幸せと不幸せ
茜は俯いて歩いた。
どこをどう歩いて電車の乗ったのかさえ分からない。
あの日から、一人になると泣いてばかりの茜。
まさか、こんなに早く翔也の結婚を聞くとは思わなかった。
そのうちに翔也は結婚しているのだろう……と覚悟はしていたが、同じ会社に勤めている訳ではないことから、知ることが無いと思っていた。
それが、結婚式の当日に知るとは思わなかった。
茜は前を向いて歩き始めることが出来ていないのに、翔也は前に進んでいる。
あの美しい妻と手を取り合って前に歩みを止めることなど無いのだろう。
茜のことなど思い出すことも無いのだろう。
その事実が茜には辛かった。
別れたばかりの友人に電話をしていた。
涙で指まで震えている。
震える指で電話を架けていた。
「茜?」
「……………うっ………ううう………。」
「茜! 茜! どうしたの? 何があったの?」
「………ナッちゃん………私………私………ううう……。」
「茜! 家? 今から行くから待ってて!」
友人・石田菜月を待つ間、茜は膝を抱えて泣いている。
茜の口からは「ナッちゃん……ごめんね。」しか出て来ない。
インターフォンが鳴って茜はふらふらとした足取りでインターフォンを確認した。
菜月だった。
「ナッちゃん……開ける。」と言って、玄関ドアを開けると心配して急いで来た菜月が「茜!」と何も言わずに抱き締めた。
茜は菜月の顔を見ただけで涙が溢れ出て、声を上げて泣いてしまった。
菜月が「茜……部屋で、ね。」と優しく言い、茜の倒れそうな身体を支えながら家の中に入った。
泣きながら今日の出来事を茜が話し終えると、菜月は激怒した。
「何? 類友なの! クズ男の友達はクズ男なの?」
「………今日が翔也の結婚式……だったの……。」
「うん……分かって良かったんじゃない?
知らないままでいるよりも………ね。
分かったら諦めないといけないじゃない。
これでもかっ!って突きつけられたけど……それで良かったって思おうよ。
ねっ………今は無理でもさ。
いつか……いつか……別れられて良かったって思う日が来るよ。
…………茜、泣いていいんだよ。涙が枯れ果てるまで……泣いたらいいんだよ。
いつか、あんなクズ男の為に流す涙がなくなる日が来るから!」
菜月はそう言いながら、優しく背中を撫でている。
「今日は、茜んちに泊まらせてよ。」と言って、菜月はその夜、茜の家に泊まった。
菜月はプロポーズされたことを茜に話せなかった。
それが先延ばしに出来ないことを菜月は分かっている。




