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小話(2):愚痴

拍手に載せていた小話の採録です。

リオコ視点。お互い養子先に行った二人の会話。

 

 月一度、神殿にある遠話鏡を使って話していると、あるとき鏡の向こうの真紀が憂鬱につぶやいた。

(「――あたし、兄運がないと思うんだ」)

「あにうん?」

(「兄という存在に対しての運」)

 そんなものが世の中に存在するとは初耳だけど。

「どのへんが?」

(「だって、にーちゃんは口が悪くて俺様で外面が良くて横暴だし、にいさまは口調は丁寧だけど、へ理屈屋で毎日試験攻めだし。どっちも最悪」)

 にーちゃん、というのが真紀の実兄。にいさま、というのは、今の養子先のお兄さんのことだ。

 二人とも直接会ったことはないけど、異界の扉越しのやりとりで、実兄の光樹さんは適度なツッコミのナイスな人という印象がある。

 ウィラード様は、評判では西側経済界の裏の元締といわれる恐い人なんだけど、話を聞く限りでは真紀にベタ甘なんだよね。

 わたしの行ったミネアモード家は、当主がまだ二十五歳の若いご夫妻で、それこそ本当にお兄さんお姉さん感覚だ。

 このあいだ長男が産まれたばかりで、わたしは半分そのお世話係のような形で養子をしている。

 その和気藹々さが、真紀にはすごく羨ましいのだそうだ。

「たしかに食事時にクイズ大会って、落ち着かないよね」

(「やっとそれはなくなったんだけど、気が休まらない。ルイスとは超・仲悪いし」)

「仲いいんじゃないの?」

(「悪いよ。この前もさ……」)


『――アクィナシア殿。そこまで執着するとは、君は妹に愛されていないのではないかね?』

『ご冗談を。執着というならあなたでしょう、ウィラード卿』

『私は君ほど彼女をがんじがらめにしないよ。適度に保護しているだけだ。それに〝大好き〟と言ってもらったことだしね?』

『…………聞き間違いでは?』

『若いのに耄碌とは残念なことだ、アクィナシア殿』

『それはこちらの台詞です』


「それ、仲いいんだと思うよ?」

(「どこが???」)

「だって仲悪かったら、口も利きたくないはずだもん」

(「そうだけど……あたしの頭上で火花ばちばちいわせるのはやめて欲しい」)

「とりあえず燃えないように離れておけば? 第三者的に見れば、結構おもしろいと思うよ」

(「思いっきり当事者じゃん、あたし」)

 どよんと落ち込む真紀を、まあまあと慰める。

「どうせ真紀ちゃんが口を挟んだら、こじれるだけだし。二人に任せちゃいなよ。大人なんだし」

(「大人だから余計に困るんだってば」)

「外見は大人でも中身は小学生だと思えばいいんだよ。仲がイイほど喧嘩するって言うじゃん」

(「……まあ、そうかも」)

 真紀にやっと笑顔が戻る。

 空気を変えるついでに、わたしも喋りたかった話題を持ち出した。

「それよりさ、ちょっと見てよ。最近新しいのを作ったんだ。すっごく評判なんだよ!」

(「あ、前にデザイン悩んでたやつ? 見たい見たい」)

「へへ。全然方向転換して、クラシックな感じにしたの」

 持って来たスーツケースから、最新デザインのドレスを取り出す。

 ミネアモード夫人がすごくおしゃれ好きで盛り上がってしまい、出入りの仕立屋さんと三人でオリジナルドレスを店頭販売することになったんだよね。

 貴族の服はオートクチュールがほとんどだけど、大中小とサイズを決めることでコストを抑え、店頭に並べたらこれが大反響。

 内職のつもりが、わりに忙しくさせてもらっている。

 目指すのはシンプルだけどかわいくて、女性をきれいに見せるための服。

 悩んでいたのは、成人を迎える女の子の社交界デビュー用のドレスだ。

 胸が開きすぎても肌を見せすぎてもダメだから、悩んだ挙句レースをふんだんに使った凝ったつくりになっている。聖女の花ユリアをモチーフにしたレースが、喉元から肩、腕と背中にも入っていて、ほどよい甘さとセクシーさを演出していた。上半身はタイトで、スカート部分は長短のチュールを折り合わせて、ふんわりとまとめている。

 ポイントは、うなじから背中にかけてのくるみボタンの行列。

 女の子が初めて大人の髪型に結って着る服だから、バックスタイルをきれいにみせることにこだわったんだ。

 色は白、ピンク、黒、濃い青の四色。イェドの社交界ですごく評判になった、自慢の一品だ。

 だけど、うきうきとそれを掲げるわたしを見る、真紀の表情が暗い。

「どうしたの?」

(「り……理緒子のばかああああぁっ!」)


 ――――事情を聞いたわたしは、その場に崩れ折れた。

 数日前、大急ぎで天都に納めた一着が、まさか真紀のところに届いてるなんて思いもよらなかった。

 販売自体は仕立屋さんに一任してるから、どこの誰が着ているか、本人からのお礼状で後から知るくらいなんだよね。

 だけどまあ、一週間に一度のデートで真紀がそれを着たところ、ルイスが凍りついたらしい。

 それもそのはず。

 レースのせいで肌はうっすらと透けて見えるのに、くるみボタンの行列のせいで脱がせるのはとても時間がかかる。

 布地を巻いた小さなボタンは掴みにくく、しかもレースにくっついているから、着脱にすごく気を遣った。

 それが21個。

 付け加えて言うと、スカートも一番下はシンプルな一枚布なんだけど、外側はふわほわで、これまたすごく扱いにくい。

――つか、脱がせるために作った服じゃないからね?

 逢っている間、生殺しだとすごく恨みがましく言われてしまったらしい。

 しかも、その服をプレゼントしたのが真紀のお兄様だったことで、その後二人の間で軽く命のやりとりがあったそうだ。

(「もううううぅ、なんであんなドレス作っちゃったんだよ、りおこおおおおぉ!」)

 作ったことより使い方の問題だと思うけど。

 だめ、お腹イタイ。腹筋よじれる。

(「ばかああああぁっ!!」)

 うん、真紀のお兄様ナイス。

 爆笑するわたしの中でお兄様評価が上がると同時に、半泣きになった真紀からの通信がぷつりと切れた。



 後日、お詫びの手紙と一緒に真新しいドレスを一着、真紀宛に送った。

 見た目は前と同じそれの背中には、黙って隠しファスナーをつけておいた。




おしまい。



ファスナー万歳。

この技術はまだ試作段階で極秘なんだそうです。このあと何が勃発するかはご想像にお任せします。

なんだかなー(笑)。

あ、ウィラードの台詞に一部誇張がありますが、S心が暴走したってことで。

ほんまに、どいつもこいつも。

お粗末さまでした。。。

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