせるどころか、あと2週間で異変が起きる可能性があります」


千李が焦りつつ言い放った言葉に、幸樹は絶望した。2週間。そうなると、おそらく完全な崩壊までは時間がかからないだろうという事は幸樹にも分かった。


「ど、どうすれば・・・!早くしないと、世界が無くなるなんて!」



「落ち着いて、幸樹君。とりあえず、鈴たちを集めて作戦を立て直しましょう」


花子が伝書鳩で鈴にすばやく言伝を飛ばすと、3人は幸樹たちの世界へ集まる事になった。





やがて、先の屋上へ集合した5人は状況を交換した。鈴たちのほうは、準備は整っていたらしい。比較的スムーズに進んでいたようだ。


鈴は眼鏡を上げて千李に聞く。


「千李様、あなた様はあなたのお父様の意見に反発されているという事でよろしいのですね?」

「はい。父がご迷惑をおかけしました・・・」


目を伏せる千李に、鈴が大丈夫ですよ、と言う。


「それにしても、どうして神皇帝様はご乱心されたかねぇ。昔はああじゃなかったんだけどな」


腕を組みながら言う青蘭に、千李は呟く。


「様子が変わったのは、お母様が亡くなられてからです。自分中心に変わってしまったように感じます」

「確か・・・千李様のお母様の訃報があったのは、3年前ですね」


鈴は記憶を掘り起こした。その言葉に花子が頷く。


「ええ。確かに次期が一致しているわ。やはり、奥様が亡くなったショックでと考えるのがベストかしらね」

「でも、だとすればどうすればいいのさ。その神皇帝って人を元に戻すことはできないのかな」


幸樹が言うが、皆、いい方法を思いつかない。千李が言う。


「最悪の場合、この事件のことを公表して、神皇帝の座を降りてもらうしかないですね」


おいおい、と青蘭が言う。


「それって、千李様にしてみれば、実の親と戦うって事だろ?そう簡単に決められる事じゃないだろ」

「確かに辛いですけど・・・これが私の役目ですから」


千李が寂しく笑った。静寂が流れる。


「・・・俺は、反対だ」


それを破ったのは幸樹だった。皆幸樹を見る。


「なんで、親子で戦わなきゃいけないんだ。そんなあっさり決められる事じゃない。まだ、道はあるはずだ。もちろん、戦わなきゃいけなくなる可能性もあるけど・・・でも、最初からそれに向かっていくのは得策じゃないと思う」


幸樹は千李のほうを見る。


「千李様。大丈夫です。必ず道はあります。この5人で協力すれば、穴も塞げるし、神皇帝様を元に戻すことができますよ。頑張りましょう」


幸樹は千李に微笑みかけた。千李は、幸樹に微笑み返して言う。


「あなたは、幸樹殿といいましたね。あなたの力強い言葉に勇気付けられました。本当にありがとう。人間であるあなたに、神の世界の問題を手伝わせるのは心苦しいですが、どうか、ご協力ください」


頭を下げる千李に、幸樹はもちろんです、と返した。


「で、まとめると、神皇帝を元に戻す方法を考えつつ、穴を塞ぐって事でいいんだよな?」


青蘭が言うと、皆が頷く。どうやら方針は決定したらしい。


「とりあえず、今日はもう夜遅いので、一旦解散にしましょう。もう夜の九時ですからね。龍蘭殿は天界に戻るのは危険なので、ここにいてもらう方がいいと思います。作戦は明日、またここで発表します。明日の6時、またここで」


千李のその言葉で解散となった。鈴と千李は二人で作戦を考えるらしい。幸樹はすぐに戻る事にした。


家に帰ると10時を回っていた。こっぴどく両親に叱られた。





次の日の朝。朝食をとっていると、テレビからあるニュースが流れてきた。


『えー、昨日。桜芽公園とビルの間で同時刻に身元不明の女の子が発見されました。二人の少女に接点はなく、どこから来たかも覚えていないそうです。見覚えがありましたら、警察にご一報ください』


桜芽公園。近所の公園だった。幸樹は神隠しに遭った子だと確信した。事件にもなっているらしい。これが相次げば、世界の崩壊の前に、パニック続出だろう。


「早くなんとかしないとな・・・」


食パンの耳まで食べ終わると、幸樹はかばんを引っつかみ、家を出た。







夕方。屋上へ集まる。昨日のメンバー全員がいた。


千李が全員を見渡して言う。


「皆さん、集まったようですね。では、昨日鈴殿と考えた作戦を発表します」


昨日は、鈴と千李は夜中の12時まで作戦会議をしていたという。鈴の目の下に多少クマが見えた。千李は続ける。


「さて、まず初めに、タイムリミットですが、3週間程度と考えてくれて構いません」


その言葉に、皆息を呑む。


「ああ。解散した後、私が一人で穴のところまで調査しに行ったんだが、思いのほか進行が早かった。すでに龍蘭たちから受けた報告よりも相当悪化していてな・・・これは非常にまずい状況だ」


鈴が眼鏡を押し上げながら言う。やつれた顔をしていて、相当大変な思いをしたのだろうという事がうかがえる。鈴の言葉に千李が続ける。


「このように、穴もかなり大きく、私たち5人の力じゃどうにもならなくなってます。とりあえず、私と青蘭殿で、特別製の鎌を作ってその鎌で塞ぐのがベストという話になりました。構いませんね?青蘭殿」

「おう!任しといてください!」


青蘭が力強く頷いた。千李も頷く。そして、と続けた。


「龍蘭殿、あなたにはその鎌で穴を塞ぐ役目をお願いしたい。構わないですか?」

「もちろんです」


千李は満足そうに頷いた。


「そして、私と鈴殿で皆さんが穴を塞ぐタイミングを見計らい、神皇帝へ掛け合います」


つまり、作戦としては、強力な鎌を作り、穴を塞ぎ、その塞いだ上で、神皇帝に掛け合おうというのだ。確かに、塞いだ後ならまだ話し合いの余地がある。


「青蘭殿は龍蘭殿の護衛をお願いしたい。恐らく、兵がたくさん追ってくるでしょうから、それを蹴散らしていてください」

「了解です!」


皆一人一人に役割があった。一丸となって世界を守るのだ。


千李は最後に幸樹に向き直り、笑顔を向ける。


「さて、幸樹殿。あなたに一番重役を担っていただきたいのですが、構いませんか?」

「な、なんでしょうか!」

「そう身構えないでください。あなたには、穴の動きを封じていただきたいのです」

「と、いいますと?」


千李は腕を組み、話し始めた。


「今回の事を、そうですね・・・手術と思っていただくと分りやすいと思います。あなたに担っていただきたい役目は、麻酔や鎮痛剤です。たかが穴でも、れっきとした七不思議ですからね。意思が生まれているのです。簡単に言えば、抵抗して、いろんなものを吸い込もうとするので、札で動きを封じて欲しいってことです」


幸樹はその例えで理解したようで、手をぽんと叩く。


「あー、じゃあ当初の予定と同じですね」

「そうみたいですね。お願いできるでしょうか?」

「もちろんです!必ず成功させますよ!」


幸樹に課された役割はかなりキーポイントになるものだった。だが不思議と、プレッシャーに押しつぶされるような事はなかった。


「それでは、鎌を作るのに一週間ばかりいただきたいので、一週間後、作戦決行ということで、今日はこれにて解散します」



一週間後、最終決戦が始まる彼らの最終決戦が始まる_。



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